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ログイン2003年2月27日
はじめに
中国の不動産市場が過熱気味でバブル発生の危険があることは、以前にも触れた。国家統計局及び不動産協会によれば、2002年1−11月の不動産開発総投資額は6,228億元(対前年比28.2%増)であり、全国分譲マンションの空室面積は、1.25億平米、対前年比12.6%増となり、伸びが前年より10ポイント高まっている。空室率は19%に及ぶ。このため、高止まりの空室率は、過熱する投資に隠れた時限爆弾とも評されている(2003年1月24日付け国際金融報)。
1月に入り、中国においても不動産市場の現状をめぐり、既にバブル発生の危険があるとする建設部・国家発展計画委・人民銀行・国土資源部と、一部問題があるものの概ね健全とする不動産協会との間で論争が続いている。不動産関連投資は波及効果まで含めると中国のGDPを1.9〜2.5ポイント引き上げているといわれる(人民銀行試算)だけに、その帰趨は中国の経済成長率に大きな影響を与えることになる。以下、主要な論調を追っていきたい。
1.建設部
(1)全国住宅・不動産工作会議(2003年1月13日)
2003年の住宅・不動産工作の基本方針として、改革を深化させ、発展の足場を固め、不動産市場のマクロコントロールを強化し、市場秩序を整理・規範化し、不動産業の健全で調和のとれた発展を促進することが打ち出された(2003年1月14日付け新華社)。
この会議において、劉志峰副部長は、「ここ数年、不動産開発投資は総体としては理性的・健全な発展を示しているが、一部の地区では投資が過大であり、土地が供給過剰であり、価格の上昇が速すぎ、程度は異なるが、過熱・虚熱・構造問題が出現し、深刻な市場リスクが存在する」と述べた。具体的には、次の諸点を指摘している(2003年1月23日付け証券時報)。
現在、相当部分の都市の固定資産投資に占める不動産開発の比率が30%前後に達し、個別都市では、甚だしきは60%に近づいており、都市経済が不動産開発の伸びに過度に依存している。
(2)住宅・不動産司 謝家瑾司長 全国的に見れば、不動産市場は健全で速い発展趨勢を維持しているが、局部に看過しえない問題が存在している。もし、必要な措置をとるタイミングを失すれば、不動産市場の一層の過熱を招き、社会経済の健全な発展に危害を及ぼす可能性がある。このため、大局的意識を強化し、不動産市場のマクロコントロールを実際に強化しなければならない。
その主要措置としては、不動産市場の早期警戒予報と情報公開制度を確立することである。2003年上半期に、建設部は不動産早期警戒システムの研究を完成させ、5〜6の都市で試験を行い、年末までには35の大中都市と一部の代表的な都市で使用する。各地は、これを契機として、健全な不動産市場の情報公開制度を確立し、当地の不動産市場の情報をタイムリーに社会に公示して、不動産開発企業の理性的な投資と住宅消費者の理性的な消費を導かなければならない。
建設部は、既に国土資源部・財政部・中国人民銀行・国家経貿委・国家税務総局・国家統計局と、全国不動産市場マクロコントロール合同会議制度を創設し、重点地区の市況の観測とコントロールについての指導を強化した。
また、不動産開発プロジェクトの管理を強化しなければならない。各地は市場の需給を真剣に分析し、新規プロジェクトを合理的に抑制する必要がある。空室が多く、しかも急速にそれが増大している地区については、土地供給増加・既存の土地の開発や、高級マンション・別荘・高級レジャー施設等の新規建設を厳しく抑制しなければならない。建設部は、国家統計局と空室統計指標を改訂し、空室統計制度を完全なものとし、市場の趨勢を一層反映させることにより、各クラスの政府のマクロ政策決定に科学的根拠を提供する(2003年1月14日付け新華社)。
