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中国非居住者の個人所得税課税方式に関する新通達

中国ビジネスレポート 法務
水野 真澄

水野 真澄

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2004年10月5日

<法務>

中国非居住者の個人所得税課税方式に関する新通達

中国非居住者の個人所得税の納税に関する新規定が、2004年7月23日に公布され、7月1日に遡って施行されることとなりました「中国内に住所のない個人に対して租税協定及び個人所得税法を施行するにあたっての若干の問題に関する通知(国税発[2004]97号)」。

この通知は、他の通知の引用が多く、さらに、記述が極めて簡便であることから、その趣旨、通知の施行による影響が非常に読み取りにくいものとなっています。

ここでは、通知の内容・施行による影響を、今までの規定・運用実態と照らし合わせながら解説します。

1.滞在日数と課税対象日数の計算方法

(1) 通知の内容

通知の第一条・二条では、滞在日数と労働日数の関係に付いて、以下のように規定しています。

第一条:滞在日数の計算

個人所得税法・租税条約・香港及びマカオとの租税協約(按排)等に基づいて、中国における納税義務を判定する場合は、実際の中国滞在日数に基づいて計算します。
また、出入国日の扱いについては、「入国日・出国日・往復或いは国内外を複数回往復する当日も、全て1日と計算する」こととなります。

第二条:労働日数(課税対象日数)の計算

日数により、中国での課税所得を確定させる納税者の場合(下記2の計算方式を適用する場合の労働日数)の出入国日の扱いについては、「入国日・出国日・往復あるいは国内外を複数回往復する当日も、全て半日と計算する」こととなります。

(2) 通知の施行による影響

従来は、「納税義務算定上の滞在日数」と「課税所得算定上の労働日数」の計算方式は、共に「入国日算入・出国日不算入の方端計算。ただし、日帰りの場合は1日として計算」ということで一致していました。
今回の通知によって、両者の計算方法に差異が生じることになります。
通知の施行による影響は以下の通りとなります。

  • 納税義務算定上の滞在日数の計算
    日帰りの場合に1日と計算することは、従来と変更ありません。ただし、複数日数の中国滞在の場合は、入国日・出国日共に1日と計算することになりますので、(出国日分の)1日が増加することとなります。
  • 課税所得算定上の労働日数の計算
    入出国日を半日と計算しますので、中国に複数日数滞在する場合は、結果として、従来の方端計算と同日数となります。ただし、日帰りの場合は、従来の1日から半日計算になりますので、半日分課税所得が減少することとなります。

なお、滞在日数・労働日数の算定にあたっては、あくまでも滞在日数が判定根拠となり、中国の公休日・個人の休暇・トレーニング期間等は、一切考慮されません。
 

2.非居住者に関わる様々な課税計算方式に対する影響

(1)短期滞在者の納税額計算

a)通知の内容
国税発[1994]148号・第2条の規定に従い、納税義務を有する個人の場合は、下記の公式を適用するものとする。

納税額 =
                                当月国内支払給与      当月中国内労働日数
(当月給与総額 x 適用税率−速算控除額) x ———————- x ———————-
                                 当月給与総額         当 月 日 数

b) 通知の趣旨と影響
国税発[1994]148号・第2条の規定に従い、納税義務を有する個人というのは、「暦年の滞在日数が90日(租税条約締結国の場合は183日)を超えない非居住者であるが、給与の一部を中国内の機構が負担していることにより、その部分に対して納税義務が発生する」場合を指しています。

中国滞在日数が暦年で90日(租税条約締結国の居住者の場合は183日)を超えない場合、原則として中国での個人所得税の課税は免除されますが、その非居住者の給与の一部を中国内の機構が負担している場合、その部分に関しては中国で納税義務が発生します。

これは、中国の機構がその非居住者の給与を負担すれば、その機構の企業所得税の課税所得が圧縮されるため、その調整を図る意味で、当該個人の滞在日数に関係なく、その部分については中国に個人所得税の課税権を認めるものです。
  
ただし、従来は、給与総額・中国内の機構が負担する給与額と、基礎控除・適用税率の関係が明確になっていませんでした。

例えば、給与総額3万元/月の内、5千元を中国内の機構が負担している短期滞在者の場合、中国の機構が負担している5千元/月の部分については、中国で納税義務が発生することは明確ですが、「基礎控除をどう適用するか(外国人の場合、4千元/月の基礎控除が適用可能)」、「どの様に税額計算をするか」という点が明確ではありませんでした。

具体的に言うと、課税所得は、中国内の機構が負担している5千元に対して基礎控除を適用した後の1千元が該当するのか、それ以外の計算方式が採用されるのか、という点です。

今回の通知により、この様な場合の個人所得税の計算は、「一旦、給与総額に対して基礎控除・税率を適用して税額を算定した上で、国内機構の給与負担割合・中国労働日数割合」を適用して、個人所得税を計算することが明確化されました。

2)納税年度に1年未満滞在する非居住者の納税額計算

a) 通知の内容
国税発[1994]148号・第3条の規定に従い、納税義務を有する個人の場合は、従来通り、国税発[1994]148号・第6条に規定される下記の公式を適用するものとする。

納税額 =
                                  当月中国内労働日数
(当月の給与総額 x 適用税率−速算控除額) x —————————-
                                    当 月 日 数

b) 通知の趣旨と影響
国税発[1994]148号・第3条の規定に従い、納税義務を有する個人とは、納税年度(暦年)の中国滞在日数が、90日(租税条約締結国の場合は183日)を超過する非居住者(納税基盤を中国外に置いている個人)を指します。

