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にわかに脚光を浴びた「代理母出産」の問題

中国ビジネスレポート 各業界事情
劉 新宇

劉 新宇

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2012年4月11日

広州の富豪に試験管ベビーの八つ子が誕生

既に周知のとおり、中国は、30年余り前から一人っ子政策を実行し、人口増加の抑制に向け積極的に努力している。ただし近年、高齢化対策として、夫婦2人とも「一人っ子」であれば、2人まで子供を持つことが認められるようになった。現在の中国では、子供の教育費はかなり高額になるため、果たして大都市の一般の家庭において、2人目の子供を持つという選択がなされるのかという疑問もある中、最近、広東省広州市に住む富豪夫婦に生まれた「八つ子」のニュースが話題となった。報道によると、長年にわたり不妊に悩んでいたこの夫婦が2010年初めに体外受精を試みたところ8つ の卵子すべてが受精し、望外の喜びに湧いた2人は、妻と2名の代理母計3名の体内に「2、3、3」のアレンジでそれを着床させ、2010年9月~10月の1ヶ月間に男児・女児が4人ずつ誕生したとのことである。 

2011年12月、この八つ子を起用した子供写真館の広告が記者の目にとまり、まさに「奇聞」として大きく報道されるに到ったが、約100 万元(約1,300万円)に及ぶ出産費用のほか、各嬰児に専任の世話役、清掃係2名、食事担当1名の家政婦計11名を雇い、1月あたりの生活費は10万元(約130万円)を超える等、衝撃的なニュースであった。

それゆえ、この「スーパー大家族」に関しては、どうしてもその生活ぶりや子供の成長、教育、将来等に注目が集まってしまうが、このニュースは、それのみならず、代理母出産をめぐる法的・倫理的な問題や女性の権利保護といった面でも熱い議論を呼び起こすこととなった。

例えば、不妊に悩む夫婦が子供を切望する思いは理解しうるとしても、代理母は、いわば「子宮のレンタル」であり、妊娠・出産のリスク、精神的負担、将来の親子・親族関係等多様な問題に直面することとなる。それゆえ、代理母出産には、「女性の権益を軽視する行為」や、「女性を子供を産む機械として扱っている」といった批判が寄せられる。また、八つ子の誕生は一人っ子政策に違反しないのか、違反であれば関係政府部門はどのように処罰するのかという点も問題視されている。さらに、法的観点から検討すれば、代理母出産はそもそも中国法において認められているのか、認められないとすれば今回の八つ子誕生事件にどのように対処するべきかが問題となり、メディアでもこの点が一番の関心事となっている。

実をいうと、中国では、代理母による出産が禁じられている。日本の厚生労働省に相当する中国の中央官庁・衛生部は、試験管ベビー等体外受精技術を含む人類補助生殖技術の発展を規範化するため、2001年より「人類補助生殖技術管理弁法」をはじめとする一連の規定を公布して、人類補助生殖技術、人類精子庫関連技術の規範、基本基準、倫理原則、認可手続や監督管理を制定・強化しているが、これにより代理母出産も明確な禁止の対象とされ、その情状に応じ行政警告、罰金その他の刑事責任を追及する相応の罰則が設けられている。代理母出産をめぐりこのような法令を整備した国は、アジアのみならず、世界の発展途上国の間でも珍しいと言われている。

しかしながら、現実の状況はこれとかなり異なる。例えば、報道によると、インターネットには代理出産を斡旋するサイトがあり、中には容姿や学歴、出産経験等に基づいて女性を細かくレベル分けし、各レベルに応じて報酬を設定しているところも存するようである。これは、代理母出産が不妊に悩む夫婦に援助の手を差し伸べるボランティアではなく、その商業化が進んでいることを示している。

このような動きの背景には、様々な事情により不妊に悩むカップルの増加、いわゆる「女性の貧困」や格差の拡大等複雑な要因があるため、単に関連法令において代理母出産を禁じただけでは、代理母出産の行為をやめさせることも、それにより生じうる倫理的、法的、社会的な問題を予防・解決することもできないと思われる。また、代理母出産を禁止する法令が整備されているとはいっても、それらはあくまで日本の省令に相当する衛生部の「行政規則」にすぎないため、法体系上の位置づけは低く、その罰則の対象者も医療機関のみに限定され、罰則自体も軽いゆえ、代理母出産を制止する力に乏しいと批判されている。

いずれにせよ、今回の八つ子誕生のニュースを機に、試験管ベビー等体外受精技術等の人類補助生殖技術の発展、進歩を図る一方で、それと同時にその運用の安全性、監督管理の有効性をどのように確保するかにつき、引き続き深く検討していくべきであろう。

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