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事例で学ぶ中国ビジネス成功のノウハウ(2)投資利益回収

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2003年11月20日

<投資環境>

事例で学ぶ中国ビジネス成功のノウハウ(2)投資利益回収

筧武雄

 

1. 国の預金、海外送金制度

 中国政府の外貨管理制度、銀行制度はわが国と際立って異なる面が多数ある。その特徴をいくつか挙げてみよう。

A.中央銀行(中国人民銀行)によるオンライン残高管理
全銀行の預金口座、借入金勘定口座が人民銀行とオンライン・ネットワークでつながれており、すべての企業・個人の、銀行の壁を超えたすべての取引内容が中央銀行によりリアルタイムで把握されている。これにより政府による名寄せ残高管理、あるいは口座残高確認が瞬時に簡単にできる仕組となっている。

B.口座開設・借入の許可登記制度
企業の外貨預金口座は外貨管理局の事前許可が無ければ開設できない。人民元の口座開設についても、上記の人民銀行ネットワーク接続のためのICカード登録が義務付けられている。借り入れについても同様で、人民銀行のオンライン借入残高管理と外貨管理局への外債登記も義務付けられており、外債登記が無いと元利金返済のための海外送金も認められない。

C.用途別の口座制度
企業の預金口座は、外貨資本金口座、外貨運転資金口座、外貨借入金口座、外貨借入返済金口座、人民元基本口座、人民元専用口座(納税専用口座、クレジットカード専用口座、携帯電話料金専用口座等)と、用途ごとに複数の口座を開設することが法で義務付けられており、それぞれ用途別に残高管理がなされる。特に外貨運転資金口座については、前年度の入金累計総額(すなわち年間輸出総額)の20%以内に外貨保有残高が制限されており、これを越えた場合、超過した外貨金額は強制的に人民元に転換されることになっている。日本のようにひとつの当座あるいは普通預金口座を様々な用途に利用することはできない。

D.厳格な海外送金規制
中国の外為管理法では、外為管理は貿易、貿易外一般などの経常項目資金と投資や借入などの資本項目資金に大別される。前者の場合は関連証拠書類を銀行窓口に提出して確認を受け、銀行は税務局、税関や外貨管理局と事実関係を確認する。具体的には個別の通関、個別の書類と個別の代金決済が一致しているか、内容にも問題はないか審査・確認を受けたうえで送金に取り組むことができる。後者の場合は一律、外貨管理局への事前申請と事前許可の取得が義務付けられている。中国はIMF8条国とはいえ、非常に厳しい外為管理、実需原則が貫かれている。

 以上のように、おのずと中国における資金管理手法は日本とは相当異なり、外貨管理局、税務局、税関など関連当局との許認可折衝、書類の照合管理事務が大きな分野を占めると言える。このように、まったく自由に海外送金、利益回収できる仕組ではないので、事前調査と管理体制上の適切な対処が必要である。

2.ケース・スタディ

 メーカーA社は3年前、輸出先である中国の地方大手国有企業から強い要請を受け、彼らと「合作契約」を結んだ。A社は中国事情に不慣れなため、敢えて中国に大きな資金投資をするつもりも、経営責任を背負うつもりもなかったが、相手方から「合作経営は合弁に比較して規制が緩やかで自由があり、税引き後の利益配当とは別に、毎年の投資資金の先行回収が合法的にできる。合議により出資比率に応じた配当とは異なる利益回収もできる」と合作経営を強く勧められ、合作経営企業を設立すれば、さらに外資に対する税制優遇や外貨留保権などのメリットも受けることもできるというので、合作形態を採用することにした。A社は現金を投資する余裕もなかったので、相手の勧めるまま、中古機械設備を現物出資し、現金は1円も出さなかった。

 相手方は現地の有力者であり、合作契約締結後すぐに現地市政府対外経済貿易委員会から許可証を取得し、工商行政管理局に登記して正式の営業許可証を取得することができた。 
設立から3年が経過した年、合作契約にしたがって第1回目の投資金回収が始まる予定であったが、日本からいくら問い合わせてもいっこうに入金がない。しびれを切らして社長が現地に問い合わせたところ、こんな回答があった。
 「投資回収金を海外送金するためには、人民元収入資金を外貨に交換して日本に送金する許可をもらう必要があるが、外貨管理局がその承認を下ろしてくれない」、外貨管理局の拒否理由は「まだ資本金払込が完了しておらず、かつ企業利益も出ていないからだ」という。さらに調査してみると、資本金払い込み未了の原因は、税関による水際の中古設備機械の現物出資評価額が合作契約書上の出資金額を下回ったため、現金による追加出資がさらに必要であるという。

 A社社長は資本金払い込みが足りないなら、単純に減資すればよいと答えたが、中国の法律上では、よほどの事情が無い限り外資系企業の減資は認められないということもわかった。また、A社としては合作形態ならば決算の赤字黒字とは関係なく投資金の先行回収が可能であると勝手に思い込んでいたのだが、よく調べてみると、外貨管理局の指摘はまったく正しいことがわかった。合作基本法上、合作経営企業は赤字を補填しないかぎり、投資金の先行回収が許されていないのである。しかも合作事業の業績は芳しくなく、当分黒字転換の見通しはない。
 仕方なく、せめて人民元現金でもよいから現地の銀行口座から資金を引き出そうとしたところ、銀行の窓口で「人民元一般口座から現金の払い戻しはできません」と断られてしまった。どういうことなのか説明を求めても、「規則なのでできない」の一点張りである。

