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自由貿易協定(FTA)の締結に動き出す中国

中国ビジネスレポート 政治・政策
馬 成三

馬 成三

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2003年1月8日

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<税務他>

■ 自由貿易協定(FTA)の締結に動き出す中国 ■

馬 成三

2001年現在、世界の貿易上位20カ国・地域のうち、何らかの形でFTA(自由貿易協定)に加盟していない国・地域は日本、中国、韓国、台湾と香港といった東アジア諸国・地域のみだったとされている。しかし、「マルチ」(多国間交渉)から「バイ」(2国間または複数国間交渉)へと、各国・地域の通商政策の力点がシフトしている中、東アジアにもFTA締結の動きが生じている。

その先頭に立っているのは、WTO加盟を果たし、対外開放の拡大を目指す中国にほかならない。中国とASEANは10年以内での実現を目指して、FTA締結に向けた高級事務レベル協議を開始することを正式に決定した。2002年11月の日中韓首脳会議(プノンペン)で、朱鎔基首相は日中韓の自由貿易協定の締結を提案した。

中国の行動は、アジアにおける地域経済統合に大きなインパクトを与えているのが明らかである。2002年に日本、米国及びインドは相次いでASEANとFTA締結に動き出したが、その背景には中国の上記の行動があると見られている。

始動する中国・ASEANのFAT交渉

1970年代末にスタートした中国の対外開放は、WTO加盟を契機に新しい段階に入りつつある。この段階の対外開放における目標は、「経済の全球化(グロバール化)の趨勢に対応して、対外開放のレベルをさらに高める」ことで、その課題の一つに「多国間貿易システムと国際地域経済協力への積極的参加」が挙げられている(2002年3月の全人代における朱鎔基首相の『第10次5ヵ年計画に関する報告』)。

「国際地域経済協力への積極的参加」においては、最も注目されるのは、ASEANとのFTA締結に関する動きである。2001年11月、バンダルスリブガワン(ブルネイ)に開催された第5回ASEAN・中国首脳会議で、朱鎔基首相は、中国・ASEANのFTA締結に関する構想を正式に打ち出し、以下の三つの提案を行なった。

中国とASEANそれぞれの優位に基づいて、農業、情報通信、人的資源開発、相互投資、メコン川開発といった21世紀初めの重点協力分野を確定すること。

今後10年以内にASEAN・中国自由貿易地域を正式に創設すること。

経済貿易関係を絶えず発展させると同時に、政治対話・協力を強化し、相互理解と相互信頼を増進させること。

朱鎔基首相の提案を受けて、中国とASEANは同首脳会議で10年以内での実現を目指して、FTA締結に向けた高級事務レベル協議を開始することを正式に決定した。2002年5月、中国とASEANはFTA締結交渉に関する初会合を開催し、同年9月の中国・ASEAN経済閣僚会議で、FTAの締結に先がけて遅くとも2004年初めまでに農産物を対象に関税の引き下げを行ない、3年以内に撤廃することで合意した。

中国とASEANが共同設置した作業部会の報告書によると、中国・ASEANのFTAが実現すれば、域内に17億人の消費者を抱え、国内総生産が2兆ドル近くに達する巨大貿易圏が形成される。域内関税の撤廃などで中国の対ASEAN輸出とASEAN諸国の対中輸出はそれぞれ50%前後増になる見込みである。

2002年11月、中国とASEANはプノンペンで首脳会議を開き、FTAの大枠を定めた「包括的経済協力の枠組み協定」に調印した。これによると、肉、魚介類、野菜など8分野が先行自由化品目として2003年中に自由化を開始し、8分野以外の関税も2005年から段階的に削減・撤廃されることになる。

ASEAN諸国のうち、先発6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ)と新規加盟4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマ)との経済格差が大きいという実情を考慮して、FTA締結の進め方について2段階に分けて推進する方針である。

そのうち、中国とASEAN先発6カ国は、2006年の年初までに先行自由化品目の関税を撤廃し、それ以外の貿易品目も2010年までに自由化を完成させる。ASEANの新規加盟4カ国は2008?2010年に先行自由化品目の関税をなくし、2015年までに自由化を達成させることとなっている。

