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積極的財政政策「淡出」論争

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2002年9月27日

はじめに

9月20日、項懐誠財政部長は、共産党中央宣伝部等五部委連合主催の改革開放・現代化建設成就報告会において、江沢民が党総書記に選出された1989年以来の13年間の財政改革について報告を行った。

これによれば、1998年の積極的財政政策の採用以降、2002年までに計6,600億元の長期建設国債が発行され、1998年から2001年までのGDPをそれぞれ1.5、2.0、1.7、1.8ポイント引き上げ、毎年150万―200万人の就業問題が解決されたという。

このように赫赫たる成果を収めた積極的財政政策であるが、2002年第1四半期の全国財政収入が3807億8千万元(前年同期比3.4%増)に止まったのに対し、全国財政支出が3511億3500万元(同23.9%増)と収入の伸び率を大きく上回ったことから、政府に動揺が走った。中国の財政赤字は2002年末にはGDPの3%前後に及ぶと予想されており、これはEU加盟に必要な財政赤字水準ギリギリである。もしこの勢いで財政支出が高い伸びを続ければ、財政赤字は2002年度予算の3,098億元を上回る可能性がある。朱鎔基総理は一部の香港紙が自分のことを「赤字総理」と呼んでいることを気にし、3月15日の内外記者会見でも「問題は財政赤字の有無ではなく、赤字水準が受容範囲にあるか、赤字がどんなところに用いられているか、なのだ」と弁明していた。財政状況をこれ以上悪化させるわけにはいかないのである。このため、税収確保が至上命題になるとともに、5月頃から急速に財政部を中心に、積極的財政政策のフェイドアウト(中国語では「淡出」)論が提起されるに至ったのである。この論争は9月末現在でも継続しており、以下主要な論調を整理しておきたい。

1.提起

項懐誠財政部長は、5月9日、アジア開発銀行理事会の「中国デー」検討会における報告で、2001年末の財政赤字の対GDP比は2.7%であり、債務残高の対GDP比は16.3%であることを明らかにし、まだ安全ライン内であるとした(5月9日新華社上海電)。

しかし、続いて北京で開催された「2002年APEC金融・発展プロジェクト年次フォーラム」でインタビューを受けた際、「国債赤字が不断に拡大すれば今後インフレの禍根を残すことになり、中国政府はこのような政策は長期にはとりえない」とし、淡出のタイミングとしては、現在進行中のプロジェクトがここ2、3年で完成するので、これを勘案しながら徐々に淡出しなければならない、とした。具体的には、「第10次5ヵ年計画前期は積極的財政政策を引続き執行し、計画後期はマクロ経済情勢の変化を勘案し妥当な決定を下す」と述べたのである(5月29日付け中国経済時報)。

2.賛成論

この項懐誠発言に呼応したのは、戴相龍人民銀行行長であった。彼は上述のフォーラムにおいて「積極的財政政策には一定の限度がある」とし、もし積極的財政政策が徐々に淡出するのであれば、金融政策の作用をより一層発揮しなければならない、と述べ、マネーサプライの増加に努力する旨表明した(5月27日付け証券時報、5月28日付け中央電視台国際インタビュー)。

こうして財政・金融政策の両責任者が積極的財政政策の淡出で足並みを揃えたことは、経済界に強い衝撃を与えたのである。

3.反対論

しかし、積極的財政政策の淡出論は直ちに強い反撃を受けることになった。主な論調は次のとおりである。

(1)国家発展計画委報告「積極的財政政策は安易に淡出してはならない」(6月4日付け深セン商報)

同報告では、「冷静に見てとるべきは、現在の経済の好調は財政政策の継続的な支持に主に依存しており、デフレと有効需要不足は未だ根本的に解決しておらず、経済成長の内在的な動力は依然不足しており、このことは短期・長期の経済成長に巨大なプレッシャーとなっている、ということである。したがって、短期の財政収入均衡や赤字規模の大小をもって、積極的財政政策の退出を決定する根拠としてはならない」とし、更に「経済発展の一時期においては、積極的財政政策が中期化甚だしくは長期化しても構わないのである。米国のルーズベルトのニューディール政策では積極的財政政策を10年間採用したし、日本は1965年に積極的財政政策に転向して以来長期間継続しているのだ」と開き直りの姿勢さえ示しているのである。

(2)「積極的財政政策は淡出できない」(6月28日付け21世紀経済報道)

期ではない。第1に、経済は1999年に景気の谷に達し、2000年に反転したが、現在再び谷に落ち込んでいないか、検証する必要がある。第2に、財政政策の民間投資の牽引作用が明らかになっていない。ここ数年民間投資の波は大きく、もし積極的財政政策を停止すると、社会投資の総量が盛り上がるか定かではなく、甚だしきは下降する可能性もある。第3に、社会総消費が未だ明らかに不足している。第4に、すぐに積極的財政政策を退出させれば、大量の失業を招き、社会の安定に悪影響を及ぼす。したがって、ここ2年は拡張的な財政政策の姿勢を保持するべきであり、退出の過程は我々の予想以上に長い時間を要するだろう。

年市場メカニズムの形成が遅滞していることであり、これは金融と国有企業改革の遅滞として現れている。もし財政政策が退出するのなら、現在の金融改革・国有企業改革の問題を解決すべきであり、さもなくば経済成長の財政政策依存体質が継続することになってしまう。もし、金融改革と国有企業改革がうまくいかず、農民の収入を引き上げることができず、都市住民の消費が上昇しないなら、淡出は多くの困難に直面するだろう。

(3)国務院発展研究センター研究員張立群インタビュー(9月5日付け中国経済時報)

