医薬品企業の学術会議協賛におけるコンプライアンス上の留意点

はじめに

近年、医薬品業界の規制環境は大きな転換期を迎えている。医薬品分野における反腐敗の取組みが常態化し、一層深化するにつれ、複数の当局による連携した監督やデータの相互照合は、もはや業界の常態となっている。法令面では、2025年に改正された「中華人民共和国反不正当競争法」(以下「反不正当競争法」という)が商業賄賂に対する規制を一段と強化し、「贈賄・収賄の一体的摘発」(行贿受贿一起查)の方針を具体化した。また、国家市場監督管理総局が公表した「医薬品企業の商業賄賂リスク防止に関するコンプライアンスガイドライン」(医药企业防范商业贿赂风险合规指引)は、協賛、寄付等を高リスクの場面と位置付け、コンプライアンス上の境界線を明確にしている。さらに、2026年には、最高人民法院及び最高人民検察院による「汚職・賄賂刑事事件の処理における法律適用の若干の問題に関する解釈(二)」(关于办理贪污贿赂刑事案件适用法律若干问题的解释(二))が施行されるとともに、「医薬情報担当者管理弁法」(医药代表管理办法)の運用が開始され、学術プロモーションの実質面でのコンプライアンスに対して、より厳格な要求が課されることとなった。
本稿では、コンプライアンス実務の経験を踏まえ、企業が第三者の主催する医薬学術会議に協賛する際に特に留意すべき主要な場面と審査のポイントを整理し、実務上活用可能なコンプライアンス上の指針を示す。

本文

Q1:事前承認において、会議の真実性及び学術性をどのように審査すべきか。

A1:協賛対象の会議が実際に開催され、かつ学術的価値を有することは、協賛のコンプライアンスを確保するための前提である。審査に当たっては、真実性と学術性の両面を考慮する必要がある。
真実性の審査については、企業は、会議の開催前に、協賛を受ける側(主催者)から提出された協賛募集要項(招商函)、会議日程、開催通知等の基礎資料に基づき、当該資料自体に偽造又は改ざんの痕跡がないかを重点的に確認するとともに、主催者の有効な印章が押印されているかを確認し、会議の基本情報が真実かつ信頼できるものであることを確保すべきである。また、提出された会議資料が申請された会議テーマと明らかに関連しない場合も、真実性に疑義があることを示す兆候であり、企業は十分に警戒し、事実関係を確認すべきである。
学術性の審査については、企業は会議日程の合理性を重点的に審査すべきである。具体的には、全体の議事日程が客観的な学術討論及び疾患に関する知識の共有を中心としているか、時間配分が通常の学術会議として合理的なものか、日程中に「未定」の議題や漠然とした議題が多数含まれていないか、医師向けの論文執筆指導や単なる症例共有など「個人のスキルアップ」を目的とした議題ばかりで、中核となる学術的内容を欠いていないか、といった点を確認する。こうした学術的内容の水増しが認められる場合、企業は当該会議の学術的価値を慎重に評価し、実質的な学術的内容を伴わない会議に費用を支出することのないようにすべきである。

Q2:講演者又は座長に講演料を支払う場合、コンプライアンス上どのような点に留意すべきか。

A2:第三者主催の会議に協賛する場面において、講演料の支払には通常2つの形態がある。すなわち、企業がサテライトシンポジウムやテーマ別セッションの講演者に直接支払う形態と、主催者が企業からの協賛金を用いて講演者に支払う形態である。いずれの形態であっても、審査の中心は、真実性、目的の適法性及び金額の合理性の3点である。
第一に、真実性については、講演者と聴講者の双方が実在することが求められる。講演者は実際に出席し、一定の学術的価値を有する講演を行う必要があり、オンライン会議において視聴時間のみを計上させる行為(いわゆる「挂时长」)や、講演者が実際には参加していないといった虚偽の事態を防止しなければならない。聴講者も、関連分野の実在する医療従事者でなければならない。第二に、目的の適法性については、講演料の支払は客観的な学術交流に基づくものでなければならず、これを処方データの不正な収集(いわゆる「統方」)の対価や処方促進のためのリベートとして用いることは厳に禁じられる。第三に、金額の合理性については、企業が直接支払う場合、講演者の職称に応じて段階的に報酬を設定し、最低講演時間の基準を設けたうえで、公正価値(フェア・マーケット・バリュー)に適合させる必要がある。
主催者が講演料を支払う場合にも、コンプライアンスの観点からの追跡が必要である。主催者が企業の協賛金を用いて講演者に講演料を支払う場合、規制当局からは、企業が当該費用を間接的に負担したものと評価されるおそれがある。企業は、主催者の支給基準を追跡・検証し、金額、講演者の格付け、承認手続及び裏付け資料の保存の各面において、自社のコンプライアンス要件と整合していることを確認し、利益供与の疑いを回避すべきである。

Q3:学術会議における医療機関の関与について、コンプライアンス上どのように審査すべきか。

A3:協賛する会議に医療機関が関与する場合、企業は特に注意を払う必要がある。医療機関は、医学学術活動の参加者であると同時に、医薬品の調達、院内採用品目への収載及び処方に関する意思決定主体でもあるため、審査に当たっては、内部承認の形式にとどまらず、取引の実質に着目する必要がある。
医療機関が主催者である場合、企業は原則として、当該会議への直接の協賛を避けるべきである。極めて高い学術的価値があり、どうしても協賛が必要な場合には、資金が学術活動に充てられているかを重点的に審査するとともに、特別な承認手続を設けるべきである。医療機関が通常の運営機関(承办方)又は協力機関(协办方)である場合には、企業は、当該医療機関の実際の関与の程度と受領する費用が見合っているかを重点的に確認し、その職務内容の説明及び費用の算定根拠を審査すべきである。医療機関が単に会場として利用される場合であっても、企業はその関与の度合いを総合的に評価する必要がある。会議の規模が小さく参加者の大半が当該医療機関の医師である場合や、会議テーマが当該医療機関の強みとする診療科に集中している場合には、会場使用料の合理性及び講演者の構成をさらに審査し、当該会議が単なる院内での販売促進活動ではなく、開かれた学術交流であることを確保すべきである。