上記のFTA交渉をスムーズに進展させるため、中国側はASEAN諸国に多くの「特別配慮」を与えている。中国は先にASEAN諸国に市場開放を実行することに同意しただけでなく、ベトナム、ラオス、カンボジアの3カ国に一方的に特別優遇関税を適用することや、メコン川の開発と、ラオス境内のバンコク・昆明の道路建設工事に資金を供与することなどをも表明した。

2002年11月、朱鎔基首相はシアヌーク時代から累積している対カンボジアの全債権(3億ドル)、対ベトナムやミャンマなどの債権の一部(または全部)を放棄することを表明し、国際的に大きな反響を呼んだ。 同会議で朱鎔基首相はまたこれらの国々に無償資金援助5000万元(約7億5000万円)を含む総額約15億円に上る資金提供、ラオスとカンボジア北東部を結ぶ国道7号線改修支援などを約束した。

中国の地域経済協力戦略

中国はアジア太平洋地区に位置し、貿易の8割以上と外資導入の9割以上がアジア太平洋諸国・地域に依存することもあって、早くからアジア太平洋地区における経済協力への参加に強い関心を示した。太平洋経済協力会議(PECC)への参加(1986年)と、アジア太平洋経済協力会議(APEC)への加盟(1991年)がその現れである。

1993年からスタートしたAPEC非公式首脳会議には江沢民国家主席が毎回出席した。1994年の第2回非公式首脳会議では、先進工業国は遅くとも2010年までに、発展途上国は遅くとも2020年までに貿易投資自由化を実行することを盛り込んだ「ボゴール宣言」が採択されたが、江沢民主席はこれに基づき、市場開放に関する幾つかの約束を行なった。

中国がAPECを舞台とする貿易投資自由化計画に積極的に参加する背景には、WTO加盟交渉を促進するという狙いがあったが、WTO加盟を果たしたことを受けて、中国は地域経済協力の推進を、「貿易空間の拡大、輸出市場多角化の実現、グローバリゼーションの進展に伴うリスクの増大の防止」(石広生・対外貿易経済協力相)を図るための重要戦略と位置付けるようになった。

中国にとっては、地域経済協力への参加は政治的にも大きな意義がある。 発展途上国との経済連携の強化で、政治的友好関係を増強すること、 先進国との協力関係の強化で「多極化」を促進することなど、「中国の政治・外交と安全上の利益に合致し、中国の近代化建設に良好な国際環境を築くことに利する」石広生・対外貿易経済協力相)ものとされているのである。

中国は地域経済協力への参加に関する基本的戦略として、「由近及遠、先易後難、循序漸進」(近いところから遠いところへ、やりやすいところからやりにくいところへ、順序を立てて漸進的に推進する)といった原則を打ち出している(2002年5月のアジア開発銀行年度総会における周可仁・対外貿易経済協力省次官の演説)。

目下、中国はこの戦略に基づき、ASEANとのFTA締結交渉以外に幾つかの地域経済協力に関わっている。2001年5月、中国はタイ、インド、韓国、ラオス、バングラデシュ、スリランカなどをメンバーとするバンコク協定に正式に加盟し、他の加盟国との間で一部の製品の関税率を引き下げ、相互の輸出の促進を図ろうとしている。

中国本土と香港の間では、「一国二制度」の枠組みの下でWTOの規定に基づく「経済貿易関係緊密化」構想も進められている。2002年1月、中央政府と香港特別区政府の合意により本土と香港の「経済貿易関係緊密化」に関する交渉はスタートした。モノの貿易にかかわる関税と非関税措置の相互撤廃や、サービス市場のさらなる開放、貿易と投資の円滑化の促進などが同構想の目標とされている。

中国は上海協力機構(SCO)を通じて、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンなど旧ソ連諸国との経済協力の強化にも力を入れている。2002年6月、サンクトペテルブルク(ロシア)で発表されたSCO加盟国元首宣言には「貿易と投資の円滑化をはかり、多国間貿易経済協力の長期要綱の締結に関する交渉のプロセスを加速する」ことが盛り込まれている。

