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中国におけるニセモノ問題とこれへの効果的な対応について4

中国ビジネスレポート 知的財産
分部 悠介

分部 悠介

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2010年6月3日

記事概要

中国の場合、公安以外の行政機関も摘発権限を持ち、むしろこれが主たる機関として機能しているという点が日本と大きく異なる点である。以下、行政ルート、司法ルートのそれぞれにつき、詳述する。【4,002字】

一.総論

模倣品・海賊版が発見された後、これを取り締まるルートとしては、大別すると、関連行政機関にこの摘発を申し立てる方法(「行政ルート」)と、裁判所に差し止め、損害賠償請求を求める方法(「司法ルート」)がある[1]。ここで関連行政機関という場合、公安(警察)も含まれ、この点は日本と同様であるが、後述の通り、中国の場合、公安以外の行政機関も摘発権限を持ち、むしろこれが主たる機関として機能しているという点が日本と大きく異なる点である。

以下、行政ルート、司法ルートのそれぞれにつき、詳述する。

二.行政ルート

1.工商局、質量局を通じた取り締まり

行政ルートの取り締まりについては、根拠法によって取り締まりを担当する行政機関が異なる。すなわち、模倣品の製造・販売行為は商標権侵害、反不正当競争法違反を構成することが多いが、これらの法律[2]に違反する行為は、工商行政管理総局(以下、「工商局」と言う[3]。)が摘発権限を有する。また、模倣品は生産業者に係る表記を偽装していることが多く、この場合、こうした製品表記を規制する製品品質法に違反することになるが、同法に違反する行為は、質量技術監督局(以下、「質量局」と言う[4]。)が摘発権限を有する。

この工商局、質量局は、全国の省、市、区の各レベルに存在して職員数も他の行政機関に比べて多いこともあり、これらを通じた摘発が、模倣品取り締まりの中で一番、活用されているルートとなっている[5]。その他、著作権侵害については版権局、専利権[6]侵害については知識産権局が摘発を担当し、案件の内容に応じて、これらの機関を活用することもある。

これらの行政機関は、模倣品・海賊版の製造・販売場所の所在地の管轄の各機関にて申し立てを受けて[7]、模倣品・海賊版の製造・販売場所に対して立ち入り調査[8]を行い、状況を調査の上、模倣品・海賊版疑義物品を押収することができる[9]。その後、これらが模倣品・海賊版であることが確認できたら、これらの製品を没収し、過料を科す等行政処罰を科すのが一般的である[10]

2.公安を通じた取り締まり

公安を通じた取り締まりは、模倣品・海賊版の販売・製造分量が多い時に活用される。公安による取り締まりの根拠法である刑法にて、「情状が重大な」商標権侵害行為、著作権侵害行為が違法とされており、「情状が重大」と認定されるためには、売り上げにして、大体100万円弱程度の分量が必要とされているからである[11]

公安を通じた取り締まりは、そもそも公安は殺人・強盗等の凶悪事件等の典型的な犯罪行為の取り締まりを優先し、知的財産権侵害事件は後回しにされることも多く、専門の担当者の数も、工商局や質量局に比べると少ない上、上述の通り、法律による売上金額の条件もあることもあって、公安を通じた取り締まり実施経験がある日本企業は多くはないのが現状である。また、実務上、売上金額の算定方法や案件移送の方法が地方によって異なっていたりして、手続き上、不透明な点が多く、条件を充足していると思われる案件でも公安に移送されないことが多いという問題点もある。

このように、公安の取り締まりを実現するためには困難な点が多いが、公安を通じた取り締まりは、その他の行政機関と異なり、模倣品・海賊版業者を逮捕し、刑事訴訟を経た後、懲役刑が科されることもある等、非常に強い処罰を科すことができるので模倣品・海賊版業者に対するプレッシャーとしては非常に大きく、大規模・悪質な模倣品・海賊版業者や工商局、質量局を通じた行政処罰を何度も受けているにも拘わらず、再犯を繰り返す模倣品・海賊版業者などに対しては有効な対策となるのは事実である。ゆえに、こうした業者に対して対策を取る場合には、上述した問題点はあるが、積極的かつ、粘り強く、公安を通じた取り締まりを検討するべきである[12]

上述した各関連行政機関の権限、模倣品・海賊版取り締まりに対する積極性については、地方によって異なるのが実情である。したがって、実際の案件に対応する場合には、これらの行政機関の一般的な権限・性質に関して把握した上で、当該案件を管轄する地方の行政機関の執行状況に詳しい代理人ともよく相談しながら、案件毎に効果的な行政機関を選択することが重要である。

三.司法ルート

裁判所に差し止め、損害賠償請求を求める方法については、日本、他、諸外国と基本的に同様である。損害賠償請求を提起された場合、模倣品・海賊版業者も金銭的負担が増加するため、プレッシャーをかける方法として効果的であり、また、他の対策手段と異なり、唯一、権利者側が金銭的補償を獲得できる手段となる。

