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中国の公務員は日本の観光誘致の重点対象になる

中国ビジネスレポート 各業界事情
馬 成三

馬 成三

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2010年7月12日

記事概要

管内閣の新成長戦略のひとつである、「観光立国戦略」。2020年初めまでに訪日外国人誘致数を2500万人、将来的に3千万人に増やすというものだが、そのメーンターゲットとなる中国人のなかでも、日本観光誘致の重点対象になり得る中国の公務員の収入にスポットを当てる。【3,773字】

中国人の個人観光ビザの発給要件緩和

管内閣はさる6月18日、7つの戦略分野から構成された「新成長戦略」を閣議決定し、その一つに「観光立国戦略」がある。「観光立国戦略」によると、2020年初めまでに訪日外国人誘致数を2500万人、将来的に3千万人に増やすことになる。同目標の達成で経済波及効果10兆円、新規雇用56万人と見込まれている。

「観光立国戦略」の一環として、アジアをメーンターゲットに中国人向けの個人観光査証の要件緩和もさる7月1日より開始した。具体的には以下の諸内容が含まれている。

①申請窓口の拡大:現行の北京・上海・広州の三つの公館(大使館・領事館等)から、中国国内全ての公館に広げること。
②中国国内における個人観光ビザ申請取次旅行会社の拡大:現行の48社から290社に増やすこと。
③年収下限に関する基準の緩和:年収下限を25万元から6万人民元に引き下げ、大手クレジット・カード会社が発行する「ゴールドカード」の所持状況や、職場での役職等を総合的に判断してビザを発給すること。うち、職場での役職について、上場企業や官庁の課長以上と想定されているようである。

中国人の個人観光ビザの発給要件緩和を受けて訪中した溝畑宏・観光庁長官は、7月2日、北京で記者会見し、日中間の往来者数を2016年までに現在の約3倍にあたる年間1200万人(日中両方とも600万人)にまで増やす目標を明らかにした。2009年時点の実績から計算すれば、日本人の訪中者数(2009年は330万人)は81%増加するのに対して、中国人の日本訪問者数(同約100万人)は6倍に増加することになるのである。

7月1日から実行された日本政府の新規定に対して、中国の消費者はおおむね良い反応を示しているが、「一定の程度の職業地位」が求められているため、私営企業の従業員はその恩恵をほとんど受けられず、国有企業の従業員や政府機関の公務員からも「手続きが煩雑」(広東省)との声が聞こえる。

困難を極める中国人の年収査定

中国人はEU諸国のシェンゲン・ビザを申請する場合、旅行資金の証明になるものが必要となっているが、その書類として、銀行口座残高証明と銀行口座明細のコピー(半年分が必要)、クレジット・カードなどが挙げられている。

日本政府は中国人を対象とした個人観光ビザ発給要件の一つである年収下限を、6万人民元(月収5000元)に引き下げているが、何を持ってそれを証明するかが難題である。日本では税務署・市(区)役所発行の納税証明書や確定申告書のコピーを持って、所得を証明することができるが、中国ではなかなか難しいようである。

中国人の収入の謎が多く、特に不透明な収入が多いところに特徴がある。都市部住民の収入には「白い収入」 (国の規定に合う、公開した収入) 、「黒い収入」 (収賄、汚職と脱税など違法な方法で得た収入)と「灰色収入」 (隠れた収入)という三種類の収入がある。税務署・市(区)役所が発行した納税証明書に記載されているのは、上記の「白い収入」だけであろう。

市場経済への移行中もあって、中国の官庁、企業、個人には「灰色収入」が多いとみられる。中国改革基金会国民経済研究所副所長・王小魯氏をリーダーをとした研究チームが2005~06年に全国10数の都市の住民(高所得者を中心)の家庭収支状況を調査したところ、都市部高所得者の可処分収入は9.7万元と、従来の統計(2.9万元)の3倍に相当するとの結論が出されている。

これをベースに計算すれば、2005年中国都市・農村住民の収入総額は12.7兆元と、正式統計(8.3兆元)より遥かに多い。同研究チームによると、全国の「灰色収入」は4兆4000万元と、GDPの24%に相当し、高所得者ほど「灰色収入」が多いという傾向がある。

中国の公務員は賃金以外の収入が多い

「一定の程度の職業地位と経済能力」という条件を最もクリアしやすい層は、中央から地方までの公務員にほかない。中国の公務員は「狭義」と「広義」の2種類がある。「狭義」とは、中央と地方の政府機関で働いている公務員を指すもので、500万人ほどいるといわれている。「広義」とは、政党機関や社会団体での従業者も含めるもので、全部で1053万人に達しているとの統計がある。人事部が公表した各省・市・自治区の公務員試験合格者が年間合計40万人を超えているという事実から、「狭義」だけで1000万人を超えているではないかとの説もある。

公務員は人数が多い上、最低年収も日本政府が定めている基準を簡単にクリアできるようである。公務員の収入に関する正式な統計はみられないが、「晒工資」(氏名などを伏して、ネットで自分の賃金など合法的な収入を公開する)から得た情報を総合的に判断すれば、課長の肩書きを持たなくても、6万元を超えているとみられる。例えば、大連市政府に勤務している25歳女性公務員が公表した自分の収入は下記の通りである。

