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(内資企業向け)資産損失に関わる税務上の損金算入管理規制

中国ビジネスレポート 投資環境
水野 真澄

水野 真澄

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2005年10月4日

<投資環境>

(内資企業向け)資産損失に関わる税務上の損金算入管理規制について

 貸倒損失・固定資産減耗損失等の、企業資産損失に関わる税務上の損金算入条件と、申請手続の詳細を定めた規定(企業資産損失に関わる所得税納税前控除管理弁法)が国家税務総局より公布され、2005年9月1日より施行されています。

 これは、1997年12月16日に公布された、企業資産損失税前控除管理弁法(国税発[1997]190号)を改定する形となっており、基本的には内資企業に対して適用される内容です。

 よって、外商投資企業には直接的な関係はありませんが、金銭債権・固定資産・棚卸資産等に関わる、損失計上の手続・タイミングが具体的に明記されており、実務上の参考になると考えられますので、その内容を以下解説します。

(1)資産の定義と資産損失の種類

 規定では、資産の定義と資産損失の種類を、以下の通り規定しています(第二条・第三条)。

  • 資産の定義
    企業が所有、もしくは管理しており、経営活動に使用し、且つ、課税所得の獲得に関連する資産を指し、「現金、銀行預金、売掛債権、受取手形、前渡金、棚卸資産、投資、固定資産、無形資産、及びその他の資産」を含む。

  • 資産損失の種類
    資産損失の種類は、「貨幣資金損失、貸倒損失、棚卸損失、投資譲渡・清算損失、固定資産損失、建設仮勘定・工事資材損失、無形資産損失、及びその他の損失」に分けられる。

(2)損金認定のタイミングと認可機関

1.損金認定のタイミング

 上記の資産関連損失は、損失が発生した発生時点で損金認定の申請を行う必要があります。合理的な理由がないまま、発生時に適正な申請を行っていない場合は、事後の損金算入が禁止されています。

 また、税務機関に起因する理由により期限内に資産損失の控除ができなかった場合は、税務機関の許可取得後、その損失が発生した年度の税務申告書を調整し、所得税額を新たに計算することが義務付けられています。

 課税所得の再計算により、納税額が、すでに提出した申告書を下回る場合は、税務機関はこの差額を還付、もしくは、未納となっている税金に充当する事となります(第四条)。

 企業で発生した資産損失は、納税年度終了後、15日以内に所管の税務機関に損金算入申請を行うことが義務付けられています。

 また、自然災害・その他の要因により、現地調査が必要となる様な減損が生じた場合は、速やかに審査を申請する必要があります。ただし、審査機構・国家及び受験された専門的技術鑑定部門等の調査を受け、鑑定資料を準備した場合は、年度終了後に一括して損金認定の申請を行うことも認められています(第十三条)。

2.税務機関の認可を経て損金認定が認められる項目

 税務機関の認可を経て企業所得税の損金算入が認められる項目として、以下が規定されています(第七条)。

  1. 自然災害、戦争などの不可抗力による損失。若しくは、人為的管理責任によって起きた現金、銀行預金、在庫、短期投資、固定資産等の損失。

  2. 売掛債権、前渡金等に関わる貸倒損失。

  3. 金融機関の不良貸付。

  4. 在庫、固定資産、無形資産、長期投資等の減損。

  5. 被投資者の解散、清算等による投資損失。

  6. 規定により損金算入が認められる各種の資産評価損失。

  7. 政府の区画整理により、移転・収用が行われた事による資産損失。

  8. 国家が規定で認可した金融機関以外の企業間直接貸付に伴う貸倒損失。
3.所管の税務機関と調査・認可の方法

 資産損失に関わる損金算入は、原則として、企業所在地の県(区)の所管税務機関が責任を負うこととなりますが、省・自治区・直轄市・計画単列都市等の税務機関は、金額の多寡に基づいて、一定の権限基準を設定することが義務付けられています(第九条)。

 審査・許可を行う税務機関は、申請のあった資料の内容の確認を行った上で、二名以上の職員を派遣して調査を行うこととなります(第八条)。

 なお、申請を受けた税務機関は、以下の期限内で決定を行う必要がありますが、やむを得ない理由がある場合は、10日間の延長が認められています(第十二条)。

県(区)級の税務機関が認可責任を負う場合:受理した日より20営業日以内

市級の税務機関が認可責任を負う場合:受理した日より30営業日以内

省級税務機関が認可責任を負う場合:受理した日より60営業日以内

(3)損金算入条件と必要書類

 資産損失に関わる損金算入条件と認可取得に際して必要な手続は、資産の内容に応じて以下の通り規定されています。

1.現金の不足(第十九条)

