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釜口不動産鑑定士の“やさしく解説、日本の不動産事情”第4回 「賃料値下げ」

中国ビジネスレポート 各業界事情
釜口浩一

釜口浩一

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2010年7月9日

記事概要

リーマンショック後、新たに事務所を借りる場合の家賃が急落しているなか、現家賃を改定する場合、見直し後の家賃はどの程度が妥当なのか、その判断方法を紹介します。【3,323字】

1.今、家賃見直しのトレンドにある
相変わらず景気の先行きが見えません。売上拡大に向け努力している一方、経費削減も進めている会社が多くなっています。

経費削減といったとき、よく話題になるのは人件費です。そして、同じように金額が大きく、しかも”固定的”支出であるのが家賃です。一昨年前の春頃までは、大都市で事務所や店舗の家賃が上昇しました。ところが、その秋のリーマンショック後、新たに事務所を借りる場合の家賃は急落しました。そのため、値上がりした時期に借りた事務所の家賃と、同じ物件を新規に借りる場合の家賃とでは大きな差が生じています。たとえば、50坪を月坪3万円で借りていた場合、現在の同オフィスビルの家賃が月坪2万円だとすると、月にして50万円多く払っていることになります。1年間でみると、その差額は600万円になります。

(3万円-2万円)×50坪=50万円/月
50万円×12ヶ月=600万円/年

実際、東京の丸の内・大手町にある、それなりに大きなビルで、2年程前には月坪4万円を超えていた物件が、今では賃料と共益費を合わせて実質的に3万円程度という話をいくつか聞きます。(実質的にというのは、賃貸借開始後、しばらくの間賃料が発生しない「フリーレント」にしているからです。)

賃料の高い時期に借りたテナント企業が契約更新にあたり、家賃値下げの要望を出すことがありますが、最近ではこれを商売のネタにして、テナントに代わって家賃値下げ交渉を成功報酬で行う人たちがおり、問い合わせが増えているようです(弁護士法に触れるという話もありますが・・・)。

また、ここ数年の家賃上昇期に借りたのではなく、それ以前に借りたビルでも、現在の家賃水準を見直したところ、払っている家賃が高いことに気づく場合がありますので、一度、自分の会社が新規に借りた場合、家賃がどの程度になるかを調べることは大切です。ここで、気を付けることは、インターネットでテナント募集中のビルを探した場合、そこにある賃料や共益費の情報は”募集”賃料であるということです。実際に決まる値段は、それより格段に安い(たとえば、△20%)ということは多々あります。実際に決まる成約賃料ベースは、不動産仲介業者など、実態を把握している人たちに確認する必要があるでしょう。

2.見直し後の家賃は、どの程度が妥当なのか?
では、現家賃を改定する場合、どの程度を目途にするのでしょうか。誰でもすぐに思い浮かぶのは、”今借りたら、いくらだろう”ということです。そして、現家賃と差があれば、これを縮めようとするでしょう。実際の家賃の見直しも、多くは、この見方がベースとなります。

 “今借りたら”という場合の家賃を、”新規家賃”といいます。新規家賃は高いところほど、景気の変動や時期により大きく変化しがちです。家賃上昇期には、新規家賃より現家賃の方が低いですし、家賃低下期では新規家賃より現家賃の方が高くなるケースが多々あります。

新規家賃が現家賃と同じような家賃水準なら、現家賃もほぼ妥当といえますが、現家賃>新規家賃であれば、高く払っていることになります。一方、現家賃<新規家賃であれば、安い家賃で済んでいることになります。

一般的にテナントは値下げを要求し、ビルオーナーは値上げを要求します。いずれも、新規家賃との差を縮める方向になります。この現家賃と新規家賃の差を縮めるときに、あまりに差が大きすぎるときは別にして、普通は差の半分とか1/3とかを目安にすることが多いです。いわゆる1990年前後のバブル崩壊までは家賃上昇がトレンドでしたので、現家賃は新規家賃より低くなりがちでした。また、ビルオーナーが家賃値上げを申し入れても、法的にテナントを退去させることが難しいこともあり、値上げ幅は新規家賃の上昇に比べて低くなり、新規家賃との差が広がっていきました。

