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事例で学ぶ中国ビジネス成功のノウハウ(1)企業進出の基本

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2003年11月5日

<投資環境>

事例で学ぶ中国ビジネス成功のノウハウ(1)企業進出の基本

筧武雄


1.中国企業進出の基本

海外投資(中国への企業進出)を考える際、国内投資とは基本的に異なるいくつかの要素がある。

A.言語の違い
現地情報は現地語で入ってくる。言葉だけでなく、習慣、歴史、文化、宗教の異なるパートナーと直接コミュニケーションを通じることができなければ、スムースなビジネス展開は望むべくもない。
B.インフラ環境の違い
ビジネスに関連する法律・税務・貿易規制・商習慣などのソフト・インフラと、土地制度・電気・水道・原材料などのハード・インフラの両面において国情の相違がある。
C.カントリー・リスクの存在
文化大革命、天安門事件、SARS騒動など、政権にも変動を及ぼす政治リスクがある。もっと広い意味では、為替変動(為替リスク)、資産凍結、外国送金規制(トランスファー・リスク)など政策方針変化に起因するリスク含まれる。別の側面から言い換えれば、生産移転を特定の一か国に集中するリスクとも言えよう。

中国の場合、同じ漢字文化圏であること、漢民族と日本民族は外見が酷似した同種民族であることから、これらの要素がお互いに見落とされがちで、現実のビジネスには多数の摩擦やすれ違いが発生している。また、日本本社において権限の委譲に消極的な経営者であっても、言葉、法律、社会制度、文化、歴史、宗教、などインフラ環境の大きく異なる海外における企業経営管理までをも日本本社からワンマン経営でコントロールすることも不可能である。海外事業経営には権限委譲による経営の現地化が必要である。
海外に法人を設立すること自体は、正しい手順を経て正式の許可さえ得ることができれば、決して困難なことではない。本当の課題は、当社の海外事業戦略を実現させ、発展させ得る現地の経営システムを、日本企業がいかにして構築できるかである。

2.ケース・スタディ

中小電子部品メーカーP社はバブル期の人手不足の時期、中国から日本に留学していた中国人学生をアルバイトとして雇用していた。
 やがてバブルがはじけ、コストダウンと人手不足のために、主要な取引先が中国に生産移転を開始し、国内注文は減少の一途をたどり始めた。しかしP社には中国語が話せる人材も、中国事情がわかる人材もいない。中国に進出するなどP社社長にとってみれば無謀な冒険でしかなかった。社長の心中焦りは膨らむ一方であった。そこでかつての中国人学生アルバイトを頼って、とりあえず中国へ視察に行ってみることにした。彼は快く通訳と案内を申し出てくれた。
 彼の仲介で、P社社長は、ある中国企業を紹介された。大きな国営企業で、工場スペース、機械設備を提供するからP社と合弁会社を設立したいという申し出があった。ワーカーもここから斡旋してくれるという「好条件」に、中国事情にうといP社社長は大喜びした。元アルバイトの通訳も、現地工場を経営する総経理となって協力したいと申し出てきた。助理会計士の資格を持つ彼の妹も経理部長として採用して欲しいという。
 P社社長は「案ずるより生むが易し」、とにかくまず行動を起こしてみるものだと心から思った。一人で日本で困ってばかりいないで、思い切って海外で行動すれば、自分を助けてくれる人たちがどんどん眼の前に現れる。P社社長は決心を固めた。
 P社社長は二回目の訪中で相手の用意した合弁契約書に迷わず署名した。帰国後まもなく、正式営業許可証の許可取得と合弁会社登記完了の知らせも届いた。まさにトントン拍子の順風満帆の船出と社長は有頂天であった。中国進出とは、こんなにも容易なことだったのか!
 ところが実際に操業を始めてみると、納期が守れないだけではなかった。納品した途端に製品が不良品だらけで採用できないと現地客先からクレームが入り、ロット・アウトされた。現地の材料調達も品質が不安定で納期も守れない。そうこうしているうちに国営企業のパートナーが資金繰りがつかなくなり事実上倒産、見知らぬ銀行から担保差し押さえと工場操業停止の通知が届いた。合弁工場の土地はパートナーの借金担保に入っていたと、このとき初めて知らされた。P社社長が「寝耳に水」で慌てて訪中したとき、元通訳の総経理は会社にあった図面、技術資料と現金を持って姿を消していた。払い込んだ資本金は全額引き出されて消えていた。
 帳簿類、財務報告類も揃っていないため、現地では合弁会社の清算手続きすら開始できない。P社は全損をかぶり、中国合弁事業はそのまま霧散解消した。

3.整理・分析

 本事例に端的に示されている、初心者の陥りやすい中国投資リスクの論点を整理してみる。まず、関係する三人の当事者それぞれの事業開始目的、動機を見てみよう。

日本のP社としては、中国の事情がよくわからないまま、「中国に進出して取引先の注文をとり、コストダウンに成功しないと、このまま日本にいたのでは行き詰ってしまう」という焦りの気持ちだけが先に立ち、ビジネス経営経験のない元アルバイトの中国人留学生に進出から現地経営のすべてを任せ、結局失敗してしまった(日本側の事情)。
任された側の中国人留学生は、自分にはビジネス経験はないが、いわゆる「突破」、「爆富」へのあこがれの気持から「大相撲」をとろうとした。いまだ経験したことの無い企業経営の業務を任せられた通訳総経理は、彼なりに必死に頑張った。しかし、任せられたほうにも相当の犠牲と無理が要求された。企業経営は、特に日系製造業は彼が夢見たような一点突破の成り金ビジネスではなかったのである。結局は自滅し、挫折してしまった(中国人「通訳総経理」の事情)。
合弁パートナーの国営企業は、大赤字と銀行超過借入と多数の余剰人員を抱え、外国企業との合弁に救いを求めるが、国営体質からもはや抜け出せず、結局は銀行の差し押さえを受けて破産してしまった(中国側の事情)。
 
この組み合わせは「最悪の三つどもえ」と言ってよい。なんの事前調査、情報収集もなく、当事者の誰一人として主体性のある経営戦略も経営管理もなく、お互いの協議も無い。客観的に見れば、社会経験の無い若者に企業経営が任せられるはずもないし、彼自身も相当の無理を引き受けて自滅した。これは、冷静に言えば「日本企業の実質的な経営放棄」にほかならず、決して「現地化」と呼べる代物でもない。瀕死寸前の地方国営企業にしても、藁にもすがる気持だったであろう。当事者三者とも事業目的、動機がスレ違っている。
このようなケースはまだ良いほうで、この三者のうち誰かが本当に悪意をもって意図的に相手を陥れようとしたら、これは簡単に企業乗っ取りを招いてしまうパターンでもある。

4.解題
 
日本企業が中国ビジネスとりかかる場合、最初に気をつけるべきポイントは「先入観、思い入れ、焦り」といった情緒的な感情と浅い知識だけで甘い判断をしないことにある。
 「双方が現金出資をして均しくリスクを背負い、双方が誠意をもって前広に話し合い、問題は合法的手段にのっとって正しく解決し、それをみずからの経営ノウハウとして蓄積活用し、配当利益回収により双方が均しく果実を享受する」という極めて基本的な教科書原則からスタートしない共同ビジネスには、必ずどこかからほころびが生じる。こういったあたりまえのことがきちんと守られている事例は意外に少ない。
 たとえば、中国国内販売で成功事例としてよく取り上げられる日本の大手化粧品メーカーの担当によると、当初では以下の3原則は譲れない合弁3原則という。

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