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【コラム】中国現場体験記(25) 仏教の聖地五台山の現実

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2011年9月15日

記事概要

五台山は中国四大仏教名山のひとつに数えられる聖地であり、世界遺産でもあります。今回は、仏教の聖地五台山で見た聖地の裏側に関する現場体験記です。

山西省に位置する五台山は、中国四大仏教名山のひとつに数えられる聖地であり、世界遺産でもあります。今回は、北京から夜行列車の硬臥(ドアのないオープン形式の部屋に置かれている三段ベッド2台を6人で利用する二等寝台車)で行った、聖地五台山の裏側に関する現場体験記です。

1.朝もやの五台山
(1)硬臥(二等寝台車)と軟臥(一等寝台車)
北京は市内だけでなく、周辺地域にも数多くの世界遺産を有する都市です。北京市内は当然のこと、近場の世界遺産であれば、金曜の夜に夜行列車で出発し、月曜の朝には北京に到着するという観光スケジュールを組むことができます。強行軍にはなりますが、週末だけで多くの地域を観光することができます。

2010年5月のある週末、筆者が五台山に行く際に利用したのは硬臥でした。硬臥は、軟臥(ドアのある個室形式の部屋に置かれている二段ベッド2台を4人で利用する一等寝台車)とは異なり、三段ベッドを利用するため、上下の空間が狭いほか、横幅も狭い寝台です。また軟臥よりも安いベッドを利用しているのか、列車の音や振動がより直接的に伝わってくるため、それが気になると一睡もできないことになります。つまり、中国らしい夜行列車をより堪能できる空間といえます。

筆者が夜行列車を利用した際、多くの若い中国人女性が硬臥に乗車している事に気付きました。このように中国では、若い女性であっても帰省に一人でも夜行列車を利用するが普通です。女性は安全面を考え、密室となりうる個室形式の軟臥(一等寝台車)よりも、オープン形式の硬臥(二等寝台車)を好む傾向にあります。

筆者は、中国の大学に在学中、同級生や友人に、「寝台車に女性が一人で乗車するのは危険では?」と聞いたことがあります。彼女たちの答えは、「寝台車への乗車には身分証明書の提示が必要であるため、安全で問題ない」、「また、夜行列車に乗ったらすぐに布団に潜り込むから大丈夫」というものでした。

(2)聖地の趣
五台山駅には、金曜日の夜10時22分の夜行列車で北京駅を出発し、次の日の朝4時31分に到着しました。朝4時30分過ぎの五台山駅は一面の朝靄に覆われており、周りがどのような状況にあるのかもまったく分からないといった神秘的な景色が出迎えてくれました。

改札口を出て運転手を見つけ出した筆者は、平安時代・鎌倉時代に日本の多くの僧が目指し、ダライ=ラマも訪れたという五台山に向かいました。

2.五台山
(1)聖地・五台山
中国の多くの観光地では、自家用車は入り口の駐車場までしか入れず、そこから先は環保車(「環境保護車」の意味のバス)に乗車しなければなりません。五台山も同様でした。

入山料と環保車の乗車料金を支払い、五台山風景名勝区へ入った筆者は、五台山の寺廟群を一望できる黛螺頂に登頂したり、顕通寺、菩薩頂、龍泉寺などを回ったりと、すっかり神聖な仏教徒になった気分でいました。

(2)塔院寺白塔での現実
この五台山のシンボルとも言える存在が塔院寺白塔です。塔院寺白塔はチベット式の建物であり、法輪に沿って時計の針の方向に3回廻れば、災難が解かれるとのことでした(チベット仏教式)。中国各地で、多くの仏教寺や仏教の名山と言われる場所に実際に行って感じた印象は、中国では「仏教=チベット仏教」だということです。清の皇帝は民族融和の意味もあってか、チベット寺院を多く建立しています(たとえば承徳の外八廟など)、チベット族は当然のこと、モンゴル族もチベット仏教(ラマ教)信者です。

このとき塔院寺を参観していた筆者の目の前では、100人以上の僧侶の祈りの声がこだましていました。この壮観な光景を感慨深く見ていたところ、本来ならできる限り見たくはない、祈り声の下の現実を垣間見ることになったのです。

① 無料で参観していたチベット族親子
筆者の目の前に、入場券を購入せずに塔院寺に入り込んで祈りを捧げているチベット族の母子がいました。この母子が入場券を購入していないことを見つけた寺の係員は、何と、この母子を大いに罵り、蹴飛ばすようにして外に放り出してしまいました。仏教の祈りという行為と眼前で起きていることとの対比で複雑な思いを禁じえませんでした。

② チベット仏教寺院
僧侶達が祈りを続ける中、携帯電話で会話をしている僧侶も多くいました。敬虔に祈りをささげる神聖な姿を期待していた筆者は少々残念に思いました。ただ、こういった光景は五台山に限らず、たとえば、雲南省シャングリラのチベット寺院である松賛林寺を訪れた時にも、その他の寺院を訪れたときにも同様に見られたものでした。松賛林寺の僧侶に至っては、目の前にいる羊に石を投げつけていたものです。

日本人の多くはチベット仏教寺院を実際に目の当たりにしたことがないため、神聖で敬虔なイメージを持っているのが普通だと思います。実際に残念な光景を目の当たりにした筆者としては、日本人がチベット仏教に対して有するイメージを崩して欲しくないと切に願ったものでした。

③ 僧侶の祈る姿と現実
さらにこの後、それ以上に世俗的、現実的な光景が筆者を待っていました。僧侶や信者たちが祈りをささげる中、係りの僧侶が100元札の束を我々観光客や信者の目の前で、一人ひとりの僧侶に配り始めたのです。そして多くの僧侶は取り繕うこともなく、100元札を受け取ると嬉しそうな顔していました。また金を受け取った途端、まるで授業を早退する大学生かのように後ろから順番に帰って行く僧侶も多くいました。

筆者は中国各地で仏教寺院(ラマ教を含む)、道教寺院を参観してきましたが、何をするにも金、金、金ということが多く(特に道教)、信仰心が薄らぐ思いを多々してきました。しかし、その最たるものが、この聖地五台山の光景でした。

皆の目の前で堂々と金を配らないで欲しい。表情を隠しもせずうれしそうな顔で100元札を受け取らないで欲しい。金を受け取った途端、祈りの途中であるにもかかわらず、退席せず、最後まで敬虔に祈って欲しい。少しは取り繕って欲しい、と切に祈った現場体験記でした。


※五台山の塔院寺白塔で祈りをささげる僧侶

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