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ログイン2003年6月12日
<投資環境> 世界の工場として、また可能性を秘めた消費大国として目覚ましい発展を遂げつつある中国。米国経済をはじめ日欧米主要国の景気が長期減速していくなかにあって、2003年に入って1-3月期GDP成長率9.9%、4月8.9%とSARSの影響すらものともせず今年も通年で7.7%のGDP成長を見込むなど、底知れぬパワーはいささかも衰えず、世界で一人勝ちの様相を呈している。年間7%台成長の勢いがこのまま毎年続けば、2015年には日本とほぼ同等のGDP4兆ドル、世界2位の経済大国になると予想している銀行系シンクタンク(UFJ総研)すらある。事実、昨年開催された第16回中国共産党大会では2020年に00年GDPの4倍(日本とほぼ同等の4兆ドル)を目指す「全面的小康社会」の実現を当面の目標とし、さらに2050年にはさらに4倍すなわちGDP17兆ドル達成を国家目標としている。 こうした"チャイナ・ショック"が現実味を帯びてきている状況下、わが国の産業界には悲観論があふれている。しかしいたずらに悲観論を振り回してみても問題解決には結びつかない。十分な調査も戦略もなく中国に大金を投資して進出し、空手で引き上げてこざるをえなかった日本人が「中国人に騙された、ひどい目に遭った」と語る経験談も広がっている。しかし、どうしていつまでも「騙す、騙される」あるいは「騙されたことがない」というような感情論から脱出できないのだろうか。どうして日本と中国の関係を語るとき、いつも歴史観、あるいは政治が優先されるのだろうか。たとえ純粋なビジネス上の視野から中国が語られることがあったとしても、その核心は「中国ビジネスの成功はパートナーの良し悪しによって決まる」、「中国は人治国家でルールなど無い」というような出会論・裏技伝授ばかりが中心で、中国ビジネスの成功はまるで「偶然の産物にすぎない」というような結論に到達してしまうのが常である。一方で日本から多くの企業が日本海(東海)を渡って中国に進出し、すでに中国ビジネスは一部の大手商社、大手企業、専門業者だけの特異な分野ではなくなっている。昭和47年9月の日中国交回復からすでに30年もの歳月が経過している。いまや冷静に事態を分析して、未来に向けて確固たる戦略を構築すべき時期が来たといえるだろう。 たしかに日本の国際競争力の低下に加えて、中国への生産移転と産業空洞化は紛れもない事実であるが、わが国の自動車産業はいまだに世界のトップレベルにあり、家電や半導体製造装置など日本企業のグローバルマーケットにおける占有率も依然として大きいものがある。日本は生産技術と知的財産の大国である。先端技術や製造技術の開発能力も高く、経営改革の断行や新たなビジネスモデルの構築によっては「中国との共存共栄」戦略を成功させるだけの力、また「中国の脅威」を跳ね返すことのできるだけの余力もまだまだ十分に残っているといっていいだろう。いすせれにせよ、ポイントは「まず中国ありき」という発想は捨て、21世紀のわが国のあり方、わが社の生き残り戦略の長期ビジョンを策定し、その中のひとつの個別戦略として中国を市場、生産拠点としてどのように活用していくかを考え、着実に実行していくところにある。 ■進む日本の対中輸出と投資 1995年をピークとしながら1997年の香港返還、アジア通貨危機と下降曲線を描いてきた日本の対中輸出や企業進出がここ数年、再び盛り返しており、その背景には2001年12月の中国のWTO(世界貿易機関)加盟がある。輸出企業から見た場合の魅力は何といっても関税率の大幅引き下げであり、日本の得意分野である自動車・家電製品などは2005年までを目処に現行の半分に縮小して、特にパソコンは25%の税率をゼロにすると約束しているほどである。
(出所:日中経済協会) こうした動きを好感して対中輸出は著しく増加傾向にあり、さるシンクタンクの分析では対米輸出は今後も頭打ちの反面、対中輸出は年率10%の効率で伸びると予測しており、2010年には対中輸出と対米輸出が肩を並べるとの見方を示している。WTOの最新統計によれば、2002年度通年の中国の輸出実績は前年比22%増加の3,256億米ドルに達し、米、独、日、仏についで世界第5位の座に着いた。国家統計局によれば中国の外貨準備保有高はすでに3千億米ドルを突破し、上海市民の一人当たり年間所得水準はついに1万米ドルを超えた。 ■脅威論だけでは語れない 安くて良質な労働力に加えて、上記の事情から外資の技術移転や生産拠点づくりも旺盛で、世界の工場としての中国の地位も飛躍的に向上してきている。データで示すとそれは一目瞭然で、中国の電子産業分野への外国企業投資はすでに700億ドルを突破している。