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中外合弁企業の外国側出資者による出資引き揚げスキームの設計及び実務について

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2019年2月8日

概要

中外合弁企業から外国側出資者が出資を引き揚げるには、持分譲渡、解散、減資及び持分の買戻しなどの方法がある。現時点において、商務部門は、経営範囲がネガティブリストに含まれていない企業の変更について、審査許可制から届出制管理へと改め(※1)、外国側出資者の出資引き揚げ手続は簡素化されたが、実践では一定の障害や困難がいまだ存在している。本稿は、持分譲渡及び解散をめぐって展開し、実務上、起こり得る問題に重点を置いて検討する。

本文

一、持分譲渡

持分譲渡の過程では、譲受人の選択は、取引の成否を左右する非常に重要な節目である。譲受人の性質により、持分譲渡は、外国投資者への譲渡(「外資から外資への譲渡」)と中国投資者への譲渡(「外資から内資への譲渡」)に分けられる。しかし、そのどちらの場合であっても合弁当事者以外の第三者への譲渡となり、以下の制限条件に従わなければならない。

番号 制限条件(※2) 具体的な規定
1 中方の同意 制限:外国側出資者がその持分の全部又は一部を対外的に譲渡する場合、中国側株主及びその他の株主(以下併せて「中方」という)が一致して同意しなければならない。
違反に伴う結果(※3):外国側出資者が譲渡行為について、中方の同意を得なかった場合、中方は裁判所に対し、持分譲渡契約の取消しを請求することができる。但し、以下の状況は除外される。
●外国側出資者が譲渡について中方に書面で通知していたが、通知書の受領日から30日を経過しても中方からの回答がなかった場合。
●中方が譲渡に同意せず、譲渡対象となっている持分も購買しない場合。
2 優先購買権 制限:中方は、外国側出資者の譲渡する持分について優先購買権を有する。
違反に伴う結果(※4):外国側出資者が中方の優先購買権を侵害した場合、中方は裁判所に対して譲渡契約の取消しを申し立てることができる。但し、
●中方は、譲渡契約の締結を知った日、又は知るべきであった日から1年以内に優先購買権を主張しなければならない。さもなければ、優先購買権の侵害を理由に、譲渡契約の取消しを主張することはできない。
●中方は譲渡契約の取消しを求めることしかできず、譲渡契約の無効を主張することはできない。
3 譲渡条件 制限:外国側出資者から第三者に譲渡する際の条件は、中方に譲渡する際の条件を上回っていなければならない。
違反に伴う結果:譲渡が無効となる。

筆者の経験によると、実務において、外資から外資への譲渡と外資から内資への譲渡とでは以下の方面で違いがある。

項目 外資から内資への譲渡 外資から外資への譲渡
政府部門の受容度 ●経営範囲がネガティブリスト対象外の企業に対して、商務部門は審査許可制ではなく、届出管理を実施するが、実践において、商務部門は、その届出を受け入れるかどうかについて、一定の自由裁量権を有する。外資から内資への譲渡により、中外合弁企業が100%内資企業になってしまうため、政府部門は政府業績上の理由から、外国側出資者による撤退申請を拒否することがある。 ●外国投資家による投資は地方政府の業績を評価する際の指標の一つとされることが一般的であり、多くの地方政府は外資撤退について抵抗的な態度を取っている。なお、「外資から外資への譲渡」方式は、中外合弁企業の性質を変えないため、政府部門の受容度がやや高い。
従業員の許容度 ●持分譲渡が従業員の抵抗に遭うことに備え、準備が必要である。 ●一般的には、外資企業におけるマネジメント手法はかなり進んでおり、福利待遇もよく、従業員には受け入れられやすい。知名度のより高い外国投資者が譲渡人から承継する場合、従業員は通常これを歓迎する。
譲渡金の支払い ●外国側出資者は海外送金申告手続を行った後、譲渡金を海外へ送金することができる。 ●持分譲渡金は国外で支払われることから、海外送金申告手続は不要である。

