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上海市・広州市税務検討会(最新の税務問題に対する税務局との共同検討会)の報告

中国ビジネスレポート 税務・会計
水野 真澄

水野 真澄

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2010年7月14日

記事概要

2010年6月には広州税務局、2009年12月には上海市税務局と税務検討会を開催し、最近の税務問題に対する税務局側の考え方を確認しました。今回は、広州市の内容を中心に(広州市で質問した内容に付いては、対比の意味で上海市の回答を添える形で)下記致します。1.常駐代表処に対する課税強化2.租税条約適用に際しての事前登記3.非居住者の役務提供に対する課税4.出向者の日本払い人件費精算と個人所得税5.董事報酬に対する課税【6,507字】

2010年6月には広州税務局、2009年12月には上海市税務局と税務検討会を開催し、最近の税務問題に対する税務局側の考え方を確認しました。今回は、広州市の内容を中心に(広州市で質問した内容に付いては、対比の意味で上海市の回答を添える形で)下記致します。
 
1.常駐代表処に対する課税強化
2010年2月20日に、「外国企業常駐代表機構税収管理暫定弁法(国税発[2010]18号)が公布され、常駐代表処に対する課税が強化されたが、課税に関する対応はどう変わるのか。

質問の趣旨
国税発[2010]18号では、常駐代表処を原則課税対象と扱っている。一方、日中租税条約、中国本土・香港の租税協定では、「補助的業務のみに従事する機構は、恒久的施設(Permanent Establishment=P/E)とは認定しない」、つまり、企業所得税を課税しない事を定めている。国際租税の原則から言えば、租税条約は、国内法に優先する筈であるが、常駐代表処に対する課税の実務は、どの様に変わるのか。

・個々の常駐代表処の活動内容を調査し、課税の要否を判定するのか(租税条約に基づく対応)。
・一律課税とするのか(国内法のみを採用した対応)。

広州市税務局の回答
租税条約が国内法に優先する事は理解しており、同意見だ。国税発[2010]18号が公布されたからと言って、補助的機構はP/Eに該当しないという租税条約の原則が変わる訳ではなく、条件に該当する常駐代表処は免税申請が可能である。(営業活動をしていないという事は、どの様な調査が行われるのか、という水野の質問に対し)判断は税務担当者の判断に基づく。ただ、常駐代表処の規模、事務所の様子等から、自ずと概要は把握できるものであり、常駐代表処内部の綿密な立ち入り検査までは、通常実施しない。

上海市税務局の回答との相違と解説
検討会開催時には、国税発[2010]18号が公布されていなかった事から質問せず。

2.租税条約適用に際しての事前登記
2009年10月1日より、「非居住者が享受する租税協定の優遇管理弁法・施行(国税発[2009]124号)」が施行され、租税条約の優遇を享受するには、一定の事前登記が義務付けられた。同弁法では、登記の対象と、手続は以下の通り規定されている。

(I)投資所得・譲渡所得を有する非居住者(第7条・第9条) 中国を源泉とする配当・利子・使用料・譲渡所得を有する非居住者は、以下の書類に基づいて、事前登録をする。
・租税条約優遇享受に関する申請書
・租税条約適用に関する身分証明
・相手国(非居住者所在国)の税務局が、前年度開始以降に発行した納税者の身分証明
・所得に関連する契約書、支払証憑、所有権証明、その他
・税務局が要求するその他の書類

(II)事業所得・各種報酬(第11条)
中国を源泉とする事業所得、報酬を有する非居住者が、事前登録に際して提出する書類は以下の通り。
・租税条約の享受に関する登録申請書
・相手国(非居住者所在国)の税務局が、前年度開始以降に発行した納税者の身分証明
・税務局が要求するその他の書類

では、具体的に事前登記が必要となる項目と、必要書類はなにか。
 
質問の趣旨
1.配当・利子・使用料の対外送金の場合、日本法人は、国内法に基づく課税(10%の源泉徴収課税)と、租税条約の条件が同一であるため、登記を提出しなくてもよいか。

