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釜口不動産鑑定士の“やさしく解説、日本の不動産事情”第3回「不動産の時価開示は何を意味するか?」

中国ビジネスレポート 各業界事情
釜口浩一

釜口浩一

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2010年5月21日

記事概要

今年の3月31日決算以降の上場企業等では、自社使用の不動産は対象外のままですが、賃貸用不動産、投資目的の不動産、将来の使用見込みのない遊休不動産については、その企業が“重要性が高い”と判断した場合、時価評価し、その簿価と時価を開示することとなりました。今回は不動産の時価開示について解説します。【2,761字】

1.貸しビルなど賃貸等不動産の時価開示の背景

一時、電鉄会社が所有している不動産の価値に目をつけた株式買い占めが話題になったことがありました。当時は、大都市の駅前に貸しビルを持っていても、広い空き地を持っていても、公表される貸借対照表に記載される土地建物の金額は”簿価”でした。

なぜなら、所有する企業側でも、売ることを考えていれば別ですが、あえて時価を算定する必要性は少なかったのだと思われます。また、企業内部で不動産活用を考えるために時価を算定していても、公表する義務はありませんでしたので、外部からは相続税路線価等から推測するしかありませんでした。

このように、会社が所有する不動産は、取得したときの価格を簿価として計上し、これを貸借対照表に載せていたのですが、2000年代に入ると、上場企業などで世界的な会計基準の収斂(コンバージェンス)が進められ、不動産の時価評価が進められることとなりました。

具体的には、2005年4月1日の年度から、不動産価格が大きく下落した際に損失を計上する”固定資産の減損”が始まり、マンション開発業者などが分譲用として持っている(売れずに持っている)マンションなどの”棚卸資産”の時価評価は2008年4月1日の年度から始まっています。

賃貸不動産や遊休不動産などの投資としての側面を持つものは、金融資産と比べて時価が把握しづらい、すぐに売却・換金することに制約があるなどの理由で、時価開示されておりませんでしたが、金融資産の時価開示範囲の拡大、投資先に対する情報提供などの面から、平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係わる財務諸表にて時価が注記されることとなりました(「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」が適用されます)。

そこで、今年の3月31日決算以降の上場企業等では、自社使用の不動産は対象外のままですが、賃貸用不動産、投資目的の不動産、将来の使用見込みのない遊休不動産については、その企業が”重要性が高い”と判断した場合、時価評価し、その簿価と時価を開示することとなりました。

日本経済新聞の記事によると、2010年3月期の含み損益は以下のとおりです。

三菱地所     2兆558億円
三井不動産     7,539億円
ダイビル        971億円
平和不動産      373億円
野村不動産HD    325億円
三菱倉庫       1,849億円
三井倉庫       1,149億円
飯野海運        673億円
JR東日本      8,819億円
JR西日本       920億円
アンリツ         148億円
日本ケンタッキー・フライド・チキン ▲7億円

ちなみに、先日発表された決算報告によると、私が長らく勤めさせていただいたNTTでは、含み益は7,370億円(連結)となっていました。では、この時価開示は、企業経営にどのように影響するのでしょうか?

2.不動産会社における時価開示

自社使用の不動産は時価評価の対象外ですので、昔からの大企業が多くの不動産を所有しているといった場合の時価総額はわかりません。しかし、不動産賃貸業や分譲を本業として、賃貸不動産などが資産の大部分を占めている不動産会社、さきほどの例でいうと、三菱地所や三井不動産ですが、これらが所有する不動産の時価総額に近いものがわかるようになったと思います。※分譲マンションなどは、棚卸資産として以前から時価評価されていました。

つまり、時価の開示によって、会社としての解散価値の目安となるものができたといえます。また、株価の妥当性を検証するひとつの指標が追加されたことにもなり、今後は、決算の発表が株価に影響を与えることになると思います。

3.一般の会社における時価開示

一方、不動産賃貸や分譲が主な事業ではなく、その他の事業を主たる事業としている会社では、どうでしょうか。さきほどの例でいうと、JR東日本やアンリツなどが該当します。

時価とは、その時点での価格を表します。売却可能であれば、この時価がつまり売却できる価格ということですので、重要な数値といえます。含み益がある場合は、その企業に対する財務的な安心感につながりますし、反対に含み損がある場合だと、これに耐えられるかということが懸念になり、耐えられるか否かを検証することで企業の状況を判断する材料となります。

しかし、含み損対策などが必要ないのであれば、主たる事業ではないのですから、経営資源のひとつとして”所有する不動産をどのように使うか”ということのほうが重要であると思います。なぜなら、極論すると、不動産の価格は日々変わっているからです。つまり、決算してみると、時価が変わっている可能性もあるということです。同じ収益を生んでいても、投資利回りが変われば時価は変わります。単純化した例で説明します。

賃貸オフィスがあり、年間収入から年間支出を除いて、手元に年間1000万円残るとします。今年3月31日時点で、不動産需給などにより、その賃貸オフィスの利回りが5%とすると、価格(時価)は2億円(1千万円÷5%)です。

来年3月31日時点で、市況が変化し、その賃貸オフィスの利回りは5.5%になると、価格(時価)は約18,200万円(1千万円÷5%)に下がります。時価は▲1,800万円(9%)下がりました。

“収益見通しが同じであれば価格は変わらないのではないか”と思われがちですが、この例のように、金融の状況や買い手の状況などにより価格は変化します。ただし、賃貸料は昨年と同様、1年間で1000万円入ってきます。

“もし、売却したらいくらで売れるのか”ということを把握するために、時価を知っておくことは大切ですが、決算ごとに変化する不動産の時価に一喜一憂するのではなく、その企業が”経営資源”として、所有する不動産をどのように使うかが大切であると思います。

ただし、現状は公表される情報が少ないということもあり、当面は、”収益悪化時の資産面での耐力”が、どれほどあるかの判断材料となる程度でしょう。

4.時価開示の必要のない多くの会社にとって

賃貸不動産などの時価評価を要請されるのは、現時点では上場企業等に限られますので、日本のほとんどの会社は必要ありません。多くの会社にとっては(時価評価を行った会社も同じですが)、時価の把握も大切ですが、それと同様に、”その不動産を所有することにより、将来の収支がどのように変化するか、大規模な修繕は必要なのか等を含めた検討”が必要となります。

会社の経営としては、比較的安定した収入が入ってくる賃貸不動産を持っており、”主たる事業の事業環境の変化によって収益が一時的に悪化した場合の下支えとして持っておく”
というのも、ひとつの判断です。

時価は、貸借対照表における判断指標のひとつとして位置付け、過度に反応することなく、長期的な観点から経営判断をしていくことが大切です。

(2010年5月2,761字)

 

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