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ログイン2003年11月6日
10月11−14日に開催された中国共産党第16期中央委員会第3次全体会議(三中全会)は、「社会主義市場経済体制完備の若干の問題に関する決定」(以下「決定」)を採択した。決定の全文は約1万2000字に及び、12の章、42の項目から構成されている。内容面では、今後の経済体制改革の重要方針が定められており、識者の間では「新しい突破」との評価も高い。本稿では、決定のポイントにつき、解説を行うこととしたい。
.経済体制改革が直面する情勢と任務
1. 経済の問題点
決定では、経済の問題点として、(1)経済構造が不合理、(2)分配関係が不正常、(3)農民収入の伸びが緩慢、(4)就業の矛盾が突出、(5)資源環境のプレッシャーが増大、(6)経済全体の競争力が強くない、の諸点を挙げている。そして、その原因として、中国は社会主義初級段階にあり、経済体制がまだ不完全で、生産力の発展はなお多くの体制的障害に直面している、と指摘する。このため、改革推進を加速する必要があるとするのである。
2. 5つの統一的に計画案配すべきこと
決定では、(1)都市と農村の発展、(2)地域の発展、(3)経済社会の発展、(4)人と自然の調和のとれた発展、(5)国内発展と対外開放の5項目について、統一的に計画案配し、市場の資源配分における基礎的な役割を更に発揮させることが、小康社会の全面的建設にとって有力な体制保障を提供することになる、と指摘している。10月15日付け人民日報社説(以下「社説」)は、この5項目は「経済・社会・人の全面的発展を体現したものである」とする。この5項目のうち、前4項目はSARSの拡大が収束して以降、指導者達が繰り返し強調していたことであり、経済発展至上主義・都市重視・沿海部重視・自然軽視のこれまでの発展戦略では、2020年に小康社会を全面的に実現することは不可能との認識が示されている。
3. 社会主義市場経済体制を完全なものにするための主要任務
次の7点に集約されている。
(1)公有制を主体とし、各種の所有制経済が共に発展する基本的経済制度を完全なものとする。
これは従来の路線の継承である。
(2)都市と農村の二元的な経済構造を着実に変えるために有利な体制を促進する。
この二元構造を変える(言い換えれば「三農問題」の解決)必要性は、小康社会の全面的建設という中期目標が昨年11月の16回党大会で打ち出されて以来、重要な争点として浮上していたが、SARSの発生以降、より深刻に認識されるに至っている。
(3)地域経済のバランスのとれた発展を促進するためのメカニズムを形成する。
前政権においても、西部大開発構想が提起され、地域格差の解消は大きなテーマとなっていた。しかし、胡錦涛体制はこれに加え、東北旧工業基地の振興という新たな地域戦略を打ち出しており、地域発展の総合的な戦略の確立に向け動き出している。
(4)統一された開放的で競争と秩序を有する現代市場体系を建設する。
市場経済秩序の整理・規範化と、地方保護主義によって分断されていた市場の壁を打破し、中国全土において競争原理の働く市場体制を構築することは、これまでも大きな課題であった。
(5)マクロ調整体系、行政管理体制、経済法律制度を完全なものにする。
社会主義市場経済が打ち出されて10年が経過したとはいえ、中国経済には到るところに計画経済の残滓が存在する。政府(特に地方政府)の企業経営への過度な介入、許認可の煩雑さはその典型である。また、今年に入り政府・全人代は経済関連の法規の立法・法改正を急ピッチで進めているが、重要な規定で未だ法律化されていないものがあり、これは行政の末端において恣意的な執行を助長する結果となっている。
(6)就業や所得分配及び社会保障制度を健全化する。
三農問題の解決とともに、都市におけるこれらの問題を解決しない限り、小康社会の全面的建設は不可能である。
(7)経済社会の持続的可能な発展を促進するメカニズムを作り上げる。
環境・エネルギー・水・感染症など中国経済社会の発展の制約要因は次第に深刻さを増している。2020年に2000年の4倍のGDPを実現するためには、これらの問題に早急に取り組む必要がある。
4. 5つの「堅持」
