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売買契約紛争事件の最新司法解釈

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2013年2月22日

売買契約紛争事件を正確に審理し、司法実践の不一致を避けるため、中国最高人民法院は「売買契約解釈」を制定、公布した。売買契約は最も典型的な有償契約として、法律上、実務上共に重要な意義を持つ。「売買契約解釈」の公布は、「中華人民共和国契約法」(本文では、「契約法」という)第9章の売買契約に関する規定(全46条)を補填するだけでなく、ある程度において、「契約法」の全規則体系を補完するものでもある。本文では当該司法解釈および筆者の実務経験に基づき、「売買契約解釈」の関連規定について、参考までに要点を絞って分析し、簡潔な対応法を提案する。

売買契約の成立と効力
「契約法」の立法主旨の一つは取引の奨励である。過去に中国の司法実践において存在した、適切な確認のされていない契約の不成立、無効という処理方法は、取引コストを増大させ、取引実行の妨げとなり、「契約法」の立法主旨とも合致しないものであった。昨今、裁判所は契約の不成立、無効の認定を徐々に減らすと共に、「『中華人民共和国契約法』の適用に伴う若干問題に関する解釈(二)」を制定して明確にした。この度の「売買契約解釈」も本精神を継承したものであり、より細分化を図っている。

分類 「売買契約解釈」の関連規定 筆者の要点説明 売買契約の成立 ・第1条第1項:売買契約を締結していない場合、一方が送り状、受領書、清算書、領収書などにより売買契約関係の存在を主張する場合、当事者間の取引方法、取引習慣およびその他の関連証拠と併せて売買契約が成立するかを判断する

第1条第2項:債権者名称の記載のない帳簿照合確認書、債権確認書などの書簡、証憑は、相反する証拠がある場合を除き、売買契約成立と認定される。 送り状などの証憑は単独で契約成立を証明する証拠とはならず(帳簿照合確認書、債権確認書などは契約成立を証明する証拠とすることができる)、当事者間の取引習慣、その他の証拠など(例えば、電話録音)と併せて総合的に判断する必要がある。

契約成立を主張する一方の送り状などの証憑の提供は立証責任を果たしたものとみなされ、相手方は契約成立の否認について立証責任を負う。

予約契約 第2条:今後一定期間内の売買契約締結を定めた購入同意書、注文書、購入予約書、意向書、覚書などの予約契約は、法的効力を有する。予約契約の不履行については、違約責任を負わなければならない。 ・購入同意書などは必ずしも予約契約を構成するものではない。予約契約では「今後一定期間内に売買契約を締結する」旨の合意を明確にする必要がある

・予約契約の当事者は売買契約を締結するものとし、一方が拒絶しまたは悪意で協議し売買契約締結を阻害する場合(正常な協議において結果として合意を得られなかった場合は除かれる。実務上、悪意の認定については、具体状況に基づき判断する必要がある)、違約責任を負わなければならない。

動産の「二重譲渡」の法律処理
実務において、動産の「二重譲渡」は珍しいものではなく、市場が大きく変動する際にはこれらの法的紛争が多くなる。「売買契約解釈」は司法実践における各種の観点をまとめ、関連法の規定と併せ、動産の「二重譲渡」の処理原則を明確にした。

分類 「売買契約解釈」の関連規定 筆者の要点説明 普通動産 第9条:引渡、支払い、契約成立の前後を契約の履行順序とする。 特殊動産(船舶、航空機、エンジン付車両) ・第10条:引渡、登記、契約成立の前後を契約の履行順序とする(引渡は特殊動産物権変動の発効条件であり、登記は善意の第三者に対する対抗要件である。よって、引渡と登記が争う状況においては、引渡を優先させる)。
「二重譲渡」の状況では、売り手は買い手を自主的に選んで取引を完了することができない(売り手には自主選択権がない)。

動産の「二重譲渡」の場合、引渡、支払い/登記、契約成立前後の順序で処理される。
不動産の「二重譲渡」の場合、「物権法」の関連規定に基づき、登記をもって権利の変動、帰属を確認する。

目的物の検査
検査は売買契約の重要な段階である。ただし、「契約法」には第157条、第158条で規定されているだけで、簡単、原則的に過ぎるきらいがある。「売買契約解釈」は「契約法」の検査に関する規定を補足した。以下、簡単に説明する。

