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温家宝新総理内外記者会見について

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2003年3月19日

はじめに

新国家指導者を選出する全人代は3月18日閉幕し、新総理に選出された温家宝は10時30分から約2時間弱、内外記者会見を行った。政府活動報告は総理を退任する朱鎔基が行ったため、今後の施政方針については、当然の事ながら殆ど具体的な言及はなかった。したがって、指導者交替期においては、本記者会見が新総理の施政方針を知る極めて重要な機会となる。以下、主要なポイントを紹介したい。

1.自己紹介

祖父・両親が教員で、農村で生まれた「普通の人」であることを強調している。これに呼応して、人民網は温家宝が小中学生時代を過ごした天津の生家(南開区達摩庵前胡同)を写真入りで紹介し、「庶民派宰相」と持上げると同時に、彼が周恩来と同じ南開中学に学んだことを強調している。しかし、温総理本人は周恩来の後輩であることには触れず、大学で地質を学んだことを述べるのみで、むしろ全国2,500県区のうち1,800を駆け巡り、国情・民情に精通していることを強調している。そして、「自分は人民の期待を熟知しており、決して人民の期待を裏切らない」とし、人民が自分に与えた信頼・勇気・力によって憲法が賦与した職責を忠実に履行するとする。このあと、5年前の朱鎔基総理記者会見を意識してか、政治姿勢について色々形容句を並べているが、要は実践である。

2.現在の問題

朱鎔基内閣の功績を称え、「我々の現在の全ての活動は前任の基礎の上に開始されたものである」としながら、現在の多くの困難・問題を5点に整理している。
(1)農業の発展が遅れている。農民収入の増加は緩慢で、既に内需拡大を制約する重要要素となっている。
(2)一部の企業の経営が困難であり、現代企業制度の確立は長期の任務である。
(3)一時帰休・失業人口が不断に増加し、社会保障のプレッシャーが非常に大きくなっている。中国の労働力は7億4千万人であり、新規に毎年1,000万人増加しており、一時帰休・失業人口は約1,400万人である。
(4)都市・農村の発展が不均衡であり、東西の発展が不均衡である。一部の地域・相当部分の人口はまだ貧困状態にある。現在の(農村)貧困人口は3,000万人前後であるが、これは収入が平均625元以下の者である。基準を200元アップすると、貧困人口は9,000万人となる。また、東西の格差は非常に大きく、沿海5、6の省市のGDPの合計は50%を超えている。
(5)財政負担が非常に重く、金融不良資産比率がかなり高い。

3.新政府の活動方針

今後の政府活動につき、4つの大方針を掲げている。
(1)1つの目標の達成
経済の持続的で速い成長を維持し、同時に人民の生活水準を不断に改善することである。このため、政策の安定性・連続性が引続き維持されなければならないとし、内需拡大方針を堅持し、積極的財政政策を実施するとしている。

(2)2つのキイ・ポイントをしっかり把握する。
a. 経済構造の戦略的調整と、b. 対外開放を引続き拡大すること、である。

(3)3つの重大な経済問題を解決する。
a. 就業・社会保障、b. 財政の収入増加・支出節約、c. 市場経済秩序を引続き整理・規範化すること、である。

(4)4つの改革を推進する。
a. 農村改革
 この中には、農村税費用改革、食糧購買体制改革、農民補助改革、農村金融改革、農村医療制度改革が含まれている。

b. 企業改革
 「企業改革を引続き、経済体制改革の中心に据え、現代企業制度を確立するという目標に力を致す。同時に、国有資産管理体制改革を推進する」としている。ここで注目すべきは、もはや改革のテーマは「国有企業改革」ではなく、「企業改革」に移っているということである。この5年間で、国有企業の多くが株式制企業に形態を転換した。しかし、経営体質には殆ど改善が見られていない。このため、問題の本質が所有制形態にあるのではなく、経営体制の刷新にあるということが認識されてきたのであろう。

c. 金融改革
 「一方で、金融の監督管理体制を確立し、完全なものにするとともに、一方で、国有企業改革を加速し、真に現代的な金融企業制度を確立する」としている。金融機関については、「国有企業改革」という言葉がまだ生きているわけであり、諸改革の中でもとりわけ金融体制改革が遅れていると指摘される所以である。

d. 政府機構改革
 「カギは政府機能の転換にある」と強調されている。

これらを、朱鎔基総理が就任時に華々しく打ち上げた改革項目と比べてみると、3大改革に農村改革が加わっただけである。温総理は朱前総理の功績を称えつつも、その公約であった諸改革が殆ど未達成であり、自分がこれを引き継いでいかねばならぬことを暗に示唆しているのである。

4.政府の任務達成に必要な原則

上記の任務達成のため、次の6原則(漢字に直すと24字)を把握しておく必要があるとする。
(1)「城郷協調」
 農業と農村を重点中の重点とし、都市・農村の調和のとれた発展を促進する。