80年代のカラーテレビ国産化計画により、今や中国は世界最大のテレビ生産国となり、価格面でも国際市場で強い競争力を持つに至った。家電だけでない。すでに携帯電話普及数が固定電話を凌いだ中国の移動通信分野ではモトローラ、ノキア、エリクソン、シーメンスなど世界有数の企業が中国に進出しており、それぞれ全世界生産の14%(モトローラ)、12%(エリクソン)、10%(シーメンス)をすでに中国で生産している。自動車分野でも日本の大手各メーカーは今回、中国における製造販売拠点構築の地歩を固めた。 このように外国から資本、技術を奪取して国際市場に進出してくる中国パワーの勢いは止まるところを知らず、日本にとってもアウトソーシング先、資源調達先、販売マーケットという観点からも中国との相互依存関係はもはや無視できない存在となっている。同時に20世紀末の「日本独り勝ち」状況をも覆す、製造ライバル国としての脅威も日増しに高まってきており、今や日本の中小製造業者のあいだでも中国に大して戦々恐々といったムードが蔓延している感は否めない。 こうした流れのなかで、日本から物作りがいずれなくなってしまうのではないかという悲観論もあちこちで聞こえてくるようになってきた。しかしこの問題を論じるとき、真っ先に考えなければならないのは単純に中国脅威論だけで片づけてしまってはいけないということである。 一歩退いて見れば、近年における日本の産業空洞化や国際競争力の低下はグローバル化の流れのなかで起こっていることを念頭に置かなければならない。要はここ10年の世界的な環境変化に日本の製造業が対応していけなかったからこそ、今日の事態を招いたと認識すべきなのである。したがってまず何よりも肝心なポイントはこの視点に立ったうえで、内なる改革を進めていくことだろう。 ■出ていく技術と残る技術 それでは中小製造業としては具体的にどう対処していくべきか、解決への糸口をいくつか考えてみよう。第一には日本から出ていく技術と日本に残る技術とをしっかりと見極めることである。現在、中国に出ていっている技術のほとんどは移転容易な低コストの量産化技術である。これはグローバル化の流れとして当然の帰結であり、このフィールドで中国と競い合っても意味がない。 一方、多品種少量の先端技術や研究開発分野は技術移転や部品調達の困難さもあって、なかなか出ていかない。液晶表示装置やプラズマテレビなどの家電製品のほか、医療や環境ビジネスなどの分野がそうで、将来的にも日本に残る可能性が高いといわれている。したがってこうした方面の独自の先端技術ノウハウを身につけることが、生き残りのためにまずは必要な戦略といえよう。よそには真似のできない高度な技術力を維持・開発していることにより、引く手あまたの企業はわが国にはまだ多数、実際に存在している。 誰にでもできる技術は積極的にアウトソーシングし、生産技術、ノウハウのすべてを出してきちんとロイヤルテイーを受け取る。当社にしかできない先端技術は社内に守り発展させ、収益の軸に据えていく、という戦略が何よりも基本である。 ■現地進出 さらに大胆な戦略としては優れた量産化技術を持って中国に進出してみるという手もある。いまや海外に出ることが自殺行為という時代ではない。グローバル化の流れのなかでとらえると、むしろ必然といえなくもないだろう。日本企業が中国に行かなければ、安い労働力は欧米に使われるだけで、国内に残っていてはますます防戦一方になってしまう。 中国に進出した日本の大手メーカーは部品の現地調達を急速に進めている。労賃をせっかく安く抑えても、日本から中間財を持ってきては物流費や関税で結局は高コストな物作りになってしまうからである。しかし一方では現地で日本と同じレベルの部品を調達することはまだまだ難しいのが現状である。だからこそ、そこにチャンスがある。 ■明治維新以来の「国際化と現地化」課題 135年前の明治維新で天下太平・鎖国経済の江戸時代から、薩長の維新の志士たちによって日本は海外に向かって開かれた。明治政府は日清戦争に勝利して台湾に、日露戦争に勝利して遼東半島に、そして日韓併合により朝鮮半島に足がかりを築き、遼東半島から北に伸びる満鉄建設により中国大陸東北部へと勢力を拡大していった。明治以降の富国強兵政策は大正、昭和を経て軍部の独走により引っ張られ、終には日中戦争へと突入し、南方に戦線へと拡大し、太平洋戦争の終結まで続いた。当時の日本が国家目標としていた大東亜共栄圏の建設戦略の正体は、欧米をアジアに侵略してくる敵とみなし、彼らとの不可避な最終戦争に備えるための日本を中核としたアジア地域ブロック化戦略であった。しかし60年前の昭和20年8月に日本が経験した東京大空襲、原爆投下、沖縄玉砕、敗戦、連合軍による日本占領は、明治維新以来の日本の対外戦略が喫したはじめての結論的調整経験であったと言えるだろう。 