外資から内資への譲渡、及び外資から外資への譲渡は、実務上、以下の問題が生じる可能性がある。

番号 項目 簡潔な説明
1 知的財産権 ●外国側出資者は出資引き揚げの際に、自己の保有する商標、特許又はノウハウを取り戻す可能性があり、例えば、中外双方が「ライセンス契約」において、外国側出資者が出資を引き揚げる際に契約を無条件で終了することができると約定していない場合、外国側出資者は違約責任を負うことになる恐れがある。
2 従業員の勤続年数 ●通常、以下の2通りの方法により、従業員の勤続年数を取り扱うことができる。
■外国側出資者の持分比率に応じて、譲渡金から係る金額を相応に差し引く。
■勤続年数に基づいて算出した金額を従業員と精算してから、労働契約を締結し直す。
3 売掛債権の回収 ●実践では、譲受人が譲渡人に対し、売掛債権を全て回収したうえで改めて譲渡取引を行うとの要求を行ったが、この条件を満たすには難度が高く、最終的に取引が破談になったケースもある。
4 政府手続上の瑕疵の有無 ●合弁企業には、税務、税関、外貨などの方面で手続上の瑕疵が存在する可能性があり、デューデリジェンスを実施すると同時に、表明保証の書簡を発行するよう外国側出資者に求める必要がある。

二、解散

解散の理由について言うならば、外国側出資者は、合弁期間の満了、企業が赤字に転じ経営を継続する能力を失ったこと、中方の義務不履行により経営の継続が不可能になったこと、企業が経営目的を達成しておらず、事業発展の目途がつかないなどの理由をもって解散することができる(※5)。なお、中外合弁企業の解散は、董事会会議の出席董事の全員一致をもって解散の決議(※6)を可決しなければならないとされていることから、中方の同意を取り付けておくことが、外国側出資者が解散によって出資を引き揚げるための前提条件である。また、解散の場合、公告掲載や清算手続きがあることから、持分譲渡よりはるかに長い時間を要する。実務では、以下の問題が生じる可能性がある。

番号 項目 コメント
1 資産処分 ●土地の譲渡が、中外合弁企業の清算の進捗を阻んでしまうことがよくある。政府部門又は工業園区が土地の計画用途について具体的な制限をしているため、適格な土地譲受人を見つけるのはかなり難しい。
2 税務 ●税務機関は清算企業の税務問題にとりわけ注意を払っており、通常、企業の直近3年間の帳簿に対し、監査を行う。この点については、税理士事務所を起用し、企業の直近3年間の税務状況について鑑定報告書を発行してもらうようにするとよい。
●毎年5月までは、税務機関は確定申告の対応に追われ、この間、通常、企業の清算申請の審査は扱わないことから、清算の進捗が長引いてしまうおそれがある。よって、企業が税務機関での清算申請を行う際には、この時期を避けるようにするのがよい。
3 売掛債権の回収 ●解散によって売掛債権が回収できなくなってしまわぬよう、合弁企業は、解散を発表する前に、売掛債権を可能な限り回収しておかなければならない。
●速やかに回収することができない場合、売掛債権を譲渡することを検討してもよい。
4 労働人事 ●企業は、従業員による集団的事件(例えば、設備・施設を破壊したり、役員を取り囲むなど)の発生に備えておく必要がある。
●生産・経営を続けている企業の場合、企業の解散をひとたび発表してしまうと、従業員がストライキ、サボタージュなどを行う可能性があるため、企業は解散発表のタイミングについて特に注意を払う必要がある。
●従業員の経済補償金については、通常、「N+α」カ月分の賃金(そのうち、αは具体的な状況に応じて協議し確定される)を補償金として従業員に支給することになる。

終わりに

中外合弁企業の外国側出資者が出資を引き揚げるためには非常に多くの手順を踏まなければならず、その手続きも複雑であることから、企業は弁護士、会計士などとともに協力し合い、所属する業種、地区、規模などに応じて着実に実行可能な引き揚げ方案を用意しておかなければならない。

(里兆法律事務所が2018年7月9日付で作成)

※1「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法」(2017年改正)第6条
※2「中外合弁経営企業法実施条例」第20条
※3「外商投資企業紛争事案の審理に係る若干事項に関する最高人民法院の規定(一)」第11条
※4「外商投資企業紛争事案の審理に係る若干事項に関する最高人民法院の規定(一)」第12条
※5「中外合弁経営企業法実施条例」第90条
※6「中外合弁経営企業法実施条例」第33条

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