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トレード・シークレット:従業員に顧客名簿を持ち出された企業の対応

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2004年5月25日

<法務>

トレード・シークレット:従業員に顧客名簿を持ち出された企業の対応

梶田幸雄

  <法  院> 北京市中級人民法院

  <関係条文> 反不正当競争法(1993年12月1日施行)

  <当 事 者>原告:中国青年旅行社(X)
         被告:中国旅行総社(Y)

  <判  断> Yは人材流動を口実にXのトレード・シークレットを侵害した行為は違法であり、相応の法的責任を負うべきである。
  以後、当事者による法定外での若いが成立し、Xは訴え取り下げ。

1 事案の概要

(1) 事実関係(1)
 1994年7月から8月にかけて中国青年旅行社(X)欧米部10余名の社員は退職手続をとらないままに、相次いで業務中に携帯し、使用していたXの顧客名簿をもち、中国旅行総社(Y)に転職した。Yはこれら要員をもって本社の欧米2部とし、Xの顧客名簿を利用して営業を行った。この結果、Xは重大な損害を被った。そこで、Xは1994年9月13日に北京市中級人民法院に訴訟を提起した。

(2) 原告の主張
 Xの主張は、以下のとおりである。
 Yは、Xの社員を不当な手段でYに勧誘し、これら要員が持っている顧客名簿を利用し、Xが1994年8月から12月の間までに企画し、請負っていた観光団151団体を1週間のうちに解約させた。これは、Xの売上げの3分の2に相当し、このためにXの所期の収入は2196.4万元減少し、利潤の損失は353万元にのぼる。Yの行為は不正当な競争行為であり、Yは顧客名簿を返還し、経済損失300万元を賠償せよ。

(3) 被告の主張
 Yの主張は、以下のとおりである。
 旅行業において、観光団計画を変更することは日常的なものである。顧客名簿は、国外の慮気宇会社の住所、電話、FAXなどの資料で、国外の新聞紙上などでも見られるもので、秘密というようなものではない。

(4) 法院の結論
 北京市中級人民法院は、Xが提出した証拠および差し押さえた証拠を審査し以下のとおり事実認定した。
1.Xの10余名は海外留学、親族訪問など虚偽の理由で勝手にXを離職したもので、Yの人材流動は日常的なものであるという主張は成立しない。
2.Xは、長年北欧の5社と良好な業務関係を確立している。1994年にXは当該5社と中国旅行団151団体の受入れについて合意していた。双方は、訪中時期、観光地、ホテルのランク、価格など具体的な問題につき何回もFAXでやり取りし、確認をしている。うち、1観光団はすでに訪中しており、その他の観光団も近く訪中する計画であった。Xは、この業務において労務費支出や業務支出をしている。Xの資料は公開され、周知の資料ではなく、Xに商業利益をもたらしているものであり、「反不正当競争法」が規定するトレード・シークレットの概念に含まれるものである。従って、Xの経営情報にかかわるトレード・シークレットであるといえる。Yは公開されている資料であるというが、これは事実ではない。
3.Xの元従業員がXの顧客名簿、FAX資料などを持ち出した後、Y名義で国外の顧客に書簡を出し、Xの業務を継続して行うとして、1994年9月19日までに実際に20余の国外の訪中団を受入れた。これはYがXの顧客名簿をもって観光団を受入れたという主張と矛盾する。

 以上の事実から、北京市中級人民法院は、以下のとおり認定した。
Yは人材流動を口実にXのトレード・シークレットを侵害した行為は違法であり、相応の法的責任を負うべきである。Yの欧米2部は事実上、Xの元の顧客接待部署であるといえる。そうはいっても、国際観光業における国の利益に影響を及ぼさないようにするために、係争中もYは継続して本件とかかわりのある観光団を受入れている。この点について、Xは認容している。
双方当事者は、国家旅游協会の主宰で、当事者間で和解をした。Yは、Xに100万元の損害賠償をすることで、双方合意した。ここにXは訴えを取り下げ、北京市中級人民法院はこれを認める裁定をした。

2 法院の結論と法律構成

(1) 法院の結論
Yは人材流動を口実にXのトレード・シークレットを侵害した行為は違法であり、相応の法的責任を負うべきである。
(2) 法院の法律構成
 Yが法的責任を負うのは、Yの行為が違法であるからである。なぜ、違法であるのか。それは、Yの行為がXのトレード・シークレットを侵害しているといえるからである。
 このようにいえる理由は、上述した法院の結論のうち、2の部分である。Xが所収し、Xを離職した従業員が持ち出した資料は、トレード・シークレットの概念に含まれる。なぜならば、Xに商業利益をもたらしているものである。また、当該資料は公開資料ではないからである。反不正当競争法10条は、「トレード・シークレットとは、公知ではなく、権利者に経済的な利益をもたらすことのできる、実用性を備え、かつ権利者が秘密保持措置を講じている技術情報および経済情報」としている。
 さらに、Yの違法性を認定する事実として、第一に、(1)X社員のYへの転職は、虚偽の理由によるものであり、通常の転職とはいえないこと、第二に、(2)Yが受入れた観光団は、Xが以前から業務連絡をし、具体的な準備が進んでいたこと、第三に、Xの元従業員がXの顧客名簿、FAX資料などを持ち出した後、Y名義で国外の顧客に書簡を出し、Xの業務を継続して行うとして、1994年9月19日までに実際に20余の国外の訪中団を受入れたことがあるからである、と述べている。

3 課題

 法院の結論は、正しいといえる。ここで、トレード・シークレットとして認定される判断基準は何か。企業所収の資料が、(1)商業利益をもたらすものであり、(2)当該資料が公開資料ではないことである。法院は、上述のとおり、Yの行為が違法性を構成することについても言及している。
 このような結論に至っているところ、法院は、当事者間による和解を促しているようである。法院が和解を促した理由は何かについては、明らかではない。また、この和解は、法院が主宰するものではなく、国家旅游協会が主宰している。法院が国家旅游協会に調停にあたることを依頼したのか否かは明らかでない。
 法院が結論を導き出す中で、「そうはいっても、国際観光業における国の利益に影響を及ぼさないようにするために、係争中もYは継続して本件とかかわりのある観光団を受入れている。」と述べているので、このことが和解勧告の理由であるのかも知れない。Yとしては、本来であれば、係争になった時点で観光団を受入れることを自粛するであろうところ、国際観光業における国の利益に影響を及ぼさないようにするために受入れを継続したというのが、法院の認定であろうか。このようにいえるか否かについては、詳しい叙述がないのでかかる証拠があったのか否かも明らかではない。しかし、一般に国の国際観光業における利益を考慮して、Yが事業を継続するとはなかなか考えられそうもないのではないか。法院、または国の意向であると考えられなくもない。
 トレード・シークレットにかかわる紛争は、外資系企業でもますます多くなりそうである。このとき、トレード・シークレット自体は認容されても、「国の利益」という概念が持ち出されると民間企業間の純粋に営利追求に関する紛争に国が関与することにもなりかねない。法院が、トレード・シークレットを認容したことには賛成するが、Yは、国際観光業における国の利益に影響を及ぼさないようにするために、係争中も継続して本件とかかわりのある観光団を受入れているとして、Yの行為を一部認容している点については賛成しがたい。

(2004年5月記・3,074字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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