占領下の日本は平和国家として生まれ変わり、58年を経て日本は再び世界進歩に遅れをとるどころか、世界経済をリードするまでの経済成長を達成した。自動車、電子などの先端分野で日本の生産技術はいまだに世界一の水準にあり、政府は知財立国を国策として掲げている。 しかし他方で、日本が明治維新以来、いまだに解決し得ていない大きな課題が改めて同時に浮き彫りにされてきた。「日本の国際化」と「海外事業の現地化」という課題である。 戦後復興から昭和30年代の高度経済成長の時期に日本企業は欧米から技術を旺盛に取り込んで、独自の改善開発を重ねて発展させ、海外から多くの逆委託加工生産を取り込んで国際化し、それに成功した企業が今日の大企業となった。日本経済の発展、生産技術進歩は国際化と表裏一体の関係にあった。経済の国際化が国内経済の窮乏化をもたらすという国際経済理論は成長経済にはまったく当てはまらなかった。 もはや海外、アジア、中国とビジネス取引をすることが難しいという時代ではない。すでに潤沢な資金力も高い技術力も持ち合わせている日本企業にとって、インターネットや衛星通信技術等の飛躍的進歩により、今や多くの海外情報をリアルタイムで得ることのできる環境も整っている。しかし、そのような環境の国際化が否応もなく日本企業に見せ付けたものは「自分自身の非国際性」にほかならなかった。輸出入貿易、委託加工受注を超えた海外進出、海外での事業経営という面で、我々は大きな壁にぶつかったのである。具体的に言えば、多国籍企業化した日本企業であっても海外拠点責任者はすべて日本人か、日本語の堪能な現地人のみにとどまっている現実、そして日本本社に利益を実現できなければ成功とはみなされない海外投資のあり方、いったん不況となればもっとも効率の良いはずの海外工場から閉鎖を始め、もっとも非効率な日本本社を温存しようとするような経営体質である。日本人が海外に滞在するコストが最大のコストとなった今、いかにして日本人が「名誉ある撤退」の成功を図るか、そして現地の人々が日系企業であることをいかにして誇りに思うか、といった課題である。「国際化=空洞化=国内窮乏化」という図式を明治維新の志士たち、あるいは高度成長期にあった日本ビジネスマンの先輩たちに示したら、おそらく一笑に付されることだろう。最近の日本の議論を聞いていると、時代が急速に逆行しているかのような錯覚にすらとらわれてしまう。 中国における事業経営の問題点(出所:日中投資促進機構2002アンケート調査報告書)
■成功への王道は中国人人材を育てること もちろん、準備は周到に進めなければならない。中国の情報を収集して自社の物作り技術が最大限に生かせる方法は何かを慎重に考えることから始まる。物流や供給先、人材確保などの点からロケーションも入念に選択しなければならない。中国ビジネスの基本ルールにも精通しておく必要がある。広大な中国で事業の核となってもらうキーマンは進出先地域の出身者であることがベストである。できれば、日本留学の経験があり、日本の事情にも通じていることが望ましい。かなり多くの中国人が日本企業や大学に留学している現状を考えれば、そうした人材を探すのはさほど難しい作業ではない。 キーマンとなる優秀な人材を探し当てたら、まずは日本で1、2年を目安に徹底して人材教育すべきである。その間、足がかりとなる現地工場を絞り込み、契約を結ぶ手はずを整えていく。それで日本で教育したキーマンを中心に現地での技術教育を施し、4〜5年程度かけて生産を軌道に乗せ、経営を独立採算化させていくことである。それがある程度うまくいったら、そこでようやく今度は合弁化を図り、中国大陸マーケットに本格的に駒を進めていく、というのが成功への一応のシナリオとなるだろう。 やみくもに日本から製品を輸入して中国市場で販路拡大を図るというやり方は、中国政府の受け入れ方針に反し、歓迎も優遇もされず、摩擦を強めるだけである。また日本側にとっても採算に合わない無謀な投資となる。日本の経営手法、生産管理、労務管理手法をそのまま中国にあてはめようとしても、同様に摩擦を深めるだけである。中国の国情に合わせた修正が必要である。 いずれにせよ、進出すると覚悟を決めたら、目先のことで一喜一憂するのではなく、10年くらいの長いレンジで戦略を展開していかなければならない。大胆さは必要だが、無謀さは死を招く。言語、法律、生活習慣や歴史文化も違えば、社会体制も大きく異なる中国である。開拓者利益を得ることだけに焦って眼を曇らせていては何事も成功しない。あわてず着実に、長期戦でじっくりと腰を落ち着けて中国と向き合うことが成功への王道であることは間違いない。 (6月12日記・6,297字) ▼資料(編集注:筧氏がまとめた、中国ビジネスにおける各種留意点等のポイントです)
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