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重要施策と所管官庁

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2006年6月19日

<政治・政策>

 

重要施策と所管官庁

田中修

はじめに

 2006315日に開催された国務院常務会議は「2006年国務院工作要点」を承認した。この要点は319日に公布されている。この中身自体は政府活動報告の焼き直しであり、新味があるわけではない。しかし、計58の施策にはそれぞれ所管官庁ないし主導する官庁の名前が明記されており、中央官庁の力関係を窺い知ることができる。以下、施策と担当官庁を紹介し、気づきの点を述べておきたい。

 

1.経済の平穏な速い発展を引き続き維持する

(1)  115ヵ年計画要綱をしっかり実施する(国家発展・改革委主導)

(2)  穏健な財政政策を引き続き実施する(財政部、国家発展・改革委、国家税務総局)

(3)  穏健な金融政策を引き続き実施する(人民銀行、金融監督管理機関)

(4)  消費需要を積極的に拡大する(国家発展・改革委、財政部、商務部、人民銀行、国家税務総局、国家旅行局)

(5)  経済運営のコントロールを強化する(国家発展・改革委主導)

(6)  価格総水準の基本的安定に努力する(国家発展・改革委主導)

(7)  公務員給与制度を改革し、公務員の所得分配秩序を規範化する(人事部、財政部、民生部、労働・社会保障部)

(8)  固定資産投資の適切な規模を維持する(国家発展・改革委、国土資源部、建設部、人民銀行、国家税務総局)

2.社会主義新農村建設を推進する

(9)  農業への支援政策を安定化・整備・強化する(財政部、国家発展・改革委、農業部、扶貧弁公室)

10)農業・農村経済の構造調整を引き続き推進する(農業部、国家発展・改革委、国土資源部、国家林業局)

11)農村インフラ建設を強化する(国家発展・改革委、財政部、水利部、農業部)

12)農村の総合改革を全面的に推進する(国務院農村税・費用改革工作小組主導)

3.産業構造調整・資源節約・環境保護を強化する

13)産業の層構造・技術水準の引上げに力を入れる(国家発展・改革委、国防科学工業委、鉄道部、交通部、情報産業部、民用航空総局)

14)一部の生産能力過剰業種の構造調整を推進する(国家発展・改革委主導)

15)資源節約を際立たせてうまく行う(国家発展・改革委主導)

16)環境にやさしい社会を早急に建設する(国家環境保護総局、国家発展・改革委、監察部、国土資源部、建設部、水利部、農業部)

4.地域の調和のとれた発展を引き続き推進する

17)西部大開発を更に推進する(西部開発弁公室主導)

18)東北地方等の旧工業基地の振興戦略を引き続き実施する(東北振興弁公室主導)

19)中部地域の興隆を積極的に推進する(国家発展・改革委主導)

20)東部地域の率先発展を奨励する(国家発展・改革委主導)

5.科学教育興国戦略と人材強国戦略を実施し、文化建設を強化する

21)「国家中長期科学・技術発展計画要綱(20062020)」を実施する(科学技術部、国家発展・改革委、財政部、教育部、国防科学技術工業委、科学院、工程院、自然科学基金会、科学教育弁公室及び関連部)

22)科学技術管理体制の改革と刷新を推進する(科学技術部、国家発展・改革委、財政部、国有資産監督管理委、農業部、地震局等)

23)9年制義務教育の普及・定着に力を入れる(教育部、財政部、国家発展・改革委)

24)職業教育の発展に力を入れる(教育部主導)

25)高等教育の質の向上に力を入れる(教育部主導)

26)素質教育を全面的に推進する(教育部主導)

27)人材隊伍建設を強化する(人事部主導)

28)文化事業・文化産業の発展を加速する(文化部、ラジオ・テレビ・映画総局、新聞出版総署、教育部、僑務弁公室)

29)北京オリンピック・上海万博を積極的に準備する(北京オリンピック組織委、上海万博組織委、国家体育総局)

6.改革開放を更に推進する

30)行政管理体制改革を深化させる(国務院弁公庁、関連部門)

31)国有企業改革を深化させる(国有資産監督管理委、国家発展・改革委、財政部)

