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中国進出失敗・トラブル事例(5)合作の落とし穴

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2005年2月14日

<投資環境>

中国進出失敗・トラブル事例(5)

筧武雄

大学受験に失敗した学生の不合格体験談ばかりを拾い集めても決して希望大学に合格することができないように、失敗談ばかりを拾い集めても、教訓となることはあっても決して成功に直接結びつくものにはならない。しかし、その反面で、多くのセミナーや雑誌等で依頼が多く、関心の高いテーマがその「失敗談」なのである。

おそらく多くの企業経営者が、自分が今考えていること、行動していることに失敗の要因がないかどうかを確かめておきたいという不安の心理を持っていることから来るものと思われるが、もし自分に心当たりがある場合は、できるだけ早く、勇気をもって路線変更を再考されることをお勧めするものである。

(5)合作の落とし穴

A社は三年前、行政区から市に昇格したばかりの中国の地方都市にある地方大手国営企業の経営者と合作契約書を結んだ。A社は中国にはまだ不慣れなため、大きな資金投資をするつもりも、経営リスクを背負うつもりもなかった。ただし合弁企業としての税制優遇や外貨留保権などのメリットを受けるためには、外資から最低限25%の出資比率が法律上要求されるため、現金ではなくA社の工業所有権(非特許製造ノウハウ)を現物出資することとした。

また、相手方から「合弁に比較して規制が緩やかで、利益配当とは別に毎年投資金額が合法的に早期に回収できる」という「合作形態」を勧められ、これを採用することとした。合作の相手方は現地の有力者個人であり、合作契約調印を終えたあとすぐに現地市政府の対外経済貿易委員会から契約承認許可をもらい、市の工商行政管理極から正式な営業許可証を取得することができた。

合作契約から三年が経過した今年、合作契約にしたがって第一回目の投資金回収が始まる予定であったが、日本からいくら問い合わせても一向に音沙汰がない。しびれを切らして社長が現地に出張訪問して直接相手方の董事長に聞いたところ、以下のような回答があった。すなわち、「投資回収金の海外送金のためには、人民元を外貨に交換して日本に送金する許可をもらう必要があるが、外貨管理局が承認を下ろしてくれない」。

外貨管理局の拒否理由は次の二点であるという。

 1) まだ法人利益が出ていない。
 2) 資本金払い込みが完了していない。

A社社長はもともと合作形態であれば法人利益とは関係なく投資金の回収が可能であると勝手に思い込んでいたのだが、慌てて法律をひも解いてみると、たしかに中外合作経営企業法実施細則(95.9.4公布施行)第45条に「合作企業の損失を補填する前に、外国合作者は投資を先行回収してはならない。」とある。これには正直驚いたが後の祭りである。つまり、「投資回収」とはいいながらも事実上は合弁企業の配当金と大差ないのだ。最初に合作形態を選択した理由のひとつが、ここにきて大きく揺らいでしまった。

つぎに「資本金払い込みが未了」という外貨管理局の指摘も寝耳に水であった。相手方に問いただすと、現物出資したはずの工業所有権の無形資産出資手続きが完了しないまま時間を経過して現在に至ってしまった、と言う。合作契約は正式認可され、正式営業許可証も取得し、図面とマニュアルのかたちですでに工業所有権の譲渡作業も正式に検収完了しているのに、いまさら何を言っているのか判断しかねたが、問題は公認会計士が払い込み証明書(「験資証明」という)を「満額」で書いてくれないのが原因だと言う。仕方がないので公認会計士事務所を訪問して事実を確認したところ、たしかに図面とマニュアルの譲渡作業完了は確認しているのだが、今度は商品検査局の価格査定鑑定証明がないと言う。

外国企業投資財産鑑定管理規則(94.5.1施行)第七条によれば「会計士事務所は、商品検査局(現地では「商検局」と呼ぶ)鑑定機関の価値鑑定証明書にもとづき、外国企業の投資財産の資産鑑定検査業務を遂行しなければならない。」という規定がある。公認会計士はこの規定にこだわって、商品検査局の評価価格査定が確認できなければ資本金払い込み証明書が作成できないのだと言う。その商品検査局では本件の工業所有権現物出資に対して、合作契約の出資評価金額に比較して非常に下回る低い価格査定をしているという。董事長としても容認しがたく(と言うよりも、それを認めると税制優遇などの特典措置が受けられなくなるために)そのために長期にわたって払い込み手続きが未完了のまま宙ぶらりんの状態になっているというのだ。

正式な契約許可を得たあとで、いまさら何を言っているのか、相手は現地有力者なのに問題を数年間も放置したままで、なぜ海外送金許可のひとつもとれないのか、というA社社長の不満に対してパートナーは「外貨管理局、商品検査局は最近昇格したばかりの当市にはなく、元々所属していた大きな市政府の機関であるため、話が通じない。もともと仲が良くない。」と言う。