Q4:協賛する会議に第三者サービス事業者が関与する場合、どのような点に留意すべきか。

A4:第三者主催の会議に協賛する際、主催者がイベント運営会社、旅行会社等の第三者サービス事業者の起用を予定している場合、企業は資金の流れに注意を払い、第三者が利益供与の経路とならないよう防止しなければならない。
審査の核心は、各当事者間に開示されていない関連関係が存在しないかを確認することにある。具体的には、企業は、①第三者サービス事業者と主催者又は講演者との間に関連関係がないか、②主催者の主要な関係者と第三者サービス事業者との間に関連関係がないか、③当該会議において複数の第三者サービス事業者が起用されている場合には、これらの事業者相互間に関連関係がないか、を重点的に審査すべきである。資金の独立性に影響を及ぼし得る関連関係や、利益相反のおそれがある関連関係が判明した場合、企業は慎重に対応を進め、必要に応じて主催者に対し、サービス事業者の変更又は追加のコンプライアンス上の説明を求めるべきである。

Q5:同一の主催者が同日に複数の会議を開催する場合、協賛のコンプライアンス上、どのような点に留意すべきか。

A5:協賛を予定する会議が集中して開催される場合、企業はこれを個別の単発イベントとして捉えるのではなく、全体の枠組みの中で総合的に評価すべきである。
企業は、会議の形態に応じてその合理性を審査する必要がある。同日・同一会場でテーマの異なる会議が開催される場合(大規模な年次総会の下に設けられた並行分科会等)には、協賛による権益の範囲を確認し、費用が自社の実際に参加する分科会のみに対応しているかを確認する。同日・同一会場で同一テーマの会議が開催される場合には、複数回に分けて開催する必要性及び聴講者の重複度合いを主催者に確認する。同日に複数の地域で同一テーマの会議が開催される場合(各地での巡回講演等)には、これを一体のプロジェクトとして扱い、講演者の行程及び費用の必要性を確認する。同日に複数の地域でテーマの異なる会議が開催される場合には、各イベントの実態を個別に確認すべきである。
また、いずれの場合においても、企業は参加者の重複度合いを重点的に確認すべきである。複数の会議に招待された聴講者が大きく重複している場合や、同一の参加者が複数の会議にまたがって参加している場合には、企業は事業部門に対し、各会議が独立して開催される学術的価値及び対象聴講者の相違について説明を求めるとともに、社内の承認記録に関連付けの注記を残し、重複協賛を厳格に防止すべきである。

Q6:協賛による権益、金額及び会議の運営内容の合理性をどのように審査すべきか。

A6:協賛による権益の内容、費用の金額及び会議の付随的な運営内容は、協賛行為の商業的合理性及びコンプライアンスに直結する。
協賛による権益及び金額については、企業は、権益の内容が合理的であるかを重点的に審査すべきである。協賛金額が高額であるにもかかわらず、得られる権益の多くがバックパネルやロゴ掲出等の単なる企業イメージの露出にとどまり、実質的な学術的コンテンツの発信を伴わない場合には、事業部門に対し、その商業上の合理性について説明を求めるべきである。あわせて、企業が当該会議において圧倒的な主導的地位にあるか、又は実質的に唯一の協賛者となっていないかにも留意し、協賛比率の過度な高さや金額の突出によって利益供与の疑いを招くことのないようにする必要がある。
会議の運営内容については、企業は、開催地の選定及び付随するプログラムを重点的に審査すべきである。具体的には、開催地が景勝地や温泉リゾート等の娯楽・レジャー施設に所在していないかを確認し、高級ホテルやリゾート型の目的地で開催される会議については、学術会議としての必要性との整合性を評価する。また、会議期間中に観光・見学、抽選会、報奨的性格を有するコンテストや表彰等の学術以外の活動が組み込まれていないかを審査するとともに、食事等の付随的な手配と会議日程との関連性にも留意し、食事時間が過度に長い、又は会議会場から離れた場所で行われる等により、会議全体が単なる接待や旅行に変質することのないようにする必要がある。コンプライアンス審査においては、会議の日時、場所、金額及び全体の議事日程が学術交流を中心に組み立てられていることを確保し、企業の協賛支出が純粋かつ真正な学術的背景を有するものとなるようにすべきである。

おわりに

医薬品分野における反腐敗の取組みが常態化する中、第三者主催の学術会議への協賛は、規制当局による監督の重点領域の一つとなっている。企業においては、本稿で整理した審査ポイントを踏まえ、会議の真実性・学術性、講演料の支払、医療機関及び第三者サービス事業者の関与、会議の開催形態並びに協賛による権益・会議運営の各段階について、既存の社内制度及び承認フローに不備がないかを点検し、協賛支出が真実かつ合理的な学術交流に裏付けられたものとなるよう、コンプライアンス管理体制の強化を図ることが望まれる。

(執筆者:北京市中倫(上海)法律事務所 邱靖弁護士、張イ民弁護士)