 企業内の現金有り高の不足が生じた場合は、現金不足額から責任者による賠償を控除した残額を、損失として扱う事になります。

提出書類

  •  現金保管者が確認をした現金出納帳

  •  現金保管者による不足原因の説明、及び関連する承認文書

  •  管理責任によるものは、状況説明・賠償状況の説明

  •  刑事事件によるものは、関連する司法関係の案件資料
2.営業債権(売掛債権等)の貸倒損失(第二十〜二十二条)

営業債権の貸倒れ認定条件

 営業債権に関わる貸倒れの損金算入申請は、以下の条件の一つに合致する必要があります。

  1. 債務者が法に基づき破産宣告をした場合、登記抹消、営業許可証の取消、死亡、失踪の状況にあった場合で、その残余財産・遺産が弁済に不足している場合。

  2. 債務者が3年を超過して弁済を行っておらず、且つ、債務を弁済する能力がない事を確実に証明できる場合。

  3. 法に基づく債務の再編により生じた貸倒れ。

  4. 自然災害、戦争、国際政治事件など、不可抗力によるもので、債権の回収が不可能である事が確実である場合。
実務に当たっての必要書類

 営業債権の貸倒れ認定に際して必要な書類は、以下の通りです。

  1. 裁判所の破産公告と破産清算による清算文書

  2. 工商行政管理局の登記抹消証明

  3. 政府部門による登記抹消、閉鎖命令等の行政決定文書

  4. 公安等の関係部門の死亡・失踪証明

  5. 3年以上債務の返済がなく、且つ、債務者に弁済能力がない事に関する証明

  6. 債権者による債務再建協議、裁判所の判決、国有企業債権から株式への転換批准書

  7. 関連者との債権・債務勘定は、裁判所の判決、或いは、所管税務機関の証明の取得が必要
 
 上記の必要書類は、状況に応じて、以下の通り補足説明されています。 
  • 債務者がすでに清算している場合は、回収不能部分の損失算入が認められる。

     

  • 清算が実現していない場合は、専門機関(会計士事務所等)に調査・判断を委託し、それに基づく鑑定証明により、回収不能と見なされた部分が損失と認める。

     

  • 債務者が死亡・失踪した場合は、公安機関の死亡・失踪証明を取得し、遺産による清算が不能と判断される部分につき、専門機関の鑑定証明に基づき損金算入を認める。

     

  • 自然災害、戦争等の不可抗力による場合は、企業の説明、及び専門機構の鑑定証明、或いは、中国駐外大使館(領事館)の発行した関係書類に基づき、回収不能部分を損金として認定する。

     

  • 期限を超過して回収できない営業債権で訴訟が行われたものは、裁判所の判決書(敗訴、もしくは、勝訴しても債務者に弁済能力が無い等)を基に、損金と認定する。

     

  • 期限を超過して回収できない営業債権で、一件の金額が比較的少なく、回収コストを考慮して放棄する事がやむを得ないと判断される場合は、専門機関の発行した鑑定証明に基づき、合理的な部分を損金として認定する。

     

  • 三年が経過した債権で、法に基づいた督促、協議の記録があり、債務者の資金が債務弁済に足りない場合(連続三年以上の期間損失を計上しているか、営業を停止して三年以上である場合等)は、専門機関の発行した経済鑑定証明に基づき損金と認定する。

     

  • 三年が経過した債権で、債務者が外国(含む、香港・マカオ・台湾)におり、法に基づいた督促を行っても回収できない場合は、国外の専門機構が発行した関係証明を取得するか、中国駐外大使館(領事館)からの証明書を取得した上で、損金として認定する。
3.棚卸資産(第二十三〜二十六条)

 棚卸資産の不照合により生じた損失は、責任者の賠償部分を控除した上で、以下の書類に基づき損金として認定します。

必要書類

  • 棚卸管理台帳

  • 専門機関の経済鑑定証明

  • 棚卸保管者の損失に対する状況説明

  • 棚卸損失に関わる価値算定根拠

  • 企業内部の責任認定、責任者の賠償説明と内部承認文書
 なお、廃棄・毀損による棚卸資産は、保険等で求償される部分を除き、以下の書類に基づいて損失を認定します。
  • 少額在庫の場合は、企業内部の専門部門が発行した証明

  • 在庫金額が大きいものは、国家の鑑定部門、もしくは、専門機関の証明書
  • 保険求償が行われる場合は、保険会社の査定証明
  • 在庫の廃棄・毀損に関する企業内部の状況説明・承認文書
  • 損失後の在庫価値説明書
  • 企業内部の責任所在、賠償責任移管する内部承認文書
 盗難による場合は、以下の書類に基づいて損金認定が行われます。
  • 公安機関の届出記録、その他の関連資料

  • 責任者の責任認定、及び賠償状況説明

  • 保険求償が行われる場合は、保険会社の査定証明
4.固定資産(第二十七〜三十四条)

