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震災後の東京オフィスの現状と見通し

中国ビジネスレポート 各業界事情
釜口浩一

釜口浩一

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2011年6月6日

記事概要

今回は、東京の中心地域にある比較的規模の大きな賃貸オフィスについて、私が現時点で認識していることと将来の見通しの要点をお伝えします。【3,128字】

3月11日の東北地方太平洋沖地震発生から、間もなく3か月になります。地震後に東京電力福島第一原子力発電所の事故もあって、東京の不動産市場にもさまざまな影響がありました。

今回は、東京の中心地域にある比較的規模の大きな賃貸オフィスについて、私が現時点で認識していることと将来の見通しの要点をお伝えします。また、電力使用量の抑制で共益費が話題になる可能性がありますので、これについても触れています。

震災の影響について、現時点で私が把握していないことも多いと思います。また、見通しについても、人により様々な見方があるでしょう。それをふまえ、他のレポート等と併せてお読みいただくことで、比較検討や判断の一助になるかと思い、本稿をまとめました。なお、福島第一原発の事故はまだ進行中ですが、将来の見通しについては、この悪影響が今以上に悪化しないということを前提にしています。

1.震災による被害とビル使用者の認識

物理的な被害ということでは、倒壊などの大きな損傷はなかったようです。ただ、超高層ビルの上層階の揺れは大きく、新宿のあるビルでは10分以上揺れが続いたということです。私の友人で、超高層ビルで働いている人達の話では、隣の超高層ビルとぶつかるのではないかと思ったくらいの揺れだったといいます。また、そのときに現地にいた人が撮影した映像をユーチューブで見ることができます(例「地震 超高層 揺れ」で検索)。

この長周期地震動は、2003年の十勝沖地震の際に発生した、震央から250Km離れた石油タンクの火災で注目されていたのですが、長周期地震動に対する対策は現在もあまり進んでいないようです。今回は、オフィスビルが揺れたということもあって、室内の什器・備品が大きく動いたり、倒れるということも目立ちました。そのほか、エレベーターが動かないという事態になったビルも多くありました。

これらを受けて、オフィスビルの高層階を避ける意識を持った人が増えているようですが、地震後3か月弱ですので、実際の移転にまで至ったケースは把握しておりません。ただ、古いビルから比較的新しいビルへの事務所移転を決めたケースは、地震直後からありました。また、東京電力の福島第一原発の事故による放射能の影響や大地震に備えて、本社組織の一部を関西などへ移転することを検討し、実際に移転しようという動きがあります。

なお、オフィスを借りる立場の視点で考えると、東京都心で築年の新しいビルに広い面積を借りて入居しようと思うと、超高層又は高層ビルに入らざるを得ないでしょうから、建築中のビルがあるとはいっても、選択肢はかなり狭まります。しかし、広い面積でなければ、まだ、物件はあります。

2.関西などへの大規模移転があるのか、家賃はどのようになるのか

では、これらの動きが賃貸オフィスの需給関係や家賃に大きな変化を与えるのでしょうか。私は、震災が原因で大きく変化する可能性は低いと思います。主な理由は、3つあります。

一つ目。東京中心部の大型オフィスビルは、一般的には本社組織が置いてあるため、他の地方への大規模な移転が多くの企業で起こる可能性は低い。つまり、空室の大幅な上昇にはつながらない可能性が高い。本社機能を移転することは、そこで働く人たちの勤務地の変更を伴わざるをえません。それ以外にも、他企業や官公庁の人との交流が図りにくくなるなど、移転を実現するには、多くのハードルがあります。
二つ目。関東で大規模地震が発生する可能性が高いことは、皆、ずいぶん昔から認識しています。今回の地震で、地震リスクを再認識しましたが、既に織り込み済みの部分が多いと思われますので、やはり空室の大幅な上昇につながらない可能性が高いといえます。
三つ目。比較的新しいビルの人気が高まりましたが、まだ、大型の新築ビルの供給が続きます。古いビルから新しいビルへの移転があっても、景気の先行きやビル供給を考えると、すぐに家賃が上昇するというより、上昇が期待しづらい、または低下傾向が続く状況と考えます。

ここで、市場のデータはどのようになっているか確認します。地震から2か月弱経過した4月末時点の状況です。家賃の変動も他のものと同様、基本は需給関係によりますので、それを端的に表している“空室率”をみます。今年4月末時点の東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)について、三鬼商事株式会社の調査では、基準階100坪以上の主要貸事務所ビルの空室率は8.92%です。この数字は、ここ1年の数字とあまり変わりありません。

3.不動産投資家の意識

次に、大規模不動産へ投資する側の認識です。日本で投資判断を行う人は、地震発生前と現時点で、気分的な面ではなんらかの悪影響があるとは思いつつも、投資判断に使用する数値は、あまり変更していないようです。大手J-REITの投資担当者も同様の意見でした。ただし、外国資本は、様子見のようですし、投資家により、判断は異なるとは思います。

4.使用電力抑制と共益費

東日本大震災により、東京電力と東北電力の電力供給力が大幅に減少し、東京電力管内では夏の電力使用を10.3%抑える必要があるとされ、目標とする需要抑制率がマイナス15%となりました。これを受けて、オフィスビルでも各種対策が検討されています。

賃貸オフィスの場合、主にビル所有者が対策を考え、テナントに協力依頼をすることとなるでしょう。一部のビルでは既に対応が始まっています。テナントも対策への協力を進んで行うことと思います。ところが、現時点では、共用部分の費用の扱いを見落としているかもしれません。共用部分はビル所有者が管理します。大きな投資を伴わないで電力使用を抑える主な対策は、共用部分の照明の一部消灯、空調設定温度の引き上げ、エレベーターの運用台数の減少になるでしょう。

これらの対策は、通常であれば、共用サービスの低下を意味します。共益費を賃料と別に支払っている場合、共益費は共用サービスを受ける対価であり、サービスの質の低下は支払うべき共益費の値下げが適当です。また、少なくとも使用する電気料金は下がるわけですから、共益費は共用部分の費用という面からも、値下げが適当です。理屈では以上のようになりますが、この対策が一時的なものか、比較的長期にわたるものになるか、現段階ではわかりません。実際の対応は、ビル毎に異なると思いますが、節電実施前にテナントとオーナーの間で取り扱いを決めておく方が好ましいと思います。

5.閑話休題

余談ですが、新聞やテレビなどで、「東日本大震災」と「東北地方太平洋沖地震」という2つの言葉が出てきます。なぜ、違う言葉を使っているのか。疑問に思ったので調べました。

簡単にいうと、発生した“地震”について、気象庁が名前を付けます。これが「東北地方太平洋沖地震」です。一方、地震により発生した“被害”について政府が名前を付けたのが「東日本大震災」ということのようです(以上、気象庁のホームページを参考)。気象庁は、地震が起きた当日の3月11日に、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(英語名称は「The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake」)と命名したと発表しました。そして、4月1日に、菅総理が記者会見で「今回の震災について『東日本大震災』と呼ぶことと決定」したと言っています。これについては、緊急災害対策本部の資料の中で、4月1日の総理大臣記者会見の欄に「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害については、今後、『東日本大震災』と呼称することとする。」と記載されています。これを読んで、すっきりしました。
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