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ログイン2010年5月24日
最近強化される非居住者・外資企業に対する課税の内容と、その理論的根拠を2回に分けて解説する。第2回は、 非居住者の役務提供に対する課税、董事報酬に対する課税、駐在期間が5年を超過した場合の個人所得税課税を取り上げる。【4,163字】
III. 非居住者の役務提供に対する課税
2010年2月20日に、「非居住者企業所得税査定徴収管理弁法(国税発[2010]19号)、以下、2010年19号弁法」が公布されており、非居住者に関する見なし課税適用の強化が打ち出された。この弁法は、昨年から行われている非居住者に対する課税強化の一環として公布されたもので、査定利益率引上げ等が図られている。
1.非居住者課税強化の経緯
2009年以降(2010年19号弁法以前)、非居住者課税に対する課税強化の動きは以下の通り。
(1)サービス貿易等の項目の対外支払い時の税務証明に関する問題の通知(匯発[2008]64号)(公布)2008年11月25日・(施行)2009年1月1日
一回当たり、US$3万を超過する非貿易項目送金を行う場合に、税務局の事前許可取得を要請する通知。
(2)非居住者の税収管理を一層強化する作業の通知(国税発[2009]32号)
(公布)2009年3月9日・(施行)2009年3月9日
非居住者課税の規範化と強化の方針を打ち出した通知。
(3)非居住者の請負工事と役務提供の税収管理暫定弁法(国家税務総局令2009年第19号)
(公布)2009年1月20日・(施行)2009年3月1日
非居住者が中国内で、各種役務提供(実質的な請負工事を含む)を行う場合、契約の登記、納税者登録、申告納税の手続を行う事を要請する弁法。
(4)非居住者企業所得税源泉徴収管理暫定弁法(国税発[2009]3号)
(公布)2009年1月9日・(施行)2009年1月1日
非居住者が、中国を源泉とする投資所得、賃貸所得、無形資産譲渡所得、財産譲渡所得契約等を結んだ場合、税務局での源泉納付登記を義務付ける弁法。
(5)非居住者が享受する租税協定の優遇管理弁法・試行(国税発[2009]124号)」
(公布)2009年8月24日・(施行)2009年10月1日
租税条約締結国の居住者が、中国で租税条約の優遇を享受する為には、一定の事前登記を義務付ける弁法。
2.国税発[2010]19号の意義と影響
(1)国税発[2010]19号の影響
2010年19号弁法は、「企業所得税法第3条・第2項に該当する非居住者企業」を対象とする。第3条・第2項に該当する非居住者とは、「中国内に機構を開設している外国企業」が該当するが、この様な機構(外国企業の中国内分公司・工事現場)の開設は、中国の法規・実務運用上制限されており、現時点では同弁法の適用事例は、それ程多くはないと推定される。但し、中国内で、P/E(恒久的施設)認定された場合は同弁法の適用対象となるため、今後、適用事例が増加する可能性がある。
(2)国家税務総局令2009年19号との併用の可能性
「非居住者の請負工事と役務提供の税収管理暫定弁法(国家税務総局令2009年第19号)」は、非居住者が中国内で役務提供を行う場合、契約締結後30日以内に、所管の税務局で契約書を登記する事が義務付けられている。納税者登記実施後は申告・予納が義務付けられ、役務終了時の精算申告も義務付けられる。2009年19号弁法に定める申告義務は、P/E認定に相当すると考えてよい(税務局によりこれを否定する発言も聞かれるが)。2009年19号弁法と2010年19号弁法の併用により、中国内で役務提供を行う場合のP/E認定・見なし課税が拡大する可能性がある。
(3)見なし課税方式
2010年19号弁法第4条は、以下の通りの査定利益算定方法を規定している。
従来から使用されていた算式と同様であり、特に目新しい内容ではない。
■総収入に対して査定利益率を適用する方法
課税所得額=収入総額×税務機関が査定する利益率
■原価率から課税所得を算定する方法
課税所得額=原価総額/(1-税務機関が査定する利益率)×税務機関が査定する利益率
■経費から課税所得を算定する方法
課税所得額=経費総額/(1-税務機関が査定する利益率-営業税率)×税務機関が査定する利益率
尚、同弁法第5条では、各業種の利益率を、以下の通り設定している。
・請負工事、設計役務15~30%
・管理サービス30~50%
・その他の役務、経営活動に関しては、15%以上
<参考>
引上げ前の利益率(国税発[2007]104号)
農林水産業3~10%、製造業5~15%、卸売・小売業4~15%、物流・運輸業7~15%、
建築業8~20%、飲食業8~25%、娯楽業15~30%、その他10~30%
(4)機器販売と据付役務を提供した場合の課税
2010年19号弁法は、非居住者が中国企業に対して、機器・貨物販売と据付・技術指導役務の提供を同時に行った場合において、契約に役務金額が記載されていない、若しくは、役務金額が不合理な場合は、貨物代金の10%以上を役務部分として課税すると定めている。
これは、役務代金を機器代金に乗せる事により、中国での課税回避を図る事を規制するもの。
非居住者が中国に機器を輸出する場合、中国に恒久的施設(P/E)がなければ課税されないのに対し、役務に付いては、P/Eの有無に拘わらず15%(企業所得税10%・営業税5%)の税率で源泉徴収課税が行われるため、この違いを利用した、意図的な租税回避を制限する事が目的。
