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保税開発区の特徴と増値税輸出還付の関係に付いて

中国ビジネスレポート 投資環境
水野 真澄

水野 真澄

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2006年8月20日

<投資環境>
 

 

保税開発区の特徴と増値税輸出還付の関係に付いて

 

 

中国における主要保税開発区には、「保税区(全国15箇所)」、「物流園区(全国8箇所)」、「輸出加工区(全国39箇所)」の3種類が有ります。

この3種類の共通点は、税関が封鎖管理を行う保税区域であるという点で、輸入貨物に関しては、原則として(特定の貨物を除き)、関税・増値税・消費税に関する保税措置が享受できます。

一方、特徴的な相違点としては、中国内の区外地域から、これらの開発区内に搬入された財貨に関して、「物流園区」・「輸出加工区」の両地域の場合は、区内搬入段階で増値税の輸出還付が適用されるのに対して、「保税区」の場合は適用されないという点です。

では、これらの地域に関する増値税輸出還付の規定と、運用はどうなっているのでしょうか。

以下、保税開発区に関する増値税輸出還付の規定と運用を解説します。

 

 

1.保税開発区に関する増値税輸出還付の規定

税関が閉鎖管理を行う国家級保税開発区(保税区・物流園区・輸出加工区)に国内貨物を搬入した場合、物流園区・輸出加工区に関しては、増値税の輸出還付が適用されるのに対して、保税区の場合は、輸出還付が適用されません。

この対応は、以下の規定に基づくものとなっています。

 

(1) 物流園区・輸出加工区に関して、輸出還付の適用を認める規定

  物流園区

  ● 保税物流園区に関する管理弁法(税関総署令[2005]134号)

     区外貨物を区内に搬入する場合は輸出と見なし、区内企業、若しくは、区外発送者(代理人)が、園区の税関に輸出申告手続を行う。

     輸出税金還付に使用する、輸出貨物通関票証明聯(原文:出口貨物報関単証明聯)の発行手続に付いては、以下の規定に基づき行う。

    ⇒ 物流園区経由の輸出の場合は、貨物発送地の主管税関は、当該貨物が園区に搬入された事を示す電子受領書を確認した後に、輸出貨物通関票証明聯の発行を行う。

  輸出加工区

  ● 税関の輸出加工区に関する間と区管理暫定弁法(国務院令)

     区外から加工区に入り区内企業が使用する国産機械、設備、原材料、部品、梱包財、インフラ設備の建設、行政管理部門の生産・事務用建設物の建設に必要で合理的な数量の建設物資に関しては、税関は貨物輸出の関連規定を参照の上通関手続を行い、輸出税金還付通関証明を発行する。

     区外企業は、輸出通関税金還付書類(原文:報関単出口退税聯)を使用して、税務部門において、輸出税金還付(免税)申請手続きを行う。

  

  因みに、輸出加工区は、区内で加工工程が行われない貨物の搬入が禁止されています。

   よって、輸出加工区に搬入される国内貨物は、原則として、輸出製品の加工に使用される部材に限定されます(輸出加工区を経由した単純輸出を行う事はできません)。

   一方、物流園区の場合は、区内で加工を行う事が禁止されていますので(梱包などの単純加工を除く)、物流園区への国内貨物の搬入は、輸出に際しての一時的な経由を目的とする事になります。

 

  輸出還付の例外

   以上の通り、物流園区・輸出加工区に搬入された国内貨物は、増値税の輸出還付が適用されますが、次に掲げる貨物に関しては、例外である事(還付が行われない事)が規定されています(保税物流園区に関する管理弁法・税関の輸出加工区に関する間と区管理暫定弁法)。

      区内企業の使用に供する生活消費品、事務用品、交通運輸機器に関しては、増値税の還付を行わない。

      元々輸入され、関税・増値税を納付した貨物・包装資材・建設設備資材に関しては、関税・増値税の還付は行わない。

 

 

(2)保税区に関して、輸出還付の適用を認めない規定

  保税区

● 輸出財貨税額還付(免税)に関する若干の問題の規定(財税字[1995]92号)

保税区外から保税区に移送された財貨に関しては、税額還付(免税)を認めない。

保税区内の企業は、区外から財貨を購入し、区内に搬入した場合、税務機関に増値税発票関連事項を申告する事を要する。

この財貨を輸出した場合、または、加工した上で輸出した場合、規定に基づき輸出還付申請を行う事ができる。

 

   この規定は、中国国内貨物を保税区に搬入した場合、(輸出通関手続は必要となるものの)増値税上は、課税対象取引として扱うという変則的な対応を要請しています。

   これに基づけば、(国内)区外企業が保税区に貨物を搬入する場合は課税取引となりますので、増値税の受け払い(保税区で貨物を引き取った企業が区外企業に対して支払う)を行う必要が生じます。

