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ログイン2003年2月22日
<投資環境> 1.華東と華南の投資環境の比較 外国企業の進出は、大きく分ければ華東と華南に集中しています。 華東(長江デルタ)と華南(珠江デルタ)の比較論として、長江デルタは高付加価値(知識集約的)であり、珠江デルタは低付加価値(労働集約的)ということも言われますが、本当はどうなのでしょうか。この比較は飽くまでも相対論を極論した感があり、正確な表現とは言えません。珠江デルタでも製品の高付加価値化は進んでいます。これ以外にも、長江デルタと珠江デルタの比較論は多くあり、その内容を検証することは、両地域の特徴を把握するのに役立つと思います。 以下、長江デルタと珠江デルタの「標準的な」比較論をご紹介するとともに、それに対する解説を添えてみたいと思います。 (1)労働力 長江デルタ:長江デルタ周辺の労働者が多く、労働コストが相対的に高い。 これは、総じて正しい内容ということができます。 やはり、従来から広東省が、外来人口の流入に対して比較的寛容であったため、内陸からの出稼ぎ労働者が広東省に流れる傾向にありました。結果として、これらの労働力を、最低賃金(月給500元弱+残業手当)で活用することで、広東省の産業・特に外資の輸出産業が発展した経緯があります。 (2)高級職員 長江デルタ:採用が容易。 珠江デルタでも優秀な人材の確保は可能ですが、この二地域の相対比較として捉えるのであれば、間違っているとは言えません。さらに、日本語の話せるという条件を加えると、その傾向は強くなると思われます。 (3)進出形態 長江デルタ:大型の直接投資が主体。 珠江デルタでも大型の直接投資は多く、このように断定するのは無理があるといえます。ただし、珠江デルタは過去より柔軟な外資受け入れを行なっており、来料加工形態や小規模の進出でも歓迎していたことからこれらの形態が成熟しています。 地域によっては小規模の投資を歓迎しておらず、総投資額・業種などである程度の制限を行なっているケースも見受けられます。総じてこのような傾向は、長江デルタの地域に多いといわれています。 しかし、これは長江デルタ・珠江デルタとして捉えるよりも、個別地域の問題として捉えた方が適切です。珠江デルタ内でも、外資の進出がある程度成熟し、空き地に限りが出てきたり、外資誘致の方向性(ハイテク重視・サービス産業重視等)が打ち出されてくれば、小規模な投資や、低付加価値の企業が十分な歓迎を受けられないケースも出てきます。この点は、各地域の対応を個別に調査する必要があるといえるでしょう。 (4)進出の目的 長江デルタ:国内販売主体。 これも、二地域に限定された相対論においては上記の結果になります。長江デルタ周辺には、高所得者層が多いと言われており、市場としての魅力があるのは確かですが、珠江デルタのマーケットは長江デルタに次ぐ規模であり、国内販売を志向して現地法人形態に変更する委託加工廠も相次いでいます。反対に、長江デルタでも輸出加工は盛んに行なわれています。よって、上記比較は相対論としては正しいということになりますが、珠江デルタが他地域に比べて輸出加工に適した条件が整っているのは事実で、結果として、輸出加工基地としてのイメージが強くなっている面があります。 2.華南地域進出のメリット では、華南地域に進出する場合のメリットは、いったいどのような点でしょうか。 華南地域の投資環境のポイントを、以下何点か紹介してみます。 (1)保税措置の弾力的な提供 この制度自体は全国共通の制度ですが、華南では他地域に比較して柔軟な対応がとられており、加工貿易を行なうにあたって有利な環境となっています。 その例は、後述(3−(1))する広東流の来料加工という、来料加工の応用形態が可能となることですし、転廠の認可が取得しやすく、また、進料加工企業同士の転廠も、増値税の免税取引として扱われているケースが多いという点です。 ただし弾力性が高い一方で、地域ごとの運用が異なる(東莞の場合、鎮ごとに状況が異なる)、加工貿易に際して各種の費用を徴収されるケースが多く、透明性に難があるといった問題点も存在します。そのため、華南地域への進出を嫌う企業もありますが、進出のメリットがあるのもまた事実です。 (2)人件費の安さ (3)産業の集積 よって、部材調達の利便性が他地域に比較して進んでおり、この点が華南地域(特に、広東省)の大きな優位性となっています。 (4)開発区の存在 広東省には、これらの開発区が一通り取り揃えられていますので、進出の目的に合わせて、最も適した開発区を選択することができます。 (5)香港・マカオの存在 − 来料加工製品を、香港・マカオに運び、中国に再輸入することが物理的に容易。 − 香港に拠点を作った上で、そこから広東省で来料加工を行なうことが物理的にやりやすい。