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非常時の会社休眠可否と特殊形態の会社解散(破産・夜逃げ)の問題

中国ビジネスレポート 投資環境
水野 真澄

水野 真澄

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2020年3月12日

中国において会社を休眠させることはできるのでしょうか。また、外資企業が破産した場合、若しくは、適切な清算手続きを行わなかった場合、関連する人員(出資者、法定代表人、高級経理など)には、どの様な問題が生じるのでしょうか。

1.休眠(実質的な休眠とコスト)

(1)中国における休眠の可否
今回の新型肺炎の流行の様な非常事態において、若しくは、非常時ではなくても、特殊事情の発生により、会社の操業を一時停止したい場合が有ります。
日本では休眠という方法が採用されますが、中国ではこの様な対応は可能でしょうか。

休眠とは、行政機関への届出を前提として、会社を休業させ、一定の手続(税務申告と最低限の行政機関報告)だけで会社を存続させることです。
休眠手続を取るのは、会社経営は苦しいものの、会社を解散させるまでの決心がつかない場合で、休眠により、活動を停止し、経費支出を止める事で、状況判断の時間を確保する事ができます。その後、経営環境が好転すれば、会社を復活させることができますので、再度、一から始める手間は省けます。

ただ、中国の場合、残念ながら休眠制度は有りません(注)。
会社法・第211条には、会社設立・開始後、やむを得ない理由なく、6ヶ月間超の期間、連続して活動を停止した場合、会社登記機関(市場監督局)は、会社の営業許可証を取り消すことができると規定されています。更に、営業許可証を取り消された場合、企業法人登記管理条例・第20条により、会社登記抹消が義務付けられます。
よって、6ヶ月超の休業は、法的には、会社の解散に直結します(注2)

注:
例外的に、中国人個人商店(中国語:個体戸)や中国人個人経営企業の場合、税務登記管理弁法・第21条~25条に、操業休止手続(休眠に準じた手続)が認められていますが、外資企業に対しては、この様な制度は有りません。

注2:
広州市・市場監督局でのヒアリングでは、今回の新型肺炎は特殊事情であるため、状況説明をすれば、(6ヶ月ではなく)感染防止危険終了まで、活動停止期間を中止することができる、との回答でした。

(2)実質的な休眠
法律上は、上記(1)の通りですが、実務上検証が必要となるのは、「活動停止というのは、どの様な状況を指すのか」、「行政機関は、どの程度厳格に管理を行っているのか」という点でしょう。
上海市・広州市の市場監督管理局に実務状況をヒアリングしましたが、「会社の休業(一時的な操業停止)を認める手続は無い。但し、会社が、適切に年度報告(年一回のオンライン手続)を行い、且つ、会社の担当者と電話連絡ができる場合は、通常、営業許可証の取消までは求めない」との事でした。

また、以前は、発票を発行しない月が2~3か月続くと、税務機関が税務登記の抹消を要請する傾向があり、その後、企業登記抹消(清算)に移行する結果となりました。
最近の状況を、上海・広州の税務機関にヒアリングしましたが、両地域共に、収入が無い状況が続いても、毎月、適切に税務申告をすれば(収入ゼロの前提)、問題ないとの回答でした。

上記の市場監督局・税務局でのヒアリング結果を踏まえると、会社として実質的な活動を停止し、収入が無い状況が継続しても、毎月の税務申告と年度報告に対応すれば、会社登記抹消は不要と判断できますので、かつてに比べると、行政機関の対応は、柔軟になっているように思えます。
注意を要するのは、税務申告・年度報告を適切に実施しないと、経営異常者リストに掲載され、会社名・董事などの情報が公開されるだけでなく、法定代表人、その他の情報が公安、税関、税務局等の政府機関に通告される点で、この対応は必須です。

(3)実質的な休眠の実務上の問題点
税務申告・年度報告を適切に行えば、実質的な企業の経営活動を停止してもよいというのは、日本の休眠と、ほぼ同様です。
ただ、中国では、税務申告は月次で実施する必要が有りますので(日本に比べると、はるかに手間がかかる)、出資者自身の対応が難しい場合があり、記帳代行会社などに対する委託コストが生じます。
また、中国は、原則としてペーパーカンパニーが不可ですので、物理的なオフィスと社員(社会保険納付必要)の存在が必要条件として挙げられます。
よって、収入0申告を継続すればよいとはいえ、オフィス家賃と、最低1名の人件費・社会保険料が必要コストとなります。
ただ、人員に付いては、かつて、行政機関による共同年次検査が実施されていた時代(2014年以前)は、社員不在では、営業許可証の更新ができない場合が多かったのですが、最近は、社員無しでも問題提起を受けない事例が増えています。この点、リスクはありますが、状況を見て判断する事も可能です。
オフィスに付いては、特定の地域では、行政機関黙認で、登記住所借りが行われている事例(物理的なオフィス無しで、運営されている場合)は有りますが、それ以外の地域では、サービスオフィスでもいいので、最低限のスペースを確保する必要が有ります。
この様なコストが、実質的な休眠の必要コストとなります。