決定は、経済体制改革を深化させるに当たっては、(1)社会主義市場経済という改革の方向、(2)大衆の創造的イニシアティブの尊重、(3)改革・発展・安定の関係の正確な処理、(4)統一的な計画、各方面への配慮、(5)人を根本とし、全面的で協調のとれた持続可能な発展観、の5つを堅持し、経済・社会・人の全面的な発展を促進しなければならない、とする。社説は、この5項目は「『3つの代表』重要思想の要求を体現し、これまでの改革の成功経験を体現したものであり、改革の順調は進行を確保するうえで重大な意義を有する」と指摘している。ここでいう「3つの代表」には、生活困難な大衆に目を配るという含意があり、社会主義市場体制の完全化に向けて経済体制改革を進めていく基本方向を確認しつつも、それが前政権でしばしば見られたような弱者切捨てであってはならないことを述べているのであろう。
.公有制経済を更に強固にし、発展させ、非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導く
5. 公有制
決定は、公有制について次の4点を確認している。
(1)多くの種類の公有制が効果的に実現される形式を積極的に推し進める。公有制の主体的な地位を堅持し、国有経済の主導的な役割を発揮し、国有経済の配置及び構造調整を加速する。
(2)市場経済化の絶え間ない発展の趨勢に適応し、公有制経済の活力を更に増強し、国有資本・集団資本・非公有制資本などが資本参加する「混合所有制経済」の発展に力を入れ、投資主体の多元化を実現し、株式制を公有制の主要な実現形式とする。
(3)国有資本により株を支配されている企業は、状況の違いに応じて、絶対的な持株支配、相対的な持株支配を実行する必要がある。
(4)進出もすれば撤退もする、国有資本の合理的な流動メカニズムを完全なものにする。国有資本を、国家の安全と国民経済の命脈に係る重要な業種とカギとなる分野に更に多く投下されるようにし、その他の業種や分野の国有企業は、資産再編と構造調整によって、市場の公平な競争の中で自然淘汰を図る。
10月19日新華社北京電は、これを「公有制の実現形式についての認識の重大な突破」であると指摘する。即ち、株式制は84年から91年まで全国で試験が進められ、92年からは対象が大幅に拡大されたとはいえ、依然、資本主義の道具ではないかとの指摘も強かった。これが、97年の15回党大会において、株式制は資本主義でも社会主義でも用いることのできる所有制の1つの実現形式との認識が示され、ようやく認知されることになった。しかし、株式制の本格的な推進にゴーサインが出たのは99年の15期四中全会であり、今回ようやく、株式制は公有制の「主要な実現形式」の地位を獲得したのである。
6. 非公有制経済
決定は、個人・私営等非公有制経済はわが国の社会生産力発展の重要なパワーであるとし、非公有制経済の発展に力を入れ、積極的に誘導するため、次の4点を確認している。
(1)市場参入許可を緩和し、法律や法規が禁じていないインフラ整備、公用事業その他の業種や分野への非公有資本の参入を許可する。
(2)非公有制企業は、投融資・課税・土地利用・対外貿易の分野で、その他の企業と同等の待遇を受ける。
(3)非公有制中小企業の発展を支援し、条件の整った企業が強大になることを奨励する。
(4)非公有制企業に対するサービス及び監督管理を改善する必要がある。
これまで、私営企業・個人企業は、しばしば外資企業以上に差別待遇を受けてきた。今回の決定は、私営企業・個人企業に実質的な内国民待遇を与えるとともに、公共的分野を含め、その活動領域を大幅に拡充する方針を打ち出したものである。今後、国有企業から吐き出された労働者・農村の余剰労働力を吸収する先として私営企業・個人企業の役割はますます重要になってきている。これまで、党は段階的に非公有制経済の位置付けを公有制経済の補完的部分から社会主義市場経済の重要な構成要素へと格上げしてきたが、非公有制経済の地位の向上は最終段階に入ったといえるだろう。
また、決定を見ると、公有制の主体的な地位という原則を維持しつつも、国有経済の構造調整を加速し、国有企業に非公有制経済の資本参加を認めることで「混合所有制経済」の発展が奨励されている。加えて、従来国有経済が支配していた分野への非公有制経済の参入を許可することにより、国有経済の退出は今後加速することが予想され、97年の15回党大会、99年の15期四中全会において激しい議論が闘わされた国有経済のあり方については、国家の安全と国民経済の命脈に係わるものを除いて安楽死の方向が決定的になったといえよう。
7. 財産権
