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日中ビジネス紛争における国際商事仲裁の活用について(その1)―中国における国際商事仲裁の利用状況

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2004年1月19日

<法務>

日中ビジネス紛争における国際商事仲裁の活用について(その1)

――中国における国際商事仲裁の利用状況

梶田幸雄

 ビジネス紛争解決法には、裁判および裁判外紛争処理法としての調解(調停)、仲裁がある。
 裁判に関しては、地方人民法院が地方政府から業務監督を受け、裁判官の任免権が地方政府にあり、予算も地方財政に依存していることなどから地方企業を保護しようとする判決が下されることがあるといわれ、公正さに疑問が呈されることがしばしばある。
中外企業の紛争処理法として、最も利用度が高いのが中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)による仲裁である。日中間の紛争でも多く利用されるようになってきており、CIETACの仲裁判断の執行裁判が日本で争われるケースも見られる。CIETACの仲裁制度を理解することは、日本企業にとっても重要な問題となりつつあると考える。これまでの事例研究においてもCIETACによる仲裁事例が少なからず取り上げてきたのも、実務上、国際商事仲裁による紛争処理が多いからである。
ところが、日本企業において国際商事仲に関する理解は必ずしも多くないような気がする。そこで、事例研究をしばらく休み、中国における国際商事仲裁について、数回にわたり、簡単な紹介をしたい。

1.利用の多い国際商事仲裁

中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)に紛争処理が付託されるケースは、図表1のとおりである。中国の対外開放に伴って、国際商事紛争も随分と増えていることがわかる。同時に、この対外経済貿易関係の増加に比例するように、CIETACによる仲裁事案受理・処理数が増加している。

図表1−15 CIETACの紛争受理・処理状況

  \ 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 0 1 2
全体:
受理数
結審数
238

274
205
267
236
486
294
829
574
902
875
778
797
723
764
678
736
669
706
633
738
731
712
684
694
北京
受理数
結審数
230

211
163
203
160
389
217
600
430
660
628
543
569
490
558
451
508
428
365
410
493
420
429
401
408
上海
受理数
結審数
8
10
5
15
8
40
21
88
57
88
89
88
77
110
85
111
110
130
78
123
127
173
147
174
175
深セン
受理数
結審数

53
37
49
68
57
56
141
87
146
158
147
151
123
121
123
118
111
103
100
118
138
136
109
111

出所:仲裁与法律通訊、仲裁与法律の各号、および筆者によるCIETAC秘書局へのヒアリングから集計した。
注:(1)2001年の受理件数の中には178件の国内事案が含まれている。
(2)空欄は不明。

2 事案の内容

2001年の場合、事案の内容としては、合弁・合作関係の紛争と一般貨物売買契約に関する紛争が50%以上を占める。次いで、融資、リース、建築、工事、証券、不動産、代理および補償貿易・委託加工貿易が48%を占める。最近の特徴としては、入札、広告、保険、労働紛争、業務委託管理などに関する紛争が申し立てられるようになったことである。
 これは、中国の対外開放に伴い、一般貿易以外の取引形態、とりわけ合弁企業の設立など直接投資が増えていることに理由がある。2002年になると、一般貨物売買契約に関する紛争が275件、40%を占め、合弁企業にかかわる紛争が192件、28%となっている。
CIETACによれば、「紛争事案の内容は、複雑、かつ、難しくなってきている。とりわけ、合弁や補償貿易契約などに関する案件では、その処理すべき内容が広範かつ複雑化している。」(王生長「中国国際経済貿易仲裁委員会第14届委員会工作報告」仲裁与法律、2001年2月、7頁)という。2002年も同様傾向であり、内容が広範であるとは、例えば、合弁企業の解散などの場合、紛争当事者以外に清算委員会などの関係も処理する必要があることなどである。複雑とは、紛争当事者間の権利義務関係のほかに、この関係を規律する法律上に規定がなかったり、規定が不明瞭であったりするものがあるからである。このため、違約責任を確定することが難しくなってきているという。

図表2 CIETACの受理事案内容

内    容
90
92
93
北京
94
95
96
97
98
99
0
1
   

%
%
件数
%
%
件数
%
一般貨物の輸出入  
40
47
113
29
396
427
387
219
326
135
50
プラント、設備導入
23
10
45
11.5
原材料(含薬品)輸出入
20
15
91

23.4

直接投資(合弁等)関連 
8
19
111
28.5
48.3
187
259
245
225
211
185
委託加工貿易関連
9
2
7
7
92
132
234
142
303
建築据え付け
その他(リース,保険等)
3
7
19

出所:仲裁与法律通訊、仲裁与法律の各号、および筆者によるCIETAC秘書局へのヒアリングから集計した。
注:空欄は不明。95年の数字は、北京のみである。

 CIETAC秘書局によると、合弁企業に関する紛争についていえば、出資に関する紛争、経営管理に関する紛争、および仲裁機関と清算に関する問題の3つが、比較的多くみられる紛争であるという。次のとおりの指摘がある。
 「第一に、出資に関しては、これが不足していることをめぐって当事者間で紛争が生じており、具体的には、中国側が現物出資をする場合にこれが準備できないであるとか、評価額に外国側から疑義が提出されるといったことである。また、外国投資家の出資もこれが設備や技術である場合、中国の商品検査機関の鑑定を受けなければならないことから、当該機関による鑑定の結果、外国側の申告した評価額と鑑定の結果が一致せず、問題となっているということである。
    第二の経営管理の問題に関しては、中外当事者の合作がうまくいかないといったことと、行政機関による合弁企業に対する干渉という問題がある。
    第三の仲裁機関と清算の問題については、次の点が指摘されよう。外国投資家投資企業の清算の過程で紛争が生じ、仲裁に付託されるケースも少なくない。しかし、中国の国内法の不備などから、仲裁に付託したとしても必ずしも問題が完全に解決されるわけでもなく、なお改善の余地が多い。」(CIETAC秘書局)
 以上のように内容が広範にわたり、複雑である問題が、多くなっている。

 

3 紛争当事者

 2001年の場合、紛争当事者は、40余カ国・地域にのぼる。香港特別行政区が278件(38%)、米国65件(9%)が多く、以下、シンガポール、韓国、日本、台湾、オーストラリア、ドイツ、カナダ、英国、スイス、ロシア、イタリア、ニュージーランドの順である(曲竹君・中国国際経済貿易仲裁委員会)。
 2002年には、香港特別行政区が199件、米国57件、日本29件、韓国21件、英国16件などの順である。

(04年1月日記・2,788字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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