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ログイン2005年6月28日
外資企業に対する借入金規制の経緯と現状
今年早々(2005年1月26日)、外貨管理局より「2005年中国内の外資銀行の短期外債指標査定に関する通知(匯発[2005]4号)」が公布され、そこで、海外機構(親会社等)の保証が入った借入は、人民元借入であっても外貨管理局での偶発債務登記が必要であると規定されました。偶発債務登記が認められるのは、「総投資と登録資本金の差額」であり、結果として、この範囲内でしか借入が認められないこととなります。
この通達の施行(2005年4月1日)により、従来、外貨借入のみが対象となっていた外資企業に対する借入金額制限が、実質的に人民元にも拡大される事になりました。
では、今回施行された規定の内容はどのようなものでしょうか。また、外資企業に対する借入制限は、どの様な経緯をたどっているのでしょうか。
外資企業に対する借入制限の経緯と現状について、以下、解説します。
1.総投資と資本金の比率に関する規定
ここ数年、借入制限に関する規制が公布される度にリファーされるのが、以下の「総投資と資本金の比率」ですが、これは、1987年3月に公布(同日施行)された規定に基づくものです。
● 中外合資企業の登録資本金と総投資の比率に関する暫定規定(工商企字[1987]第38号)
<総投資と資本金の比率>
ただし、この規定は、本来、借入規制というよりは、設備の免税輸入を意識して準備されたものです。これは、どういうことかと言うと、当時、外資企業(今は奨励分類の外資企業のみ)が、総投資の枠内で輸入する設備・原材料は、免税輸入の対象となっていました(現在では、原材料は免税対象外)。ちなみに、総投資額とは、会社の設立に必要な資金の総和と定義されており、「会社が安定稼動するまでの間に、資本金と借入で調達する資金の合計額」を意味します。
このように、原則として全ての外資企業は、設立時に申請する「総投資額」に基づいて免税輸入が認められるため、その金額に一定の制限を加えることを目的として、この資本金比率が設定されたわけです。よって、この比率は、会社設立時に問題になりこそすれ、企業が安定稼動した後に問題となることはほとんどありませんでした。
2.外債管理弁法の施行とその後の経緯
上記1で解説した資本金比率が、正式に借入制限のために使われるようになったのは、2003年の外債管理弁法の施行以降です。外債管理弁法以降の規制強化の経緯は以下の通りとなっています。
(1) 外債管理弁法(国家発展計画・財政部・国家外貨管理局令第28号:2003年3月施行)
上記の総投資と資本金の比率を、借入制限に適用することを明確に規定したのは、この「外債管理弁法」です。同法第18条には、外資企業の借入について、以下の制限を行うことが規定されています。
(2) 外資企業の資本項目における外貨の人民元換金に付いての審査と外貨債務登記管理の改善に関する通知(国家外貨管理局・匯発[2004]42号:2004年7月施行)
外資企業に対する借入、及び人民元換金制限の強化を目的とした通知であり、ここには、以下の内容が規定されています。
同法は、外資銀行(外国銀行の支店を含む)の外債管理方法の変更に関するものですが、主な内容は以下の通りです。
(4) 2005年中国内の外資銀行の短期外債指標査定に関する通知(匯発[2005]4号)
同通知は、2005年1月に交付されたもので、文字通り、2005年の外資銀行(外国の銀行の支店を含む)に対する指針を記載したものですが、その中で、「外資銀行の外貨担保問題」に関して、以下の通り具体的な基準が明記されています。
3.一連の規定の結果と存在する問題点
上記《2−(1)〜(4)》の結果として、外資企業が「外貨借入、もしくは海外からの保証をベースとした人民元借入」を行う場合は、借入金額が総投資と資本金の差額に制限されることとなりました。
また、見落とされがちなのですが、規定では、借入額の定義は、「短期借入金残高と中長期借入金の累計額の合計」となっていますので、短期借入金に付いては、返済すれば枠が復活しますが、中長期借入金に付いては、返済しても枠は戻りません。
この動きは、外資企業の借入と、外貨から人民元への換金に関する規制強化を行うものであり、その目的として、人民元切り上げを見込んだ、投機的な外貨の流入・人民元への換金を制限することと言われています。では、この様な規制を行うことの理論的整合性はどうでしょうか。
まず、総投資と資本金・借入金の関係ですが、これは、上記1で解説したように、「総投資=会社を安定稼動させるために必要な資金」であり、借入と資本金で調達するわけですので、この公式に基づいて借入制限を行うことは、一応、理屈が通っています。
ただし、資本金比率の規定は、元々初期投資に関わる免税輸入を意識したものであり、免税輸入を行わない外資企業は、会社設立時に十分な総投資額を申請しないケースが多く見受けられます。
今回のごとく、この比率が借入制限に適用された場合、この様な企業は、総投資金額の修正を行う必要がありますが、増資をせずに、総投資金額だけを修正(増額)するのは、実際には困難です。
さらに、「総投資と資本金の比率に関する規定」の5条には、「増資をする場合、増資額と増加する総投資の比率も、規定に基づくこと」が要請されています。このため、増資をしても、十分な総投資金額を得られない場合もあります。
例:増資前の総投資額はUS$ 40百万、資本金額はUS$ 30百万とする。
⇒ この金額であれば、本来は、資本金の3倍である US$ 90百万の総投資を申請できるが、そうしていなかった場合。この企業が、US$ 1百万の増資を行う場合、これによって増加する総投資額は、「US$ 1百万÷70%=US$ 1.4百万」であり、「(US$ 30百万+1百万)x 3−40百万= US$ 53百万」、もしくは、「US$ 1百万 x 3 = US$ 3百万」ではない。
増資を1つの投資単位と見なして、総投資と資本金の関係を維持することが要請される。
今回の一連の動きが、投機的な資金の流入の規制であるとすると、まずは、既存の規定を見直し、現実に見合っていない部分は修正した上で対応すべきであり、今回の様な理屈に基づいた強引な規制強化はすべきでないと筆者は考えています。
本件については、2005年4月に補充通知(外貨保証に基づく人民元借入に関する補充通知:匯発[2005]26号)が公布され、保証や人民元貸付の定義が以下の通り明確化されました。
現段階では、今後の運用状況を見守るしかありませんが、常識に基づく対応が行われることを期待してやみません。
以上
(2005年5月記・4.981字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄
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