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中国における営業税の増値税一本化改革の全面推進を簡潔に読み解く(連載の二/全二回)

中国ビジネスレポート 税務・会計
邱 奇峰

邱 奇峰

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2016年9月29日

2.金融サービス業

世界の他の国と比較してみると、中国は長期にわたり、金融サービス業(銀行業務及び保険業務などを含む)に対して5%の営業税を課しており、また、中国国有銀行と保険会社の市場における独占度は相対的に大きいことから、金融サービス業に対し増値税を課すことは容易であろうと中国の税務部門は見ていた。しかし、世界各国の状況を見てみると、金融サービス業に対し、増値税を課しているところは多くはなく、中国は現在、金融サービス業について営業税から増値税に移行させるための方法を模索している段階にある。

(1)課税範囲

36号文規定によると、金融サービスとは、金融と保険を取り扱う業務活動を指し、これには貸付サービス及び直接有料金融サービス、保険サービス、金融商品の譲渡が含まれる。

金融サービスの定義は実践での展開状況に伴い更新されることに注意が必要である。例えば、デジタル決済サービス、インターネットバーチャルグッズの発展により、「金融サービス」の特徴的意味合いが多様化して行くことが見込まれる。

(2)課税税率

金融サービス業が一般課税方式を適用する場合の税率は6%であり、簡易課税方式を適用する場合の税率は3%である。従来は「『営業税の増値税一本化試行方案」の公布に関する国家税務総局による通知」(財税[2011]110号文)の規定に従い、金融業は原則として全てに簡易課税方式が適用されていたが、当時は主に税務コンプライアンス(税務コンプライアンスとは通常、納税義務者が遅滞なく且つ正確に申告し、期日通りに納税することをいう。以下同じ)と税収徴収管理の利便性の観点から、このような課税方式が採用されていた。しかし、今回の36号文によって一般課税方式に変更されたことで、一部の金融サービス業が増値税控除のチェーンに組み入れられたと同時に、試行納税者に対してもこれまで以上に税務コンプラインスの徹底が強化されることになる。

(3)過渡的政策及び税収優遇

現在までのところ、金融業に対しては、不動産業及び建築業と同様の過渡的措置が施されていない。また、実施範囲拡大日前に締結した契約又は形成された商取引上の承諾についても、同様に実施範囲拡大日から6%の増値税を納付することになっている。

金融業の優遇政策については、36号文は、旧営業税における金融業の優遇政策を基本的にはそのまま承継している。例えば、人民銀行による金融機関に対する貸付、統一借款・統一返済業務において、企業グループ又は中核企業又は財務会社が一定の条件を満たしたうえでグループ内企業から受領する利息収入、適格外国機関投資家が国内会社に委託し、中国で証券売買を代表とする業務に従事して取得した一部金融商品の譲渡収入、一年以上の生命保険商品により取得した保険料収入などは従来通り免税対象となる。

3.生活サービス業

(1)課税範囲

生活サービス業は営業税の増値税一本化改革後に新設された課税取引項目であり、旧営業税の「文化体育業、娯楽業、サービス業」といった課税取引項目を総合したものである。36号文では、生活サービス業とは都市部住民の日常生活上のニーズを満たすために提供される各種サービス活動を指し、文化体育サービス及び教育医療サービス、旅行娯楽サービス、飲食宿泊サービス、居住民の日常サービスが含まれるとしている。

(2)課税税率

生活サービス業は、一般課税方式を適用する場合の税率は6%であり、簡易課税方式を適用する場合、徴収率は3%である。

(3)仕入れ税額の控除ができない生活サービス項目

36号文の規定によると、飲食サービス、居住民の日常サービス、娯楽サービスを受ける側は仕入れ税額の控除ができないことになっている。この種のサービスは集団福利、個人消費に使用されやすいため、控除範囲に組み入れられておらず、納税者が上述サービスの控除証憑を取得した場合であっても仕入れ税額の控除はできない。しかしながら、同じ様に自己使用のものと混同されやすい小型自動車、ヨットは2013年に増値税控除範囲に組み入れられているため、政策の動向に随時注意を払うようにするとよい。

