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中国の投資環境と進出形態の検討

中国ビジネスレポート 投資環境
水野 真澄

水野 真澄

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2003年1月1日

<投資環境>
中国の投資環境と進出形態の検討

水野真澄

1.中国の投資環境

中国進出のこれほどの過熱は、10年前でも予測できた人はほとんどいなかったと思います。数年前までの中国に対するイメージは「知的所有権の侵害、為替管理を始めとする諸制度の硬直性、地域保護主義、高い与信リスク」というネガティブなイメージが支配的でした。現在でもこれらのイメージは根強く残っていますが、一方で、「低コストで高品質の製品が生産できる優良な進出先」というイメージが強まり、またWTO加盟によるイメージアップと中国マーケットへの期待から、多くの日本企業が生き残りをかけて中国に進出しています。ただし、海外進出を決断するにあたっては、単にイメージだけでなく、冷静にその国の制度を理解し、そのメリット・デメリットを比較した上で決定を行なう必要があります。

進出を決断した場合でも、進出先で行なう活動の内容如何によって、適切な形態は自ずと異なってくるものです。

では、中国の投資環境はどうなのでしょうか。また、中国に進出するメリットはどこにあるのでしょうか。中国が(他国と比べて)相対的に有利な条件を提供している点、反対に制限が多い点の中から、代表的な内容を取り上げてみます。

<相対的に有利な条件>
(1)柔軟な保税政策
中国では、保税区、輸出加工区のような税関管理の特別地域だけでなく、一般地域においても保税措置が弾力的に認められています。具体的には、製品の輸出を前提に、原材料の保税輸入を認める制度(委託加工・加工貿易制度)、及び、保税倉庫において、非居住者が保税貨物の保管を認める制度です。委託加工・加工貿易制度においては、保証金制度はあるものの、実際に保証金の積み立てを要求されるのは一部の企業に限定され、書類管理(加工登記手帳)のみで、原材料の保税輸入が可能です。さらに、保税輸入された原材料を、一時加工後、二次加工のために、他の工場に保税移送する事(転廠)も認めており、この点、世界でも例を見ない柔軟な保税政策と言うことができます。

(2)外資に対する優遇政策
外資企業に対しては、企業所得税の優遇(優遇税率・タックスホリデー)が幅広く認められています。外商投資産業指導目録が指定する奨励業種においては、設備の輸入に関して関税・付加価値税(増値税)が免税となる等の優遇も享受できます。

(3)労働力の確保
人材が非常に豊富です。これは、ワーカー・高級職員共に言えることです。特に、広東省では内陸部からの出稼ぎが相次いでいるため、安価で優秀な労働力を、容易に確保する事ができます。

<相対的に不利な条件>
(4)付加価値税の還付の制限
物品売買に際しては、増値税と呼ばれる付加価値税が課税されます。

増値税は標準税率が17%と高税率ですが、税率以上に問題なのは、還付漏れや二重課税の可能性が少なからずあることです。つまり輸出をすれば本来全額還付されるはずの(ゼロ税率適用)支払済み増値税が実際には全額返ってこず、還付にも長期間を要するのが実態です。また、一部の業種(建築業など)では、やはり代表的な流通税である営業税と二重課税が生じるなど、採算に少なからぬ影響を与えることとなります。

(5)外貨管理の制限
中国では外貨決済を、経常項目決済と資本項目決済に分けています。

標準的な経常項目決済(配当、輸入原材料の代金決済等)であれば対外送金に際して特に問題は生じませんが、同じ経常取引でも無形資産(特許権・非特許技術・ロイヤルティ等)の支払いや、役務対価の支払い、さらには輸入代金の前払いなどは外貨管理局の許可や、他の関連当局での登記が必要となり、送金が実質的に困難な場合も少なからずあります。資本項目決済については、外貨管理局の許可が必要です。

(6)与信リスク
中国では、地場取引において回収リスクが高いことは広く知られています。回収リスクをミニマイズするためには、現金取引・手形取引等、限定された決済方法を採用する必要があります。

(7)知的所有権の保護
中国では知的所有権の保護が十分行なわれておらず、街にニセモノがあふれているのが現状です。知的所有権の保護は、WTO加盟の公約事項にも含まれており中国も法整備を急いでいますが、運用面(規制)が徹底されていないのが実情です。

2.中国進出形態の検討

以上の状況を総括すると、中国の投資環境は「税制的にも制度的にも輸出関連の進出に適した環境である」ということができます。

そのため中国でのビジネス経験がない企業は、先ず相対的に不利な条件((4)〜(7))が極力伴わず、有利な条件((1)〜(3))のみを享受できる設立形態を選択するのが賢明、かつ失敗の少ない方法ということができるでしょう。

この形態は輸出用の保税加工であり、特に、来料加工と呼ばれる委託加工が、中国進出リスクが最も低く、中国の特徴的な優遇措置を取り込むことが出来る形態と言えます。

この形態を採用すれば、以下の様なメリットを享受することができます。

− 中国で会社を設立する事なく(委託加工契約の締結により)生産が開始できる。
− 設備の免税輸入ができる。設備は外国企業が無償提供する(所有権は外国企業に留保される)こととなるので、中国側で資金負担が発生しない。
− 広東省であれば、加工を受託する中国企業は、実質的には登記のみであり、実態は外国企業そのものである(広東流来料加工)。
− 原材料輸入・製品輸出共に無償の取引となる。
−保税(増値税・関税)加工が可能。

結果として、簡単に生産が開始でき、(製品は輸出が前提となるため)中国内の与信リスクは発生せず、また、原材料輸入・製品輸出が無償で行なわれるため、外貨管理・資金調達等の作業は、中国外に移管することができます。

ただし、委託加工(来料加工)の意義はあくまでも生産拠点の単純な中国シフトであり、中国マーケットの開拓や、高付加価値の創出につながりません。つまり、日本・その他の地域で生産を行なっている場合と比較してのコスト削減のみが中国進出のメリットとなります。委託加工については、制度の廃止も何度か取りざたされており、この点も不安材料といえます。

そのため中国における工場運営・生産管理・その他のノウハウを身に付けた企業(つまり(4)〜(7)の内容を自己管理できるようになった企業)は、次のステップとして、独資(100%外資)企業を中国に設立し、付加価値の高い生産を行なうこと、さらに、中国マーケットの開拓を行なうことを志向します。現実に、このような動き(委託加工から現地法人への転換)が、盛んに生じていますが、これは換言すれば、中国進出の第一ステップに成功した企業の増加を意味するといえるでしょう。

ただし現地法人化し中国国内販売に踏み切れば、収益・利益率は改善しますが、それに比例してリスクも高まります。その代表は与信リスクですが、これは、自社ブランドを持つメーカーでは、現金販売・銀行保証のある手形等を取引の条件とすることである程度管理できます。しかし商社の場合はこのような決済条件では当然商売ができず、与信管理はさらに難しくなり、現地法人化しても満足に商売ができていないケースも少なくありません。

よって現地法人化は、このようなリスク(与信リスクを始めとする様々なリスク)の管理ができる場合に限定しないと、会社の運営自体が立ち行かなくなる危険性も出てきます。

以上より、中国進出を行なうにあたっては、最初から現地法人を設立するのではなく、「出張所・委託加工などから始めて、最後に現地法人」という形で、段階的な対応を行なっていくことが、リスクをミニマイズするためには理想的な対応と言うことができます。

(1月12日記・3,119字)
丸紅香港華南会社
コンサルティング課長・広州会社管理部長
水野真澄

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