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新「上海市企業賃金支払弁法」を読み解く(連載の一/全三回)

中国ビジネスレポート 労務・人材
郭 蔚

郭 蔚

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2016年10月18日

2016年6月27日に上海市人的資源社会保障局は新弁法を公布した。新弁法は2016年8月1日から正式に施行し、有効期間は5年とする。本稿では、筆者がまず新弁法と旧弁法を比較しながら、新弁法の変化を取りまとめたうえで、重点的な制度の変化、及び企業としてどのように対応するかなどの方面において分析する。

一、新弁法の変化及び簡潔な説明

1.適用範囲
旧弁法 第1条(※1):企業、個体経済組織と労働関係を形成している労働者。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準(※2) 「労働契約法」第2条(※3)、「労働契約法実施条例」第3条(※4):企業、個体経済組織、民営非企業組織、会計士事務所、法律事務所、基金会などの組織と労働関係を確立する労働者。
新弁法 第1条(※5):企業、個体経済組織、民営非企業組織、会計士事務所、法律事務所、基金会などの組織と労働関係を確立する労働者。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 現行の関係法規における適用範囲に関する規定を再度言明した。

2.賃金項目の列挙
旧弁法 無し。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準 「賃金総額の構成に関する規定」第4条(※6):賃金総額は、時間給、出来高給、賞与、手当と補助金、残業代、特別な状況で支払った賃金によって構成される。
新弁法 第2条(※7):賃金には時間給、出来高給、賞与、手当、補助金、残業代などが含まれる。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 現行の関係法規における賃金項目の列挙を再度言明した。

3.正常に出勤した場合の賃金についての画定
旧弁法 無し。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準 「労働紛争に係る若干の問題に関する上海市高級人民裁判所の解答」第2条(※8):正常に出勤した場合の賃金は、労働者が実際に取得している月額収入から、枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目を控除した後の正常な労働時間の月給で確定することができる。
新弁法 第9条(※9):年末賞与、及び出退勤交通費手当、食事手当、住宅手当、中番・夜勤手当、夏季高温手当、残業代など特別な状況で支払った賃金が含まれない。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 補助金、手当、残業代、年末賞与などに関する項目を、正常に出勤した場合の賃金の範囲から除外することを明確にした。

4.退職時の賃金の精算
旧弁法 第7条(※10):手続きを完成する時に一括で支払う。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準 「労働紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民裁判所の解釈(三)」第10条(※11):双方間で取決めがある場合、その取決めに従う。
新弁法 第7条(※12):双方間で取決めがある場合、その取決めに従う。取決めがない場合、一括で支払う。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 司法解釈の規定を再度言明した。

5.休暇中の賃金の計算基数
旧弁法 第9条(※13):
●労働契約に取決めがある場合、その取決めに従う。但し、その取決めは職位給の基準を下回らないものとする。
●取決めがない場合、本人の持ち場において正常に出勤した場合の賃金の70%で確定する。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準 通常、仲裁の判断基準は旧弁法に従うべきであるが、裁判所の判断基準は争議があると思われ、2つの理解に分かれる。
理解一:旧弁法に同じ。
理解二(※14):
●双方間で休暇中の賃金の計算基数について取決めがある場合、その取決めに従うが、その取決めが正常に出勤した場合の賃金の70%を下回ってはならない。
●双方間で休暇中の賃金の計算基数について取決めがない場合、正常に出勤した場合の賃金の70%で確定する。
新弁法 第9条(※15):
●労働契約に月給について取決めがある場合、その取決めに従い確定する。実際な履行が労働契約における取決めと一致していない場合、実際に履行している月給で確定する。
●取決めがない場合、正常に出勤した場合の賃金の70%で確定する。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 月給について取決めがある場合、その月給を休暇中の賃金の計算基数とすることを明確に規定した。旧弁法において「労働契約に取決めがある」に対する理解が分かれるという問題を解決したが、裁判所が裁判する時の判断基準における理解二と矛盾することになった。具体的な分析については、本稿の二、2を参照のこと。

