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地方政府投資拡大への懸念 (1)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2012年10月11日


はじめに
最近地方政府が次々に投資拡大計画を発表し、国家発展・改革委員会がプロジェクト認可を前向きに行っているため、一時「政府が1兆元の追加景気対策決定」といった「誤報」が流布された[1]。しかし、温家宝総理が夏季ダボス会議で明確にしたように、政府は追加補正予算を編成してはおらず、むしろ財政収入を1兆元下回るレベルにまで財政支出を厳しく抑え込んでいる。他方、地方政府の投資拡大計画に対しては懸念の声が大きい。本稿では、これに関するいくつかの論調を整理して紹介する。

1.現状
9月初以降、国家発展・改革委員会が認可を公表したプロジェクトは25の都市軌道交通計画、13の道路建設、10の公益事業プロジェクト(汚水処理・ゴミ焼却発電等)、7つの港湾・航路プロジェクトが含まれており、総投資規模は1兆元を超えている。1-9月に国家発展・改革委員会が認可を公表したプロジェクトの総投資額は5.02兆元前後となっている。更に観察すると、9月に公表したプロジェクトの実際の認可は4-8月に行われており、4月が3件、5月が3件、6月が17件、7月が11件、8月が22件と、プロジェクト認可が月を追うごとに明らかに加速されている(中国証券報2012年9月26日)。
現在、広東・天津・重慶・寧波・南京・長沙等13の省市が投資促進計画を打ち出しており、その金額は10兆元前後に及んでいる。そのうち最も多いのが交通インフラの建設である(経済参考報2012年9月26日)。
これらのプロジェクトの資金源は、まず地方政府自身が25-50%を自己負担しなければならず、残りの資金は地方政府が銀行からの借入れ、企業債、社債等[2]により調達することになる(中国証券報2012年9月26日)。
例えば、招商証券は次のような試算をしている。
軌道交通のうち、26都市の地下鉄・都市軌道交通プロジェクトが国家発展・改革委員会から認可されており、対象都市は、上海・広州・深?等の一線都市、西安・太原・常州等の二、三線都市が含まれ、総投資資金額は約7007億元となる。このうち、地方政府の負担は2457.32億元で、投資総額の35%であり、残りは銀行借入れ、軌道交通の運賃収入、及び沿線の土地開発収入でまかなわれることになっている(経済参考報2012年9月26日)。
つまり、中央政府はただプロジェクトを認可するだけで、資金手当の責任は負わない。必要資金は地方政府が自身で調達しなければならず、それができなければプロジェクトは画餅に帰すことになるわけである。

2.プロジェクトの資金調達難
経済参考報2012年9月26日は、次のように伝えている。
国家情報センターマクロ経済予測処の祝宝良処長は、「現在交通輸送建設は投資コストの上昇・資金調達の難度が増大するという2重の圧力に直面している。膨大な資金不足は、交通輸送インフラ建設における際立った問題である」と述べている。

湖北省発展・改革委員会は率直に「わが省の重大投資プロジェクトを含む基本建設プロジェクトの資金不足は平均3億元である」と語る。これは、企業が資金面でかなり逼迫し、資金不コストがかなり高いという争うことのできぬ事実を示している。データによれば、湖北省の今年1-7月期の財政収入は前年同期比20.6%増であったが、この伸びは前年同期より21ポイント反落している。
市場関係者は、「大規模な投資建設は、ガソリン・セメント・鋼材等の基本原料価格を推し上げ、物価全体を高騰させるのではないか」と心配する。
北京工商大学経済研究センターの周清傑主任は、「もし依然としてサプライサイドの立場から経済を刺激する、思考の慣性から脱することができなければ、生産能力の過剰という悪性循環が継続する可能性がある。このほか、大規模なインフラ投資建設は、公共施設の遊休をもたらし、大量の資源を浪費し、一部のプロジェクトは不良債権化することになろう。これは地方財政に更なる圧力をもたらすだろう」と述べている。

今年9月上旬、中金公司研究部マクロ・不動産合同調査研究団が中部興隆の重要省である湖北・湖南に赴き、武漢・孝感・長沙・湘潭の4都市の政府投資状況と不動産市場の最新発展状況を視察した。
その調査結果によれば、「地方政府のインフラ投資は、4-6月期から確かに加速している。加速の主要原因は、金融政策の緩和と企業債の増発がもたらした資金面の好転である。しかし、財政収入と土地譲渡収入の大幅な鈍化と、高速道路が主導する交通輸送投資のピークが既に過ぎていることからすれば、これらの都市の基本建設投資の伸びが今後更に上昇することは難しい」とされている。
業界関係者は、「企業の利潤はあまねく下降しているため、重大投資の資金源はなお政府支出に依存している。しかし、土地収入の急減により地方財政の圧力はかなり大きくなっている」とする。

この圧力を緩和するため、国家発展・改革委員会は、地方政府がプロジェクト収益債のテストを展開することを奨励している。中国債務情報ネットが公表した統計によれば、9月17日までに地方債発行の入札が10回行われ、実際の発行総額は2211億元に及んでいる。これは、昨年年間の1781.6億元を既に超えている。しかも、浙江・上海・広東が自主的に発行している地方債も244億元に及ぶ。

中金公司の彭文生チーフアナリストは、「地方政府自身の資金の伸びが大幅に下降する情況下、市政債、融資プラットホームによる借入れ、国家投資プロジェクトの争奪が、地方政府が外部資金を勝ち取る重点手段となっている」としている。

中信証券諸建芳チーフアナリストは、「都市投資といった類いの短期債券・中期手形を含めると、10-12月期には2000億元余りの都市投資債が発行されるだろうが、これでも大規模な新規プロジェクト投資計画と依然建設中の融資プラットホームプロジェクトを支えるには不足する」と指摘する。

国家情報センターマクロ経済予測処の祝宝良処長は、「地方の大規模な投資促進計画に良好な資金調達ルートがなければ、実現は困難である。もし地方政府が短期的な業績を実現するために非正規の資金調達ルートに入れば、資金調達コストが高まるだけでなく、地方は更に巨大な債務リスクに直面することになる」と忠告する。

ある国有大銀行の研究部職員は、「銀行は現在、自身が資産の質の圧力に直面している。しかも、銀行業監督管理委員会は単一顧客に対する貸出比率は純資本の15%を超えてはならないと厳しく要求しており、現在の地方の新規プロジェクトに対しては、銀行は比較的慎重である」と述べている。
例えば、地下鉄プロジェクトについては、地方政府が30%前後を出資してプロジェクト会社を設立することになるが、プロジェクトの周期が長く、資金調達額が大きいため、通常は国家開発銀行あるいは4大国有商業銀行がリーダーとなり、その他の大手国有商業銀行・株式制銀行・都市商業銀行が参加する融資団が組成されることになる。

あるアナリストは、「将来更に多くの企業がインターバンク市場を通じて債券を発行し、資金を調達することになるだろう」とする。中国債務情報ネットのデータによれば、8月の企業債発行額は426億元であり、1-8月の企業債発行額は3876億元となっており、前年同期の2485億元より56%近く増加している。業界では、今年年間の企業債発行規模は7000億元を突破するのでは、と予測している。

(9月27日記3,075字)

[1]これを流したメディアも最近は論調を修正している。
[2]このほか、銀行が預金を媒介にせず、資金の出し手と借り手を直接に仲介する委託貸出・信託貸出の方法もある。

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