こんにちわ、ゲストさん
ログイン2003年6月1日
<労務・人材> 第3部 変わる中国人の意識と変わらぬ日本型経営 (アジア・マーケット・レビュー 2003年6月1日号掲載記事) 第2部では、日系企業がなぜ中国で良い人材を確保できないかについて、中国側の理由を中心に説明した。中国経済の市場化、労働市場の流動化、およびこれに伴う人材獲得競争の激化が人材確保を難しくした主因である。しかし、中国に進出している外資系企業は別に日系企業だけではない。欧州系企業、米国企業、台湾、香港企業も日系企業と同じ人材確保の問題に直面しているはずである。なぜ、人材が欧米系企業に流れ、日系企業に来ないのか、また、たとえ、中国人従業員が日系企業に就職したとしても、なぜ定着せずに転職志向が高いのか。日系企業の経営をめぐる外的要因だけでは、この問題をうまく説明することができない。日系企業の離職率が高く、定着率が低い理由を説明するには、外的要因より内的要因、つまり日系企業の体質と経営手法にも問題があるのではないかと思われる。第3部では、日系企業の中国人従業員の転職志向と中国系企業管理職幹部の職務満足感との比較を中心にこの問題を考えたい。 尊敬されない日系企業 ここでは、まず中国で行われる企業の好感度調査の結果を見よう。近年、中国も欧米諸国の経験を導入し、社会における企業のイメージを重要視し、日本であまり行われない企業の好感度調査を多く行うようになっている。企業の好感度調査は、企業人気調査の一環として位置付けられ、中国企業の人気度、認知度、知名度、社会貢献度を図るためのパラメーターとなっている。 その代表的な企業調査は「中国で最も尊敬される企業」調査である。この調査は、中国代表企業の経営者、MBA取得者、学者、新聞社などからなる選定委員がまず候補対象企業を選び、その中から無記名投票で尊敬される企業を選ぶというアンケート調査方式をとっている。2003年度の調査によって、ウォルマート(中国名:沃爾王馬)、P&G(宝潔)、ノキア(諾基亜)、上海通用(上海GE)など多くの欧米企業が「中国で最も尊敬される企業」として選ばれたが、2002年度と同様に、日系企業が1社も選ばれなかったのである。しかも、候補対象企業にも選ばれていないという(『東方時報』2003年4月10日)。 他方、北京市のコンサルタント会社・零点公司が1996年末に行った調査では、「最も働きたくない外資系企業はどこの国の企業か」と聞いたところ、日系企業を挙げた回答者が最も多く、回答者総数の51%を占めているのに対して、米国企業と欧州企業を挙げた者の比率はそれぞれ4%と5%にとどまっている。また、「外資系企業で働くとすれば、働きたい」企業として、米国企業と欧州企業を挙げた者の比率がそれぞれ27%と21%に達しているのに対して、日系企業を挙げた回答者の比率はわずか8%に過ぎない(『日本工業新聞』1997年4月18日)。日系企業は中国では尊敬されていないばかりでなく、最も働きたくない企業となっている。 転職志向が強い外資系企業従業員 日系企業の人気度が低い理由は従業員側と日系企業側の双方に求められる。従業員側の理由については、第2部でも指摘したように中国経済の市場化が進むにつれて、中国人の職業選択意識が大きく変わり、「改革・開放政策」を実施する1978年前の「職業安定志向」から、高い給料を追及する「高収入志向」に変化していることが挙げられる。中国人の職業選択意識と中国社会の変化を認識しておらず、従来の国有企業が実施していた「固定工制度」と似通った日本型終身雇用、年功序列型賃金制度に代表される日本型人事、労務管理手法をそのまま中国に持ち込んだ日系企業は、中国で人気がないのも当然のことである。 表1は、1996年4-8月に馬成三教授が中国対外貿易経済合作部国際貿易研究所(97年4月より、国際貿易経済合作研究院に改称)の協力を得て、北京、天津、大連、上海、深センにおける日米欧企業の中国人従業員、経営者、政府主管官庁担当者などを対象に行ったアンケート調査の結果である。調査企業数、回答者数および複数回答かどうかが明示されていないなどの問題があるものの、日系企業と欧米系企業との比較ができるので、利用することにした。調査結果にみられるように、日系企業だけでなく、欧米系企業の中国人従業員の転職意識が非常に高くなっている。 ■表1 外資系企業従業員の転職の考えの有無(単位:%)
注:( )は「無回答」を除く回答数に占める比率(%) 「転職する考えはあるかどうか」と聞いたところ、調査対象者の73.4%は「非常に転職したい」または「適当な職場があれば転職したい」と答えている。もし、無回答の18.3%を除けば、転職志向を持つ従業員の比率がなんと92.3%にも達している。 企業の比較では、「非常に転職したい」と答えた日本企業従業員の比率は調査対象者の13.8%を占め、断トツ第1位となっているが、「適当な職場があれば転職したい」と答える日系企業従業員の比率は77.4%で、欧米系企業のそれを下回っている。 安定志向が強い国有企業従業員 外資系企業の従業員と比べて、都市戸籍を持つ国家機関の幹部、管理職、技術職の転職意識が低く、むしろ、職業安定志向を持っている。2000年3月に中国経済景気観測センターは、中央電視台(中央テレビ)「中国財経報道」との協力で、北京、上海、広州、成都、武漢と西安の6大都市で、都市戸籍を持つ都市住民1,232人を対象にアンケート調査を行った。「現在の仕事に満足しているか」との質問に対して、「満足している」と答える者は調査対象者数の8.4%を占め、それに「基本的に満足している」と答える66.3%を付け加えると、75%に近い都市住民は現在の仕事に満足の意を表わし、外資系企業従業員を対象とする調査結果と著しい対照をなしている。 ■表2 現在の仕事に対する職務満足感(単位:%)