決定は、財産権が所有制の核心及び主要内容であるとしている。そして、帰属や権利・責任が明確であり、保護が厳格で、スムーズな流動性を有する現代的な財産権制度の確立は、公有財産権の擁護にとっても、私有財産権の保護にとっても、各種資本の流動・再編にとっても、企業・大衆の創業・刷新の動力を強化することにとっても有利であり、基本的経済制度を完全なものにするための内在的要求であり、現代企業制度を構築するための重要な基礎であるとする。このため、各種の財産権を法に基づいて保護し、財産権の取引規制及び監督管理制度を整備し、秩序ある財産権の流動化を推進する必要がある、としている。
今回の決定で国有企業が株を放出し、本格的な混合所有制経済へと踏み出すこととなった以上、財産権の法的保護を明確にしなければ、単に非公有制経済の発展が阻害されるだけではなく、国有資産の大量流出を招くことになる。財産権の法的保護は公有制経済にとっても必要となったのである。
.国有資産管理体制の完全化と国有企業改革の深化
8. 健全な国有資産管理監督体制の確立等
国有資産管理及び管理監督体制の健全化を進め、会社法人のコーポレント・ガバナンスを完全なものとし、独占業種の改革の推進を加速する必要性が述べられている。
.農村改革の深化、農村経済体制の完全化
9. 三農問題
土地に関する家庭請負経営の維持、厳格な耕地保護、土地徴収制度の改革により、農民を土地喪失から守る方針を打ち出している。また、農産品市場において、流通過程で農民へ間接的に補助する方式から直接補助方式に切り替え、農村の税費用改革を深化させることにより、農民の増収・負担軽減を図ることとしている。さらに、出稼ぎ労働者のために、都市・農村の労働力市場を段階的に統一し、都市・農村労働者が平等に就業できる制度を形成していくとする。
最近、地方政府の開発区建設のための強引な農地徴収、地方末端政府の強引な農地集約化により、十分な補償も得られないまま土地を喪失する農民が増加しており、農村の不安定化要因となっている。他方で、土地を失った農民が都市に流れ込んでも不平等な扱いを受けることになり、流入した農民がスラム化することにより都市の治安を不安定化させている。農地の保護と戸籍制度改革の推進による都市・農村の労働力市場の統一は社会の安定維持にとって極めて重要なのである。また、国家は農業特産税を取り消し、農業税率を着実に引き下げるとともに、教育・衛生・文化等の公共事業の新規支出増を主として農村にふり向けるとしており、積極的財政政策に新たな任務が付加されることになった。
.市場体系の完全化、市場秩序の規範化
10. 資本市場の多段階化
直接金融を拡大するとし、具体的には多段階の資本市場システムを作り、一般株式市場の規範化、発展を図り、ベンチャーキャピタル及び新興企業のための株式市場の建設を推進するとともに、債券市場を積極的に拡大し、社債の発行規模を拡大するとしている。
これを受け、証券監督管理委の尚福林主席は、決定発表と同時に幹部会を召集して重要講話を行い、新興企業のための株式市場の建設を推進、資本市場の構造問題の解決、債券市場の拡大など8項目の対策を打ち出した(10月24日付け上海証券報)。
.経済体制改革等
11. 政府の経済管理機能の転換、投資体制改革
行政許認可改革を深化させ、政府の経済管理機能を市場主体への奉仕と発展のための良好な環境整備を中心とするものに転換するとする。政府の職能転換は、計画経済体制から社会主義市場経済体制に中国が真に移行するために不可欠な条件であり、これが不徹底であるために、しばしば地方レベルで重複建設・盲目的投資が発生するのである。このため、投資体制改革として、企業の投資主体としての地位を更に確立するとともに、国は主に計画と政策指導、情報発表及び市場参入の規範化によって社会の投資先を誘導し、無秩序な競争と盲目的な重複建設を抑制するとしている。
12. 地域発展の協調と指導の強化
東北旧工業基地の振興が、三中全会の主要議題の1つと言われていただけに、その書きぶりに関心が集まっていたが、決定では、西部大開発の積極推進、中部地域の総合的な優位の発揮、中西部地域の改革発展の加速化への支援、東北地方等の旧工業基地の振興、東部で条件の整った地域が率先して現代化を基本的に実現することの奨励、と総花式である。各地域の代表が参集する以上、東北旧工業基地の振興のみにウエイトを割くことは難しかったのであろう。
13. 財政・金融改革
(1)財政改革としては、中央から地方への移転支出制度をさらに完全なものにし、中西部地域と民族地域への財政支援を強化することがうたわれている。
(2)金融企業改革としては、国有商業銀行の株式制改造、不良資産の迅速な処理と自己資本の充実、政策性銀行の改革の深化、中小金融機関の再編改造、各種所有制金融企業の着実な発展、農村信用社の農村コミュニティサービス地方金融機関への改造が列挙されている。
