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中国で2つの遊園地を成功させた辣腕経営者―中国型義理人情の世界で2度のピンチを乗り切る―

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2003年3月15日

<業界分析>
中国で2つの遊園地を成功させた辣腕経営者
―中国型義理人情の世界で2度のピンチを乗り切る―

増田辰弘
アジア・マーケット・レビュー 2003年3月15日号掲載記事)


「突然の登板」

“義理人情”、日本ではもはや死語になった感のあるこの言葉が中国では立派に生きている。大手ゼネコンから中国に出向し遊園地を任されていた稲垣誠さんに本社から新たな要請が来た。

それは軌道に乗った稲垣さんの運営する遊園地は中国側に移管し、もうひとつ経営の行き詰まっている遊園地を立て直してくれという話だ。この「北京遊園地」は、北京のど真ん中にあり地の利こそ申し分なく良いものの、経営はひどい惨状で同社のいわく付きの物件であった。

この大手ゼネコンは、元々北京市内で2つの遊園地を合弁の形で運営していた。1つは稲垣さん、もうひとつは別の2人の出向者が担当していた。しかし、稲垣さんが引き受けた方の「北京九龍遊園地」は、場所は不便で、規模も北京遊園地の半分という不利な状況にもかかわらず、次第に経営が軌道に乗っていくのに、北京遊園地の方はさっぱりである。思い余った本社は、アミューズメントビジネスはやはりアメリカ人が得意だろうと、高い金をかけてスカウトしこの遊園地に投入した。しかし、このアメリカ人がひどかった。

それにどだいアメリカと中国とでは遊園地を利用する客の基本的な二一ズが異なるからどうにもならない。こんな状態で次に投入されたのが稲垣さんである。野球でいえば、7回裏、スコアは5対Oで負けゲーム、ノーアウト満塁の絶体絶命のピンチの場面でのリリーフである。もはや後がない。日本の本社もバブルが崩壊し、経営も厳しくなっており、とてもこんな暖昧なビジネスを本格的に支援する余裕はない。

「各部門の責任者を目本で研修」

これまで数々の困難なビジネスをこなしてきた稲垣さんも、さすがに今回は考え込んだ。今度引き受けた北京遊園地はまだ社員が昔の国営企業の意識のままであり、これを一から教育して再生させるには数年かかる。今度は時問との戦いでとてもそんなゆとりはない。

稲垣さんが、北京九龍遊園地に最初に赴任したのは1988年である。大手ゼネコンが、1985年に同遊園地を合弁事業で開園し、3年問でポロボロになりかけていたときである。中国側のパートナーは北京市利水局で、そこの所有地であるダムの周辺地を遊園地にした。利水局は、日本でいうと建設省の水資源開発のセクションと市役所の水遣局を合わせた様なセクションである。

ダムというものは山の中にあり、大都市にはあまりない。しかし、北京市の大きさは四国と同じ大きさであり、いわば北京の山の地域に作った遊園地である。そう考えてもらえばよい。

稲垣さんが出向した当時の北京九龍遊園地は、完全な国営企業の悪い方のスタイルであった。それも無理はない。合弁とはいえ董事会(役員会)は中国側のみで行っていた。そのツケが来たのである。

そこで稲垣さんが見たものは、「時間だから帰ります」というサービス業としては信じられない光景である。そこでまず彼は、このような構造となった根本的な原因である10人の役員と、くだんのアメリカ人をクビにした。

どの国でも、どの企業でもそうだが、全員が駄目なところはほとんどない。

一部の幹部、指導部が駄目だと全体が傾くのである。それは北朝鮮を見れば良く解る。隣の輯国と民族は同じだがあれだけ差が出るのである。

次に、稲垣さんが行ったのが人材育成である。まず、主な幹部および各部門の責任者を最初の1年で100人日本に連れて行き、東京ディズニーランド、豊島園など、日本の主な遊園地を見学させ、アミューズメントの基礎的な研修を行った。

遊園地とは何か。サービス業とは何かをじっくり学ばせた。同遊園地には、パーツ、パーツの責任者が100人、社員500人、パート社員500人で構成されていた。この100人をほぼ全員日本に連れて行き、実際に見せながら研修させたので、その後の北京九龍遊園地はガラリと変わった。

「社内体制が一新」

例えば、動物園である。今までは安全にのみ気を配り、動物と入場者に距離を置いていた。それを、牛、鹿、ひつじ、馬など可能なものから入場者が直接動物と接触できるようにした。これは子供の入場者を中心に大好評を博してくる。こんな方向転換を社員が自然とできるようになった。