6.残業代の計算基数
旧弁法 上表5と同じ。
法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準 仲裁・裁判時の判断基準は、正常に出勤した場合の賃金を基本的な計算準則とし、「3割引き」の適用を慎重に行う傾向にある(※16)。
●双方間で月給について取決めがある場合、その取決めに従う(司法実務では、実際に履行している月給が取決めと異なる場合、実際に履行する基準に従い確定する)。
●取決めがない又は取決めが不明確である場合、従業員が実際に取得している月額収入から、枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目を控除した後の正常に出勤した場合の月給で確定する。
●取り決めた賃金基準が著しく不合理である場合、又は使用者が悪意で正常に出勤した場合の賃金項目を枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目に計上した場合、従業員の実際の収入*70%の金額で確定する。
新弁法 上表5と同じ。
新弁法の変化に関する簡潔な説明 新弁法では、残業代の計算基数について取決めがない場合において「3割引き」することが可能であることを再度言明した。これは、裁判所における「取決めの有無にかかわらず、いずれも正常に出勤した場合の賃金を基本的な計算準則とし、特別な状況に限り、実際の収入*70%の金額で確定する」という仲裁・裁判時の判断基準と著しく矛盾している。具体的な分析については、本稿の二、3を参照のこと。

(里兆法律事務所が2016年8月26日付で作成)

(※1)旧弁法第1条:本弁法は上海市行政区域における各種類の企業、個体経済組織(以下「使用者」という)及びこれらと労働関係を確立している労働者に適用される。

(※2)「法規の変化/仲裁・裁判時の判断基準」とは、旧弁法が実施された後、新弁法を公布する前に、国又は上海において既に公布し、又は実際に執行している、旧弁法を取替える係る法規/仲裁・裁判時の判断基準を指す。

(※3)「労働契約法」第2条:中華人民共和国国内の企業、個体経済組織、民営非企業組織などの組織(以下「使用者」という)と労働者とが労働関係を確立し、労働契約を締結、履行、変更、解除又は終了する場合、本法を適用する。国家機関、事業組織、社会団体がこれらと労働関係を確立する労働者と労働契約を締結、履行、変更、解除又は終了する場合は、本法に照らして執行する。

(※4)「労働契約法実施条例」第3条:法により設立された会計士事務所及び法律事務所などのパートナーシップ組織並びに基金会は、労働契約法に定める使用者に該当する。

(※5)新弁法第1条:本弁法は上海市行政区域内における各種の企業及びこれらと労働関係を確立する労働者に適用される。個体経済組織、民営非企業組織及び法により設立された会計士事務所、法律事務所、基金会などの組織及びこれらと労働関係を確立する労働者については、これを参照して執行する。

(※6)「賃金総額の構成に関する規定」【国家統計局令第1号】第4条:賃金総額は下記6つの部分により構成される。(一)時間給。(二)出来高給。(三)賞与。(四)手当と補助金。(五)残業代。(六)特別な状況で支払った賃金。

(※7)新弁法第2条:本弁法にいう賃金とは、企業が国及び上海市の規定に基づき、貨幣で労働者に支払う労働報酬を指す。それには、時間給、出来高給、賞与、手当、補助金、残業代などが含まれる。