契約当初は非常に調子よくて、副市長など市政府幹部も登場し、何事もスピーディーに処理しているように見えたのに、いざとなれば「ああ言えば、こう言う」ばかりである。さらに問いただすと、今度は「もし希望するなら投資回収資金は外貨現金で渡すので、自分で勝手に持ち帰っていただいても構わない」とまで言う。しかし、それでは明白な外貨管理法、合作法などの違反違法行為である。当局に逮捕されかねない違法行為のリスクまでは負えないと拒否したところ、今度は、「不要な金型・機械類でよいからA社から現地法人に売却して欲しい。その代金としてこの資金を支払えば合法であるが、どうか?」と言う。A社社長は、よくそこまで知恵が回るものだと感心したが、やむなくパートナーの依頼してきたその「合法的な方法」で今回は投資回収を図ってみることにした。

機械・金型の輸出契約を結んで無事認可も取得し、L/Cも発行されたので、関係書類を整えて船積み発送を終えた。しかし、今度は貨物が中国の港でとめられてしまった。税関によれば、中古機械類の輸入は原則禁止されている、という。また、中古輸入貨物の価格査定権は税関にあり、現品を見たところ輸出契約中の価格は高すぎて認められないという。正式輸入許可はとれていたのだが、たしかに輸出入関税条例第10条の規定を見ると、税関の言っていることは正しいと判った。

まさに踏んだり蹴ったりである。A社はここまで追い詰められて初めて専門家に相談にやって来た。しかも社長は憤慨して「追加資金も費用もいっさい投入するつもりはない」と言う。このトラブルが発生し、ここまで「複雑骨折」してしまった原因はいったい何処にあるのだろうか?

1.「現物」価格査定のリスク

ここに「中国ビジネスの落とし穴」の典型のひとつを垣間見た気がする。

当面の問題は、主管当局である対外経済貿易管理部門の正式認可があるにもかかわらず、水際の現物価格査定で問題が発生し、会社設立契約と貿易契約の履行ができなくなってしまっている点にある。残念ながら、現状ではこの問題(落とし穴)を合法的に正しく解決する道は存在しない。さらに上級の税関、商品検査局に価格評価査定の不服を申し立てて徹底的に争うか、あるいは正式認可された契約を破棄して彼らの評価査定に合わせて結びなおすか、あるいは「下有政策」(下には政策あり−「裏技」による突破解決法)で解決するぐらいしか対策はなかろう。

そもそも、この問題の根源は中国の企業活動管理の縦割り行政体質とそれに沿った法律体系に存在しており、一外国企業の力だけでは解決不能な問題である。しかも、未然に防止することもできない。なぜなら外国側が現物の貨物や工業所有権を中国税関や商品検査局に事前提出して、あらかじめ価格査定を受けることなど出来ないからである。この問題は税関担当者が海外に事前出張して船積み前に検査することで根本的に解決できる話でもない。特に無形資産の現物評価など、専門家ですら至難の業である。青色発光ダイオード裁判の推移を見ても、技術の価格評価は専門家のあいだでも大きく異なる。にもかかわらず、そもそも税関や商品検査局が瞬時にして公平で正確な現物資産・無形資産価格評価査定ができ、それに何人たりとも従わなければならないという法律規定そのものにも問題があると言わざるを得ないのかもしれない。

2.「違法許可」の恐さ

このトラブルに登場する関係者の中に、悪意を持った人物はおそらく存在しないだろう。工業所有権を含めた現物出資は出資比率20%以内の範囲であれば中国では法的に認められていることに間違いはない。他方、公認会計士、商品検査局や税関の主張も合法で正当である。しかし、その結果として日本企業は利益回収不能に陥ってしまった。実はそれどころではなく、本件は清算しても出資金もおそらく回収できない。なぜならば、中国の合作企業経営法(合弁企業法、独資法も同様であるが)では、華僑を除く中国人個人との契約締結を認めていないからである。残念ながら、この合作契約自体が、実は法的に無効な契約なのだ。

ではなぜそんな契約が正式に認可され、登記されてしまったか、ここに大きな問題点がある。中国の地方都市では(場合によっては大都市、中央政府においても)えてして行政、法律よりも個人の力が優先してしまうのである。本件は契約書、批准証、営業許可証に記載されている当事者の資格を詳細に調べなおしてみる必要がある。

卸売、小売、通信、出版、設計・建築施工、運輸・倉庫など法律上は規制が厳しくて認められない案件、あるいは法に沿った正しい手続きを経ていないやり方であっても、個人権力者の力があれば、通ってしまう事例が多々現実には存在している。それがスムースにうまく稼動しているあいだは何も問題ないのだが、本件のようにたまたま問題が「早期発見」されてしまうこともある。逆に何も問題が発覚しないまま、違法行為に違法行為が積み重なって「スムース」に事が進んでしまうこともあり得る。

実は、これが最大のチャイナリスクであり、われわれ外国企業が最も注意しなければならない「落とし穴」なのである。このリスクをうまく「コントロール」できるかどうかが中国ビジネス成功の最大のポイントであると言って良い。ここまで複雑骨折するまでのあいだ、何の調査も対策も打たず、自分の判断だけに依拠して独断してきたA社社長に、本当の最大の失敗責任があると言ってよい。浅い知識に頼った甘い判断の責任は、最終的に本人に戻ってくるのである。

(次回へ続く)

(2005年2月記・4,275字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄
新刊「中国ビジネス<超>成功戦術252」(明日香出版)好評発売中!

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