分類  「売買契約解釈」の関連規定 筆者の要点説明 第15条:検査期間に関する取り決めがない場合、相反する証拠により翻された場合を除き、買い手が署名確認した送り状、確認書などに目的物の数量、型番、規格が記載されている場合、買い手は数量および外観上の瑕疵について検査済みであると認定されるものとする。 第18条:当事者が定めた検査期間が明らかに不合理に短い場合、当該検査期間は買い手の外観上の瑕疵についてのみのクレーム期間とされ、裁判所は買い手の隠れた瑕疵に対するクレームの合理的な期間を確定する権限を有する。
約定する検査期間または品質保証期間は法律、行政法規の定める検査期間または品質保証期間より短くてはならない。  
合理的な期間の認定基準 第17条第1項:「合理的な期間」とは、信義誠実の原則に基づき、当事者間の以下の要素を踏まえて総合的に判断するものとする。取引の性質、目的、方法、習慣、目的物の種類、数量、性質、設置および使用状況、瑕疵の性質、買い手の合理的な注意義務、検査方法と難易度、買い手または検査者のおかれた具体環境、自身の技能、およびその他の合理的な要素。 ・「合理的な期間」の判断において考慮すべき要素が明確にされた。 検査期間などが経過した場合の法的効力 第17条第2項、第20条:検査期間、合理的な期間、2年の期間(2年の期間は不変期間であり、中止、中断、延長ができない)が経過した後、買い手は目的物の数量または品質が約定に合致していないと主張することはできない。
売り手は、自発的に違約責任を負う場合、上記期間の経過を理由に意思を翻してはならない・検査期間などの期間内に、速やかに権利の主張を行わなければならない。検査期間などの経過後は、たとえ買い手が目的物に瑕疵が存在することを証明できる証拠を有する場合でも、売り手が自発的に責任負担する場合を除き、売り手に瑕疵担保責任の負担を主張することはできない。
検査期間と効力 ・目的物の品質問題は「外観上の瑕疵」「隠れた瑕疵」[1]に分けられることが明確にされた。

・検査期間を定めていない状況で、受取署名行為は通常、数量および外観上の瑕疵についての検査確認とされる。

・当事者が定める検査期間は検査の内容(外観上の瑕疵、隠れた瑕疵)に相応しなければならず、法律、行政法規の定める検査期間、品質保証期間に違反してはならない[2]

所有権の留保
「契約法」第134条では「所有権の留保」制度[3]が規定されているが、原則、簡潔に過ぎるきらいがあった。「売買契約解釈」は所有権留保制度の適用範囲、当事者間の権利義務のバランスなど、長年解決を望まれていた問題を明確にした。要点を分析すれば、以下のとおりである。

分類 「売買契約解釈」の関連規定  筆者の要点説明 適用範囲 第34条:所有権の留保は動産に適用され、不動産には適用されない。 特になし。 第35条、第36条第2項:特定の状況下(①取り決めに従って代金が支払われなかった、②取り決めに従って特定条件を満たさなかった、③目的物につき売却、質権設定またはその他の不当な処分を行った「善意取得制度に対抗できない」)では、売り手は目的物を取り戻すことができる・当事者は取戻権の行使条件を取り決めることができる。
・中国の「所有権の留保」制度には有効な公示方法がないため、目的物が買い手に処分された後には、売り手の取戻権は「物権法」第106条に規定された「善意取得」制度の制限を受けてしまう。
第36条第1項:買い手が既に目的物代金総額の75%以上を支払った時点で、売り手は目的物取り戻しの権利を喪失する。 買い手の代金支払総額が75%以上である場合、売り手は取戻権を喪失する。
・買い手の違約行為に対し、売り手が遅滞なく取戻権を主張しなかった場合、買い手の代金支払総額が75%を超えた後、売り手は取戻権を喪失する。
買い戻し期間 第37条:売り手が目的物を取り戻した後、買い手が取り決められた、または売り手の指定した買い戻し期間以内に、目的物取戻しの事由を取除いた場合、買い手は目的物を買い戻すことができる。買い戻し期間内に買い戻さなかった場合、売り手は別途販売することが可能となる。 ・買い戻し期間は、当事者で取り決める、または売り手が指定することができる。
・買い戻し期間内では、売り手は一時的に目的物を別途販売することができない。
売り手の取戻権およびその制限