2.中国内で請負工事を行う場合(国家税務総局令2009年19号に基づく役務提供を含む)は、連続する12ヶ月内の6ヶ月超であれば、租税条約が適用されれば、P/E認定されない。よって、事前登記が必要であるというのは、他地域での実務からも理解している。では、具体的な提出書類とは何か。特に、「相手国(非居住者所在国)の税務局が、前年度開始以降に発行した納税者の身分証明」というのは、何を提示するのか。

3.中国内で、何の肩書もなく、給与も全額中国外で受取っている個人の場合は、租税条約に基づけば183日ルールの適用対象となる。この様な場合(中国内で、なんの肩書も持たない場合)は、事前登記は不要と考えて良いか。上海市の税務局では、中国内で役職を持つ場合のみ、事前登記が必要という回答であった。もし、登記が必要な場合は、どの様な証憑を提示するのか。
⇒相手国(非居住者所在国)の税務局が、前年度開始以降に発行した納税者の身分証明書というのは、納税証明の事か?

広州市税務局の回答
1.国家税務総局令2009年19号は、配当・利子・使用料の様な投資所得は許可制、事業所得・労務所得は登録制を原則としている。これは、事業所得・労務所得は比較的管理・判断が容易であるのに対して、投資所得は、居住性・実態の判断が難しい為である。この様に、認可制が前提となっている故、税率が同様(租税条約の恩恵は享受しない)場合でも、事前登記は必要。

2.非居住者企業の事前登記時に必要となる書類とは、「役務請負契約書、臨時納税者登録申請書、非居住者企業の代表者の身分証明、その他の資料(非居住者企業の登記証明等)」が提出書類となる。尚、臨時納税者登録はP/E認定を意味しない。徴税管理の為の一つの手続である。P/E認定するか否かの判断は、別途、実態に応じて行う事となり、事前登記時にその判断を行う事になる。

3.中国内での兼務の有無を問わず、事前登記は必要。身分証明書は、国税発[2009]124号では、相手国の税務機関が発行した身分証明となっている為、それに従えば納税申告書、その他の書類になると思うが、パスポートでも居住者である事の証明は可能である(身分証明書として使用可能)と考える。

上海市税務局の回答との相違と解説
1)・2)に付いては、上海市・広州市共に、概ね同様の回答であった。重要な部分は、臨時納税者登録(国家税務総局令2009年第19号に基づく手続)は、P/E認定を意味しない。徴税管理の一手法であるため、役務期間の長短を問わず、登記が必要という点。P/E認定の要否は、臨時納税者登録を行った上で、活動実態に応じて判断される事になる。

3)の183日ルールの適用に付いては、「上海市では、中国内の組織の肩書を持っている(兼務している)場合を除き、事前登記不要」という回答であったのに対し、広州市では、「183日ルール適用の為には、一律事前登記が必要」という回答で、意見が大きく異なった。ただ、身分の証明の為の書類の内容が明確に特定できない等の状況を勘案すると、広州市でも、事前登記の手続は進んでいないものと推測される。

3.非居住者の役務提供に対する課税
2010年2月20日に、「非居住者企業所得税査定徴収管理弁法(国税発[2010]19号)、以下、2010年19号弁法」が公布されており、非居住者に関する見なし課税適用の強化が打ち出された。ここでは、P/E認定された場合は、以下の見なし利益率で課税できる事が規定されている。

・請負工事、設計役務 15~30%
・管理サービス 30~50%
・その他の役務、経営活動に関しては、15%以上

では、この見なし利益率は、技術の為の派遣者、機器販売に付随する据付役務の提供の為の派遣者の場合、どの分類に該当するのか。

質問の趣旨
販売した機器の据付役務の場合は、「請負工事、設計役務」と見なして、15~30%と考えてよいか。課税方法は、以下の通りと考えてよいか。また、管理サービスというのは、どの様な役務が該当するのか。

<機器販売と据付役務を提供した場合の課税>
前提
日本企業が中国企業に、1,000の機器を販売。別途、据付役務契約を100で結び、技術指導者を派遣した。機器(1,000)に付いては、単純輸出である為課税無し。据付役務契約(100)に付いては、15~30%の見なし利益率により企業所得税が、更に、5%の営業税が課税。

