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ログイン2010年7月16日
<GMによるDelphiの買収、ファイザーによるワイスの買収>企業が組織再編を行う際には、事前に商務部に対して申告し、更には競争制限効果を解消する条件を提出する必要が生ずる場合がある。本稿では、商務部が公告した実例を関連規定とともに紹介する。【3,492字】
(4)GMによるDelphiの買収[1]
米国の自動車メーカーであるGM(General Motors.)が米国の自動車部品メーカーであるDelphiを買収するため経営者集中の申告を行った事例であり、本件経営者集中に関する公告においても、影響が及ぶ関連市場、経営者集中により生ずる競争上の問題について言及されている。
(a) 関連市場
GMの製品については、関連商品市場は自動車乗用車市場及び自動車商用車市場とされ、関連地域市場は中国市場とされている。
Delphiの製品については、関連商品市場は10個の独立した自動車部品市場とされ、関連地域市場は中国市場とされている。
(b) 競争上の問題
本件集中については、次のような競争上の問題が指摘されている。
(i) 集中実施後の株式支配関係及び利益の一致性に鑑み、Delphiが国内の他の自動車メーカーに対して供給を行う際の安定性、価格及び品質につき生じうる不利な影響を解消し、国内自動車市場の競争が排除・制限されることを避ける必要がある。
(ii) 集中実施後の株式支配関係及び利益の一致性並びにGMによるDelphiの董事会への介入に鑑み、Delphiが把握している国内の他の自動車メーカーの研究開発技術等の競争性情報をGMが獲得しないようにし、国内自動車市場の競争が排除・制限されることを防止する必要がある。
(iii) 集中実施後の株式支配関係及び利益の一致性に鑑み、国内の他の自動車メーカーが部品サプライヤーを変更する際に、Delphiが遅延させ、協力しないといった策略を用い、変更コストを引き上げないようにし、国内自動車市場の競争が排除・制限されることを防止する必要がある。
(iv) 集中実施後の株式支配関係及び利益の一致性に鑑み、GMが将来的にDelphiからの自動車部品の調達を増加させ、国内の他の部品企業がGMの調達ルートに入ることが困難になり、国内の他の部品企業がDelphiに比して不利な地位に置かれ、国内の自動車部品市場の競争が排除・制限されるおそれがある。
(c) 制限的条件の付加に係る協議
商務部は、集中参与経営者双方が提出した解決方案により本件集中がもたしうる競争を排除・制限する効果を解消することができると判断している。
(d) 審査決定
商務部は、集中参与経営者双方が提出した解決方案を受け入れ、制限的条件を付加し、本件経営者集中を認可する旨を決定している。具体的な条件は、次の通りである。
(i) 集中取引完了後、GM及びDelphiは、Delphi及びその関連企業が国内の自動車メーカーに対して差別することなく供給を続け、かつ、従前通り、供給の適時性及び信頼性並びに製品の品質を確保することを約束し、供給する価格及び数量については、市場ルール及び既存の合意により定めることを保証しなければならず、直接に、又は間接に競争を排除・制限しうる不合理な条件を付加しないものとする。
(ii) 集中取引完了後、GMはDelphiが把握している国内の他の自動車メーカーの競争性秘密保持情報を不法に獲得しようとしてはならず、DelphiはGMに対してその把握している国内の他の自動車メーカーの競争性秘密保持情報を不法に開示してはならず、双方は第三者の競争性秘密保持情報を正式な、又は正式でない方式により、不法に相互に交換する等してはならない。
(iii) 集中取引完了後、Delphi及びその関連企業は、顧客の適法な要求に応じて、顧客によるサプライヤーの平穏な変更に協力することを保証しなければならず、故意に遅延し、又は制限的条件を設け、若しくは主張して、他の完成車メーカーの変更コストを引き上げることにより競争を制限する効果をもたらしてはならない。
(iv) 集中取引完了後、GMは、そのすべての自動車部品の調達について、多くの供給源からの調達及び無差別の原則を引き続き遵守し、GMの関連要求に合致する条件の下では、差別することなく調達しなければならず、Delphiに有利となり、他のサプライヤーに不利となる不合理な条件を特別に設けてはならない。
本決定が効力を生じた日から、GM及びDelphiは定期に商務部に対して、上記制限的条件の遵守状況を報告しなければならず、双方において上記制限的条件に違反する何らかの行為がある場合には、商務部は法により処罰するとされている。
(e) 検討
情報交換の禁止(上記(d)(ii))、集中に参与しない当事者を差別的に取り扱うことの禁止(上記(d)(i)、(iv))等の行為的条件が付された上、当該条件の遵守状況を定期に商務部に報告することが義務付けられている。
