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死んだトウ小平、生ける胡錦涛を走らす

中国ビジネスレポート 政治・政策
筧 武雄

筧 武雄

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2003年1月1日

<政治>
死んだトウ小平、生ける胡錦涛を走らす

筧武雄

昨年末の16回党大会で総書記に就任した胡錦涛(Hu Jintao、こ・きんとう、60歳)は今年3月、非常にわかりやすく「三箇代表」の理念を、つぎのように具体的に説明している。

中国共産党は人々の生活に関心を持ち、生産力を発展させたうえで、たえず人々の生活を改善することを主旨とする(2002年3月8日貴州での談話、新華社報道)

江沢民の後継者として、総書記の定年70歳まで、2008年の北京オリンピックを見とおして、あと二期続投の切符を手にして総書記に就任した胡錦涛はもともと清華大学卒のエリートで、76年の文化大革命時に温家宝、朱鎔基らととともに偏狭の地甘粛省に追いやられた実務派(水利技術畑)の若手エリート共産党員である。

やがて清華大学の先輩である宋平(老幹部、周恩来・陳雲の秘書)に3人とも助けられ、宋平の親友であった胡曜邦に推薦されて中央党学校の幹部クラスに入学、大変優秀な成績を納めた。1982年に共青団中央書記就任と同時に党中央委員に抜擢された。1985年貴州省書記、1988年チベット自治区書記を遍歴し、ラサ暴動鎮圧の当事者、最高責任者(彼自身は最後まで武力鎮圧指示を出さなかったとも言われる)でもある。

1989年の天安門事件の際、「臨時」総書記の江沢民は李鵬と保守派の前で手も足も出なかった。トウ小平は過去三度の失脚と同様に広東省に身を潜め、毛沢東の文化大革命発動と同様の方法で、突然国民に対して直接改革開放の大号令を発した。翌1993年、実権を掌握したトウ小平は李鵬を総理から下ろし(突然の心臓病で倒れたことになっている)、朱鎔基を副総理に立てた(その後総理に就任)。その92年にトウ小平はすでに胡錦涛を将来の指導者候補No.4として指名し、党中央政治局常務委員会に入れ、江沢民総書記の下で後継者としての教育(国家副主席、軍事委員会副主席)を受けさせていたのである。胡は手厚い庇護のもとで、「実務派本流」を継ぐ次代の指導者として育成され、共青団総第一書記、党中央学校校長を経て、党内での組織力、人事力は上海市長あがりの江沢民を遥かに上回っているだろう。香港筋には江沢民と胡錦涛の不仲を指摘する見解まで存在している。(胡に国家主席をやらせるぐらいなら、李鵬に任せたほうがまし…など)胡はまさにトウ小平直系の庇護の下、胡一族の末裔として「本家本元・名取真打」として育てられた中国共産党中央指導者である。彼に欠けるものがあるとすれば毛沢東的要素(強烈な個性、革命イデオローグとしての素質、大衆扇動力、破壊力)である。胡錦涛を見る限り「作られたホワイトカラーのエリート」という先入観が拭いきれない。歴代の国家指導者に見られる歴戦の経験、泥沼から這いあがった経験が見えないのである。しかし、これからの現代中国のリーダーには、もはや必要のない資質とトウも判断したのかもしれない。

指導者としての胡錦涛自身の個人的性格と能力についてはまだ評価がわかれている。かつてのゴルバチョフ大統領や李登輝総統のように、中国共産党がみずから単独支配の座から降り、国民選挙政治を開始させるだけの見識と力量を持つ指導者という評価から、逆に一党独裁の官僚支配をスターリン的手段に拠り一層強化し、強大な共産党国家を完成させる頑固な官僚・組織主義者という評価まで千差万別である。

いずれにせよ胡錦涛自身は副主席就任時から早々と「江沢民理論」に対する積極的な支持を表明しており、大会直前の9月の中央党学校でも「全党が一致して江沢民理論に従わなければならない」と講話している。江沢民の唱える「三箇代表」理論の真髄は、党の基盤を労働者階級から一般国民へと広げることにより、国有部門に取って代わる民間部門を党の「敵」としてではなく、拠って立つ支持基盤として取り込むことにある。共産党の国民政党化を目指すのか、逆に共産党の党組織力強化を目指しているのか、いずれにせよ今のところ彼は「三箇代表」論者であることに間違いはない。

このような点から、多くの異論や見解が党内には存在するものの、今回の指導者交替に伴う中央政府の当面の基本方針上の大きな変動はないものと見られる。現状では、新指導部体制が安定軌道に乗るまでの5年間、そして最終目標である2008年オリンピック、2010年万博までのあいだは、台湾関係あるいは北朝鮮問題など極東の外部「不安定要素」に万一「突発事故」が発生したとしても、従来の安定協調路線に大きな変化も生まれないであろう。なぜなら、彼らはなによりも世界・政治上の面子(北京オリンピックを共産党指導下で立派に成功させること)を最優先する国民性だからである。

正統派の毛並みの良さで胡錦涛は李鵬には負けるかもしれないが、トウ小平によって一線から下ろされ、国民的人気にも欠ける李鵬に、もはや党中央への政治的な影響力はない。今後は(江沢民の支持も得て?)国家主席という名誉職に就いて、長老族、利権の頂点に立っていくのではないかと思われる。そういう意味で、長老族入りした江沢民の良き「ライバル」として今後も生き残っていくだろう。あるいは、もはや国家主席の座は胡錦涛に譲るしかないほど権力も弱まっているかもしれない。保守派のパワーを評価するうえでも今春全人大の次期国家主席選出は見逃せない。

また胡錦涛は台湾国民党との関係でも、興味深い新たな展開を見せてくれるのではないかと楽しみにしている。

(12月24日記・2,236字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄

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