1.基本収入
①賃金:月給2120.5元、年間13か月分の給料をもらえるので、合計27566.5元。
②住宅積立金収入:年間10152元。
③奨励金:月2500元、年間30000元
以上①~③の合計は「基本収入」として合計67718.5元。

2.手当て収入
①携帯電話手当て:月200元、年間2400元。
②食事手当て:月300元、年間3600元。
③車手当て:四半期500元、年間2000元。
④新年、春節、メーデ、国慶節の特別手当:合計4000元。
⑤7、8、9月の高温手当:月500元、合計1500元。
⑥労働保護手当て:年間500元。
⑦パソコン輻射防止手当て:月200元、年間2400元。  
⑧旅行手当て(職場に請求可能な金額):年間3000元。
⑨健身手当て(体を鍛える手当て):年間1500元~2000元(平均1800元)。
⑩年末奨励金:年間6000元。
⑪完成任務奨励金:年間5000元。
⑫廉潔責任考察奨励金:年間1000元。
以上①~⑫の手当て収入は年間合計33200元

3.現金以外の福祉
不定期的に発給したスーパーの買い物券、食事券、ミルク券などは年間約3000元。

以上1~3の収入合計は年間10万元以上(101218.5元)、年収6万元の最低基準をクリアすることができるが、本人は職場や税務署からその証明書を開設してもらえないし、「課長」の職位も持っていないため、個人観光ビザの発給対象になれないであろう。

上海市の新米公務員の年収は9万元超

各種の手当てなどを含むと、若い公務員でも年収6万元の基準をクリアできるという実情は、他の都市の公務員による「晒工資」からも証明されている。勤務年数で1年未満(半年強、試用期に属する)、23歳の上海市新米公務員(女性)がネットで公開した収入(「晒工資」)は下記の通りである。

1.基本収入 
①賃金:月給1158.9元、年間15065.7元(1158.9元×13)。 満1年後の月給は1500元~1600元、1550元で計算すれば、年間20150元(1550元×13)になる。
②住宅積立金収入:月212元、年間2544元。満1年後は月250元、年間3000元になる。
③奨励金:月1500元(試用期なので基準の半額)、年間18000元。満1年後には月3000元、年間36000元になる。
初年度(試用期)の基本収入は合計35609.7元(15065.7元+2544元+18000元)、満1年後は59150元(20150元+3000元+36000元)になる。
  
2.手当て収入(試用期の手当ては試用終了後のそれとはほぼ同じ)
①食事手当て:月300元、年間3600元。
②車手当て:四半期500元、年間2000元
③新年、春節、メーデ、国慶節の特別手当:各2000元、年間8000元。
④高温手当て:7月、8月、9月の3ヶ月に月500元、年間1500元。
⑤旅行手当て(職場に請求できる金額):年間2000元。
⑥健身手当て(体を鍛える手当て、職場に請求できる金額):年間1500元~2000元(平均1800元)。
⑦皆勤奨励金:年間6000元。
  
①~⑦の手当ては年間合計24900元(3600元+2000元+8000元+1500元+2000元+1800元+6000元)。
   
3.現金以外の福祉:スーパーの買い物券、食事券、ミルク券など、年間約6000元。
  
以上の基本収入(59150元)、手当て収入(24900元)と現金以外の福祉(6000元)を合わせて。年間収入(実際)は90050元になる。

30歳未満の公務員の税抜き基本収入は6万元以上

江蘇省のある公務員によると、中国人は自分の賃金収入などを公開することにあまり抵抗感を持たず、立場が似た人なら、収入も似ているという傾向がある。彼が公開した勤務年数5年の大卒公務員の基本収入は下記の通りである(いずれ江蘇省勤務、年齢は30歳未満、学歴は大学本科、収入には実物福祉、住宅購入補助金、公的積立金などを含めず、且つ納税後の収入)。

A(女性):江蘇省税務署(省レベルの税務署)勤務、年収7~8万元。
B(男性):南京税関勤務、年収8~10万元。
C(男性):南京のある派出所勤務、年収7~8万元。
D(女性):南京検査局勤務、年収8万~9万元。
E(男性):南京工商管理局勤務、年収9~10万元。
F(女性):南京教育局勤務、年収6万元。
G(女性):江蘇省婦人連合会勤務(「広義公務員」か)、年収6~7万元。
H(女性):南京水利局勤務、年収6~7万元。
I(男性):南京建業区政府勤務、年収7万元前後。
J(男性):南京市労働保障センター勤務、年収7万元。
K(女性):常州税関勤務、年収11~12万元。
L(女性):常州地方税務署勤務、年収12~13万元(省レベルの税務署の収入が多いらしい)。
M(男性):南通地方税務署勤務、年収8~9万元。

以上の情報から、正式な公務員なら課長の地位に着いていなくても、「一定の程度の職業地位と経済能力」を持ち、個人観光ビザの発給要件を満たすものと判断して良いであろう。

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