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規則適用ガイドライン:「中国本土と香港による仲裁保全の手配」を発効・実施後に改めて読み解く

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2020年5月13日

2019年10月1日、「中国本土と香港特別区の裁判所による仲裁手続きの保全共助に関する手配」(法釈[2019]14号。以下「『仲裁保全手配』」という)が中国本土と香港で同時に正式に発効し、実施された。10月8日、上海海事裁判所は「仲裁保全手配」に基づき、香港仲裁手続きにおける当事者が財産保全を申し立てることを認める最初の裁定を下した。

これまでは、香港地区では、「仲裁条例」等関連する法律規定[1]に基づき、中国本土を含む領域外仲裁手続きにおける保全又は暫定措置の申立に対し、裁判所の司法支援を提供していた。しかし中国本土では、領域外仲裁手続きに協力し、保全を提供することについて、法律上明確な規定がなかったため、領域外仲裁手続きにおける保全又は暫定措置が中国本土の裁判所に認められることはほぼなかった。つまり、中国本土裁判所と香港裁判所の仲裁手続き保全協力に係る手配は、単一方向の非対等な状態にあった。「仲裁保全手配」はこの現象を改めた。本稿では、当該規則の適用及び引き続き注意を払いたい事項をについて分析し、説明する。

一、「仲裁保全手配」規則の適用

「仲裁保全手配」は計13条から成り、主には中国本土と香港との互恵的仲裁保全共助の取扱いに係るガイドラインである。香港仲裁手続き又は中国本土仲裁手続きにより保全、暫定措置を申し立てるうえでの要求を区分させるため、「仲裁保全手配」の規定に基づき、両地域における手続きを簡潔に下表にまとめる。

主な手続き

香港仲裁手続きにおいて中国本土に保全を申し立てる

中国本土仲裁手続きにおいて香港に暫定措置を申し立てる

仲裁手続きを適用する前提

1.仲裁手続きが香港を仲裁地[2]としている。

2.リストに収載される係る仲裁機関又は仲裁機関の常設機構が取り扱う[3]

中国本土の仲裁機関の管理を受ける仲裁手続き

保全、暫定措置

財産保全、証拠保全、行為保全

差止命令及びその他の暫定措置

保全、暫定措置を申し立てる時期

仲裁前、及び仲裁判断が下される前[4]

仲裁判断が下される前

受理先裁判所

被申立人の住所地、財産所在地又は証拠の所在地にある中国本土の中級人民裁判所

香港高等裁判所

保全、暫定措置を申し立てるための資料

1.保全申立書[5]

2.仲裁合意書

3.本人証明資料[6]

4.仲裁事案を受理後、保全を申し立てる際に、主な仲裁請求及び根拠となる事実と理由を含む仲裁申請書類及び係る証拠資料、当該機構又は常設事務所の発行した、係る仲裁事案が受理済みであることを証明するレターを提出する

5.中国本土の人民裁判所から求められるその他の資料[7]

1.申し立て

2.申立てを支持する旨の誓約書

3.付属する証拠物

4.論点綱要

5.法廷命令の草案[8]

担保差し入れについての要求

中国本土の裁判所は担保の差し入れを要求することができる

香港裁判所は承諾、費用についての保証の差し入れを要求する

審査期限

速やかに審査する

速やかに審査する

審査の結果

保全裁定書を発行する。申立人は裁定について不服を申し立てることができる

裁判所命令を発行し、申立人は解除又は変更を申し立てることができる

遡及効

「仲裁保全手配」発効後、すでに開始したが、まだ終結していない仲裁手続きには適用される

「仲裁保全手配」発効後、すでに開始したが、まだ終結していない仲裁手続きには適用される

二、「仲裁保全手配」規則の適用上の限定性

「仲裁保全手配」では、中国本土と香港との互恵的な仲裁保全共助に対し、差し当たりの規則ガイドラインを設けているが、それはまだ始まりに過ぎず、その内容を見る限りでは、「仲裁保全手配」は香港仲裁手続きにおける当事者を保護するうえでの規則の適用上、少なくとも以下のような明確化されていない箇所が存在しており、その後の手配について注意を払いたい。

■「仲裁保全手配」と仲裁機関規則との整合性及び適用の問題に関して

法域が異なるため、中国本土と香港との間では、仲裁保全制度上整合性がやや欠けてしまうのは避けられない。香港仲裁手続きをもって、中国本土裁判所に保全を申し立てる場合を例に取ると、香港国際仲裁センターの「仲裁規則」第23条規定によれば、いずれかの当事者の申立により、仲裁廷は自己が必要又は適切と判断する暫定措置を指示することができる。つまり、仲裁機関は仲裁規則に依拠して、当事者の暫定措置の申立に同意するか否かを決定することができる。一方、「仲裁保全手配」は申立人に対し、香港仲裁手続きに基づき中国本土裁判所へ保全を申し立てる権限を与えており、中国本土裁判所は中国本土の民事訴訟法、仲裁法等の関連する法律に基づき裁定を行う。そのことから、「仲裁保全手配」と仲裁機関規則とが適用上、整合性を欠くといった問題が生じる。

この問題については、理論上、筆者の傾向的な認識としては、香港仲裁手続きの当事者が区域を越えて中国本土裁判所に保全を申し立てることは、相対的に独立性を有しており、仲裁機関の一部仲裁規則を大なり小なり乗り越えられるものと思われる。そして、「仲裁保全手配」に基づく保全と仲裁機関の仲裁規則に基づく保全は平行関係にあり、中国本土裁判所にて行う保全の申立は、仲裁規則の制約を受ける必要はなく、仲裁廷による審査・同意を得る必要もない。もっとも、今後の実践において、果たしてどのように取り扱われることになるのかは、さらに見守っていかなければならない。

