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下半期の経済政策(2)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2011年8月30日

記事概要

本稿では、国家発展・改革委員会張平主任が全人代常務委員会に対して行った経済政策に関する報告、及びこれと同時に発表された人民日報の論説を紹介する。【3,658字】

はじめに
 本稿では、国家発展・改革委員会張平主任が全人代常務委員会に対して行った経済政策に関する報告、及びこれと同時に発表された人民日報の論説を紹介する。

1.国家発展・改革委員会張平主任の全人代常務委員会に対する報告(8月25日)
 概要は以下のとおりである(新華網北京電2011年8月25日)。

(1)国際情勢判断
 米国経済の第1・第2四半期の前期比成長率の年率換算をみると、それぞれ0.4%、1.3%[1]であり、昨年第4四半期の3.1%より明らかに低い。EU経済は成長力に欠け、日本経済の鈍化傾向はなお続いている。新興経済国・発展途上国の経済成長率はある程度反落している。
 これと同時に、経済刺激政策のマイナス面の影響は更に顕わになり、インフレ圧力は引き続き増大し、ソブリン債問題は日増しに深刻となっている。新興経済国のインフレ率は引き続き高止まりとなっており、先進国のインフレ水準も総体として高まっている。ユーロの一部参加国のソブリン債問題はなお悪化・蔓延しており、米国・日本の債務問題も日増しに深刻となっている。
 一部の国家は、経済刺激とインフレ対策・財政リスク防止等の方面において政策決定がジレンマに直面しており、はなはだしきは困難に陥っている。このほか、西アジア・東アフリカの政局が引き続き動揺しており、原油等の大口商品の価格が高止まりで振幅しており、とりわけ最近S&Pが米国債の信用評価を格下げした事件は、国際金融市場の激烈な波動を引き起こした。
 上述の問題は、相互に交錯し、相互に影響し、相互に作用することにより、世界経済の回復に変数を充満させており、不確定性・不安定性を上昇させ、かつ異なるルート・異なるレベルからわが国の経済発展に影響を及ぼしている。

(2)国内情勢判断と当面の重点政策
 わが国経済社会の発展におけるアンバランス・不協調・持続不可能という矛盾は依然際立っており、国際環境・国内経済の運営においてもいくらかの新たな状況・新たな問題・新たな矛盾が発生し、情勢の複雑性とコントロールの困難性が増している。
 今後、重点的に8方面の政策をしっかり行う。
①いささかも手を緩めずに、物価の管理を強化し、物価総水準の基本的安定を促進する。
②災害対策・災害救済に立脚し、農業の年間の豊作を全力で勝ち取る。
③不動産市場のコントロールをしっかり行い、住宅価格の速すぎる上昇に歯止めをかける。
④内需とりわけ消費需要の拡大に力を入れ、政策による刺激から自主的な成長への経済の転換加速を促進する。
⑤構造調整の推進に大いに力を入れ、経済の協調的発展を促進する。
⑥省エネ・汚染物質排出削減を断固としてしっかり実施し、年間目標ノルマの達成に努力する。
⑦引き続き改革開放を深化させ、体制メカニズムのイノベーションを推進する。
⑧民生を大いに保障・改善し、社会の調和のとれた安定を維持する。

(3)物価対策
 今年に入り、我々は穏健な金融政策を堅持し、供給の保障と不合理な需要の抑制とを結びつけることを堅持し、短期の応急措置と長期有効なメカニズムの確立とを結びつけることを堅持し、多くの措置を併せ実施し、総合的に施策を実施し、コントロールの効果は徐々に現れ、物価総水準の上昇傾向は安定に向かっている。
 物価総水準はなおも高水準が続く可能性がある。世界の流動性緩和の局面は短期では改変し難いし、輸入インフレの影響は明らかには弱まっていない。国内の生産コストの上昇圧力は依然存在し、資源要素価格の矛盾が比較的際立っている。これに加え、自然災害等の要因がいずれもインフレ期待を強める可能性があり、年間の予期目標達成の難度が増加している。
 今後、いささかも手を緩めることなく物価管理を強化し、物価総水準の基本的安定を促進する。重要商品市場のコントロールと生産・輸送・販売のリンクを強化し、主要穀物品目と食用植物油の購入を組織的にしっかり行い、不足する品目の備蓄を充実させ、適時市場への放出を増加する。物流業の発展を促進するための税制・費用徴収の細則を早急に打ち出し、流通段階での不合理な費用徴収を更に規範化し引き下げる。
市場価格の監督管理を強化し、悪意による投機・共謀による価格吊上げ・市場の支配的地位の濫用等の違法行為を、法に基づき調査処分する。世論の誘導を強化し、社会の予想を安定化する。

