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中国における組織再編(1)経営者集中の関連規定と執行状況(3)4/4

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2010年7月26日

記事概要

<パナソニックによる三洋電機の買収>企業が組織再編を行う際には、事前に商務部に対して申告し、更には競争制限効果を解消する条件を提出する必要が生ずる場合がある。本稿では、商務部が公告した実例を関連規定とともに紹介する。【4,181字】

(6)パナソニックによる三洋電機の買収[1]
パナソニック株式会社(「パナソニック」)が三洋電機株式会社(「三洋」)を子会社化すべく、三洋の株式の公開買付けを行うために経営者集中の申告を行った事例であり、経営者集中により各商品市場に対して生ずる影響に言及された上で、制限的条件が定められている。

(a) 商品市場
商務部は、本件集中により次の3つの製品市場において、競争を制限又は排除する影響が生ずると確認している。

(i) コイン型リチウム二次電池
コイン型リチウム二次電池は独立した製品市場を構成し、地域市場は世界市場であるとされている。本件集中により当該製品市場に競争を制限・排除する影響が生ずる理由として、以下の理由が挙げられている。

① コイン型リチウム二次電池については、高度に集中が進んでいる。申告経営者双方は当該市場の一位、二位のメーカーであり、買収後のパナソニックは市場シェアの61.6%を占め、川下のユーザーの選択権が大きな制限を受ける。

② 買収後のパナソニックは、一方的に価格を引き上げる能力を有することになる。市場における競争者が限られており有効な競争上の制約を受けず、パナソニックによる価格の引上げが競争者にとっても有利となり得る場合には、パナソニックと有効な競争を行う動機が欠ける。

③購入者に、上記の競争を制限する効果を解消する力がない。

(ii) 民生用ニッケル水素電池
民生用ニッケル水素電池は独立の製品市場を構成し、関連地域市場は世界市場であるとされている。本件集中により当該製品市場に競争を制限・排除する影響が生ずる理由として、以下の理由が挙げられている。

① 民生用ニッケル水素電池市場は集中度が比較的高い市場であり、競争者の数も限られており、買収後のパナソニックの市場シェアは46.3%に達し、他の競争者よりもはるかに高く、一方的に価格を引き上げる能力を有することになるおそれがある。

② 指定取引は市場の競争を損なうおそれがある。指定取引方式により市場競争が抑制され、他のブランドの電池製品が排除されるところ、買収によりこのような競争を制限する効果が更に助長されることになる。

③ ニッケル水素電池市場の発展速度が遅く、十分な市場参入により上記の競争を制限・排除する効果を打ち消すことが難しい。

(iii) 車載用ニッケル水素電池
本件集中により車載用ニッケル水素電池市場において競争を制限・排除する影響が生ずる理由として、当該市場は高度に集中が進んでおり、パナソニックとトヨタ自動車が設立した企業であるパナソニックEVエナジー株式会社(「PEVE」)が当該市場において77%の市場シェアを占め、絶対的に優勢な地位を有していて、市場における他の競争者は申告を行った経営者双方だけである。買収により当該市場競争者の数は更に減少し、パナソニックによりPEVEの影響力が利用され、市場競争が更に弱められるおそれがあることが挙げられている。

(b) 制限的条件の付加に係る協議
商務部は、申告経営者が提出した最終救済方案により本件集中が中国市場にもたらす不利な影響が解消されると確認している。

(c) 審査決定
パナソニック及び三洋による経営者集中によりコイン型リチウム二次電池、民生用ニッケル水素電池及び車載用ニッケル水素電池等の関連市場に対して競争を制限し、又は排除する効果が生ずることに鑑み、集中により市場競争に生ずる不利な影響を減少させるために、商務部は、当該集中の認可に条件を付し、パナソニック及び三洋に対して次の義務を履行するよう要求する。

(i) コイン型リチウム二次電池

① 三洋の現時点におけるコイン型リチウム二次電池業務のすべてを分離する。即ち、鳥取県岩見町[2]にある三洋の鳥取工場のコイン型リチウム二次電池業務を独立の第三者(買受人)にすべて譲渡する。買受人の選択は、分離される業務の発展に有利であり、かつ、市場競争に有利であるという原則に従って行わなければならず、また、商務部の認可を経る必要がある。三洋は、当該買受人の求めに応じて、買受人に対し、コイン型リチウム二次電池業務の経営に必要な生産設備、販売・研究開発部門及び取引先資源を含む関連資産を譲渡する。同時に、三洋は、買受人に対して、その保有するコイン型リチウムの生産に関連する専用知的財産権の使用を許諾する。

② パナソニック及び三洋は、本件経営者集中完了日から6か月内に上記の影響解消措置を完了しなければならない。当該期間内に実施を完了することができない場合には、6か月延長することができる。ただし、事前に商務部の認可を得なければならない。集中双方が当該延長期間内に前記の影響解消措置を完了することができない場合には、商務部は、独立の受託者を指定して、前記の分離予定業務を独立の第三者に譲渡させる権利を有する。

③ 本件経営者集中完了の日から前記措置の実施完了日までの期間内においては、パナソニック及び三洋の関連事業主体は、独立して運営し、相手方に対し、価格・顧客に関する情報及びその他の競争性情報を開示してはならない。法定の義務を履行するために開示される情報については、この限りでない。