このような場合は、給与総額に対して、一旦、税額算定をした上で、中国での労働日数に応じて個人所得税の課税が行われます。これは、従来通りの対応であり、特に変化はありません。

なお、納税年度内に、90日(183日)を超える滞在を予定していなかったに拘わらず、結果としてその日数に達した場合は、90日(183日)に達した時点の翌月7日以前に、それ要納税額を一括して納付することになります。

3)満1年居住する非居住者の特例

a) 通知の内容
国税発[1994]148号・第4条、若しくは第5条の規定に従い、納税義務を有する個人の場合は、国税発[1995]125号・第4条に規定される下記の公式を適用するものとする。

納税額 =(当月の給与総額 x 適用税率−速算控除額) x (1−A)
         当月国外支払給与            当月国外労働日数
A =  —————————- x —————————–
          当月給与総額                当 月 日 数

b) 通知の趣旨と影響
この部分は、通知の記述が非常に不親切で、通知を読んだだけでは趣旨を理解することができませんので、順を追って説明します。

まず、国税発[1994]148号・第4条に従い納税義務を有する個人とは、「中国に住所は有しないが、中国に満一年居住している個人」を指します。納税基盤を中国に移さないまま、長期出張で中国に張り付いている個人を想定してください。

さらに、個人所得税法では、実質的な居住地が中国にある個人の場合は、暫定的な中国外滞在(1回に30日、もしくは累計して90日を超える国外滞在)は、日数計算しませんので、満1年滞在といっても、必ずしも365日を通じて中国に滞在していることを意味しません。

このような滞在者は、原則として給与全額(支払地を問わず)に対して、中国で個人所得税が課税されます。

次に、国税発[1994]148号・第5条に従い納税義務を有する個人とは、中国国内企業の董事・高級管理職員を勤める非居住者を指します。

このような個人が、中国企業から董事費(役員報酬)・給与を取得した場合は、中国国外で職務に従事したか否かを問わず、中国で個人所得税を納税する事が義務付けられています。

ただし、上記の特例として、上記の双方(第4条・第5条)の納税義務者が、「中国内と中国外の雇用主より給与が払われていて(つまり、中国外で払われている給与が有るという意味)」、かつ「当該月に国外で仕事をした日数がある」場合は、国外で労働を行った部分については、課税対象から除外することが認められています。

この場合の公式(国外部分を除外する公式)が、上記の公式(新通知に記載されている算式)ということです。

趣旨としては、実質的な中国居住者であるが、給与の一部が国外で支給されており、かつ、国外でも労働を行っている様な場合は、それに対応する部分は中国内での課税から除外することを認めようというものです。

仮に、給与総額に対する税額が1万元。給与の国外負担割合が60%、国外滞在割合が70%(1ヶ月の内3週間は国外にいた)とすると、60%x 70% = 42% 相当は納税額から除外できるということになります。よって、10,000元x 58% = 5,800元が納税額となる、ということになります。

なお、中国での居住が5年以上になると、この特例は享受できなくなります。

3.中国企業の高級職員に従事する非居住者の扱い

今回の通知の第4条では、非居住者が担当する高級職員について、従来とは違う対応が規定されています。

高級職員とは、総経理・副総経理・総会計士・総工程士・総監査人及びこれらに準じる会社の管理人員を指します。

a) 通知の内容
中国内に住所のない個人が中国内企業の高級管理職に従事する場合、当該個人の所在国・地域が、わが国と締結した協定等の役員報酬条項に、高級管理職員を含むと明確に述べていない場合、その取得した報酬は、当該協定の非独立個人労務条項及び国税発[1994]148号・第2〜4条の規定に従い納税義務を判定できる。

ただし、高級管理職員と董事を兼務する、もしくは、名義上は董事を兼務しないが、実質的に董事としての権限・職責を有している場合は当該中国企業から取得した報酬(董事費と高級職員名義で取得した報酬全て)については、租税協定等の役員報酬条項及び国税発[1994]148号・第5条に基づいて、納税義務を判定することができる。

b) 通知の趣旨と影響
国際課税のルールでは、役員報酬と賃金給与では、課税権の判定方法が異なっており、通常、その精神に基づいて租税条約が締結されます。

つまり、通常の職員であれば、役務提供地と所得源泉がほぼ一致しているため、勤務地が二国間にまたがる場合は、滞在日数を元に課税権の調整を判定することが妥当です。その意味で、租税条約上、賃金給与に関して適用されるのが183日ルールです。

一方、役員の場合は、提供する役務(経営)の性格上、個人の所在地と所得源泉は必ずしも一致しません(国外でも役務提供ができる)。そのため、通常、租税条約では役員報酬に関しては、183日ルールを適用せず、(個人の滞在日数にかかわらず)企業の所在地に一義的な課税権を与えています。

国税発[1994]148号・第5条では、董事(役員)と高級職員を同等に扱い、董事のみならず、高級職員についても、183日ルールを適用せず、企業の所在地(中国)に一義的な課税権を認めています。同規定は、中国国内法と租税条約の適用を調整することが意識されていますので、その意味では問題のある内容と言ってもよいでしょう。

今回の通知では、このような矛盾を調整する意味で、「租税条約等に、高級職員の扱いは董事(役員)に準じるという明確な記載がない場合は、一般の職員と同様の扱いをする」ことを取り決めています。

ただし、高級職員が董事を兼務している場合や、形式的には兼務していないものの、実質的には董事としての権限を有していると認められる場合は、高級職員給与の名目で支払われた報酬についても役員報酬に準じた扱いが行われることとなります。

(2004年9月記・5,231字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄

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