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中国ビジネス展開のチェックポイント 第6回【中国の人件費動向(2)】

中国ビジネスレポート 労務・人材
田畑 泰朗

田畑 泰朗

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2012年6月22日

はじめに

前回は中国の賃金の上昇傾向などについてご説明し、最後に今後5年間で所得倍増という国家方針について触れました。今回は、中国政府が各地方毎に毎年各企業等に通知している賃金上昇指導線というものについて解説いたします。

1.賃金上昇指導線とは何か

賃金上昇指導線とは、例えば上海市の場合ですと、上海市人力資源社会保障局、上海市総工会(労働組合の上部組織)、上海市企業連合会、上海市企業家協会、上海市工商業連合会が連名で、関係当局、各企業、市内各区の人力資源社会保障局、工会、企業連合会、企業家協会、工商業連合会へ通知する従業員の給料の上昇率に関する意見で、それ自体に拘束力はありません。
この上昇率は地域の経済発展の情況、物価上昇、就業率、給与水準などを総合的に勘案して決められます。

2.上線、平均線、下線の意味

指導線は、下の表のように上線、平均線、下線の3種類が通知されます。

■上海市における2012年指導線

 上線

16% 

 平均線

12%

 下線

5%

(1)平均線:平均線は生産・経営が正常に行われており比較的収益状態のよい企業に対して参考とするように指導する上昇ラインです。2012年の上海市の場合は、前年のある企業の平均給与が市平均給与の2倍以上の場合は平均線以下でもよいとの補足があります。

(2)上線:上線は生産・経営が正常に行われており比較的収益状態のよい企業のうち、前年のある企業の平均給与が市平均給与の60%以下の場合は上線を参考とするように指導されます。

(3)下線:下線は比較的収益状態の悪い企業に対して参考とするように指導される上昇ラインです。2012年の上海市の場合はこれに加えて、生産経営が困難となり損失を出している企業については0%増でもよいとの説明がありますが、その場合には労働組合の代表大会か、全職員大会で討論をした上で0%とすることとの条件があります。

3.実施意見とは

指導線の通知に加えてその実施意見というものも通知されます。2012年の上海市の場合ですと以下のような内容です。

(1)企業は労働生産性の上昇に合わせた賃金の上昇をするようにし、労働者と話し合い合理的に賃金上昇をし、異なる職務であれば上昇幅を調節する。

(2)企業は給与を確定する際に、低い給与の者の上昇幅が平均上昇幅より低くならないようにする。

(3)経営者と一般職員の給与配分は、一般職員の給与を上昇させない場合、経営者および中高層管理職の給料も上昇させるべきではない。

(4)各関係当局、関係団体は所属企業への分配指導を強化し、団体交渉を推進し、給与分配を合理的に確定し、企業の発展を促進し労働者の合法的権益を守り労働関係を安定化させる。

4.実際の賃上げとの関係

(1)今までの説明の中で気づかれた方もいらっしゃるでしょうが、この指導線の考え方は企業の平均給与の上昇がベースとなっています。つまり、ある特定の労働者を見た場合にはそのスキルアップなどの部分を上乗せしたトータルが給与上昇率となります。

(2)実際の各企業の賃上げ水準の対応としては、この指導線を参考に、職種、資格、個人の能力などによっての労働市場での相場を参考に賃金の上昇水準を決定します。

5.地域差

前回も述べましたが、最低賃金、平均賃金と同様に、指導線の水準も発展が先行した大都市圏よりも地方の方が高い傾向があります。これは格差是正の国家方針から考えて当分継続し、地域間格差は縮小する可能性が高いと思われます。

6.賃金上昇指導線は守らなくてよいのか?

冒頭で申し上げましたとおり、指導線には拘束力はなく、あくまでも指導意見の提示、つまり推奨と考えられます。しかし、一方でこの指導線には国策が強く反映されていることを考えれば、全く無視することは企業にとってリスクが高いものと思われます。
例えば賃上げを理由とした労働紛争が発生して当局の仲裁を仰ぐ場合などは、企業側のルール遵守はもちろんのこと、賃金の改定時に企業側がこの指導線の内容を十分に参考にしていたかなども判断の材料にされると思います。上昇水準のみならず、その決定プロセスなども重要です。
現地法人の経営者の方の多くが、この指導線の存在すら知らないといった状況が2011年に日系企業で多く発生した労働紛争の原因のひとつであったとも想像されます。本指導線のみならず労働関係の通達類には十分注意を払っておく必要があります。

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