2.外資企業の解散と出資者の責任 (通常清算、破産、夜逃げ)

(1)出資者責任の前提
外資企業は、殆どの場合、有限責任会社形態で設立されます。よって、出資者は出資金の範囲内で責任を負う事になり、外資企業が債務弁済できない場合でも、出資者が債務保証などをしていない限り、代理弁済義務は有りません。

(2)清算・破産のステップ
外資企業の清算(任意清算・特別清算)と、破産の関係は、以下の通りです。

1) 解散決議
2020年1月より、外商投資法が施行され、外資三法(独資企業法・中外合資企業法・中外合作企業法)が廃止されています。5年間の移行期間が認められていますので、場合によっては、外資三法(特に、中外合資企業法)の規定に基づく企業はあり得ますが、それ以外の企業は、会社法に基づき解散を決議します。
会社法・第43条では、会社の解散は、経営期間の満了、若しくは、定款に定めた解散事由に該当する場合を除き、出資者総会の三分の二以上の議決権を有する出資者の可決を必要としています(中外合資企業法では、董事会の満場一致決議)。

2) 任意清算
会社清算に際しては、解散事由発生日より15日間以内に清算委員会を組成し、清算業務を開始する必要が有ります。清算委員は出資者により構成されると、会社法・第183条に規定されていますが、通常は、董事会メンバーが、清算委員となります。

3) 特別清算
期限を過ぎても清算委員会を組成せず、清算を開始しない場合、債権者は裁判所に、関係者を指定して清算委員会を組成し、清算業務を行なう事を申請できると、会社法・第183条には規定されています。
この様に、会社が清算委員会を組成せず、自主的な清算手続きを開始しない場合、債権者主導で清算委員会を組成して、清算作業を行う事がありますが、これが、特別清算と呼ばれる方法です。

この様に、任意清算と特別清算の違いは、清算委員会を自社(出資者)で組成できるか否かであり、何れの形式であっても、会社資産の範囲で債務弁済を完了できるようであれば、双方、清算と位置付けられます。
一方、債務弁済ができない場合、清算形式での会社の解散はできなくなり、破産手続に移行する事になります。

4) 破産
会社法・第187条に、清算委員会は会社の財産を清算し、資産負債表と財産リストを作成した後、会社の財産で債務返済が足りない事を発見した場合、法に基づき人民裁判所に破産宣告を申請するものとする。会社が人民裁判所に破産を宣告された後、清算委員会は清算業務を裁判所に引渡すものとすると規定されています。
つまり、会社の残余財産により、債務弁済ができない場合、裁判所に破産を申告する必要が有ります。勿論、債権者が、債務弁済を求めて訴訟を提起する事により、破産に移行する場合もあります。
破産手続きになると、会社の自主的な解散手続はできなくなり、裁判所主導で、手続が進められます。

(3)破産に際しての出資者・高級管理職の責任
たとえ破産(一部・全部債務の不履行を伴う解散)であっても、不正行為が無く、適切に破産業務が終了した場合、出資者・高級管理職などが、賠償責任を負わされることは有りません。これは、有限責任会社の前提である、出資者有限責任制の原則によるものです。
ただ、破産会社の董事・高級職員で、企業の破産に対して個人的責任を負う場合、破産完了日より3年間は、他の組織の董事・監事・高級管理職に就任する事ができないという罰則は適用されます(会社法第146条)。

一方、董事・高級職員などが法律に違反し、会社に損害を与えた場合は、会社法第149条により、賠償責任が生じます。

(4)夜逃げ
破産を含め、適切に会社の解散手続を行った場合は、上記の通りですが、夜逃げなどの形で債務者が適切な破産処理を行わない場合は、出資者、董事などは、厳しい責任を問われる可能性があります。
破産法第129条には、債務者が適切な破産処理を行わない場合(断りなしに住所地を離れた場合)、人民法院は、訓戒・拘留手段を実行する事ができ、また、破産法第125条に基づき民事訴訟が提起された場合、人民法院は公安局出入境管理局経由で、出国停止処分を取る事ができると規定しています。

また、「外資の非正常撤退による中国関連利益の国際間の追及と訴訟活動の手引(商資字[2008]323号)」により、正常な会社解散業務を行わず、債権者に損害をもたらす場合、有限責任会社の出資者、董事は相応の民事責任を負い、会社の債務に対して弁済責任を行う事を定めると共に、国際間の条約、外交チャネル等を使用した引き渡し請求を実行すると定めています。

つまり、夜逃げした場合(特に、それにより、債務の不履行が有る場合)、中国滞在時、再入国時に、身柄を拘束される危険性がありますので、この点、適切な対応が必要です。

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