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釜口不動産鑑定士の“やさしく解説、日本の不動産事情”第5回 「足元の不動産市況(東京周辺)」

中国ビジネスレポート 各業界事情
釜口浩一

釜口浩一

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2010年9月8日

記事概要

今回は、東京及び周辺地域での不動産の取引の状況及び賃料・価格の近年の推移と今後の見通しについて解説します。【3,261字】

もうすぐ、リーマンショックから2年になります。このリーマンショックを境に、経済環境をはじめとして、様々なことが急激に変化しました。

不動産価格の上昇を引っ張っていた、大都市圏の不動産市況も同じく影響を受けました。住宅は売れなくなり、不動産会社の資金繰りが難しくなりました。自己資金に対する高い利回りを得るために、購入金額の80%~90%を外部資金(借金)でまかなっていたファンドも同様です。その結果、東京証券取引所に上場されている不動産会社など、多くの企業が倒産しました。

現在、事務所や店舗の賃料は、家賃負担力の低下などの理由で大幅に下がっています。元々家賃水準の高かった東京駅周辺の賃貸事務所では、新たに事務所を借りる際の賃料が、実質的に2割・3割と下がった物件が多くあります。いまだに、景気の見通しは不透明です。

不動産は本来、10年・20年といった長期的な見通しの下に、使用・取得・売却を考えるべきであると思うのですが、やはり、足元の状況も気になります。そこで、今回は、東京及び周辺地域での不動産の取引の状況及び賃料・価格の近年の推移と今後の見通しについて解説します。

不動産の価格や賃料は、同じ地域にあっても、道路一つ、または土地や建物の規模・形などにより、大きく異なります。よって、標準的、全体的な傾向をつかむということでお読みください。

1.不動産売買の状況

立地及び事務所や店舗に向く地域なのか、マンションや戸建住宅に向く地域なのかによって大きく違いがでています。

事務所や店舗の場合、次の「2.賃料及び価格の近年の推移と今後の見通し」にあるように、賃料水準に底値が見えない状況の地域が多く、また、投資用として考える買手が期待する利回りもやや上昇(価格は下がる)しています。ただ、借入金の借換えができたなどの理由で、売りに出ている物件が少ない、または、売りに出ていても、借換えができたので取り止めということもあり、実際に成約までに至らないケースが多いようです。

住宅の場合、マンション用地、戸建住宅用地を開発する不動産業者の買い希望は多いのですが、購入したいけれども、売りに出ている物件が少ないという状況があります。そのため、売りに出た土地に対し、複数の業者が競争することになり、一部の土地で価格(単価)が上昇しています。また、鉄道が新規に開通したことにより価格が上昇した地域があります。ただし、これは、その地域のステージが一時的に上がったということであって、価格が今後も上がるとは限りません。

次に、マンション、戸建住宅という”自分で使う人が購入する住宅”の場合、新築で供給されるマンション等が少ないことから、購入者が中古住宅に向かっています。また、2年ほど前に比べると、住宅の価格水準が大きく下がったことから、昨年あたりから中古住宅については比較的堅調に売買が成立しています。しかし、新規のマンション等の開発を手控えていた不動産業者が供給を始めることにより、中古市場の価格も、マンション等の分譲価格との比較で見直しが行われることになるでしょう。

2.賃料及び価格の近年の推移と今後の見通し

ここでは、不動産の中でも多くの方に関係の深い、事務所と住宅について説明します。

a.事務所
最も賃料水準が高い事務所街は、昔からオフィス街として大手企業の本社等が多くあり、電車や車での移動も便利な東京駅周辺の丸の内・大手町・有楽町・八重洲・日本橋といった地域です。この地域は、東京駅前を頂点とし、ここを中心に同心円状に賃料が下がっていく傾向にあります。そして、他の地域は、この地域とのバランスを考えることとなります。