2.国家発展計画委員会
国家発展計画委経済研究所は、北京新華オンラインと共同で、「中国産業景気分析報告」を発表した。この報告において、課題組の組長王小広博士は、「不動産投資・消費の超高成長の継続と、住宅価格の大幅な上昇の継続は、現実価値からますます乖離し、消費者の受容能力をはるかに上回っている」と指摘し、真正な不動産バブルが既に発生しているとしたのである(2003年2月17日付け北京晨報、同新聞晨報)。
(1)不動産業の5つの病状
王博士は、国内不動産業には5つの病状が存在し、それゆえ国内不動産バブルは既に発生している、とする。
(2)不動産バブルの弊害
続けて王博士は、不動産バブルのマイナス作用が徐々に顕れ始めていると指摘し、次のように説くのである。
(3)不動産へのマクロコントロールに当り、遵守すべき原則
以上を踏まえつつ、王博士は、不動産へのマクロコントロールは、計画経済時代の整理整頓ではもはやなく、市場に対する誘導・規範化であり、禁止したり自由に干渉するということではないとし、次の原則を遵守すべきだとする(2003年2月21日付け中国経済時報)。
(4)不動産業の見通し
今後の見通しについて、王博士は、2003年の不動産投資の伸びは反転し、15%前後に落ちこむ可能性があるとする。住宅投資の緩慢化はさらに顕著となり、16〜18%と予測する。これと同時に、不動産消費の伸びも明らかに緩慢となる。現在、不動産業の3拠点のうち、上海のみが景気上昇を維持しており、北京・広東の分譲マンションの売れ行きは、明らかに熱が下がってきている。特に昨年前半に熱気が極端に高まった浙江省は、分譲マンションの売れ行きの冷え込みが明白になっている。東部地区では、河北省の伸びがマイナスとなり、遼寧省もわずか5.3%である。2003年の分譲マンション消費の伸びは、16〜18%に下がり、2002年に消費加速が始まった山西省・上海市・一部の中西部省区の落ち込みはもっと大きくなる可能性がある。
2003年の住宅価格は、小幅の下落と予想されるが、2004年は下げ幅がさらに拡大する可能性が大きい。北京の住宅価格は、他の地区より早く下落し始めており、その他のピークに達した地区も2003年に下落傾向が出現するであろう。今後2、3年内に住宅価格は冷めて下落すると予想される(2003年2月19日付け人民網)。
(注)北京市統計局によれば、2002年の商品住宅価格は下落し、平均価格が4,467元となり(対前年比249元減)、1997年以来最低となった(2003年2月26日付け北京娯楽信報)。
3.人民銀行
人民銀行は、2月20日「2002年中国貨幣政策執行報告」を公表した。この中で、人民銀行は、不動産融資はソフトランディングが必要だとしている(2003年2月21日付け中国証券報)。
(1)不動産市場の評価
2002年全国不動産開発は7,736億元の投資(対前年比21.9%増)を完成させた。現在の全国不動産市場の状況を総体的に見ると、不動産市場は健全で速い発展趨勢を保持している。しかし、一部の地区は投資の伸びが過大であり、土地供給量が過剰であり、不動産価格の上昇が速すぎ、住宅構造が不合理であり、不動産開発企業の資産負債比率が高い等の問題がある。これは不動産金融の発展に悪影響を与え、一定の金融リスクを内包している。
(2)不動産融資検査
2002年11月、人民銀行は一部の都市商業銀行が2001年7月1日から2002年9月30日に至る時期に行った不動産融資の状況について、検査を行った。この結果を見ると、規定に反した貸し付けが全体の9.8%、金額にして全体の24.9%であり、不動産開発貸付と個人の商業用オフィス貸し付けに集中していた。銀行別では、株式制商業銀行と都市商業銀行の規定違反が国有商業銀行よりひどかった。主要な違反事例としては、次のものがある。