(2)「東西互動」
 「東部地域については、チャンスをしっかり掴み、発展を加速し、率先して現代化を達成する。旧工業基地の再編・改造・振興を突出して位置付ける。西部大開発戦略を引続き実施する」としている。東部地域の発展についてわざわざ触れた背景には、新総書記・新総理いずれもが西北地域に政治基盤を有しているため、今後政策の重心が「西高東低」になるのでは、という懸念があるのであろう。

(3)「内外交流」
 内需拡大を主とすることを堅持し、同時にWTO加盟という絶好のチャンスをしっかり掴み、対外開放を引続き推進する。

(4)「上下結合」
 中央と地方の積極性を十分に発揮する。

(5)「遠近兼顧」
 科学教育興国と持続可能な発展戦略を引続き実施し、我が国の経済社会の持続可能な発展を維持する。

(6)「松緊適度」
 発展の速度、改革の力の程度を社会の受容可能な程度に適応させる。改革・発展・安定の結合を維持する。

5.個人・私営企業

「個人・私営企業等の非公有制経済を発展させることは、我々政府の確固不変の方針である」とし、「これは雇用拡大の非常に重要なルートである」とする。そして、市場参入、課税、融資、輸出入等の面で、個人・私営企業に平等な待遇を与えるとしている。

6.人民元レート

1994年のレート調整以降、現在までに人民元レートは決して不変であったわけではないとし、人民元は対米ドルで18%上昇、対ユーロで34%上昇したとしている。そして、「我々は引続きレート形成メカニズムについて研究し、完全なものにしていく。しかし、各位に説明しておきたいことは、人民元が強く安定していることは、中国に有利であるのみならず、アジア・世界にとっても有利なことなのである」と強調している。ここのところ、中国世論は日本を始めとする先進諸国の「人民元切り上げ論」に感情的に反発する傾向があったが、温総理の発言は冷静である。

7.政治体制改革

基本的な目標は、社会主義民主を発展させ、社会主義法制を完全なものにし、法により国を治め、最終的には人民が国家の主となることを実現することであるとする。このため、3つの方面から着手するとしている。

(1)科学的・民主的な政策決定メカニズム
重大な経済政策の決定、重大な経済問題、重大な経済プロジェクトは十分な論証を経なければならず、指導者・大衆・専門家が一緒になった政策決定メカニズムを形成する。

(2)法に基づく行政
「政府部門・役人は、憲法と法律に基づいて公務を執行し、同時に憲法と法律の規制・規範を受け入れなければならない」としている。法治重視の胡錦涛指導部の方針の現れである。

(3)民主監督
政府は自覚的に、人民代表大会の監督、政協の民主監督、大衆・世論の監督を受け入れる。

8.反腐敗

次の4方面で反腐敗闘争を強化するとしている。
(1)公務員の規律を厳格にする。
(2)公務員の法執行における犯罪を厳格に処分する。
(3)政府機構改革を推進する。管理制度・行政許認可制度・資金管理制度を改革する。
(4)各方面の政府に対する監督を強化する。

9.金融改革

4大国有商業銀行の不良債権比率は、旧4分類で21.4%、国際5分類で25%前後であり、そのうち損失が相当大きな割合になることを認めている。自己資本充実のために公的資金を投入し、不良債権を分離したものの、銀行の問題を根本的に解決するには改革が必要だとしている。

また、私営銀行設立問題については、「監督管理の強化に伴い、中国金融市場の所有制形式は必然的に多様化していくだろうが、これは比較的長期の過程である」とし、純粋な私営銀行の設立には慎重な姿勢を示している。

10.農村税費用改革

2つの点を強調している。
(1)農村税費用改革の実質は、生産力発展に適合しない上層構造の改革であり、最も重要なのは人員の簡素化である。現在、1つの県は12、13万の人口を有しているが、税金で飯を食っている者が5700人にも及び、人員を整理・減少しなければ、農民の負担は到底解決できない。

(2)財政の農村に対する支援を強化する。科学技術・教育・文化・衛生についての財政支出増加分は主として農村に用いる。

11.対日関係

歴史認識問題に一応言及しつつも、「我々は、ハイレベルを含む日本との各方面の関係が発展することを希望している。私自身については、適当な時期に訪日を希望している」と述べており、1月の小泉総理靖国参拝以後実現が遠ざかっていた首脳外交について、将来の復活の可能性を示唆している。

12.その他

(1)香港
 香港の安定・発展に全力を挙げてサポートする旨を強調している。

(2)台湾
 国民党の老幹部が臨終間際に詠んだ望郷の哀歌を紹介しながら、経済・文化交流の推進、「三通」の早期実現を訴えている。

(3)イラク
 国連の枠組み内で、政治手段による平和的解決、できるだけ戦争回避というこれまでの中国政府の主張を繰り返している。

(4)ロシア
 既に友好関係についての長期計画を制定しており、中ロ関係の安定的発展を信じているとしたうえで、上海協力機構の役割の発揮を期待している。

(03年3月19日記・4,094字)
財務省財務総合政策研究所
客員研究員

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