また、関連行政機関は複雑な法律解釈が必要な問題[13]については認定を避けたり、誤った認定をすることもあることから、こうした案件に関して円滑に関連行政機関を動かす目的で、事前に裁判所に民事訴訟を提起して、裁判所で、問題となる法律論点について判断してもらい、同判断が示された判決書を持って関連行政機関に申し立てをするということも有効な活用法である。但し、残念ながら、賠償金額については、大量に模倣品・海賊版を製造・販売していたとしても、それ程多額な賠償金は認めらないのが現状である[14]

民事訴訟に関しては、提訴した後にメディア等で「中国企業たたき」と批判されることを心配して、過度に訴訟を避けたがる日本企業も多い。しかし、最近では、中国ではこうした知財侵害の訴訟の案件数も多いので、余程、規模が大きかったり、模倣品・海賊版業者がマスコミとコネクションを持っていたりする等、特段の事情がない限り、これが大々的に報道されるリスクは多くはないので、あらかじめ民事訴訟を選択肢から外すことなく、事案によっては、積極的に検討するべきと考える。

なお、裁判官の能力についても地方差があり、一般に北京、上海等の大都市部の裁判所の方が案件数も多くて、裁判官の経験も豊富で能力も高いので、適正な判断が期待しやすい。ゆえに、こちらから提訴する場合には、可能な限り、こうした裁判所に提訴するようにするべきであり、逆に地方の裁判所で提訴されてしまった場合には、可能な限り、管轄を都市部に移転させる努力をするべきであり、また、当該地方にて応訴せざるを得ない場合であっても、不適切な訴訟指揮[15]がないか、常に注意する必要がある。

四.総括

以上の通り、中国の場合、多様な行政ルートがある点が日本と大きく異なる点であり、ルートが多く、工商局、質量局を始めとする関連行政機関の職員が日常的に、迅速に模倣品・海賊版の摘発を実施している、という点だけ見れば、知財保護の観点から優れた法システムであるとも言え、実際、多くの日本企業は、このルートを模倣品・海賊版対策の中心的なルートとして活用している。

もっとも、この行政ルートを通じた行政処罰は、模倣品・海賊版業者に科される過料の金額も少なく、それゆえに、一度、これを受けても、模倣品・海賊版製造・販売に係る、一種の「コスト」としてこれを認識するだけで、何度も再犯行為に及ぶ業者も少なくない。こうした業者に対しては、公安への申し立て、民事訴訟を積極的に検討するべきなのであろうが、上述の通り、それぞれの課題があり、その件数は必ずしも多くはなく、結果的に、行政レイドを繰り返し実施せざるを得ないという企業が多いのも実情である。

当面はこの傾向は続くであろうと思われるが、権利者としては、多少、時間や費用、手間がかかっても、重大な案件については、公安への申し立て、民事訴訟を積極的かつ、粘り強く、検討して、これらのルートについても少しでも活用しやすいようにしていくと、長い目で見ると有益であろうと思われる。

[1]この行政ルート、司法ルートの2本立てで模倣品取り締まりを行う法体系は、「双軌制」と呼ばれている。

[2]関連法規の和訳についてはhttp://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/を参照。

[3]英文表記「Administration for Industry and Commerce」の頭文字を取り、「AIC」と呼ばれることもある。

[4]英文表記「Technology Supervision Bureau」の頭文字を取り、「TSB」と呼ばれることもある。

[5]工商局と質量局の権限は地方によって異なるのが、一般に、工商局は、市場・工場双方に対して、取り締まりを実施できるのに対して、質量局は工場のみ取り締まりを実施するとされていることが多い。

[6]日本の特許権、実用新案権、意匠権に相当。模倣品・海賊版対策の観点からは、意匠権侵害事案で活用を検討することがある。

[7]関連行政機関へ申し立てをする際には、権利者側で模倣品・海賊版製造・販売に係る証拠を収集して提出する必要がある。申し立てに係る詳細な手続きについては、次号以降で詳述する。

[8]関連行政機関による立ち入り調査のことを、「行政レイド」、又は単に「レイド」と呼ぶことも多い。

[9]行政機関によって、取り締まりに係る権限の内容は若干、異なる。例えば、知識産権局は、立ち入り権限が認められていない。

[10]模倣品・海賊版製造・販売場所への立ち入り検査から、行政処罰が科されるまでの期間は地方によって異なるが、一般に1月~3月程度。

[11]関連司法解釈(http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20041208.pdfhttp://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20070405.pdf)にて、「不法経営金額5万元」と規定されている。

[12]公安の取り締まりを実現できるかについては、代理人の腕に因るところも大きいので、公安への申し立て成功実績がある代理人を選定することも重要である。

[13]商標の類比に係る認定、反不正当競争法違反該当性の認定等、解釈に幅がある法律規定が問題となる場合が典型例。

[14]筆者の経験上、大規模な案件でも50万元以下に抑えられることが多い。但し、最近は増加傾向あり。

[15]当該地方で有力な模倣品・海賊版業者の場合、いわゆる「地方保護主義」の観点より、また、最悪の場合、裁判官が買収されて、裁判所が模倣品・海賊版業者側に不当に有利な訴訟指揮をすることもある。

(2010年6月4,002字)

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