現在の内需拡大による経済成長の牽引を考慮すると、住宅業は新しい成長点という特殊な背景があり、不動産融資政策はソフトランディングの手法を採用すべきである。金融機関は不動産業の発展を支援するだけでなく、不動産バブルの誘発を防止しなければならない。
(3)2003年の政策
融資の管理を強化する。一部の地区の不動産投資の伸びの急速さに内在するリスクと一部地区の不動産過熱がもたらしかねない信用リスクに十分に関心を払わなければならない。商業銀行を国家の不動産政策と融資政策に従うよう監督し、不動産融資管理を強化し、規定違反は直ちに取り調べて処置し、非を正さなければならない。
4.国土資源部
(1)緊急通達
国土資源部は、土地資源を保護し、土地市場の秩序を規範化し、オフィス市場の動揺がもたらすリスクを防止するため、各種の園区(パーク)用地の徹底的整理と土地供給コントロール強化についての緊急通達を発出した。その主な内容は以下のとおりである(2003年2月18日中新社電)。
(2)土地市場秩序を一層整理整頓するための全国テレビ電話会議
この中で、田風山部長は、最近温家宝副総理が「一部の地方の土地市場は秩序が混乱しており、違法の土地占有や違法な市場参入の問題が相当深刻になっている。土地を利用して暴利をむさぼることが、一部の単位や個人の荒稼ぎの手段となっている。多くの国土部門は、管理が弛緩しており、甚だしきは違法な執行により不法分子に便宜を図っている。これらの問題について、国土資源部は高度に重視すべきである。各地の様々な名目による違法な土地占有・譲渡行為を取り調べ処断し、規定に反して設立された園区は徹底的に整理しなければならない。土地執行上の誤った方法は断固として正さなければならない」との指示があったことを紹介し、土地市場の秩序について、一部の地区に4つの突出した問題が発生していると指摘した(2003年2月20日中新社電)。
この原因として、田部長は次の4点を指摘している。
そのうえで、田部長は、「この問題を解決しないと資源を浪費し、腐敗を醸成し、土地市場の健全な発展に悪影響を及ぼし、甚だしきは社会主義市場経済の建設に悪影響を及ぼすことになる。従って、全国規模で、土地市場秩序の整理整頓を必ず実行せよ」と指示した。
5.不動産協会
これらの官庁の動きに対し、不動産協会の顧雲秘書長は、2002年に不動産市場が活況を呈したのは、国民経済が高成長をとげ、住宅・土地改革が加速し、経済主体の行動に変化が現れたためであるとする。そして現在少なからぬ問題があるにせよ、1992年、1993年のように不動産価格が急騰しているわけではなく、不動産市場は熱気を帯びているが過熱していない、分譲マンションの売れ行きも好調である、と主張する。そして物価が低下傾向にあることを指摘し、「中国の不動産市場は総体として健全で理性的だ」と強調するのである。また、2003年は中国不動産市場の黄金年であるとし、今後20年は中国不動産市場は隆盛を続けるだろう、と強気の姿勢を崩さない(2003年2月12日付け瞭望新聞週刊)。
6.識者の見解
(1)呉敬{l氏
「中国金融:理性的繁栄に向けて」シンポジウムの席で、北京から上海に至る不動産の過熱現象について、「不動産市場にバブルが存在するか否かは、株式市場に比べて回答が難しい。しかし、不動産市場にはバブルはないと主張する人間の論拠は不十分である。ある都市の空室率が下降したことを、不動産市場にバブルがない論拠とすることはできない。ましてや、現在多くの人間が不動産市場を投資と見なし、自分が住むために購入しているのではない。一旦投資目的で市場に臨めば、株式市場と何ら区別はない。今日は上がっても、明日は下がるかもしれない。バブルも自然のなりゆきだ」と述べた(2003年2月25日中新社北京電)。
(2)財政部財政科学研究所 王朝才副所長