3.整理・分析

 まず、中外合作経営企業法実施細則(95.9.4公布施行)第45条には、「合作企業の損失を補填する前に、外国合作者は投資を先行回収してはならない。」という定めがある。つまり、合作経営の場合は「出資比率にもとづく利益配当とは別に、出資した機械設備の減価償却費用に相当する投資金の先行回収が可能」とは言いながらも、赤字のままでは投資回収が許されないのである。その意味では通常の合弁企業配当金と大差ない。
 また、たとえ先行回収できたとしても、その資金は「已帰還投資」(減資払戻金)と呼ばれる資本勘定科目から払い出される特殊な減資払戻金に相当するもので、経営期限満了の期日を迎え会社を清算する場合、もし債務超過の状態となった場合は元の合作企業に返戻しなければならない性格の資金である。

(注)合作形態の特徴とリスク

 合作経営の典型的パターンは、中国側が場所を提供し外国側が建設と経営を行い、合作契約の期間中に外資が合作会社を経営して得た利益と投資金を回収したのち、合作契約期限に外資は会社の全資産を中国側に無償で譲渡して引き上げるという仕組みである。この仕組は一時期アジア各国で流行した「BOT(Build-Operation-Transfer)」方式と酷似しており、中国ではホテルやデパート、社会サービス業などで古くからよく利用されている。外国側は出資比率や配当金に縛られることなく、減価償却金額に見合った投資金の先行回収が認められている。

 90年代に入ってからは、中国側が土地を提供するだけで会社経営には何も口をはさまず、純粋な「大家」として固定利益回収を受けるという新型の合作方式も登場した。これならば実際には独資と同じ経営で、独資では得られない条件の免許や支援が受けられるということで、新しい進出パターンとして上海の西郊外地域などで定着している。なお、合作形態においては、法人形態をとるもの(有限責任会社形態)ととらないもの(パートナーシップ、無限責任)の二種類がある。

 つぎに、中古機械の現物出資について、契約上に定めた金額で許認可主管部門である対外経済貿易部門から正式な許可を得て会社設立登記も済ませたとしても、実際の通関で価格評価を実施するのは現地の税関、商品検疫験検局である。税関、あるいは税関の委託を受けた商品検疫験検局が契約金額を下回る価格査定を下した場合、出資者は連帯して差額を現金で出資する義務を負う。現金による「追加出資」を怠った場合、出資金払込は未了と見なされ、海外送金は許可されない。
これらの事情から、中国の法律にしたがって本ケースにおいて利益回収は当面断念せざるを得ない状況にある。
また、人民元口座のうち、人民銀行に口座開設の届け出も許可も不要な人民元一般口座は、もともと制度上、現金の払い戻しは禁じられている。この種の口座からの支払方法は、国内振込あるいは小切手振出のみに限定されている。これもA社の単純な知識不足である。

4.解題

 資産の価値評価は、いわゆる「Due Diligence」の問題である。これは企業買収時、あるいは清算時の資産評価査定と同様に、まず公正かつ客観的な資産評価が可能で、十分な評価能力を有する国際公認会計士による評価査定が望ましいことは言うまでもない。しかし、それが実現したとしても決して容易な作業ではない。ましてや対象が有形物品ではなく、データや技術ノウハウのような無形資産であった場合は、その業界のベテラン専門家であっても価格査定は困難というのが実情だろう。たとえばCDに書き込まれたデータの場合、CD-Rの原価は数円に過ぎないが、データの価値は数億円あってもおかしくはない。米国で巨額の損害賠償請求訴訟を受けた東芝フロッピーディスクドライブ事件がその好例である。水際で即決即断できる性格のものではない。

関税・増値税の算定基礎とするために、公正な原価を調査推定し、同様の品物の市場取引価格を調べ、あるいは第三者取引価格を調べるなどの客観的評価手法は最低限必要と思われるが、中国の法体系では税関から委託を受けた商品検疫験検局が原審査許可当局から独立して、しかも許認可当局よりも強い絶対的な評価権限を持っている。これでは、税関評価が出資契約金額を下回った場合の差額現金追加出資義務のリスクを事前に回避することはかなり困難と言わざるを得ないだろう。契約前の評価が受けられるならば話は別だが、このような「査定リスク」が避けられないものであれば、現物出資、特に中古物品は最初から採用しないことが賢明な結論と言わざるを得ない。

現金出資と同様に、言うまでもなく、投資利益回収の基本も現金配当金による回収である。配当金の海外送金は貿易外送金扱いとされ、営業許可証、決算書、董事会決議議事録、源泉税納税証明など必要書類を銀行窓口に提出して審査・確認を受ければ海外への配当送金は問題なく可能である。配当以外にあげられる利益回収の手段としては、売上金に対する3〜5%程度のロイヤルティー送金がある。たとえば技術指導料、マネジメント・フィーなどの名目で、あらかじめ親子間契約を結び、原審査認可機関に登記登録し、源泉税納税証明をもって銀行窓口で送金ができる。なお、配当金、ロイヤルテイーに対する中国での源泉課税は日中租税条約にもとづき10%と定められており、日本側で外国税額控除(タックス・スペアリング)を受けることができる。さらに中国に対する技術指導は日本の税制優遇策により日本親会社の法人税が軽減される措置もある。

(11月某日記・4,050字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄

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