特殊売買
「契約法」第9章では4種類の特殊売買(割賦販売、見本売買、試用販売、入札販売)が規定されている。「売買契約解釈」は司法実践における問題に照らして、「契約法」の特殊売買に関する規定を詳細にした。要点を分析すれば、以下のとおりである。

分類 「売買契約解釈」の関連規定 筆者の要点説明 割賦売買 第38条第1項:「割賦」とは、買い手が一定期間内において、少なくとも三回に分けて売り手へ代金総額を支払うことをいう。
第38条第2項:割賦売買契約においては、「たとえ買い手の満期代金未払い金額が代金総額の五分の一を下回っている場合でも、売り手は買い手に対し代金全額の支払いを要求することができる」と約定してはならない(「契約法」第167条第1項に違反する)。
第39条:割賦売買契約においては、契約解除時に、売り手は受け取り済みの代金を留保し、使用料(取り決めのない場合、当地の同種の目的物の賃貸料金の基準を参照して確定することができる)または目的物が受けた損失の損害賠償に充当することができる。 ・割賦売買契約の支払い回数、満期代金未払いの最低金額を明確にした。
・割賦売買契約においては、売り手が留保できる代金の範囲、充当できる内容、使用料の計算基準などを明確にすることを提案する。
試用販売  ・第41条:別途取り決めがある場合を除き、買い手が試用期間内に代金の一部を支払った場合、購入に同意したものと認定する。
買い手が目的物について、売却、賃貸、担保権の設定などの非試用行為を行った場合、購入に同意したものと認定する。
第42条:売買契約において、①試用後または検査で一定の条件を満たした場合、買い手は目的物を購入するものとする、②第三者が試験を通じて目的物を認可した場合、買い手は目的物を購入するものとする、③買い手は一定期間内において目的物を交換、返品することができると規定している場合は、試用販売には該当しない。
第43条:使用料を定めていない、または約定が不明確の場合、売り手は使用料を主張できない。 ・試用販売契約を作成、締結する際には以下の点に注意する必要がある。
1)    「購入同意に該当する」状況。
2)    試用販売の使用料(または使用料の計算基準)を明確にする。

上述の問題の他、「売買契約解釈」は目的物の引渡、所有権の移転、リスク負担および違約責任などの問題についても規定している。これらの問題もまた重要であるが、紙面の都合上、以上までとする。筆者の理解では、「売買契約解釈」は裁判所の売買契約事件の審理により明確な法的根拠を与えると同時に、売買契約の法的管理についてもより専門的な要求を提起した。よって、法的リスクを軽減し、事業活動が円滑に行われるよう、企業が売買契約を作成、締結する際には(既に締結済みであるが履行を完了していない売買契約についても、改めて確認し、必要であれば、相手方と補充協議の締結を行うことも考えられる)、弁護士およびその他の関連専門人員と意見交換を行い、売買契約の関連条項を審査、確認するとよい。

関連法令:
1.    「売買契約紛争事件の審理に伴う適用法の問題に関する解釈」
URL:http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201206/t20120606_177344.htm
2.    「中華人民共和国契約法」
URL:http://www.gov.cn/banshi/2005-07/11/content_13695.htm
3.    「『中華人民共和国契約法』の適用に伴う若干問題に関する解釈(二)」
URL:http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201002/t20100210_1051.htm
4.    「中華人民共和国物権法」
URL:http://www.gov.cn/flfg/2007-03/19/content_554452.htm

[1]理論上、「外観上の瑕疵」とは通常、五感を通じて分かる瑕疵であり、たとえば、数量、型番、規格が契約の取り決めと一致しないことを指す。一方の「隠れた瑕疵」とは通常、五感を通じて判断することは困難で、その他の検査方法により分かるまたは実際に使用して分かる瑕疵であり、たとえば、金属材料の強度である。
[2]たとえば、「建設工事品質管理条例」第40条第1項第2号では「屋根防水工事、防水要求のある洗面所、部屋と外壁面の水漏れ防止は5年間とする」と規定している。
[3]理論上、「所有権の留保」とは、売買契約における買い手が先ず占有し、目的物を使用するが、特定条件を満たすまでは、売り手は所有権を留保し、条件を満たした後で目的物の所有権を買い手に移転する制度を指す。

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