 固定資産の不照合により生じた損失は、責任者の賠償部分を控除した上で、以下の書類に基づき損金として認定する。

必要書類

  • 固定資産台帳

  • 企業の状況説明及び専門機関の鑑定証明

  • 企業内部の責任認定と内部承認書類
 廃棄・毀損した固定資産は、回収不能部分に関して、以下の書類に基づいて損失を認定します。
  • 企業内部の関係部門が発行した鑑定証明

  • 金額が大きい場合は専門機関の鑑定書

  • 不可能力による廃棄・毀損の場合は、関連する技術機関の鑑定報告、消防部門の被災証明、公安部門の事故現場処理報告・車両破損証明、住宅管理部門の家屋取り壊し証明、その他の証明書

  • 企業内の固定資産廃棄・毀損状況説明書及び内部文書

  • 保険求償が行われるものは、保険会社の査定報告
  盗難による場合は、以下の書類に基づいて損金認定が行われます。
  • 公安機関の届出記録、その他の関連資料

  • 責任者の責任認定、及び賠償状況説明

  • 保険求償が行われる場合は、保険会社の査定証明
 建設中止・取り壊しによる損失は、以下の書類に基づいて損金認定が行われます。
  • 建設中止の国家命令文書

  • 関連する政府部門が公布した工事中止・取り壊し命令

  • 企業が放置・中止した工事に関しては、原因説明及び承認文書。金額の大きいものについては、専門機関の鑑定書。

  • 工事の実際投資(支出)額の根拠
 自然災害・事故により中止した工事に付いては、以下の文書に基づいて損金認定が行われます。
  • 災害・事故証明

  • 保険求償が行われるものは、保険会社の査定証明

  • 企業内部の責任説明、責任者の賠償説明及び承認文書

(4)評価損の計上(第三十五〜四十三条)

1.会計上の評価損計上

 資産の内容に基づき、以下の状況が生じた場合は、評価損の計上を要する事が規定されています。

棚卸資産

  • 黴が生え、腐敗し、変色してしまったもの。

  • 有効期限が過ぎ、譲渡価値がなくなったもの。

  • 経営期間中に、既に必要がなくなり、使用価値・譲渡価値がなくなったもの。

  • その他、譲渡価値・使用価値がなくなったと証明できるもの。
固定資産
  • 長期間に渡って遊休状態にあり、既に譲渡価値がなくなってしまったもの。

  • 技術の進歩により、既に使用できなくなってしまったもの。

  • すでに毀損しており、使用価値・譲渡価値がなくなったもの。

  • 固定資産自身の原因により、使用すれば、大量の不合格品を出してしまうもの。

  • その他、すでに企業に経済的利益をもたらすことができなくなったもの。
無形資産
  • 新しい技術に取って代わられ、使用価値・譲渡価値がなくなったもの。

  • 法律上の保護期間が過ぎ、企業に利益をもたらさなくなってしまったもの。

  • その他の状況で、使用価値・譲渡価値がなくなったと証明できるもの。
投資
  • 被投資者が、破産・登記抹消・営業許可が停止された状況になっているもの。

  • 被投資者の財務状況が著しく悪化し、巨額の損失が発生しており、すでに継続して三年以上の営業停止状況にあり、新たに経営回復の為の再建計画がないもの。

  • 被投資者の財務状況が著しく悪化し、巨額の損失が発生しており、上場廃止となり、取引が一年以上停止しているもの。

  • 被投資者の財務状況が著しく悪化し、巨額の損失が発生しており、清算が行われているもの。
2.税務上の損金算入要件

 各資産項目に関して、上記の状況が発生した場合には、会計上、評価損の計上が要請されますが、その損失が、明らかに回復不能である事が明確に証明できる場合には、税務上も損金として扱うことが可能となります。

 その際の回収可能額は、鑑定機関の鑑定に基づくことになりますが、これを行わない場合は、固定資産・長期投資の場合は、帳簿価額の5%、棚卸資産の場合は、帳簿価額の1%とします。注:内資企業の場合、固定資産の残存価値は5%となっています(外商投資企業は10%)。

 なお、損金算入申請に際して提出が必要となる書類は、以下の通りです。

  1. 資産が経済的・技術的な理由で価値が減少した説明

  2. 法定代表者、責任者・財務責任者が署名捺印した、資産の劣化(黴・腐敗・変質等)に関する書面での説明。

  3. 専門機関の鑑定書

  4. 無形資産の法的保護期限に関する文書

  5. 非投資者の破産、清算その他の証明文書

  6. 資産に関わる回収経費と価値の状況説明

  7. 被投資者の残余財産の清算分配状況証明

以上

(2005年10月記・5,604字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄

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