32)金融体制改革を加速する(人民銀行、金融監督管理機関、財政部)

33)財政・税制、投資、価格改革を深化させる(財政部、国家発展・改革委、国家税務総局)

34)市場経済秩序を深く整頓・規範化する(全国市場経済秩序整頓・規範化指導小組主導)

35)社会信用体系の建設を加速する(国務院弁公庁主導)

36)対外開放を更に拡大する(商務部主導)

37)海外進出戦略を引き続き実施する(国家発展・改革委、商務部)

38WTO加盟後の過渡期の各種工作をしっかり行う(商務部主導)

7.大衆の切実な利益に関わる問題の解決を高度に重視する

39)積極的な就業政策を引き続き実施する(労働・社会保障部、財政部等)

40)社会保障体系の建設を加速する(労働・社会保障部、財政部、人事部、国家税務総局)

41)出稼ぎ農民に関わる工作をしっかり行う(労働・社会保障部主導)

42)困難を抱える大衆の基本生活問題を更に解決する(民政部主導)

43)農村の医療衛生サービス体系の建設を加速する(衛生部主導)

44)都市コミュニティの衛生サービスを積極的に発展させる(衛生部主導)

45)重大疾病の予防・コントロールを引き続き強化する(衛生部、国家発展・改革委、国家食品薬品監督管理局)

46)人口・計画生育工作を更にしっかり行う(国家人口・計画生育委主導)

47)安全生産活動を適切に強化する(国家安全監督管理総局、国家発展・改革委)

48)応急管理工作を全面的に強化する(国務院弁公庁主導)

8.民主政治建設を強化し、社会の安定を維持する

49)民主法制の建設を強化する(民政部、国務院法制弁公室)

50)法に基づく行政を更に推進する(国務院法制弁公室、監察部、中央編制弁公室、人事部、審計署)

51)廉潔政治建設と反腐敗活動を強化する(監察部主導)

52)商業賄賂の専門処分活動を真剣に展開する(監察部主導)

53)社会の安定維持に努力する(公安部、司法部、国家安全部)

54)民族、宗教、僑務工作を強化する(国家民族委、国務院宗教事務局、財政部、国務院僑務弁公室)

9.国防・軍隊建設を支援し、祖国統一を推進し、外交活動をしっかり行う

55)国防・軍隊建設を積極的に支援する(国防科学技術工業委、民政部、人事部)

56)香港・マカオ工作を強化する(香港・マカオ弁公室)

57)祖国の平和統一プロセスを推進する(台湾弁公室)

58)全方位外交を積極的に展開する(外交部主導)

 

 以上の所管から分かることは以下のとおりである。

(1)国家発展・改革委員会の影響力は極めて大きい

 58の政策中、国家発展・改革委が所管ないし主導しているものは23に及ぶ。また、西部開発弁公室・東北振興弁公室は事実上国家発展・改革委が主導しており、国務院農村税・費用改革工作小組にも同委が関与していると考えられるため、経済政策について述べた(1)−(20)までで、国家発展・改革委が関与しているものは18に及ぶのである。これに対し財政部は全体で14であり、国務院農村税・費用改革工作小組への関与を入れても(1)−(20)までで6しか関与していない。本来であれば、国家資金を管理する財政部は殆どの施策に関与できるはずであるが、中国の場合国家発展・改革委が国家資金の配分権をかなりの部分握っており、これが結果として財政部よりはるかに大きい影響力の源泉となっているのである。

(2)財政政策と金融政策で国家発展・改革委の関与が異なる

 財政政策では、国家発展・改革委が財政部に続く第2の地位を占めているのに対し、金融政策には名が挙がっていない。

事実、国家発展・改革委は財政政策のあり方について、強い決定権を有している。財政部は20025月に積極的財政政策のフェイド・アウト(中国語では「淡出」)を図ろうとしたが国家発展計画委(国家発展・改革委の前身)の反対に遭い挫折した。2003年以降投資過熱が深刻化するなか、20045月財政部は再び財政政策の中立化(中国語では「中性化」)を提起したが、またも国家発展・改革委の反対に遭い、同年11月に国家発展・改革委が態度を軟化させるに至って、ようやく12月の党中央政治局会議及び中央経済工作会議において財政政策の「穏健化」が承認された。表現が「中性化」でなく「穏健化」となったのは、「中性化」=「財政均衡」と考える国家発展・改革委がこの言葉の使用に拒否反応を示したためである。