(4)税収優遇

36号文では、旧営業税における生活サービス業の優遇政策がほぼ完全に承継されている。例えば、医療機関が提供する医療サービス、学校教育を行う学校が提供する教育サービス、文化組織が同組織の敷地内で文化サービスを提供する際の入場券の収入、託児所と幼稚園が提供する保育及び教育サービス、老人介護施設が提供する老人介護サービスなどには、これまで通り優遇政策が適用される。

■ 納税者の営業税の増値税一本化改革に対する対応措置

1.政策の動向を随時把握しておく

現在の営業税の増値税移行政策には、(関係規定又は実務を通じて確定していくなど)さらに明確化されるべき事項がまだあり、納税者は政策の動向を随時把握しておく必要がある。増値税は損益計算書に直接反映されることはないものの、収益、原価、費用、営業に係る税金及び附加費用などの項目で損益計算書に影響を及ぼすものであることに注意が必要である。従って、納税者は政策及び規定の許容範囲内で、業種の特徴と合わせて、税収計画を策定し、政策を合理的かつ充分に利用しながら、税負担の軽減と抑制を図り、各税金費用(例えば、企業所得税、都市建設税及び教育附加費用など)を全面的に考慮し、税負担の全体的な変化を読み取りながら、営業税の増値税一本化改革が経営成績に及ぼす全体としての影響を把握するようにするとよい。

2.納税者の内部リスクコントロール

営業税の増値税一本化改革後、納税者は、税制変化により各種税収面での違法リスクが生じないようにする必要がある。営業税が相対的に簡素化された管理制度であったのと比べて、増値税は日常事項、納税申告、専用発票、税務機関の管理方面における要求がいずれも複雑化している。納税者は収益認識及び仕入れ税額控除、発票リスクを重点ポイントとして注意を払い、税務コンプライアンスを徹底するうえで有効な税務内部統制制度を制定する必要がある。

納税者は発票管理の規範化に特に力を入れる必要がある。中国で実施しているのは、発票による税統制制度であり、発票の規範化がなされていなければ、税務検査と査定徴収といったリスクを直接に招くことになり、最悪の場合、刑事罰に処される可能性もある。なかでも、「三つの流れ」(即ち、銀行の受領支払い証憑における資金の流れ、発票の発行者と受領者間の発票の流れ、物の流れ)に整合性がないために控除ができなくなるというリスクを防ぐ必要がある。

3.税務機関との意思疎通及び協力

納税者は、主管税務機関に積極的に協力し、営業税の増値税一本化改革に伴う一連の徴収管理準備作業(税務登記情報の補足、一般納税者資格登記、増値税発票申請、発票発行機の設置と研修、各種減免税優遇事項の届出、オンライン申告システムの開通、期日通りに申告し納税することを含む)をしっかりと行う必要がある。

税務申告について、注意しておきたいのは、通常、税務申告は毎月行うという暗黙のルールがあり、即ち、納税者は毎月、増値税納税申告表を提出しなければならず、期限は一般的に翌月の15日までとされているのだが、、現行規定によれば、増値税システムに新たに組み入れられた納税者の第一回目の増値税申告期限は2016年6月25日まで延長されており、即ち、実際には10日間延長されている。

以上から、営業税の増値税一本化改革は、中国において、ここ数年の税務方面における最も大きな政策調整であり、現在すでに全業種を対象に増値税制度が実施されている。営業税の増値税一本化改革実施対象に組み入れられた納税者は、最新の政策をしっかりと把握し、税務コンプライアンスを徹底すると同時に、また他方では、政策の許容範囲内で係る税収優遇措置をできる限り受けられるようにしておくことが望ましい。必要に応じて、営業税の増値税移行政策の最新の動向を随時把握できるよう、弁護士、税理士、会計士などの専門家の起用も検討するとよい。

(里兆法律事務所が2016年5月27日付で作成)

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