■「仲裁保全手配」と最高人民裁判所国際商事法廷による保全機能職能との整合性について

「国際商事法廷の設立の若干事項に関する最高人民裁判所の規定」(法釈〔2018〕11号)の規定によれば、最高人民裁判所は条件に合致する国際商事仲裁機関、国際商事法廷等を選定し、調停、仲裁、訴訟を機能的に結合させた「ワンストップ式」国際商事紛争の多角的解決プラットフォームを共同で構築し、係る仲裁手続きの当事者が最高人民裁判所国際商事法廷に仲裁保全を申し立てることを認めるとしている。現時点においては、最高人民裁判所はいずれの香港仲裁機関も解決メカニズムに組み入れていないが、将来、「仲裁保全手配」第二条にいう6つの仲裁機関を「ワンストップ式」国際商事紛争の多角的解決メカニズムに採用する可能性がある。その場合、「仲裁保全手配」に定める中級裁判所、及び「国際商事法廷の設立の若干事項に関する最高人民裁判所の規定」に定める最高人民裁判所国際商事法廷は、いずれも香港仲裁手続きでの保全に対し管轄権を有し、当事者が法律の適用において戸惑うことになるおそれがある。

通常、仲裁保全には、かなり厳しい時間的制約があり、しかも、最高人民裁判所は受理した保全申立をその下の裁判所に処理させる可能性があるため、保全裁定が早急に得られるよう、「仲裁保全手配」に基づき中級裁判所に仲裁手続きにおける保全を申し立てたほうがより有利であると思われる。なお、今後、上述したような保全の管轄裁判所が一致していないことについて、法律で明確されていく可能性もあるため、引き続き留意したい。

■保険会社の保険証券を香港仲裁手続きで中国本土に保全を申し立てる際の担保とすることについて

「仲裁保全手配」第五条では、香港仲裁手続きで中国本土裁判所に保全を申し立てる際に、保全申立書には担保差入用の中国本土の財産情報又は資産信用証明を明記しなければならないと定めている。しかし残念ながら、「仲裁保全手配」では担保の範囲及び種類について更なる説明がなく、現在はブランク状態である。

中国本土での司法実践において、中国本土の保険会社が発行する保険証券は、よくある、中国本土裁判所に認めてもらえる保全担保であり、香港、マカオ及び領域外の保険会社から発行される保険証券を「仲裁保全手配」に基づく「財産情報又は資産信用証明」に組み入れることができるかどうかは、これから司法実践により検証されなければならない。確認できている限りでは、現在、各大手保険会社が香港、マカオ、台湾及び境外の当事者向けに保険証券及び保証状を発行する際には厳しめの審査を行っており、裁判所ごとに従来の司法実践において、保険会社による地域の枠を超えた保険証券を認めるかどうか一様ではない。したがって、香港仲裁手続きの当事者が保険会社の保険証券を担保資料として扱うことができるかどうかは、慎重な姿勢で、個別の状況ごとにケースバイケースで、受理先裁判所の態度を見ながら判断しなければならない。

(里兆法律事務所が2020年01月10日付で作成)

 

[1] 香港「仲裁条例」第45条第(2)項:第一審法廷は、いずれか当事者の申立を受け、香港又は香港以外の地域ですでに展開され又は展開されようとしているいかなる仲裁手続きについても、暫定措置の実施を許可することができる。

[2] 香港仲裁手続きにはアドホック仲裁、投資家とホスト国との投資仲裁は含まれない(対等な立場にある主体の間における商事仲裁のみに適用される)。

[3] 現時点でリストに収載される機構には次のものが含まれる:香港国際仲裁センター、中国国際経済貿易仲裁委員会香港仲裁センター、国際商業会議所国際仲裁裁判所アジア事務オフィス、香港海事仲裁協会、華南(香港)国際仲裁院、一邦国際オンライン仲裁調停センター。

[4] 仲裁前の保全:保全措置を講じてから30日以内に、仲裁機関に仲裁案件が受理された証明書を保全裁判所に提出しなければならない。仲裁進行中の保全:仲裁機関を経由し、又は自ら、仲裁機関からの移送レターを保全裁判所へ提出することができる。

[5] 中国本土における保全申立書といった通常の内容以外、「緊急事態に関する説明」及び「その他の裁判所、係る機構又は常設事務所に対し行った『仲裁保全手配』に定める申立並びに申立の状況」を追加で提出しなければならない。

[6] 本人証明資料が中国本土以外の地域のものである場合、公証認証手続きを行う必要がある。

[7] 香港仲裁手続きにおいて中国本土保全を申し立てる際に提出する保全資料に中国語の書類がない場合、正確な中国語訳を提出しなければならない。

[8] 中国本土仲裁手続きにおいて香港で暫定措置を申し立てる際に提出する保全資料には、次の事項を明記しなければならない。(一)当事者の基本情況、(二)申立事項及びその理由、(三)申立対象の所在地及びその状況、(四)被申立人が申立について行った、又は行う可能性のある返答及び論点、(五)求められる保全を法廷が許可しない、又は一方的に申し立てる状況のもとでは当該保全を許可しないことになり得る事実、(六)申立人が香港特別行政区裁判に対して行う承諾、(七)その他明記する必要のある事項。

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