このような方式をとれば、税務上以下の様なメリットが享受できる。 香港法人の税務上のメリットとは、「中国で生産した来料加工製品を香港外で販売することにより、関連所得の半分を非課税所得(香港外源泉所得)として扱うことができる」、さらに「来料加工廠に提供した製造機械は、税務上初年度一括償却できる」というものです。ただし日本の親会社でのタックスヘブン対策税制に注意する必要があります(適用対象になれば、結局日本で課税されるため、香港でのタックスメリットは意味が無くなる)。 その他、香港・マカオの子会社を拠点(統括会社)として広東省で加工貿易を展開すれば、資金調達、外貨管理、調達・販売等の管理を、規制が柔軟で、自由度の高い、これらの地域に集約することができます。 3.華南独特のオペレーション 華南は、制度の柔軟性が高い(一方で、透明性が低い)ということがよく言われますが、加工貿易取引(来料加工・進料加工)において、これらの傾向が顕著と言えます。 これらの柔軟性を生かしたオペレーション(広東省で行なわれている特殊な形態)を、いくつか紹介してみます。 (1)広東式来料加工 (2)広東式進料加工 これは、外資企業が来料加工の許可取得が困難なため、運用面で来料加工の様な無償取引を認めているわけです。この場合、記帳面は飽くまでも進料加工の処理、つまり仕入・売上を計上する処理を行なっていますが、貨物代金決済は行なわれず、売掛金・買掛金を相殺して、その差額(来料加工の加工賃に相当する価格)のみ送金が行なわれます。 (3)転廠に関わる増値税 ただし、転廠に関する物品の移送、特に進料加工企業間の転廠を、増値税の課税取引とするかどうかについては、地域によって違いが出てきます。 これは、進料加工取引を増値税の課税対象とするかどうかが、増値税の規定で明確にされておらず、対応が所管の税務局の判断に委ねられているためです。 結果として、課税の要否について地域によって対応の差が出てきますが、広東省では、多くの地域が進料加工企業間の転廠についても、増値税を免除しており、他地域に比べて転廠が行ないやすい環境となっています。 以上のことから、広東省内で加工貿易(保税加工)を行なう環境が整っており、考えようによっては、広東省(珠江デルタ)一帯が広大な保税地域(輸出加工区域)となっている感もあります。このような環境が整備されていることが、広東省の強みと言えます。 つまり、他地域でも加工貿易は可能ですが、転廠の認可取得の迅速性や、転廠に関わる増値税の免税について難が残る面もあります。 また、保税区・輸出加工区という特別地域は、文字通り輸出用の保税加工推進を目的とした区域ですが、区外での二次加工が制限されており、地価も区外に比べて高いという難点があります。 これと比較すると、広東省は、広東流の来料・進料・転廠を組み合わせることで、非常に使い勝手のよい一種の準保税区域を作り出していると考えることができます。 4.最近の動き 以上の通り、華南、特に広東省は輸出加工を行なうための理想的な環境を有しています。 しかし外国からの直接投資(金額ベース)の受け入れは、まだ長江デルタと珠江デルタが肩を並べる状態となっているものの、珠江デルタが全体に占める比率は、長いトレンドの中で漸減してきています。一方で、長江デルタに対する直接投資は着実な伸びを示しており、この傾向が続けば、将来的には長江デルタが大きく差をつける可能性も有り得ます。 長江デルタに対する投資の増加については、その理由として「高所得者層が多いことから、市場として魅力がある」、「珠江デルタに比して、政府機関の透明度が高い」、「投資環境が整備されている」等の要因が挙げられています。 これらは、確かに長江デルタの特徴であり、また、このようなイメージをうまく作って誘致に成功している一面があるのも事実です。 一方、珠江デルタでも、現在中国内販売を志向して、現地法人に組織変更している来料加工廠が数多くあります。政府機関も「香港と一体となって誘致活動を行なったり」、「透明度を高める(宣伝する)努力をしたり」して、長江デルタに対抗しようとしています。 長江デルタと珠江デルタは、各々の持ち味の違いはあり、どちらが優良な投資先かというのは一概に言えません。さらに、原材料調達・製品販売などにおいては、長江デルタ・珠江デルタを跨ぐ物流も出てきており、両地域は思っている以上に近い(今後もっと距離が狭まると推測される)のも事実で、これらの動きが今後投資先の選定に影響を与える可能性もあり得ます。 何れにしても、投資先の選定は個別地域を訪問した上で行なうこととなりますが、両地域の全体的な特徴を把握した上で、計画している中国でのオペレーションが、どちらの地域に適しているかについてイメージを持っておくことは、その後の作業に役立つと思います。 |
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