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【コラム】中国現場体験記(23) 新型インフルエンザ騒動の裏側

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2011年8月31日

新型インフルエンザが猛威を振るった2009年、筆者は北京に居住していました。今回は、当時の中国の新型インフルエンザ対応および予防接種に関する現場体験記です。

1.訪問ビザ(Fビザ)

筆者が北京で生活を開始したのは2008年9月で、まさしく北京オリンピックが終結したばかりでした。

北京に居住するためのビザを取得したのは、入国前の7月でした。いつもなら、学生ビザ(Xビザ)を申請するための証明書は、語学学校にて受領できていたのですが、この時期は北京オリンピックの影響もあり、語学学校では証明書の発行ができなくなっていました。やむなく、そのとき取得が可能だった訪問ビザ(Fビザ)の中から、「1年間有効の90日マルチ」という条件つきのビザを取得したのです。このビザは、「シングルビザ」とは異なり、1年間なら何回でも入出国が許されるという点で、Fビザの中では比較的便利なビザでした(「マルチ」の意味)。ただ、90日に1回は出国しなければならない事が難点でした。

筆者は、2009年9月から中国の大学に留学することを計画していたため、入学試験に受かりさえすれば、2009年9月には学生ビザ(Xビザ)の発給を受けられるはずでした。したがって、それまでの1年間は、「1年間有効、90日マルチ」のFビザで滞在するため、90日毎に入出国を繰り返すようにスケジューリングしていました。

この状況で、新型インフルエンザが各国で猛威を振るい始めたのです。

2.北京首都国際空港での対応

中国の新型インフルエンザへの反応がピークを迎えていた2009年5月。この時日本へ帰国すると、中国へは再入国できない恐れがありました。当時の中国はそれほど厳しい対応を見せていました。やむなく5月は帰国を断念したのですが、Fビザの条件的にも、6月には何としても一度出国する必要がありました。

しかたなく、中国へ再入国できるのか?という不安を持ちつつも日本へ帰国しました。中国からすれば、日本に行く分にはさっさと行けという感じだったため、当然帰国については特に問題はありませんでした。ところが、北京への帰国便に搭乗してからは、予想通り大変な目に会いました。

(1)出入国健康申告カード
当時、日本を含む感染が確認された国から中国へ到着する便の機長は、到着前に乗客の健康状態について空港当局に報告する必要がありました。問題がなければ、他と分離された指定のゲートに進み、機長からの事前報告で有症の病人がいる場合には、空港内の特定区域で待機、という流れでした。

日本滞在を終え、中国へ再入国すべく北京行の飛行機に搭乗したところ、今まではなかった「出入国健康申告カード」へ以下の内容の記入が必要でした。

①7日以内に中国大陸を離れるか?離れる場合も離れない場合も、入国後の具体的スケジュール
②中国大陸での詳細な連絡先および連絡がつく電話番号
③7日以内に居住する場所および赴く都市
④7日以内にインフルエンザまたはインフルエンザ類似の症状のある患者と接触したか?
⑤今ある症状を具体的にマーク 例:熱、咳、喉が痛い、鼻水、吐き気

※入出国健康申告カードサンプル

(2)機内検疫
北京首都国際空港に到着後、機内検疫が実施されました。具体的には、宇宙服に似た防護服を着た検疫官と消毒担当者が機内に入り、機長に飛行中の乗客の状況を聞くとともに、乗客に対する医学検査(体温検査)を行いました。例えば、体温検査ではピストルに似た形状の計測器を額に当てて測るというもので、乗客はみな緊張していました。もしも、熱がある乗客がいた場合には、他の乗客も精密検査結果が出るまで機内に待機させられる、という念の入りようでした。

筆者も祈るような気持ちで、体温検査を受けました。あとは、他の乗客の状況を待つのみだったのですが、幸い発熱している乗客はなく、晴れて飛行機から降りることが許されたのです。

最後に熱を測るためのサーモグラフィーを通ることになっていたのですが、これも無事通過する事ができました(37度以上の体温が表示された場合、再検温が実施されます。ここでも発熱やインフルエンザ症状が確認されると、当局から指定された場所において最長7日間の医療観察となります)。