「市場要因の作用が増大して以後、両極分化現象が拡大している。良い企業は更に良く、困難な企業は益々困難となり、収入が益々多くなる人もいれば、益々貧しくなる人もいる。地域間格差も拡大している。この状況下で、両極分化がもたらした経済社会の矛盾を解決し、社会の安定を確保することは、財政政策が担う重要な任務である。この角度からすれば、減少する財政支出もあれば、増加するものもある。例えば、農村・農民に対する支援、都市中低収入層への支援、公務員給与や都市一時休業者・失業者・最低生活保障対象者への生活保障水準の引き上げなどである。財政政策の安定維持の任務は重みを増しており、私は現在の積極的財政政策が直面している問題は、淡出ではなく、実施の重点を転換することだと思う。即ち、直接需要を刺激するために用いるのではなく、社会安定の方面に転換すべきなのである」と論じている。

(4)国家発展計画委マクロ経済研究院院長白和金「金融政策はまだ主役を唱えることはできない」(9月10日付け経済参考報)

ここ数年の金融政策の効果は理想的ではなかったとし、その理由として、国有企業と金融体制の改革が不十分で、金融機関が巨額の不良資産を抱え、社会信用を著しく失っており、資本市場の発達程度が低く、不規範である点を指摘している。したがって、金融政策を財政政策に替えて主役にするには、関連する制度条件の整備と歴史的遺留問題の解決が必要であり、これは一時には無理であるとする。このため、財政政策は今後一時期まだ主役としての役割を発揮する必要がある、と指摘している。

(5)国家情報センター経済予測部副主任範剣平「積極的財政政策は来年変更すべきか」(9月24日付け中国経営報)

範氏は4つの要素を考慮する必要がある、とする。
一般的に、インフレが3%に接近したら拡張的政策を中立的政策に変更する必要があり、5%を上回ると適度に引き締め気味の政策を考慮する必要がある。現在、デフレ圧力は緩和されたものの、物価下落は止まっていない。したがって、拡張的財政政策を中立的政策に転換させる条件は成熟しておらず、少なくとも消費物価指数が上昇し1%以上で一定期間安定し、生産手段の価格の安定的な上昇が明らかになったとき、はじめて政策の転換を考慮できるようになる。

現在、金融体制改革は不十分で、金融政策の伝達メカニズムはスムーズではなく、金融政策の効果は多くは中立となっている。金融政策を財政政策に替えて主役とするには、金融制度改革の方面で多くのなすべきことがあり、一定期間のプロセスが必要である。金融政策がすぐに財政政策に替り主役を務めることができない以上、財政政策もすぐには撤退できない。

民間投資の活発化は、まだ2四半期維持されているに過ぎず、これが長期間維持できるならば、政府投資が淡出するための条件が形成されることになる。

現在、国際経済情勢は継続的に好転する兆しが見えず、不確定要因が多い。

範氏は結論として、「以上の4条件の1つとしてすぐには具備されない以上、慌てて積極的財政政策を淡出させた結果がどうなるか、誰も想像できないだろう。人民に責任を負い、歴史に責任を負うという態度に基づき、今の情勢下では頭脳を冷静に保つべきである。百里を行く者は、九十里を半ばとするのであり、我が国の現在の良好な発展の勢いを維持するためには、総量政策の連続性・安定性を維持すべきである」とする。

4.慎重論

これに対し、戴園晨「積極財政の徐々の淡出をいかに理解するか」(6月19日付け経済参考報)は、経済成長速度の変動動向に正確に対処することが、財政赤字規模を徐々に縮小すべきか否か、積極的財政政策を徐々に淡出すべきか否かを判断する前提条件であるとし、今後中国経済は中低成長期に徐々に移行するとの見通しを示したうえで、「客観的現実からして、年間3000億元もの赤字を有する財政を一気に均衡・黒字に転換することは不可能であり、せいぜい債務の増加がGDP成長率を超えないことを目標に、赤字規模を適切に減らす事ができる程度である。経済運営に過大な悪影響を与えないよう、条件が整わないうちは淡出のテンポを緩めてもよい」とし、「深刻な財政赤字を持続可能な財政赤字に転換していく過程における淡出のテンポは時によって速くても緩やかでもいい。客観経済状況によって合理的に調整をはかればよい。特に注意すべきは、財政赤字資金はできるだけ臨時的な支出項目に使用し、支出が硬直的な経常的支出項目にはできるだけ使用しないようにすることである。さもないと、財政赤字は縮減できなくなってしまう」と指摘している。

5.まとめ

以上の論調を総合すると、積極的財政政策の淡出を支持する者は人民銀行のみであり、国家系シンクタンクも全てこれに反対していることがわかる。その主要な論拠は次の諸点にまとめることができるであろう。

分であり、財政政策に代替できない。
されていない。
る。
、財政による都市・農村の社会的弱者への支援が必要。

つまり、経済構造改革の遅れ、社会保障制度の整備の遅れのつけが、全て財政政策にまわっているのである。とすれば、「赤字総理」の汚名を返上したいという朱鎔基総理の意向とは裏腹に、当面財政赤字の縮減は容易ではないものと思われる。9月中旬、北京で全国増収節支(収入増と支出節約)工作会議が開催された。この中で朱鎔基総理は重要講話を行い、「今年以降の経済運営の突出した問題は、財政収入の伸びが緩慢で、財政支出の伸びが急速であることだ」と指摘し、「増収と支出節約を適切に行い、予算赤字を突破しないことを確保せよ」と指示を出した。具体的には、税の徴収管理を強化するとともに、予算管理を強化し、重複建設を断固として阻止するとしている。

本来、中国当局が強調するように経済が好調であれば、このように財政状況が困難な場合、積極的財政政策はただちに退出できるはずであるが、徴税強化と支出節約をいうだけで淡出すらできないところに、中国経済が抱える深刻な問題があるといえる。

(9月27日記)

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