2番目に行ったことが人材のスカウトである。稲垣さんは、北京市利水局の幹部に、この北京九龍遊園地を立て直すために選り抜きの人材を回してくれるよう懇願した。その幹部は、この稲垣さんの要請に応じて本当にすばらしい人材を派遣してくれた。

同社の役員陣が、まったくやる気のなかった人材から、やる気満々の人材に変わる。これで事がうまく運ばないわけがない。社内の体制、空気は見る見るうちに良い方向へ変わってきた。

第3は、遊園地そのものの近代化に取り組んだ。レストランは、高級な中華料理店、洋食店、そして庶民的な中華料理店の3つとした。遊園地では、やはり食事はメイン、きちんとしたメニューを揃えねばならない。それをきちんとやった。

後は、遊戯施設などのメンテナンスを金をかけしっかり行った。それまでは一度故障をしたらそのままの施設も多かったが、これらを一新した。そして、経理システムの近代化である。それまでは入場者数と入園料および各施設の利用料が一致しなかった。彼らの小遣い稼ぎになっていた。これをきちんと合わせるようにした。そして、多くのイベントを行い、にぎわいを演出した。

「出向してきた16人の強カ幹部」

稲垣さんのこれらのアクションで、不便な場所にあり、規模も中規模の北京九寵遊園地は蘇った。そして本社の事情で、累損を一掃し黒字体制が確立したところで、同遊園地を中国側に引き渡した。

さて、次なる難題の北京遊園地だが、稲垣さんは頭を抱え込んだ。どうにも手の打ちようがないのである。今度は、本社の事情で資金的余裕も時間もない。稲垣さんは、思い余って友人となった前の遊園地の合弁相手先であった北京市利水局の幹部に電話をかけた。その時、彼はとても忙しくて、会議がなかなか終わらず、深夜の11時半にやっと会うことができた。

その夜は、ジョークで昼食ということで深夜に食事を取りつつ、稲垣さんは遊園地の事情、日本の本社の事情を説明し、何とか助けてもらえないかと懇願した。彼はじっと稲垣さんの話を聞きながら目をうるませ、「よくそんな大事な話を私に相談してくれた。これまでお世話になったお礼にできる限りの協力をさせていただきます」と答えた。そして、何日も経たないうちに前の遊園地のスタヅフを16人も提供してくれた。

それは、北京遊園地において総経理である稲垣さんをカバーする女房役の副総経理から、財務、管理、企画の担当部長、現場責任者など重要ポストをほとんど出してくれた勘定である。さすがに稲垣さんも正直なところこれだけ人材を提供してくれて、北京九龍遊園地の方は大丈夫なのかと思ったほどである。

さて、稲垣軍団が復活すれば強い。北京遊園地の態勢が見る見る変わっていく。それに伴い客数も増えていく。今度は短期問で黒字体制とすることができた。

遊園地のような遊戯施設は不思議なもので客が入っていること自体が大きな宣伝となる。隣の子供が行ったからうちも行こうとなる。遊戯施設も客が増え出すと担当者そのものが張り切り、新しい企画が出てく糺すべてが好循環で回りだしたのである。

 「税務暑には一歩も引かず」

実は、この利水局の幹部が同遊園地の経営でもう一回登場したことがある。同遊園地の申華料理店でラーメンを始めた。これが爆発的に当たる。そうしたら、地元の税務署が目を着けた。「あのレストランは、暴利をむさぼっている」。その税務署の女性局長は、激しく追求してきた。

こんな時、普通の日本人は何とか交渉して妥協点を探そうとするが、稲垣さんは頑固である。「原価計算はきちんとしてある。利益にはきちんと税金を支払っている。何もやましいことはない」と、一歩も譲らない。

頑固と頑固で双方一歩も譲らない。2ヵ月間交渉したがまったくらちが開かない。稲垣さんは、ついに裁判にかけることを決断した。第三者に公正に判断して貰うというわけである。そしてついにラーメンの税金で裁判が始まった。

その時に、利水局の幹部の訪問があった。今度はお願いがあるという。何かと理由を聞けば、レストランの税金の話である。税務署も面子がある。ここは訴訟を取り下げてくれまいか、そして、今後は税金をきちんと処理すると筆書いてくれまいか、という内容であった。

ここで稲垣さんはすべてを察知した。命の恩人にお願いされれば断ることなどできよう筈もない。稲垣さんは彼の信頼に応えた。中国社会は奥が深い。どこを押せば稲垣さんが折れるのかをよく見ている。

中国ビジネスは、超合理的な面がある反面、好き、嫌い、貸し、借りという中国型演歌の面がある。稲壇さんも当局の不当な圧力には屈しないぞという超合理的な顔と、利水局の幹部の顔を立てるという顔の両面を持つ。やはり中国ビジネスのプロなのである。

(産能大学経営学部教授増田辰弘)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

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