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中国の不動産価格が高騰したのはいったいなぜ?

中国ビジネスレポート 各業界事情
劉 新宇

劉 新宇

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2010年5月27日

記事概要

中国の不動産市場において巨大なバブルが本当に存在しているのか、存在しているとすれば、間もなく崩壊する段階となっているのか、という問題に関し、近年来、大論争が起こっている。この問題を深く認識するためには、中国の不動産価格が高騰した理由を検討しなければならないだろう。【2,490字】

最近、中国のインターネットにおいては、日本の不動産バブル崩壊の流れに照らして作成された中国不動産バブルの崩壊スケジュールが掲載され、不動産の専門家のみならず、一般人の間でもホットな話題となっている。

 日本  中国
 1985年 日本円切り上げ  2005年 人民元切り上げ
 1986年 資金が不動産業に流入  2006年 資金が不動産業に流入
 1987年 不動産価格が3倍まで上昇  2007年 不動産価格が3倍まで上昇
 1988年 一時不動産価格が下落したが、「地王」(最高価格で土地を買うデベロッパー)が再び不動産価格を引き上げた。  2008年 一時不動産価格が下落したが、「地王」(最高価格で土地を買うデベロッパー)が再び不動産価格を引き上げた。
 1991年 不動産価格が改めて下がり、不動産バブルが崩壊。  2011年 ?

この表に示されているのは、中国の不動産市場には既に巨大なバブルが生じており、このバブルが2011年には崩壊するのではないかというイメージである。

そして、中国の不動産市場において巨大なバブルが本当に存在しているのか、存在しているとすれば、間もなく崩壊する段階となっているのか、という問題に関し、近年来、大論争が起こっている。この問題を深く認識するためには、中国の不動産価格が高騰した理由を検討しなければならないだろう。

資料によると、中国の家屋供給は既にその需要を超えている。それにもかかわらず、中国の不動産価格は上昇を続けているが、その背景には、不動産投資家の存在だけでなく、いわゆる「剛性需要」がある。この「剛性需要」とは、大学卒業、結婚、出稼ぎ等による移住、開発区からの立退きなどのため住宅を必要とする者によって創出される住宅需要をいう。

結婚により新居が必要になるのは、中国に限られたことではなく、世界のどの国にも共通する事情であろう。しかし、中国には、持ち家を確保しない限り男女が結婚をしないという特有の傾向がある。現に、筆者の周囲にも、住宅を購入するまで女性の母親が結婚を認めてくれないため、なかなか結婚を実現しえないでいる男性がいる。当の本人どうしは結婚の強い意思があるのに、これで当人の幸せになるのかどうか、これについては多様な考え方がありうると思われる。しかし、「自己保有の住宅でなければ、本当の家とはいえない」というのが中国人の伝統的な観念であり、これは、今でも一般的な考え方となっている。

大卒学生の住宅需要は、アメリカや日本などの外国では、あまり一般的ではなく、中国特有なものだろうと思われる。1999年以来、中国では大学進学率が毎年向上し、その大学生の多くが卒業後都市で働くようになった。そして、不動産価格が今後もさらに高騰することが予想され、また、上述したような「自己保有の住宅でなければ、本当の家とはいえない」という伝統的な考え方が存在するため、多くの大卒者は、卒業したばかりにもかかわらず、持ち家を購入する意欲がかなり強い。実は、大卒者のみならず、在学中の大学生さえもが、親の資金援助を得て大学所在地の都市で家屋を購入するということも多く見られている。

都市への出稼ぎ者による住宅需要増は、都市化の過程で自ずと生じるものであり、いずれの国家においても、その発展段階でみられる現象である。今なお発展の余地が多く残されている中国では、その都市化の流れが停滞しない限り、間違いなく、今後も出稼ぎ者による住宅需要が増大していくこととなろう。

都市の古い地域の改造・立ち退きによる住宅需要は、「剛性需要」のうち、もっとも現実的なものであり、抑止が難しいものである。都市改造により立ち退きを余儀なくされた人達は、持ち家を新規に購入する意欲が強く、立ち退きにより取得した補償金も一般的に少なくないため、購入能力も高い。一方、都市改造により、改造後の地域の不動産価格が、改造前の何倍かまで跳ね上がることもよく見受けられる。

なお、否認できない点として、「剛性需要」のほか、投資性需要が中国の不動産価格高騰を促進する重要な原因になっているといえるだろう。不動産投資者のうちでは、温州投資者、山西投資者がもっとも有名である。例えば、不動産価格の高騰を抑える呼びかけが懸命にされているものの、今年4月には、温州投資者が、約1億人民元で南京のおよそ80の分譲住宅を購入したという報道があった[1]。「剛性需要」が存在しているうえ、中国では民間の投資ルートが少ないため、余剰資金を持っている人が不動産市場で不動産投資を行い、その価格高騰を招いている。そして、投資性需要により不動産価格が下がることなく上昇するため、将来も不動産価格上昇が続くことを予測し、「剛性需要」がさらに高くなる、という面もあるのである。

さらに、「剛性需要」、投資性需要のほか、地方政府が不動産業を支援することも不動産価格が下がらない要因の1つとなっている。中国の土地払下げ金は、中央政府がその30%、地方政府がその70%を取得する。そのため、土地払下げ金は、地方政府の重要な財源となっており、地方政府は不動産業を地方経済発展の柱と見なしている。これも、投資性需要の増加をさらに促進しているといえるだろう。

このように、中国の不動産市場においては、「剛性需要」、投資性需要、地方政府の支援行動という3つの要素の相互作用によって、不動産価格抑制政策がとられているにもかかわらず、不動産価格は、下がるどころか逆に上昇を続けているのである。

これらの投資性需要や地方政府による不動産業支援策といった要因により、中国の不動産市場にバブルが存在していることは間違いないだろう。ただし、「剛性需要」も強いため、このバブルが既に崩壊段階に入っているとはいえないのではないだろうか。

しかし、経済は複雑なものであるため、事前に仮定した前提事実はしばしば現実と符合せず、社会の実情は常に経済学者の推測したものと乖離する。一方で、経済は単純なものでもある。リーマンショックのように、バブルは、容易に崩壊するのである。このことからすると、中国の不動産市場は、複雑でもあり、単純なものでもあるといえるだろう。

[1]http://www.chinanews.com.cn/estate/estate-lspl/news/2010/04-02/2205770.shtml

(2010年5月2,490字)

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