(4)住宅価格対策
 今年に入り、不動産コントロールはかなりしっかりと実施されており、差別化した住宅ローン・租税政策は厳格に執行され、住宅購入制限措置は40余りの都市で実施され、全国各都市はいずれも新築住宅価格のコントロール目標を制定・公表している。市場の監督管理・特別検査は強化され、いくらかの法規に違反した行為が調査処分されている。
 さらに住宅価格の安定・住宅保障に対する地方政府の責任を強化し、投機・投資性の住宅購入需要を抑制する政策措置を厳格に実施し、住宅用地供給計画を真剣に実施し、一般分譲住宅の建設を強化し、有効供給の増加に努力しなければならない。
 計画の実施を確保し、建設の質を確保し、分配の公平を確保するという要求に基づき、社会保障的性格をもつ安住プロジェクト建設資金の調達と土地供給を引き続きしっかり行い、全プロセスの質の管理を確実に強化し、参入基準・許認可プロセス・動態管理・退出方法等の制度をできるだけ早く整備し、社会の監督管理を強化しなければならない。

2.人民日報2011年8月24日「政策の方向を安定させ、コントロールの程度を把握せよ」[2]
 記事の概要は以下のとおりである[3]
GDP成長率9.6%、CPI上昇率5.4%――上半期、「ハードランディング」、「スタグフレーション」等が懸念されるなか、中国経済が提出したこの答案はいったい何を意味しているのだろうか?
 歴史的な緯度から見れば、1978年-2010年、わが国GDPの年平均成長率は9.8%であり、CPI年平均上昇率は5.56%である。上半期の答案は、中国経済という列車がなお良好で速い軌道上を走っていることを意味する。世界的な緯度からすれば、9.6%の経済成長率は世界の前列に位置し、5.4%の物価上昇もその他の新興経済国より低い。この答案は、中国がなお世界経済という舞台上の花形であることを意味する。
 現在わが国経済は、政策による刺激から自主的な成長へと秩序立って転換しており、経済発展情勢は総体として良好である。しかし、国際環境・国内経済運営においていくらかの新たな状況・新たな問題・新たな矛盾が出現し、情勢の複雑性・コントロールの困難性が増している。
 下半期、物価安定に有利な条件が増加するが、物価情勢はなお楽観できない。物価を推し上げる要因が根本的に除去されておらず、輸入インフレ圧力が決して明白には弱まっておらず、労働力等のコスト上昇圧力はなお長期に存在し、秋季穀物・豚等の生産・供給の不確定要因はかなり多く、資源要素価格の矛盾はかなり際立っており、市場のインフレ期待がかなり強いため、消費者物価の年間予期目標を実現するには大きな難度がある。物価は経済運営を反映するだけでなく、庶民の衣食住・交通に関わるものであり、物価が安定してはじめて人心・社会は安定するのである。下半期、引き続き物価総水準の安定をマクロ・コントロールの第1の重要任務とし、マクロ・コントロールの方向を変えないことを堅持し、マクロ経済政策の連続性・安定性を維持しなければならない。
 他方で、現在経済成長はなお平穏で比較的速い成長の区間にあり、速い成長が反落するリスクは比較的小さいが、安定成長にも一定程度の不確定性がある。現在、国際主要経済国は成長力に欠け、ソブリン債危機は悪化・拡散し、世界経済の下振れリスクはある程度大きくなっている。国内の一部企業の生産経営は困難が増大しており、経済の安定的運営に影響を与えるマイナス要因は比較的多い。下半期、情勢変化に対する予見性・敏感性を増強し、コントロールの方向・程度・テンポをしっかり把握し、政策の展望性・的確性・有効性を適切に高め、政策の累積効果と市場の変化要因が重なり合うことにより、今後の実体経済に過大な影響をもたらすことを防止しなければならない。つまり、マクロ政策は「安定性」と「柔軟性」を併せ考慮しなければならず、物価上昇率を引き下げるとともに、経済成長に大きな波動が出現しないようにしなければならない[4]
 中国経済の運営は、まさに変化という敏感な時期にある。速度・構造・物価の三者の間でいかにバランスを図り選択を行うか、マクロ・コントロールの知恵と技術が試されているのである。我々の思想・行動を、中央の情勢に対する分析・判断と政策に対する総体的手配に統一させ、経済情勢を全面的・正確に把握し、引き続きマクロ・コントロールを強化・改善し、政策の方向を安定させ、コントロールの程度を把握し、経済の平穏で比較的速い発展と社会の調和のとれた安定を促進し、第12次5ヵ年計画期間の経済社会発展の良好なスタートの実現に努力しなければならない。

(8月29日記3,658字)

[1]第2四半期の実質成長率は、8月26日に発表された2次速報によって1.0%に下方修正されている。
[2]この評論は「下半期経済政策をしっかり行え」という人民日報評論員の連載であり、8月25日は「支援するものと抑制するものを区別することを堅持し、構造調整の促進に力を入れよ」、8月26日は「民生への投入を増やし、社会管理を革新せよ」と題する記事が掲載されている。
[3]国家発展・改革委員会張平主任の全人代への報告は概要しか報道されていないが、この記事は同報告に平仄を合わせているはずであり、報告記事を補完するものである。
[4]斜体は筆者。

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