(※8)「労働紛争に係る若干の問題に関する上海市高級人民裁判所の解答」【民一庭調研指導(2010)34号】第2条:使用者と労働者の間で月給について取決めがある場合、残業代の基数は、双方間で取決めした正常な労働時間の月給に従い確定しなければならず、月給について双方間で取決めがない、又は取決めが不明確である場合、「労働契約法」第18条の規定に従い正常な労働時間の月給を確定し、尚且つその確定した賃金金額を残業代の計算基数としなければならないと認識している。もし「労働契約法」第18条の規定に従っても正常な労働時間の賃金金額の確定が不可能である場合、残業代の基数について、労働者が実際に取得している月額収入から、枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目を控除した後の正常な労働時間の月給で確定することができる。賃金は、事前に定められた賃金総額で支払う場合、又は双方が形式上で取決めした「正常な労働時間の賃金」の基準が著しく不合理である場合、又は正常な労働時間の賃金金額を減額して計算するために、使用者が正常な労働時間の賃金に計上すべきであった項目を枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目に計上したことを証明できる証拠がある場合、実際の収入×70%の基準を参考にして適切に調整することができる。上記原則に基づき確定された残業代の基数は、いずれも上海市1ヶ月当たりの最低賃金基準を下回ってはならない。

(※9)新弁法第9条:企業が労働者に対し残業を手配する場合、規定に従い残業代を支払わなければならず、労働者が法により結婚休暇、弔引休暇、帰省休暇などの休暇をとる期間において、企業は規定に従い休暇中の賃金を支払わなければならない。残業代及び休暇中の賃金の計算基数は、労働者の持ち場において正常に出勤した場合の月給とし、年末賞与、出退勤交通手当、食事手当、住宅手当、中番・夜勤手当、夏季高温手当、残業代など特別な状況で支払った賃金が含まれない。

(※10)旧弁法第7条:使用者及び労働者が労働契約を終了し、又は法により解除する場合、使用者は労働者との手続きを完成する時、労働者の賃金を一括で全額支払わなければならない。

(※11)「労働紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民裁判所の解釈(三)」【20100913、法釈〔2010〕12号】第10条:労働者と使用者が労働契約の解除又は終了の関連手続きの実施並びに賃金報酬、残業代、経済補償金又は賠償金の支払などにつき達した合意について、法律及び行政法規の強行規定に違反せず、かつ詐欺、脅迫又は他人の困難につけ入る状況が存在しない場合には、有効と認定しなければならない。前項の合意に重大な誤解又は明らかに公平を失する状況が存在し、当事者が取消を請求した場合、人民裁判所はこれを支持しなければならない。

(※12)新弁法第7条:企業と労働者が労働契約を終了し又は法により解除する場合、企業は、労働者との手続きを完成するときに、労働者の賃金を一括で全額支払わなければならない。特別な状況について双方間で取決めがあり、且つ法律、法規の規定に違反していない場合、その取決めに従う。

(※13)旧弁法第9条:労働者が法により結婚休暇、弔引休暇、帰省休暇などの休暇をとる期間において、使用者は国の規定に従い休暇中の賃金を支払わなければならない。休暇中の賃金の計算基数は以下の原則に従い確定する。(一)労働契約に取決めがある場合、労働契約に取り決めた労働者本人の持ち場(職位)においての賃金基準に従い確定する。労働協約(賃金に関する集団契約)に確定した基準が労働契約に取り決めた基準を上回った場合、労働協約(賃金に関する集団契約)の基準で確定する。(二)労働契約、労働協約のいずれにも取決めがない場合、使用者と従業員代表が賃金の団体交渉を通じて確定することができる。その交渉結果について、賃金に関する集団契約を締結しなければならない。(三)使用者と労働者の間で何らの取決めもない場合、休暇中の賃金の計算基数は、労働者本人の持ち場(職位)において正常に出勤した場合の月給の70%で統一して確定する。上記原則に基づき計算された休暇中の賃金は、その基数は、いずれも上海市規定の最低賃金基準を下回ってはならない。法律、法規に別途規定がある場合、その規定に従う。