(5)ファイザーによるワイスの買収[2]
アメリカの製薬会社ファイザー(Pfizer Inc.)がアメリカの大手医薬品メーカーであるワイス(Wyeth)を買収するため経営者集中の申告を行った事例であり、上記(3)及び(4)同様、本件経営者集中により影響が及ぶ関連市場及び生ずる競争上の影響について言及された上で付加される制限的条件が定められている。
(a) 関連市場
関連地域市場は中国国内市場(中国大陸地区をいい、香港、マカオ及び台湾を含まない。)とされ、関連商品は2つの人用医薬品と豚マイコプラズマ肺炎ワクチンを含む3つの動物用医薬品とされた。
(b) 競争上の影響
豚マイコプラズマ肺炎ワクチンを除く関連商品については、買収後の競争構造に実質的な変化が生じないとされている。他方、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンについては、買収後、市場競争構造に実質的な変化が生じ、競争を排除・制限する効果が生ずるとされている。具体的には、次に掲げる点が指摘されている。
(i) 市場シェアの明確な上昇
商務の把握するデータによれば、集中完了後の市場シェアは49.4%となり、他の競争者よりもはるかに高くなり、製品価格をコントロールする能力を有するとされている。
(ii) 市場集中度の明確な上昇
集中完了後の中国の豚マイコプラズマ肺炎ワクチン市場は、高度に集中が進んだものとなり、本件集中により競争を制限・排除する効果が生ずる。
(iii) 市場参入が更に困難となる。
前提として、コストが高く、周期が長いという薬品の研究開発の特徴、統計によれば、1つの新製品の開発におよそ3年から10年の時間及び250万から1000万米ドルの投資が必要となることが指摘された上で、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン市場への参入に係る技術障壁は更に高いとされている。ファイザーがワイスを買収した後には、その規模の優勢を利用して、更に中国においてシェアを拡大し、競争者を抑圧し、他の企業の当該領域における発展を制限するとされている。
(c) 審査決定
ファイザーによるワイスの買収後、中国の豚マイコプラズマ肺炎市場に対して競争を制限する効果が生じることに鑑み、当該市場競争に対して生ずる不利な影響を減少させるため、商務部は、条件付きで本件集中を認可することを決定し、ファイザーに対して次の義務を履行するよう要求している。
(i) 中国国内(中国大陸地区をいい、香港、マカオ及び台湾を含まない。)におけるファイザーブランドであるレスピシュア(Respisure)及びレスピシュア-ワン(Respisure One)に係る豚マイコプラズマ肺炎ワクチン業務の分離
(ii) 分離される業務には、その存続性及び競争性を確保するために必要となる有形資産及び無形資産(知的財産権を含む。)を含むこと。
(iii) ファイザーは、商務部による本件集中の認可後6か月内に、受託者を通じて、分離される業務のために買受人を探し、かつ、その者と売買合意を締結しなければならない。
(iv) 買受人は、集中双方から独立でなければならず、予め設定した資格基準に合致しなければならず、かつ、商務部の認可を経る必要がある。
(v) ファイザーが商務部による本件集中の認可後6か月内に買受人を探し出すことができない場合には、商務部は、新たな受託者を指定して、予定最低価格を定めない方式で分離される業務を処理する権利を有する。
(vi) 6か月の分離期間内においては、ファイザーは、1名の過渡期経理を任命して、分離予定業務の管理に責任を負わせなければならない。管理は、分離予定業務の利益を最大化することを原則として、業務が持続的な可存続性、販売適合性及び競争力を有し、かつ、双方が留保するその他の業務から独立であることを確保しなければならない。
(vii) 分離後3年内においては、買受人の請求に基づき、ファイザーは、買受人に対して合理的な技術サポートを提供し、当該買受人が豚マイコプラズマ肺炎ワクチンの生産に必要な原材料の調達に協力し、かつ、買受人の関連人員に対して技術訓練及び照会サービスを提供する義務を負う。
(d) 検討
集中参与当事者の業務の一部分離という構造的条件(上記(c)(i))を中心として、その際の条件(上記(c)(ii)、(iv))、期限(上記(c)(iii))、期限内に買受人が見つからない場合の措置(上記(c)(v))等が定められているほか、分離までの過渡的措置(上記(c)(vi))、分離後の補完的措置(上記(c)(vii))が定められている。
(3,492字)
[1]「中華人民共和国商務部公告[2009年]第76号」(商務部2009年9月28日発布)
[2]「中華人民共和国商務部公告[2009年]第77号」(商務部2009年9月29日発布)
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