(ii) 民生用ニッケル水素電池
三洋又はパナソニックのうち一方の民生用ニッケル水素電池業務を分離する。具体的な分離対象については、集中双方が確定することができる。ただし、具体的な分離方案確定前に商務部の認可を取得しなければならない。

① (ア)三洋が群馬県高崎市にある高崎工場の民生用ニッケル水素電池業務を独立の第三者(買受人)に譲渡し、三洋はその中国江蘇省の蘇州工場において生産するSub-C・D型電池をOEMの形式により、当該買受人に供給する。三洋は、当該買受人の求めに応じて、買受人に対し、民生用ニッケル水素電池業務の経営に必要な生産設備、販売・研究開発部門及び取引先資源を含む資産を譲渡し、かつ、当該買受人に対し、その保有する民生用ニッケル水素電池生産に関連する知的財産権の使用を許諾する。

又は、(イ)パナソニックが江蘇省の無錫工場の民生用ニッケル水素電池業務を買受人に譲渡する。パナソニックは、当該買受人の求めに応じて、買受人に対し、民生用ニッケル水素電池事業の経営に必要な生産設備、販売・研究開発部門及び取引先資源を含む資産を譲渡し、かつ、当該買受人に対し、その保有する民生用ニッケル水素電池の生産に関連する知的財産権の使用を許諾する。
買受人の選択は、分離される業務の発展及び市場競争に有利であるという原則に従って行わなければならず、商務部の認可を経る必要がある。

② 集中双方は、本件経営者集中完了日から6か月内に前記の影響解消措置を実施しなければならず、当該期間内に実施することができない場合には、商務部の承認を経て6か月延長することができる。集中双方が当該延長期間内に、前記の影響解消措置の実施を完了できない場合には、商務部は、独立の受託者を指定して、前記分離予定事業を独立の第三者に譲渡させる権利を有する。

③ 本件経営者集中の完了から前記措置の実施完了までの期間内においては、パナソニック及び三洋の関連事業主体は、独立して運営し、相手方に対して価格・顧客に関する情報及びその他の競争性情報を開示してはならない。法定の義務を履行するために開示する情報については、この限りでない。

(iii) 車載用ニッケル水素電池

① パナソニックによる車載用ニッケル水素電池業務の分離
パナソニックは、神奈川県茅ヶ崎の湘南工場のHEV用ニッケル水素電池業務を独立した第三者(買受人)に譲渡する。買受人の選択については、分離される業務の発展及び市場競争に有利であるという原則に従って行い、かつ、商務部の認可を経なければならない。パナソニックは、当該買受人の求めに応じて、買受人に対し、車載用ニッケル水素電池事業の経営に必要な生産設備、販売・研究開発部門及び取引先資源を含む資産を譲渡し、かつ、当該買受人に対し、その保有するHEV用ニッケル水素電池生産に関連する知的財産権の使用を許諾する。

集中双方は、本件経営者集中完了日から6か月内に、上記の影響解消措置を実施しなければならず、当該期間内に実施を完了することができない場合には、商務部の承認を得て6か月延長することができる。集中経営者双方が当該延長期間内に前記の影響解消措置の実施を完了することができない場合には、商務部は、独立の受託者を指定して、前記の分離予定事業を独立の第三者に譲渡させる権利を有する。

本件経営者集中の完了から前記措置の実施完了までの期間内においては、パナソニックと三洋の関連事業主体は独立して運営し、相手方に対して、価格・顧客に関する情報及びその他の競争性情報を開示してはならない。法定の義務を履行するために開示する情報については、この限りでない。

② パナソニックEVエナジー株式会社について
パナソニックのPEVEに対する出資比率を現在の40%から19.5%に引き下げる。
パナソニックはPEVEの株主総会における表決権を放棄する。
パナソニックはPEVEの取締役を任命派遣する権利を放棄する。
PEVEの親会社であるトヨタ自動車との合弁契約の車載用ニッケル水素電池業務に関する否決権を放棄する。
PEVEの名称をパナソニック(Panasonic)という文字を含まない会社名称に変更する[3]
上記措置は、経営者集中完了日から6か月以内に実施を完了し、かつ、3年内は当該措置内容につき何らの変更も行ってはならず、当該措置を終了する場合には、商務部の承認を得なければならないとされている。

(d) 検討
コイン型リチウム二次電池については、三洋の業務の一部を分離することを中心として(上記(c)(i)①)、その際の条件、期限、期限までに完了しない場合の措置(上記(c)(i)②)、過渡的措置としての独立運営、情報交換の禁止(上記(c)(i)③)等が条件として付されている。
民生用ニッケル水素電池については、三洋又はパナソニックの民生用ニッケル水素電池業務を譲渡することを中心として(上記(c)(ii)①)、その期限(上記(c)(ii)②)等、(i)と同様の条件が付されている。
車載用ニッケル水素電池については、パナソニックのHEV用ニッケル水素電池業務の譲渡を中心とし、その期限等の条件が付されている(上記(c)(iii)①)。さらに、PEVEについて、出資比率の引下げ、表決権放棄、取締役派遣の取止め、名称変更等の条件が付されている(上記(c)(iii)②)。

(4,181字)

[1]「中華人民共和国商務部公告[2009年]第82号」(商務部2009年10月30日発布)

[2]「岩美町」の誤記であると考えられる。

[3]2010年6月2日に「プライムアースEVエナジー株式会社」へと名称が変更されている。

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