一方、バブル崩壊後に新規家賃が下落した結果、現家賃の方が高くなるという現象が起きました。その後、数年前に大都市で家賃が上昇し、新規家賃が高くなりましたが、リーマンショックの後は下落し、再び、現家賃の方が新規家賃より高いという現象が起きています。現家賃<新規家賃という状況下では、家賃の値下げ改定が徐々に進むこともありますが、場合によっては、交渉により一気に新規家賃水準に近くなることもありえます。なぜなら、最終手段としてテナントは他のビルに移転すればよいからです。なお、定期借家契約で家賃を固定にする取り決めがされている場合や、他に移転することが難しい物販店用途であるなど、容易に他所へ移転ができないケースも多々ありますので、実際には、それぞれのケースで対応することとなります。

現家賃と新規家賃の差を縮めるときの目安となるものとして、他に以下があります。
a.前回家賃を決めた時点からの消費者物価指数などの変化を参考とする。
b.ビル所有者の投資の観点から、前回家賃を決めた時点の利回りを参考とする。
c.同じようなビルの賃貸事例の改定状況を参考とする。
そのビルで物販事業などを行っていれば、家賃負担力なども査定します。不動産鑑定評価を行う場合、過去の改定の経緯等を調べるとともに、これらの方法での改定賃料も査定のうえ、どの程度の改定家賃が適当であるかを判断することになります。

3.現実的な対応方法
このように妥当な家賃の目安をつける方法はいくつかありますが、実際には、集められる情報が限られることなどの理由で、使える方法が限定されます。多くの方が参考にする、最初に紹介した”新規家賃との差を参考とする方法”を行ってみましょう。

まず、見直し対象のビルを決めます。その後、以下の順に行います。
①現在の家賃および共益費(現家賃等)を確認する。
②同じオフィススペースを新たに借りる場合の家賃および共益費(新規家賃等)を調べる。
③現家賃と新規家賃に差があるか、差がある場合どの程度かを確認する。
④過去の改定時期及び改定率を確認する(何度か改定している場合)。
⑤家賃値下げを申し入れるか、申し入れる場合の希望家賃を決める。

“確認”する部分は自社でできる部分です。それ以外は、自社でできる範囲と不動産仲介業者・弁護士・不動産鑑定士など、外部に協力を依頼することとなります。交渉する金額が大きい場合など、重要度が高いと判断した場合、自社で対応するよりも外部の力を借りた方が、効果が大きく、比較的円滑に進むと考えられます。なお、気をつけたいことは、目的は家賃を相当の水準まで下げることであって、良好なビルオーナーとの関係を悪化させることではないということです。

4.毎回しっかりと見直すことが大切
同じ時期にテナントとして入居したとしても、何度も家賃改定期を経ると、複数のテナントの間に家賃の差が出てきます。たとえば、A社とB社が同じ時期に入居し、2年毎に家賃を見直したとします。説明をわかりやすくするために、両社とも月坪1万円で100坪借り、毎改定期の値下げを、A社△3%・B社△5%とします。10年後の1ヵ月の家賃は次のとおりです。

A社:100万円×97%×97%×97%×97%×97%≒86万円
B社:100万円×95%×95%×95%×95%×95%≒77万円

A社とB社の差は11万円となり、年間132万円の違いが出ています。A社はB社に比べて、同じオフィスを10%高く借りていることになります。わずか2%の違いが、長い間にこれだけの差になります。また、もしもどの時点かで、(調査不足の結果)家賃据え置きにしていた場合、差額はもっと広がる結果となります。

5.まとめ
家賃は固定的に発生し、かつ金額も比較的多額になる費用です。また、一度決めた家賃は後々の改定まで影響することになります。改定期には家賃水準の妥当性を検討し、ビルオーナーと良好な関係を保ちつつも、しっかりと対応することが必要です。

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