企業所得税:100x15~30%(見なし利益率)x25%(企業所得税率)=3.75~7.5
営業税  :100x5%=5
若しくは、機器1,000を含めて見なし利益計算を行う事はないか(1,000+100=1,100が見なし課税対象となる)。

⇒国税発[2010]19号は、機器販売価格に据付役務が含まれているが、金額が明記されていない場合、 若しくは、明記されていても不合理な場合は、機器価格の10%以上を役務部分と見なして課税する事を定めている。つまり、機器の販売自体は、見なし利益率を適用しない(課税しない)事を謳っている為、機器に付いての企業所得税課税は、原則としてないものと考える。

広州市税務局の回答
1.機器販売所得と据付役務は独立した行為であり、仮にP/E認定をされた場合でも、双方を含めて課税対象とする事はしない(機器販売と役務を合算した上で、見なし利益率を適用する様な事はしない)。機器販売は事業所得税ある為、中国での企業所得税課税は行なわれない。役務費に関しては、源泉徴収方式(P/E認定されない場合)、若しくは、見なし利益方式(P/E認定された場合)で課税を行う。

2.P/E認定の期間に影響を与えるのは、工事期間(連続する12ヶ月に6ヶ月超か否か)だけではなく、「日中租税条約とその議定書の条文解釈に関する通知(国税函[1997]429号)」の内容も考慮される。つまり、機器販売に付随する役務提供の内容が、技術・据付等に関する責任を伴うものであれば、期間が6ヶ月超であればP/E認定の対象となるが、この様な責任を伴わないのであれば、P/E認定の対象とはならない。

3.機器販売と役務提供が同時に行われる場合で、契約書に役務部分の金額が明記されていない場合、提供する役務の内容で対応は異なる。極めて単純な役務のみであれば、契約書に基づき、単純な機器販売所得として扱う(中国では課税されない)事も可能である。
一方、重要なノウハウ等を含んでいれば、機器販売価格の相当部分を役務・ノウハウ部分(使用料)と見なして課税する。

4.見なし利益率は、契約内容に照らし合わせて、実態に応じて判断する故、一概には回答できない。

上海市税務局の回答との相違と解説
機器販売+据付役務の提供を行いP/E認定を受けた場合でも、機器販売と役務は、各々独立した課税を行う(双方を一体として見なし利益率課税を行う事はない)点は、上海市・広州市同様の見解であった。よって、機器+SV(Supervising)形式で据付役務の提供を行ったとしても、機器部分全体にまで課税範囲が及ぶ事は無い点は、ほぼ確実であると考えて良い。

但し、国税発[2010]19号が規定する様に、機器販売に付随して提供する役務が、「機器販売と切り離せない」ものであり、「多分にノウハウ的なもの(無形資産価値)を含んだもの」である場合、機器販売代金の一部がノウハウの対価であると判断され、このノウハウと判定された部分に対して源泉徴収方式(企業所得税10%・営業税5%)、若しくは、見なし利益率課税が行われる事となる。

この様に、機器の一部には課税が及ぶ可能性があるが、この判断(ノウハウの内容判定と、機器代金部分の何割がノウハウ部分と判定されるか)は、税務局の裁量にゆだねられる。

4.出向者の日本払い人件費精算と個人所得税
中国の現地法人に出向している社員(駐在員)の人件費精算に関して、会社間の派遣契約と見なし、P/E認定をしようとする動きがある地域ではみられるが、これは、どの様な動きか。

質問の趣旨
中国現地法人に出向している社員の一部人件費が、日本で払われている場合がある。この様な場合、(出向者の人件費は、原則、全額現地法人負担であり)日本で支払われている部分を、中国の現地法人が日本法人に対外送金する事になる。 これは、飽くまでも立替金決済であり、送金の対象となる日本払い給与も、中国で個人所得税を納税済である。

この様な事実関係を無視し、日本法人が中国現法から徴収するコンサルティングフィーと考えて、企業所得税・営業税を源泉徴収(15%)するのは、少々乱暴だと思うがどうか。
また、この様な立替金決済が、6ヶ月を超過すると、P/E認定(日本法人の中国内での役務請負い)され、国家税務総局令2009年19号に基づく、臨時納税義務者登録(日本法人の納税義務者登録)を要請されるのか。