出所:中国経済景気観測センター「北京・上海等6大都市就職意識調査」、
鮮祖徳主編「中国市民的経済観」36頁、中国統計出版社、2001年12月 職務満足感を職業別にみると、管理職の満足感が最も高い87.7%に達している。機関幹部、医療・教育・文科・衛生部門などの専門技術職、サービス業、生産労働者、私営業がそれに続く。その逆に現在の仕事に「満足していない」と答える者の比率が最も高いのは私営企業の従業員であり、調査対象者数の34.7%を占めている。その次は労働者、サービス労働者の順である。 他方、同じ中国経済景気観測センターの調査で、「転職したいかどうか」についての質問に対して、「機会があれば、もっと良い仕事に転職Lたい」と答えた者は、調査対象者の29.5%を占め、「考えていない」と答えた者の比率(70.5%)を大きく下回っている。年齢別では、55歳とそれ以上の者のうち、84.8%の調査対象者は「考えていない」と答える。職業別では、「考えていない」と答えた管理職と機関幹部はそれぞれ78.5%と78.2%を占めている。 中国経済の市場化は確かに中国人の職業選択意識と職務満足感に大きな影響を与えているが、しかし、勤続年数が長く、経験が豊富でかつ職業が保障されている国家機関の幹部、専門技術職、管理者は「高い転職志向」を持たず、「職業の安定」を重視している。彼らは現状に多少の不満を持つかもしれないが、強い責任感、達成感を持ち、今の仕事に満足している。これとは逆に私営企業、労働者、サービス業など仕事がきつく、不安定な職業に就く者ほど、職務満足感が低く、現在の仕事に対する不満が大きく、「高収入志向」で転職の意志が強くなっている。責任、達成感、仕事の種類や内容および職業の安定度は転職の意思決定に大きな影響を及ぼしている。 なお、外資系企業は労働コストの低減を求めて、中国に進出しているので、都市戸籍人口より、農村からの出稼ぎ労働者、つまり農村戸籍人口を大量に雇用している。農村戸籍人口は都市戸籍を持つ都市部の私営企業、労働者と同様に、職務満足感が低く、高い転職志向を持っている。しかし、日系企業は、転職志向が強い単純労働者の確保にあまり困っていない。確保が難しいのは熟練労働者、専門技術職と中問管理職である。つまり、国家幹部、専門職、技術職は日系企業にとって最も欲しがる優秀な人材である。これらの優秀な人材のほとんどは現在の仕事に満足しており、かれらを国有部門から引き抜くには現状より以上に、高い給料を出さなければならない。職務満足感が高い中国の優秀な人材と安い給料しか支払えない日系企業との間にミスマッチが生じている。 このミスマッチはもう一つのミスマッチ、つまり高い収入志向をもつ日系業の従業員と安定雇用を重視する日系企業との問に生じたミスマッチと相侯って、日系企業の人材確保を困難にする要因である。 高収入を求める入社と転職の動機 中国人従業員は何を基準にして会社を選び、転職を考えているのか、このことを理解しなければ、中国で良い人材を確保することができない。 表3に示されるように、日系企業、欧米企業を間わず、これら各企業の中国人従業員はいずれも「収入の増加」を入社または転職を決める上で最も重視する動機として挙げている。但し、「収入の増加」を挙げている日系企業の比率をみれば、入社の動機では72.2%、転職の動機では69.3%をそれぞ占めており、平均値と欧米企業のそれを上回っている。 ■表3 中国人従業員の転職と入社の動機(複数回答、単位:%)
出所:表1に同じ これに対して、「才能の発揮」と「技術・管理の修得」を求めて入社し、または転職を考える中国人従業員の比率は欧米企業より低くなっている。このことから分るように、日系企業への就職を選ぷ中国人従業員は、欧米系企業の従業員以上に強い高収入志向を持っている。また、転職の動機も日系企業で高い収入が得られないためである。 他方、「会社に対する要望」を項目別にみれば、「賃上げ」を挙げる日系企業従業員の比率は調査対象者の69.5%と第1位を占め、「奨励金・手当ての増加」(52.3%)、「福祉の充実」(46.6%)、「住宅の解決」(41.3%)がそれに続いている。これらの要望のうち、「住宅の解決」を挙げる日系企業従業員の比率が欧米系企業より低いものの、その他の要望の比率はいずれも欧米系企業のそれを上回っている。つまり、日系企業の中国人従業員は、現在日系企業の賃金水準および賃金と関連する「奨励金・手当て」、「福祉制度」に強い不満を持っている。このことはまたなぜ日系企業の定着率が低く、転職志向が高いかを説明することができる。 (城西大学助教授張紀濤) |
本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。
アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。 |
有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。
2010年12月27日
2010年8月12日
2010年7月26日
2010年7月16日
2010年7月5日