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【コラム】中国現場体験記(94) 中国人の血族主義~地域差の大きい中国と日本とは違う恥の概念

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2016年3月10日

日本の26倍の国土を誇る中国では、地域によって、同じ中国人でも、全く違う人種のように性格が異なります。そもそも中国は、多数民族である漢族の他に、55もの少数民族を抱える国家ですので、民族による差も当然あります。本稿で紹介する民間企業の女性オーナーは、中国の内陸部に位置する湖北省武漢市に在住する漢族の武漢人です。
今回は、中国人の血族主義および日本とは違う恥の概念について考える現場コラムです。

1.武漢人の一般的な特徴
武漢人の一般的な特徴は、自分のことが大好きで、自分だけが正しく、他人はすべて間違っていると考えがちなところです。また、すぐに興奮して怒り出します。
交通事情もその特徴をよく表しています。筆者は中国のほとんど全部の省・直轄市・自治区に行きましたが、武漢市ほど交通ルールを守らない都市は他に知りません。道路を逆走するバイクどころか、逆送するトラック・車を毎日見ます。トラックは荷物を引きずったまま平気で走りますし、冗談のようですが、バックで逆走している車も見たことがあります。基本的に後方確認はせずに、前方だけを見て車線に突っ込んでくるため、交通事故に遭いそうになることが頻繁にあります。武漢は、治安の良い場所ではありますが、違った部分で大変危険な街だと言えます。たとえば、広東省広州市や広西チワン族自治区桂林市では、歩行者も交通ルールを守るということ、すなわち、横断歩道では赤信号時はきちんと止まるのが一般的ですが、武漢市では信号は存在しないのと同様です。現在、武漢に在住している広東人の友人も、武漢に来たばかりのときには閉口したそうです。
歩きながら麺を食べるのも武漢人のこれまた特徴です。エレベーターの中でも、武漢名物の熱乾麺(ゴマダレ麺)を食べていますし、タバコも吸います。周りに他人がいることは一切目に入らず、大声で叫び散らします。

中国には、「天上九頭鳥、地下湖北老」という諺があります。湖北人は、「自分たちは九つも頭があるほど頭が良いのだ」と言って、この諺を誇りますが、他の地域の中国人は逆に、「天上でずるいのは九頭鳥だし、地上でずるいのは湖北人だ」と言って、湖北人をそしります。ただ、よく言えば口が回り、商売はとても上手なため、一般的な日本人、日本企業では、対応に四苦八苦する土地柄と言えます。

2.一代ですべてを築いた中国人女性オーナーから見た血族主義の中身
こういった地域を拠点とする、ある民間企業の女性武漢人オーナーは、一代ですべてを築きました。周りは、夫、実の弟、実の兄の息子など一族で固めていますが、この一族の人達は誰も働きません。ただ、女性オーナーの働きとその財布にぶら下がっているようです。
血族が何も仕事をしなくてもこの女性オーナーは何も言いませんが、従業員の勤務状況については、中国の労働契約法などはどこに存在する、というやり方をします。血族と血族以外に対する態度が、かなり対照的です。

あるとき、このことについて湖北人の友人に質問をしました。

筆者:「中国人は面子にはこだわるけど、あのように一族全員で、女性オーナーの財布にぶら下がるというのは恥ずかしくないのかな?男性が皆、働かないというのも何だかな・・・」

湖北人の友人:「日本人と中国人では恥の概念が違うんだよ。金持ちになったのに、一族を養わないと後ろ指を刺されて恥ずかしいし、面子が立たないんだよ」

一族・血族は裏切らないが、他人はいつ裏切るか分からない。また、自分と血族だけが正しく、周りはいつ自分を騙すか分かったものではない、と考えているように見受けられます。ビジネスとして大きな仕事をしているにもかかわらず、家のお手伝いさんの少額の食材の買出しなどには、必要な金を最小限だけその都度渡し、おつりも目の前で再度数えさせる、という念の入れようです。

3.会社内の人間の独立・移籍を警戒する
自社内の人間を大いに警戒するのも特徴です。特に、自分が手足として使っている番頭(総経理)のことも、疑ってかかります。
中国人は、「鶏口(けいこう)となるも牛後となるなかれ」という考えをする人が少なくありません。すなわち、大きな組織で人の尻についているよりも、たとえ小さな組織でも頭になる、自分で会社を作りたいと考える人が多いのです。そういった傾向にあるためか、この女性オーナーは、自社内の有能な中国人の動きは特に警戒して見ています。「庇(ひさし)貸して母屋取られる」という状態を疑い、恐れているのです。

総経理は、この女性オーナーから独立の疑いをかけられないよう、客先などとの重要な会議の場では席を外します。こういったことは、工場長などが相手のときにはさらに徹底しています。懐に悪い金を納めようとしているのではないか、他社に客先をもって移籍するのではないかと頭から疑ってかかり、客先から名刺を受け取ることも許しません。自分と自分の血族以外を信頼しないことについては徹底しています。

5年後の1万人民元よりも、今の1,000人民元を遮二無二に取りにかかるのも特徴です。それにより逆に損をすることがあるとは考えません。自分だけが重要と考え、他人の感情は無視します。こういったことが当たり前の武漢人なら気にしないのかも知れませんが、他地域出身の中国人にはこのような女性オーナーの考えにはついていけない、と思う人が多いようです。

4.日本企業の戦略
今まで日本企業は中国の沿岸部に進出してきましたが、現在では内陸に進出する企業も多くなってきています。しかし、外国人や外国企業の進出に慣れた沿岸部の中国人とは全く違った中国人が内陸部では待ち構えています。役所の対応も全く異なります。たとえ、沿岸部で成功経験のある企業でも、内陸部で同じように成功できるとは限りません。沿岸部の中国人には通じていたことや共有できた考えが、全く通じなかったり、共有できなかったりすることもざらにあります。

中国は一つの国とは言っても、地域差が相当に大きな国です。「中国人」と一括りにしても、56もの民族がいます。たとえ多数民族たる漢族だけを考えたとしても、地域により全く別人です。上海市や広州市の漢族と河南省・湖北省・江西省などの漢族、また南方の雲南省や北方の黒龍江省の漢族とでは、それぞれに全くの別人です。

日本企業は、中国人、中国と一括りにせず、進出先がどこであるかによって、細かく戦略を練る必要がありそうです。中国各地域を実際に見て、接触し、住んでみて、ますますその思いを強くさせられています。

以 上

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