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【中国深読みコラム】第15回~民間企業と中国政府の係争~

中国ビジネスレポート コラム
松本 健三

松本 健三

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2015年2月6日

2015年1月末になり、中国で前代未聞の事態が生じている。
きっかけは1月28日に中国国家工商行政管理総局が、中国シッピングサイト最大手「陶宝網(タオバオ)」を運営するアリババ(阿里巴巴)を名指しで、正規品率37.25%(偽物が62.75%)が業界最悪で、出店者の資格審査や商標権侵害など5大問題を提起し行政指導の改善を求めた。これに対してアリババは同日、同社の公式微博網(中国版Twitter)で反論。一方、1月27日の英フイナンシャル・タイムズ紙は、「中国の富豪、支払い遅延で地方政府を提訴」のタイトルで、民間企業と政府間での裁判が始まると報じている。はたして社会主義国の中国で、民間が政府と争うことが出来るのか?今回はこれらのニュースを深読みする。

アリババは昨年秋より話題に事欠かない超有名企業である。世界を驚かした昨年9月19日のニューヨークの新規株式公開。このIPOで過去最大の約250億米ドル(約2兆8,500億円)を調達し、11月4日の第3四半期決算発表では前日の時価総額が2,509億4,000万米ドル(約28兆円)と米ウォルマートを超え、おまけとして創業時にわずか20億円出資したソフトバンクに5兆円の含み資産をもたらした。11月11日を「独身の日」と命名し、ネット通販の大安売りで1日571億元(約1兆740億円)の単日世界販売記録を樹立。更に今年に入り1月12日付新浪財経紙には、インドの同業大手、Paytmの株式30%を5億7,500万米ドル(約680億円)で取得し、世界人口の半分を制覇すると報じられている。

さてこの超巨大民間企業アリババが政府の行政指導にどう反論したか?
先の公式微博網では、「中国国家工商行政管理総局の劉紅亮司長が監督管理の過程において不当な操作を行い、感情に任せて法律を執行したことについて同局を正式に訴える」と表明している(1月29日、中国経済網)。
筆者は長年中国を見てきたが、一民間企業が政府高官の肩書きを付けて名指しで非難反論するのを見たのは今回が初めてである。中国は中国共産党が一党独裁(中国では一党指導という)体制を執る社会主義国家であり、民主集中制を党規約全文に掲げ、下級組織は上級組織に絶対服従が求められる国家体制である。中国の枠をはみ出した世界企業が、中国政府と論争することが出来るのか?従来の中国ではありえない今回の争い。将来の中国を予測する意味でも、沈黙を守っている政府の出方に注目したい。

一方、「中国の富豪、支払い遅延で地方政府を提訴」にも同様の注目が必要であろう。こちらは現行憲法と法律で認められた裁判による申し立てであるが、一民間企業が行政組織の地方政府を賠償相手として告訴するのは、これまた初めてのケースである。
今回の原告は中国で個人資産7位(142億ドル=約1兆6,600億円)といわれる厳介和氏が率いる中国太平洋建設集団(14年度売上600億ドル=約7兆円)であるが、告訴理由は雲南省晋寧県向け9,500万元(約18億円)、河北省寧晋県向け8,300万元(約16億円)などインフラ整備プロジェクトの工事代金未払い請求であり、上記以外に4地方政府を相手の同時告訴となっている。地方政府に債務返済能力がない場合、中央政府(国務院)は救済するのか?裁判で敗訴となった場合、地方政府に対して裁判所の強制執行は行われるか?など等、さまざまな意味で裁判の結果が注目される。

いずれにしても、今回ご紹介した上記2件のケースは、対外開放開始37年目、社会主義市場経済認定後23年目にして登場した民間企業の自己主張である。資本は自己増殖する生き物であり、国家・政府と対立するまで巨大化した民間企業をどう位置づけるのか、中国の未来を占う重要なファクターとなりそうである。

以上

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