(3)金融調整メカニズムの健全化については、利率市場化の着実な推進、人民元レート形成メカニズムの完全化、資本項目兌換の着実な実現が述べられている。
(4)金融監督管理体制を完全なものにすることについては、銀行・証券・保険監督機関の間及び中央銀行、財政部門との協調メカニズムを確立し、金融監督管理水準の向上を図る必要性が強調されている。
(5)税制改革については段階的に実施していくとしているが、輸出に係る税還付の改革、各種企業税の統一、増値税の生産型から消費型への転換、総合・分類が相結合した個人所得税制の実行など主要メニューが列挙されている。
金融関連の項目が多いのは、諸改革の中で金融改革が最も遅れていることを示している。この点につき、国務院発展研究センター金融研究所の易憲容は、「エネルギー・原材料・インフラ等経済発展のボトルネックが1つ1つ突破された後、金融は現在の中国の経済発展の最大のボトルネックになっており、金融業の深層の体制的問題は、ますます超えがたい障害となっている」とし、金融分野については依然として政府の計画経済的影響下にあると指摘し、政府の政策決定者は計画経済の陰影から脱し、政府の職能を限定・転化し、政府の権力を限定し、政府を市場から退出させねばならない、と強調している(10月15日付け中国経済時報)。
なお、経済体制改革につき、10月11日新華社北京電は、「10年の改革を経て、改革初期の各方面が普遍的に利益を得た局面が、大部分が利益を得て小部分が損失を受ける複雑な局面に変化した。一部の政府部門は、利益を考慮して重きを避け軽きにつき、実を避け虚についている。この計画経済下に形成された伝統観念・行為方式は依然強力な慣性を有しており、改革の動力と効果を減じている」と指摘する。そして「各種改革は正に深層の堅塁を攻略する段階に挺進している。現在、わが国は経済構造の激烈な変化の中にあり、各種の矛盾が集中的に暴露される経済発展段階にある。このため、改革の複雑性・困難性が増すことになった」としながらも、「努力を通じて目標の実現は可能だ」とし、経済体制改革の主要項目として、国有大企業改革、投融資体制改革、政府職能の転換、社会保障体系の整備を挙げている。さらに、国務院発展研究センターマクロ経済研究部の盧中原部長は、経済体制改革の今後の重点につき、行政管理体制改革、農村税費用改革、独占業種改革、金融改革、都市・農村分割体制の改変を挙げている(10月10日付け中華工商時報)。
これらの論述を見ると、社会主義市場経済が初歩的に確立したといいながら、中国経済には過去の計画経済体制の残滓が今なお色濃く影を落としていることが分かるのである。
.就業の推進と分配体制改革、社会保障体系の完全化
14. 労働就業体制改革の深化等
就業の拡大を経済社会発展の突出した位置に置くこととし、労働集約型産業、中小企業、非公有制経済の発展に重点を置くとしている。
所得分配制度改革の推進については、所得分配の調整に力を入れ、一部の社会構成員の所得格差が過度に拡大している問題の解決を重視するとしている。具体的には中等所得者の拡大、低所得者の所得水準の引上げ、高所得の調整、違法所得の取り締まりを挙げている。さらに、経済発展水準に相適応した社会保障体系を速やかに建設するとしている。
これらは、三農問題と並ぶ社会的弱者対策の柱であり、現政権の重要課題である。
.憲法改正
決定には具体的言及はないが、会議終了直後に発表されたコミュニケでは、憲法の安定維持の必要性をまず指摘しながら、同時に、16回党大会で確定した重大理論の観点や重大方針の政策を憲法に盛り込むことは、国家の基本法としての憲法の役割を更に発揮するのに役立つ、としている。
今回の憲法改正については、度重なる改正への批判、党の指導思想である「3つの代表」を国家の基本法である憲法に持ち込むことの可否、私有財産権を憲法で保護することの要否など様々な異論があったとされ、コミュニケの文面にも配慮のあとが窺える。憲法改正の内容はコミュニケではまだ獏としており、財産権の保護が法レベルの話なのか、憲法レベルの話なのかも判然としない。10月15日、呉邦国全人代常務委員会委員長は、全人代常務委員会議を召集し、三中全会の憲法改正建議を受け、憲法改正作業が順調に完成することを確保するよう指示した(10月15日新華社北京電)。今後の議論の展開を注視する必要がある。
(03年10月31日記・7.898字)
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