周辺諸国にととまらず、中国は輸出市場の多角化を図るための対策の一環として、アフリカや中南米諸国との経済協力関係の構築にも強い関心を示している。石広生・対外貿易経済協力相は、アフリカや中南米諸国のうち、「条件が比較的成熟した国々との間でFTA締結の可能性について検討する」との姿勢を明らかにしている。

東アジア自由貿易圏創設の提唱

中国は中国、日本、韓国とASEAN諸国を含む東アジア自由貿易圏の創設にも強い意欲を見せている。政府系のシンクタンクからは2010年までに「ASEANとFTAを締結することは第1ステップ」に過ぎず、次の10年間で「第2のステップとして東アジア自由貿易地区を形成することを目指すべきだ」との意見が出されている(『経済日報』2002年4月14日)。

2002年11月、カンボジアのプノンペン市内で開いた日中韓3カ国首相会談で、朱鎔基首相は日中韓自由貿易地域の実現に関する研究に触れて、「FTAが実現可能かどうかも含めて研究を進めたい」との考えを表明したと同時に「日中韓を自由貿易地域にすることには意味がある」と、3カ国間でのFTA締結を提案した。

日本政府はASEANや韓国とFTA締結交渉をスタートさせた一方、中国とのFTA締結に積極的な反応を示していないのが実状である。朱鎔基首相の提案に対して、小泉首相は「中国はWTOに加盟したばかりであり、状況を見ながら検討したい」との考えを述べたのにとどまったのがその現れである。

他方、中国のASEANとのFTA締結交渉を睨んで、米国やインドなども相次いでASEANとのFTA交渉の締結に動き出している。2002年11月、米政府はブッシュ大統領の提案に基づき、ASEAN諸国と貿易・投資自由化を協議し始め、インドもASEANと貿易・投資の自由化を推進することで合意した。

米国の動きに対して、日本の財界は強い警戒心を持っているようである。今年(2003年)元旦、日本経団連は「活力と魅力溢れる日本をめざして」という提案書を公表し、中には「東アジア諸国と欧米とのFTAが相次いで締結されれば、各国は他の東アジア諸国とのビジネスにおいて、欧米企業に対し劣位に立たされるほか、地域としての脆弱性を克服できないといった問題が生じる」との見方を示している。

同提案書は、「日本、中国、韓国、ASEANの13ヵ国を含む東アジアにおいて自由経済圏を形成する」ことを必要とし、その実現を図るため、日本、中国、韓国、ASEANの間で、「目標および実現に向けたプロセスについてのビジョンを共有した上で、遅くとも2020年の完成をめざし、目に見える成果を積み上げていく」との提案を打ち出している。

他方、日本政府と異なり、韓国政府は日中韓を含む東アジア自由貿易圏の創設に意欲的である。金大中・韓国大統領は2001年のASEAN+3の首脳会議において、すでに東アジア自由貿易圏の創設を提案したと伝えられている。韓国にとって、中国との経済連携を強めることは、韓国経済の活性化を図る上でますます必要不可欠となっている。韓国の中央銀行によると、中国は2001年に日本を超えて、米国に次ぐ韓国の第2の輸出市場と浮上したのに続き、2002年にはさらに米国を超え、韓国の最大の輸出市場に躍進したのである。

日本経済研究センターの試算によると、「中国主導で東アジア地区に自由貿易圏が誕生する場合、つまり日本を除く形で中国と東アジア諸国・地域のFTAが成立する場合、日本の実質GDP、国民所得、経済厚生にはマイナスの影響が生じる。しかし、中国、東アジア諸国・地域とのFTAに日本も参加する場合、日本への影響はプラスに転じる。さらに中国、東アジア諸国も経済的利益を得る」(日本経済研究センター『アジア研究:中国がアジアを変える?日本の生き残り戦略』、2002年12月)。

以上の諸動向からみれば、今年には東アジア自由経済圏の形成に向けて、日本政府の姿勢次第で、日本、中国、韓国とASEANはより活発な動きを示していく可能性が強い。これは「人口21億人、GDP77兆ドルという巨大で急速に成長する単一市場の実現」(日本経団連)につながるだけでなく、同地域の国・国民間の親善の増進にも利するものと期待される。

(1月8日記)
静岡文化芸術大学
文化政策学部教授
馬成三


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