(※14)「上海高級人民裁判所民事裁判廷2014年第三四半期廷長例会における研究・検討に関する議事録」【民一廷調研与参考[2015]11号】一、1:病気休暇賃金の基数をどのように確定するか。
2003年「上海市企業賃金支付弁法」では、病気休暇、残業、私用休暇などの賃金はいずれも統一した計算基数を適用すると規定している。実践においては、全市の裁判所は残業代の計算基数を既に調整している。また、上記の計算基数統一適用原則によると、病気休暇賃金の計算基数も調整する必要があるという観点もある。これに対して、みんなの理解は以下の通りである。まず、残業代は労働者が正常に労働を提供することで取得する労働報酬である一方、病気休暇賃金は使用者が労働者に支給する福利待遇の一種であり、両者に性質の違いがある。次に、2004年「上海市労働社会保障局による病気休暇賃金の計算に関する公告」では病気休暇賃金の計算基数について特別な規定がなされている。さらに、もし残業代の計算基数と病気休暇賃金の計算基数に同じ原則を適用される場合、一部の労働者が不正な手段(例えば、病気休暇証明書の虚偽発行など)により不正な利益を図ることになる可能性がある。以上のことから、傾向的な見解としては、労働契約又は双方間で締結するその他契約において、病気休暇賃金の計算基数について取決めがある場合、双方間で取り決めた金額で病気休暇賃金の計算基数を確定することができると認識する。但し、当該取り決めた計算基数は正常に出勤した場合の賃金(当該「正常に出勤した場合の賃金」は労働者が正常に出勤した場合に取得できる、予測可能性のある収入であり、一回っきりの又は一時的な収入を含まないと理解すべきである)×70%の基準を下回ってはならない。双方間で病気休暇賃金の計算基数について取決めがない場合、病気休暇賃金の計算基数は上記の正常に出勤した場合の賃金×70%の基準で確定しなければならない。

(※15)新弁法第9条:残業代及び休暇中の賃金の計算基数は以下の原則に従い確定する。(一)労働契約に労働者の月給について明確な取決めがある場合、労働契約に取り決めた労働者の持ち場における月給で確定する。実際の履行状況が労働契約での取決めと一致していない場合、実際に履行している労働者の持ち場における月給で確定する。(二)労働契約に労働者の月給について明確な取決めがなく、集団契約(賃金に関する個別項目集団契約)に当該持ち場における月給について取決めがある場合、集団契約(賃金に関する個別項目集団契約)に取り決めた労働者の持ち場に相応した月給で確定する。(三)労働契約、集団契約(賃金に関する個別項目集団契約)のいずれにも、労働者の月給について取決めがない場合、労働者が正常に出勤した月次において、本弁法第二条規定の賃金(残業代を含まない)の70%で確定する。残業代及び休暇中の賃金の計算基数は上海市規定の最低賃金基準を下回ってはならない。法律、法規に別途規定がある場合、その規定に従う。

(※16)「労働紛争に係る若干の問題に関する上海市高級人民裁判所の解答」【民一庭調研指導(2010)34号】第2条:使用者と労働者の間で月給について取決めがある場合、残業代の基数は、双方間で取決めした正常な労働時間の月給に従い確定しなければならず、月給について双方間で取決めがない、又は取決めが不明確である場合、「労働契約法」第18条の規定に従い正常な労働時間の月給を確定し、且つその確定される賃金金額を残業代の計算基数としなければならないと認識している。もし「労働契約法」第18条の規定に従っても正常な労働労働の賃金金額の確定が不可能である場合、残業代の基数について、労働者が実際に取得している月額収入から、枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目を控除した後の正常な労働時間の月給で確定することができる。賃金は事前に定められた賃金総額で支払う場合、、又はプロジェクトごとに支払う場合、又は双方が形式上で取決めした「正常な労働時間の賃金」の基準が著しく不合理である場合、又は正常な労働時間の賃金金額を減額して計算するために、使用者が正常な労働時間の賃金に計上すべきであった項目を枠外の賞与、福利厚生、危険手当などの項目に計上したことを証明できる証拠がある場合、実際の収入×70%の基準を参考にして適切に調整することができる。上記原則に基づき確定された残業代の基数は、いずれも上海市1ヶ月当たりの最低賃金基準を下回ってはならない。

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