規制強化とも言えるが、見方を変えれば、機器販売&据付役務形式を行うに当たり、全体に対するP/E認定が行われないものとも考えられ、納税者にとって有利な内容にもなり得る。
<例>
上記の内容は、役務代金を設定せず、機器代金に全てを含めた場合、若しくは、役務代金を過少設定した場合は、2)の方式で課税(税額15)する事を規定するもの。一方、機器と役務の全体が、P/E認定された場合、税額は1)(67.5~105)に拡大する。2010年19号弁法により、課税の原則が2)である事が明確になったのであれば、税務リスク限定の意味では、納税者にとっても有意義。
前提
日本企業が中国企業に、1,000の機器を販売。但し、機器代金には、据付役務が含まれている。
(1)機器販売と据付役務の全体がP/E認定される場合
企業所得税=1,000(機器代金)×15~30%(見なし利益率)×25%=37.5~75
営業税=1,000(機器代金)×3%(建築業の営業税率)=30
税額合計:67.5~105
注:輸入関税及び増値税は、実際の輸入者が負担する為含めず。
(2)19号弁法に基づき機器代金の10%が役務部分と見なされた場合
企業所得税=1,000(機器代金)×10%(役務部分)×10%(源泉徴収税率)=10
営業税=1,000(機器代金)×10%(役務部分)×5%(営業税率)=5
税額合計:15
注:輸入関税及び増値税は、実際の輸入者が負担する為含めず。
IV. 董事報酬に対する課税
1.董事報酬に関する課税根拠
(1)日中租税条約(第16条)
一方の締約国の居住者(日本居住者)が、他方の締約国である法人(中国の企業)の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国(中国)において租税を課することができる。⇒中国法人の董事が受け取る董事報酬に関しては、滞在日数に関係なく中国で納税義務が生じる。
(2)国内法
■中国国内に住所を有しない個人が個人所得税を計算納付する事に関する若干の具体的問題の通知(国税函発[1995]125号)による計算式。
董事、高級管理職員の報酬に関し、国内及び国外で支払われ、且つ、国外で役務提供した日がある場合の計算方法として、以下を規定。
(計算式)
納税額=(当月の給与総額×適用税率-速算控除額)×(1-A)
当月国外支払給与 当月国外労働日数
A = ————————- × ————————-
当月給与総額 当月日数
■個人所得税法では、董事報酬は、労務報酬としてとして課税することを規定しているが、この公式だと、賃金給与に準じた課税となっている。
注:労務報酬の場合は、都度毎の収入の20%を基礎控除とした上で(4,000元を超えない場合は800元)、20%の税率を適用して個人所得税額を算定(個人所得税法第6条4号)。受け取る役員報酬の課税所得(基礎控除後)が、2万元を超過する場合に、税率の調整が行われる。具体的には、2万元超~5万元以下の部分に付いては、納税額計算後の金額を5割増しで課税し、5万元を超過する部分に付いては、10割を加算してする(個人所得税法実施条例第11条)。
■「個人所得税執行に関する若干の問題を明確にする通知(国税発[2009]121号)」
会社に雇用されている場合(親会社等のグループ企業の雇用を含む)、及び、董事の肩書はあるものの、実際の機能が現場管理(総経理業務)である場合は、受け取る報酬の実質的な位置付けに注目して、董事報酬としてではなく、賃金給与として課税する事を規定。
雇用された個人がグループ企業の董事を務める場合は、その報酬は、賃金給与として扱われる。
2.結論
国内法では、上記「国税発[2009]121号」が適用される。よって、会社員がグループ企業の董事を務める場合は、董事報酬ではなく、賃金給与だと見なされるので、(中国法人が報酬を負担しなければ)183日ルールが適用され、暦年滞在日数が183日以内であれば、中国内で納税をしなくてもよい。
V. 駐在期間が5年を超過した場合の個人所得税課税
1.駐在期間による課税対象所得の変更
外国人が中国で居住・就労する場合、本来的には、全世界所得に対して個人所得税を納税する必要がある。但し、個人所得税実施条例・第6条に、居住期間が5年以内の場合は、所管税務局の許可を受ける事により、中国外源泉所得の課税が免除されると規定されており、これに基づき、滞在期間が5年以内であれば、中国外源泉所得に対する課税が免除されている。
⇒5年超過時点で、中国外源泉所得に対する課税が開始される。
2.中国外源泉所得の内容
(1)給与・賞与の源泉地判定
中国駐在期間に受け取る給与は、中国受取分・日本受取分の双方が「中国源泉所得」となる。これは、国際税務の観点では、所得の源泉は、対象となる役務の内容によって判断されるため、中国法人・常駐代表処等で就労する事によって得た対価は、受け取り地を問わず中国源泉所得と判断されるもの。
⇒中国駐在期間中に受け取る給与・賞与は、中国居住期間が5年以内でも、支払地を問わず、全体が中国で課税対象となるため、5年を超過による影響は受けない。
(2)中国外源泉所得
中国外源泉所得の代表的なものは、日本での金利所得、債権運用所得、不動産賃貸・譲渡収入等が挙げられる。この様な所得に付いては、駐在期間が5年を超過した段階で、免税措置が受けられなくなり、税務局に自主申告する必要がある。
⇒総じて副業が禁止されている会社員の場合、この様な所得が、税額に重要な影響を与えるケースは少ないと思われる。
(2010年5月4,163字)
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