「土地資産が特殊な資本密集型産業であることからすると、不動産業に一定のバブルが発生することは避けがたい。中国の未来の支柱産業として、不動産業が適度なバブルを維持し、例えば地価がわずかに上昇し、分譲マンションの供給が市場の需要をやや上回ることは、経済成長を刺激し、競争を促進するという点で長所もある」としながらも、「中国不動産バブルは既に発生しており、現在分譲マンションの価格は高すぎる。特に重要なのは、一部の都市分譲マンションの空室は高級住宅に多く、不動産開発構造の不合理性を示している。中国において中等収入の人々が増加するにつれ、この不合理性は激化するだろう。この問題は重視しなければならない」と指摘している(2003年2月25日中新社北京電)。
まとめ
このように、官庁側と不動産協会側で認識は大きく食い違っている。しかし、昨年秋までは、不動産バブルを強く懸念していたのは人民銀行と一部のメディアだけであり、多くの論調はむしろ不動産協会の主張に近かった。しかし、今年1月に入ると一気にコントロール強化の議論が優勢を占めるようになっており、それだけ不動産市場の過熱が看過できぬ状況になっているものと思われる。
このように不動産市場が過熱した理由は、次の諸点が考えられよう。
(1)住宅改革
国有企業改革の一環として、企業による住宅供給が廃され持家が奨励されたことにより、都市住民の住宅需要が一気に顕在化した。個人住宅ローンが充実してきたことも、需要増大に拍車をかけた。
(2)北京オリンピック・上海万博
これを契機に、北京・上海の都市改造が加速されることが予想され、建設ラッシュと不動産価格の値上がり期待から、多くの企業が不動産業に参入した。現在不動産市場では、「三外」状況が発生していると言われる。すなわち、外地の開発商・外資・外行(不動産業以外の業種)が一斉に不動産業に参入しているというのである(上記顧雲氏の論文)。
(3)小都市建設
多くの地方政府は、小都市建設とはオフィスビル・マンション・パークを大量に建設することと受け止め、一斉に建設に乗り出した。例えば、陜西省長安県の面積がわずか3平方キロメートルの小さな町に既に2つの広場ができあがり、今後2年内に1,000万元を投じて面積1万平方メートルの十字路中心広場1つと、十字路中心花園(フラワーパーク)4つを建設する計画であるという。これは、特殊な事例ではなく、関係部門が31省の規模の異なる都市を対象に行った調査で、80%の小都市が地元の実情に合わぬ広場や花園を建設・計画中だという(北京週報2003年NO7)。
(4)株式市場の低迷
余剰資金が行き場を失い、不動産市場に流れた。
ただ、いくら政府がコントロールを強化したとしても、上記のような要因が背景にある限り、中国不動産市場の過熱は容易に治まらないと思われる。現在大きな需給ミスマッチがあるにせよ、個人の住宅需要があることも確かであるし、北京・上海の建設熱もオリンピック・万博終了まで続くであろう。地方の建設ラッシュも、政府の小都市建設の方針が見直されない限り、形を変えながら継続するものと考えられる。また、政府としても、不動産投資がGDP成長率に大きく寄与している以上、ドラスティックな規制は困難であろう。
だが、問題は不動産市場に実需とバブル的需要が混在していることであり、これを早期にうまく取り除けない場合、将来不動産市場に混乱が発生する可能性はあり得る。日本のバブル発生初期も、多くの官民エコノミストは、「列島改造ブームの地価高騰と今回は違う。東京の国際化の進展により、オフィスビルが大幅に不足しているのであり、これはまさに実需である。現に地価を除けば物価は非常に安定しており、問題はない」と主張していたのである。1929年の大恐慌前のニューヨークも、オフィスビルの大幅不足が指摘され、これを抜本的に解決するためにエンパイヤ・ステートビルの建設が開始されたのであった。バブルの渦中にある人間は絶対にバブルの存在を認めないのである。そして、それがバブルと気づいた瞬間にバブルは崩壊するのである。
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