このように国家発展・改革委の同意を得なければ、財政部は投資過熱の状況でも機動的に財政政策を変更できないのが実情であるが、金融政策はこれに比べ自由度が高いように見える。しかし、筆者が人民銀行関係者から聴取したところでは、20036月に人民銀行が不動産向け融資の規制を提起したとき建設部・不動産業界から猛烈な攻撃を受けたが、このときは国家発展・改革委が人民銀行に同調しなかったため、人民銀行は孤立無援に陥った。同年12月に至り、人民銀行と国家発展・改革委が「一部業種で深刻な投資過熱が発生している」という共通認識で一致したため、2004年以降人民銀行は本格的な金融引き締めが可能となったのである。また、金利や為替政策の変更は国務院の承認を受けなければならず、現在国務院において国内経済全般を指導しているのは曾培炎副総理である。彼は前職が国家発展計画委主任であり、財政部や人民銀行は自分の組織のトップを副総理・国務委員に送り込めないでいる。このことも、国家発展・改革委を相対的に有利にしているといえよう。さらに、中央銀行の所管事項でもある物価の安定が、中国においては国家発展・改革委の主導事項になっていることにも注意する必要がある。

(3)財政改革・金融改革でも国家発展・改革委の関与が異なる

 財政改革には国家発展・改革委の名があるが、金融改革には同委の名はなく、代わりに財政部が入っている。これは、工商銀行と農業銀行に財政部からの出資金が残っており、建設銀行と中国銀行については大株主である中央為替投資有限責任公司に財政部から役員が送り込まれているためであろう。

 財政部は金融改革への影響拡大を狙っており、建設銀行と中国銀行への外貨準備投入の際には財政部出資金を不良債権償却に使用することを承認したが、工商銀行への投入の際は、財政部出資金と同額の150億ドルまでの投入しか許容せず、出資金を償却に使用することも認めなかった。これは、工商銀行に対する影響力を維持するためのものであろう。ただ、このような金融分野への影響力拡大を反映してか、財政部金融司長が汚職で逮捕されるという事態も発生している。

(4)社会政策は多数の官庁に分散している

 (39)−(48)がこれに当たるが、担当が労働・社会保障部、民政部、衛生部、国家人口・計画生育委、国家安全監督管理総局、国家食品薬品監督管理局等に分散している。これでは統一的な社会政策の立案が困難になるのではないかと懸念される。また、この分野については国家発展・改革委と財政部の関与が各2と少ない。国家資金を左右するこの2官庁の関与が少ないことは、今後この分野の財源確保に不安を抱かせるものである。

(5)新農村建設における農業部の役割は限定的である

 社会政策と対照的に、(9)−(12)においては、農業部がメインのものは1つだけであり、あとは国家発展・改革委、財政部がメインとなっている。これまで3件発出された「三農」問題に関する中央1号文件も党財経領導小組が主導しており、農業部の役割は限定的なものとなっている。

(6)国防・軍隊建設の担当官庁に国防部の名がない

 これは奇異なことである。筆者は国防分野の専門家ではないので想像の域を出ないが、国防部は形式上国務院の傘下にあるが、その活動内容は国務院常務会議の審議事項ではなく、党中央軍事委員会の管轄下にあるため名が挙がっていないのではないかと考えられる。国務院として国防・軍隊建設に関与できるのは、科学技術工業分野・民政分野・人事分野(これは退役軍人の処遇に関係しているものと思われる)だけなのであろう。

 逆に、中国の国防予算は他の分野に一部が隠れて計上されていて、全体像が不透明であることが専門家から指摘されているが、国防科学技術工業委が所管している分野として、国防・軍隊建設以外に(13)産業の層構造・技術水準の引上げ、(21)「国家中長期科学・技術発展計画要綱(20062020)」の実施が掲げられている。ここに国防予算に該当するものの一部が隠れているのであろう。

 

(2006年4月記・5,130字)
財務省財務総合政策研究所客員研究員 田中修

 

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