東京駅周辺の一等地の大型ビルに入居する場合、3年ほど前は坪5万円とか坪6万円(共益費含めて)という水準でしたが、リーマンショック後は、景気の急激な落ち込み、新築大型ビルが供給されたけれども空室が多かったことなどがあり、急激に賃料水準が下がりました。東京駅から離れた立地にある物件では、賃貸借契約後賃料を支払わなくてもよい(フリーレント)期間を考慮すると、共益費を含めた月額支払賃料で坪あたり3万円程度となるものもでています。東京駅に近くても、古くて小さいと3万円を切る水準のものがあります。他の地域も、東京都心部の賃料が下がったことで、また、空室が増えたことで、周辺部から中心部への移転、賃借面積の縮小などにより、空室は増え、賃料も下がり続けています。では、今後の見通しです。

将来の予測は難しく、また、経済や政治の先行きが不透明であることもあり、確定的なことは申し上げられないことをお断りしたうえで、私見を述べさせてもらいます。東京駅周辺の地域は、ひところに比べると空室は少なくなったようですが、賃料の底値が見えたとはいえない状況です。景気の先行きが不透明なことが大きな要因です。その他の地域は、東京都心が回復するまでは依然として厳しいでしょう。さらに、リーマンショック前に計画されたオフィスビルが東京都心部で次々と竣工されますので、このまま需要が高まらなければ、もう一段の賃料下落懸念が残ります。売買の価格はというと、東京駅周辺で大型ビルの取引が行われており、売り出し当初に予想されていた価格水準よりかなり高く売れたものもあります。しかしこれらは、希少性とか、資金調達面等での買手の特殊性が反映されたようですので、基本的には、空室率や賃料の見通しが良くなってから価格は上昇するでしょう。

b.住宅
住宅の賃料については、月60万円とか70万円といった高額の賃料を払える人が少なくなっていますので、リーマンショック前にこの程度の家賃で貸していた住宅の賃料水準は、大きく下がっています。しかし、通常の会社員が支払う賃料水準のものは、過去もそうですが、景気が悪化しても、比較的安定的に推移しています。

分譲価格については、買手が”数年前の価格水準と比べて”、”割安と感じる”水準まで値を下げて売り出した物件は好調のようです。中古住宅も、新規に供給される住宅が少なかったことから、比較的堅調に価格が推移してきました。ただ、新規の土地取得・開発を控えていた分譲業者が供給を再開することにより、新築住宅と比較され、価格の見直し(値下がり)がされる可能性が高いと思います。

住宅用地は、手控えていた分譲業者の取得意欲の高まりと適当な土地の売り出しが少ないことから、一部の地域では値上がりしているものがあります。しかし、いずれも住宅地域として需要が底堅い地域です。

3.その他

不動産を購入するか、売却するか、使い続けるかといったことは、少なくとも10年・20年の過去のトレンド及び将来の基礎的な要因(人口・就業者等)を考えたうえで検討すべきです。たとえば、住宅購入者や不動産業者が「割安」というとき、多くの場合、数年前の価格に比べて安くなったということに過ぎません。”本当にその価格が妥当か”というチェックが必要です。チェック方法のひとつは、現在の土地価格の水準が過去のどの時代の水準になるかを確認することです。これは、公的な土地価格の調査である「公示価格」等で調べることができます。

・現在の地価水準は、過去の公示価格の水準でいうとどの時代になるか。
・その当時と現在を比較してどうなのか。同程度か、高いのか、安いのか。

これを考えるだけでも、ずいぶん違うと思います。年1回公表される公示価格(毎年1月1日時点。3月中旬頃発表)及び地価調査(毎年7月1日時点。9月中旬頃発表)は、以下のサイトで調べられます。

「国土交通省地価公示・都道府県地価調査」(日本)
http://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=0&TYP=0

また、日本の大都市部や観光地等での不動産市場は、海外の投資家の存在感が高まっています。特に、日本の西方、中国、シンガポール等の投資家が、日本の様々な不動産を購入すべく、物件を探しているという話をよく聞きます。

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