広州市税務局の回答
人件費の送金が立替え送金であり、外貨管理上、本来送金できない内容であれば、実態に拘らず、その内容を税務局が査定する事は可能である。問題となるのは、本社からの派遣員に関わり対外送金が生じている事で、これにより、会社間の人材の派遣に関わる対価と判定すれば、中国に課税権は存在する。

結果として、企業所得税(10%)と営業税(5%)の源泉徴収は必要となるだけでなく、国家税務総局令2009年第19号の規定に基づいて、臨時納税者登録が必要となるし、6ヶ月超の期間継続すれば、P/E認定にも発展する。これを回避しようとすれば、会社間の問題でなく、個人の問題とする事(出向ではなく、個人で現地法人に就業した事にする)である。当然、資金の流れも、現地法人⇒派遣元の日本企業ではなく、出向者の個人口座等に直接送金する等の対応が必要となる。

上海市税務局の回答との相違と解説
上海では、外貨管理局と税務局の協議により、日本払い給与の送金が認められている為、この様な税務問題は生じていない。人件費送金に関する課税問題が生じるのは、原則として上海以外の地域であるが、既に、臨時納税者登録・課税の実例が出てきている。ただ、地域によっては、「出向元(本社)との関係は既に精算されており、現在は、純粋な現地法人の社員である」旨の一筆を差し入れる事で、この様な派遣元の非居住者企業に対する課税を免除すると提案する税務局も少なからずあり、今回の回答も、それに準じた内容となっている。

5.董事報酬に対する課税
日本居住者が、中国法人の董事を務めている場合、個人所得税の扱いはどうなるか。

質問の趣旨
日中租税条約(第16条)では、一方の締約国の居住者(日本居住者)が、他方の締約国である法人(中国の企業)の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国(中国)において租税を課することができると規定されている。
⇒ 中国法人の董事が受け取る董事報酬に関しては、滞在日数に関係なく中国で納税義務が生じる。

一方、中国国内に住所を有しない個人が個人所得税を計算納付する事に関する若干の具体的問題の通知(国税函発[1995]125号)では、董事、高級管理職員の報酬に関し、国内及び国外で支払われ、且つ、国外で役務提供した日がある場合の計算方法として、以下を規定している。

(計算式)
納税額 =(当月の給与総額 x 適用税率-速算控除額)x(1-A)

           当月国外支払給与                    当月国外労働日数
A =  ————————- x ————————–
               当月給与総額                        当月日数

但し、昨年に、「個人所得税執行に関する若干の問題を明確にする通知(国税発[2009]121号)」が公布され、会社に雇用されている場合(親会社等のグループ企業の雇用を含む)、及び、董事の肩書はあるものの、実際の機能が現場管理(総経理業務)である場合は、受取る報酬の実質的な位置付けに注目して、董事報酬としてではなく、賃金給与として課税する事を規定した。

つまり、会社員がグループ企業の董事を務める場合は、董事報酬ではなく、賃金給与だと見なされるので、(中国法人が報酬を負担しなければ)183日ルールが適用され、暦年滞在日数が183日以内であれば、中国内で納税をしなくてもよいと考えて良いか。

広州市税務局の回答
賃金給与の場合は超過累進課税方式であるのに対し、董事報酬の場合は定率制という、納税方式の違いがある。国税発[2009]121号は、この様な税額計算の方法(超過累進課税方式か定率制化)の明確化を行ったもので、非居住者董事の課税権の問題には及んでいない。
董事報酬は、日中租税条約に基づけば、会社の所在地に一義的な課税権があるものであり、その原則は、同通知による変更はない。

上海市税務局の回答との相違と解説
上海市税務局の回答は、「会社に雇用された董事の場合は、報酬を賃金給与と見なすので、183日ルールが適用できる」という、上記を肯定する内容であった。広州市の税務局の回答は、それと相違するものである。但し、実務論から言えば、報酬の全額が中国外で支払われており、中国滞在日数が短い非居住者の場合は、広州市においても、税務局より課税要求を受けた例を聞いていない。

この点、実務面では、やはり、上海市税務局の回答に準じた対応が行われているものと推測でき、実務面での一層の調査が必要である。

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