日本企業がどの国でも直面する組織の共通四課題⑨「意思疎通の壁」の破り方
第9回
意思疎通の壁の破り方
前回で先に挙げた四つの方法(優秀な通訳を確保、日本人が中国語を学ぶ、中国人が日本語を学ぶ、経営の現地化)は全部否定してしまいました。しかし、壁を破る方法はまだあります。
■ 解決方法①駐在任期の長期化
一つは駐在任期の長期化です。5年以上現地にいると耳が慣れて、こちらは流暢に話せなくても、相手の言いたいことは分かるようになってきます。
「これに困っているらしい」「いまは本当のことを話していない」「あの話をズバッと言ってほしいんだな」……。ディテールまでは完璧に理解できないものの、不思議と相手の気持ちは読み取れるようになります。「かなり怒ってるな。ここはちゃんとケアしておかないと爆発しそうだ」と先回りするようなことも、年数を重ねるとだんだんできてきます。
だから、創業から組織を率いるオーナー経営者や、任期10年を越えるような駐在員が常駐する会社では、コミュニケーション不全の問題で悩むケースはあまり見ません。
再赴任でも似た効果があります。初回で多少なりとも現地に慣れ、従業員との関係性もできているため、赴任当初の手探り状態をショートカットできる。お互いのやり方・性格が分かっていれば、コミュニケーションは取りやすいものです。
なお、この解決方法には適性の問題があります。任期が長ければいいわけではなく、10年いても中国語はサッパリという人もいれば、「2年でそこまで!」というほど流暢に使いこなす人もいます。駐在任期の長期化は、個人の異文化コミュニケーション適性を考慮するなら「意思疎通の壁」を破るのに有効な方法です。
■ 解決方法②「無理やり直接コミュニケーション」
①の駐在任期の長期化は、本社の海外人事を変更する必要もあり、実際にはなかなか実現しません。5年以上経って任期が一回りしないと効果も見えない。一方、この②は赴任当初からチャレンジできるので、私はこちらを強くお勧めします。
「無理やり直接コミュニケーション」を敢行する場合、日本人には大きなアドバンテージがあります。「漢字」を使った筆談です。中国と日本は、世界的にも珍しい「日常的に漢字を使う国」。漢字なんて図形にしか見えないような言語圏の人たちに比べればかなり有利です。
日本人は、中国語の知識がゼロであっても、漢字を見ればだいたい分かります。「白板」と書いてあれば「ホワイトボードね」と推測できます。中国と日本で漢字の形が少し違っていても大丈夫。例えば「日本?」。「語」の左側は変形していますが、たいていの日本人は「日本語」と理解できますよね。
中国人は日本の漢字はほぼ読めるし、「AI」「WeChat」のような英語も共通。中卒以上なら簡単な英単語もいけます。ひらがなやカタカナは難しいけれど、漢字の熟語の意味はかなり近いです。例えば「信頼感」などはそのまま漢字で書けば伝わります。
また、近年はAIが発達し、自動翻訳・通訳のレベルも相当上がってきました。中国の駐在員ならWeChatの翻訳機能をフル活用している人も多いでしょう。直接コミュニケーションのハードルは、5年前と比べても劇的に下がっています。
親近感・信頼感を高めるには直接対話が不可欠です。通訳を見て話をするのと、相手の顔を見て話を理解しようとするのでは、お互いに受け取る感じがまったく違います。
よく言われることですが、コミュニケーションにおいて感情や態度を伝える際に、言語そのもので伝わる割合は7%程度だそうです。伝えたいことの大きな方向性は、声のトーンや目つき、手振り、口調の速度など、言語以外を通して伝わります。
多少強引でも直接対話を重ねていくと、言語能力の向上より早いスピードで、お互いがどんな人間かを理解するようになります。相互理解が深まれば、言語の壁が完全には破れていなくても、文化の壁と立場の壁を「一緒に越えていこうね」という姿勢でコミュニケーションができる。これは大きな違いです。
■ 「言葉の壁」ではなく「意思疎通の壁」の打破を
通訳や外部ツールを併用する、あるいは任期の長期化を検討するなど、いずれの施策と組み合わせるにしても、何とかして直接コミュニケーションを取り続けていくことは、どんな会社・駐在員もやった方がいいと思います。私自身も実践してすごく手応えを感じました。
言葉の壁だけを解決してもダメで、本当に想い・意図を伝えるには、文化の壁と立場の壁も乗り越えなければなりません。
それには、直接相対するコミュニケーションが必須。通訳依存でまず言葉の壁を破ろうとするより、無理やりでも直接コミュニケーションでぶつかっていった方が、むしろ第二、第三の壁は乗り越えやすくなると思います。