(3)預けた荷物は?
無事に再入国でき、ホッと一息ついた筆者は、意気揚々と預けた荷物のピックアップに向かいました。
ところが、荷物がようやく出て来たのは、飛行機から降りて1時間が経過しようかというときでした。しかも手に取ると、雨でもないのに荷物がびしょ濡れになっていました。不審に思い、恐る恐る匂いを嗅いでみたところ、消毒液で入念に消毒された後でした。

3.北京出入境検験検疫局からの電話

(1)1回目の電話
北京での生活を再開して、2,3日後、筆者の携帯に電話が入りました。

北京出入境検験検疫局:「北京出入境検験検疫局です。奥北さんですか?」
筆者:「そうですが。何か?」
北京出入境検験検疫局:「あなたは、○月○日に日本から北京に入国しましたよね?」
筆者:「そうですが(はは~ん、とピンときた)」
北京出入境検験検疫局:「体調はどうですか?」
筆者:「元気いっぱいです」
北京出入境検験検疫局:「熱や鼻水などの症状はありませんか?」
筆者:「ありません。問題なしです」
北京出入境検験検疫局:「近々北京から別の都市に行く予定はありますか?」
筆者:「ありません」

「やけに追いかけてくるな。日本人は、ばい菌扱いだな」と思ったものですが、中国語のレッスンになるし、話のネタにもなるからと納得しました。

(2)2回目の電話
2回目の電話は、1対1の中国語レッスンを受講している最中にかかってきました(ちなみに中国では、講師も生徒も授業中でも電話に出ます)。

筆者:「もしもし?」
北京出入境検験検疫局:「北京出入境検験検疫局です。奥北さんですか?」
講師に対して、筆者:「また新型インフルエンザの件で電話がかかってきたのだけど?」
筆者に対して、講師:「おもしろいから話し続けなさい。中国語のレッスンよ」
電話の内容は1回目とほぼ同じでした。

4.予防接種

(1)新型インフルエンザの予防接種
このとき、日本では新型インフルエンザの予防接種が始まりました。しかし、優先接種を受けられるのは、医療関係者、子供、老人であり、筆者のような成人男性の場合、いつ順番が回ってくるのか分からない状況でした。

したがい、筆者は日本でも新型インフルエンザの予防接種はできないし、中国でも外国人など後回しにされると予想され、当分の間は、自分自身の免疫と体力で新型インフルエンザに立ち向かうしかないな、と思っていました。

ところが、大学に通い始めていた筆者の携帯に、大学側からメールで「11月13日午後2時から、学生宿舎で新型インフルエンザの予防接種をするから、宿舎まで来なさい。」と連絡が入ったのです。本当に外国人も予防接種が打ってもらえるのか、すぐに確認してみました。その結果、集団で集まる大学生は、中国人、外国人を問わず、一律に予防接種がされるとの事でした。

(2)大学で接種
当日、予防接種会場である学生宿舎に行くと、そこには行列などなく、無秩序に溢れ返った学生たちがいました。

我先にと問診表を取りに行き、周りを押しのけ、医師に接種可否欄へのサインを要求します。その後、予防接種してくれる看護師に問診表を受け取ってもらうべく、無理やり割り込み、我先に腕を差し出します。こうしてようやく接種してもらえるという状況でした。

中国らしく、予防接種の場でも早い者勝ち。列に並んで、ということはありませんでした。

こういった光景を目の当たりにすると、筆者に限らず、「規則だって列を作る方が、総合的に見れば早く終わるのではないか」と考える日本人は多いようです。しかし、中国人(特に漢族)は、そのようには考えません。

ちなみに筆者は、中国人に紛れ込んで一番前に入り込み、さっさと予防接種してもらいました。その点では他の中国人の事をとやかく言えないのですが・・・。また、「世界でも一番早く新型インフルエンザの予防接種をした一般日本人男性ではないか?」と妙にうれしくなったものです。


※接種同意書サンプル

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