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債権譲渡にかかわり生じる争点―合弁企業からの撤退時の債権譲渡

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2003年12月15日

<法務>
債権譲渡にかかわり生じる争点

―例えば、合弁企業からの撤退時の債権譲渡

梶田幸雄

はじめに

 中国で合弁企業を設立したものの、所期の効果が得られずに撤退する企業もある。この場合の撤退戦略を考えた場合、比較的に望ましい方法と考えられるものに、合弁企業を解散せずに持分(相手方に対する債権を含む。)を第三者に譲渡することがある。
 しかし、実務上、このような方法には多くの問題が存在する。この問題には、相手方との債権譲渡の意味や認識に対する違い、法的論点がある。
 本稿では、合弁企業から撤退をした企業(Y)の債権を取得した企業(Z)と債務給付義務を負う企業(X)との間に生じた紛争を取り上げ、往々にして生じる実務上の問題と法的論点について検討する(楊嬌健「対一起聯営合同糾紛的法理分析」『仲裁与法律』2003年第3期、2003年7月、116−119頁)。

1 事案の概要

 1996年4月28日、海南某公司(以下、「X」という。)と北京Y公司(以下、「Y」という。)は、「Aクラブ共同投資・経営契約書」を締結し、共同投資し、Aビルを修築し、レストラン、娯楽施設の経営、および日用雑貨、食料品などの卸、小売業を行うことを約定した。
 しかし、その後、経営状況が悪いことから双方は2001年11月21日に共同投資・経営契約書の終止を約定し、この協議書において「XはAビルの6階部分1482.09平方メートル(共有部分209.09平方メートルを含む。)を590万元に評価し、Yに弁済する」ことが規定された。同日、Yは協議書により分筆された不動産を売却し、かつ同月26日にXに最低価格200万元以上で売却することを告知した。
 ただし、この協議書調印後に、YはXにAビル6階部分の売却を委託することとしていたので、双方当事者の何れも不動産登記管理機関における所有権移転登記を行っていない。
 2002年8月21日、Yと北京Z公司(以下、「Z」という。)は、債権譲渡契約書を締結し、Yが1996年4月28日に締結した「Zクラブ共同投資・経営契約書」および「2001年11月21日の協議書に定められているYの債権(債務590万元のほかに支払遅延違約金および当該債権実行費用を含む。)の全部をZに譲渡することを約定した。
 2003年4月2日、Zは債権者として、Xを相手取って債務返還の訴えを提起した。

2 実務上の問題

 実務上の問題として、一般にどのようなことが生じるか。契約書が十分に検討されていることは少ないようである。このために本件に当てはめて言えば、以下のような問題が生じるという。XとYとの間の弁済協議において約定されたのは、(1)YはAビルの6階の所有権を取得したのか、(2)590万元の債権を取得したのかということである。上記事案では、(1)または(2)の何れとも解する余地がある。しかしながら、(1)と(2)とでは、これによって生じる法的効果がおよそ異なるといえる。
 

3 法的争点

 上記事案、実務上に生じる問題に関して、以下の法的争点が指摘できる(楊論文)。

(1) XとYとの間の債権債務関係を如何に認定するか
XY間の契約は合弁契約である。合弁契約においては、XY双方は共同経営し、損益も共同で負担する。契約解除後は、会社の財産を清算した後に余剰があるときには、出資比率により利潤を分配する。
このような規定からすると、YがXに対して有する債権は、Aビル6階部分の所有権であり、590万元の債権ではないとするのが適当である。

(2) YとZとの間の債権譲渡契約書の効力について
 上記の分析から、YとZとの間の債権譲渡契約書の効力について、以下の2つの解釈ができる。
 第一に、上記の(1)により、YはXの債権を有していない。従って、YとZとの間で交わされた債権譲渡契約書は無効であるというものである。
 第二に、YとZとの間の債権譲渡契約書の客体はAビル6階部分の所有権である。このように認定される場合、YとZとの間の契約関係は、所有権譲渡契約であると認定することができるというものである。しかしながら、YはXにAビル6階部分の売却を委託することとしていたので、双方当事者の何れも不動産登記管理機関における所有権移転登記を行っていない。契約法第51条により、「処分権のない者が他人の財産を処分した場合、権利者の追認を得たかまたは処分権のない者が契約締結後に処分権を取得したときは、当該契約は有効である。」と規定されている。ところが、YZ間の契約に関してみると、YはXの財産を未だ処分しておらず、Xによる追認という条件を満足していない。従って、YZ間の契約は、未履行契約であるといえる。この場合、XとZとの間には如何なる法的関係もないとされ、ZにはXに対する訴権はないと認定される。

4 課題

中国では、経営不振の国有企業を私営企業に売却する動きが広がっている。また、この動きを拡大するためにM&Aもしやすくするような政策も出されている。中国進出外資系企業が、撤退のために債権を譲渡することのほかに、逆に債権を譲り受け、中国事業展開をしようとする動きもある。
このときに留意しなければならない問題として、本件のような実務上の問題と法的問題が存在する。
中国はWTO加盟により急速に法整備を進めている。この内容も先進資本主義国の法と変わらなくなりつつある。しかし、中国でまだ未制定の法として、債権法および競争法(独占禁止法)の2つがある。債権法は、起草作業中であるというが、国有資産をどのように評価し、どのように処分すればよいのかについて争いがあるために、立法できていないのが現状である。わずかに民法通則第84条から第93条に規定があるのみである。ところが、実態は法規よりも先行して進んでいる。このとき、実務上、さまざまな問題が生じる。債権譲渡契約に際しては、一つ一つの争点を明らかにし、中国関係政府部門とも協議しつつ行うことが不可欠である。

(03年12月8日記・2,240字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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