その上で、増値税を仮払いして貨物を引き取った保税区企業(若しくは、保税区で貨物を引き取った外国企業)が、保税区から貨物を輸出した段階で、増値税還付請求を行う事となります。 

 

   この規定・運用を考慮すると、保税区は、加工貿易貨物の再輸入の為の経由地(香港の代替)としては、ふさわしくない事が分かります。

   つまり、加工貿易貨物を保税区に搬入する事で、加工貿易の前提となる輸出義務は完了させる事ができるものの、増値税課税上の問題が生じ、二重課税に繋がる為です。

これは、加工貿易の種類(来料加工・進料加工)に応じて解説すると、以下の通りの状況となります。

 

  来料加工

来料加工取引は、増値税の免税取引である事が、増値税関連規定上明確になっています。

よって、保税区を経由した国内販売でも、理論上は、増値税課税上の問題は生じない事になりますし、この様な取引実例も有ります。

来料加工に関してこの様なオペレーションを行った場合、加工貿易貨物が保税区に搬入されるまでは、(来料加工が免税取引である為)増値税の課税は行われ無い事となります。

 その上で、貨物が再度、(国内販売の為に)中国の区外地域に搬出される段階で、輸入通関を行う国内バイヤーが、完成品に対して輸入関税・増値税等を納税する事となります。

 但し、このオペレーションは、実例は有るものの、それ程件数が多くはない為、地域による運用の違いに注意する必要があります。

 

話は若干外れますが、保税区企業が、区外企業に来料加工を委託する事は、「保税区税関監督管理規定」に基づき禁止されています。

⇒ 規定上、保税区企業が区外企業に加工委託を行う場合は、以下の条件に合致する事が要求されています。

      区内に於いて生産場所を有しており、既に生産加工業務を開始している事。

      区外企業に加工委託を行う取引は、加工の主要工程は区内で行われる事。

結果として、保税区企業が区外企業に委託できるのは、外注加工(一部の補助的工程のみを他企業に委託する形式)のみであり、来料加工の委託者にはなれません。

 

よって、来料加工品の保税区経由再輸入のオペレーションにおいて、保税区内で貨物を引き取るのは、来料加工の委託者である外国企業という事になります(保税区企業は来料加工の委託者とはなれない為)。

 

 

進料加工

進料加工の場合は、「免税・控除・還付」方式に基づいて増値税を納税する事が義務付けられています。

「免税・控除・還付」方式とは、輸入段階の課税と輸出還付を、輸出時に纏めて行う方式ですが、保税区に貨物を搬入する場合は、輸出還付の適用がありませんので、この課税・還付方式は採用できなくなります(国内販売に準じた課税が行われる事となります)。

 

一方、(保税区で貨物を引き取る)保税区企業(注)・外国企業は、増値税を加工貿易企業に支払った上で貨物を引き取る事になる訳ですが、貨物を国外に輸出しない為、上記規定に基づけば、輸出還付請求を行う事が出来ません。

更に、(中国内)区外のバイヤー企業は、保税区から貨物を引き取る段階(輸入段階)で、関税・増値税等を支払う必要がありますので、結果として、完全な二重課税が生じる取引となります。

注:来料加工は、包括加工委託契約である為、上記の通り保税区企業の取り組みが禁止されます。

   一方、進料加工は、売買契約形態の取引(区外企業が行う部材輸入・製品輸出が一対となった契約に関して保税措置の適用を受ける形式)ですので、保税区により解釈は違いますが、理論上は、(加工委託ではなく売買取引なので)対応可能と判断する保税区が有ります。

   但し、上記の通り、二重課税が生じる事が明白である為、取引実例は極めて少ないと思われますし、少なくとも筆者自身はこの様な取引を経験したことはありません。

 

この様に、保税区は、加工貿易貨物の再輸入の経由地としては活用しづらい為、(この様な取引目的を目的として)区内搬入段階で増値税還付が実施される物流園区が、設置以来注目された訳です。

 

  

 

2.保税区経由の輸出で増値税の還付が実施されていない理由

上記規定(財税字[1995]92号)では、国内貨物が保税区に搬入された段階では増値税還付は実施されないが、この貨物が、実際に、国外に輸出された段階で、輸出還付請求を行う事ができると規定しています。

規定上はこの通りですが、実際には、保税区経由の輸出において、輸出還付を受けた企業が殆ど有りません。

これは、どの様な理由によるものでしょうか。

 

この点に関し、国家税務総局は、2005年に「保税区経由の輸出貨物に関する輸出税還付関連問題に関する回答(国税函[2005]255号)」という通知を公布しています。

この通知の内容は以下の通りです。

     保税区外の輸出企業が、保税区を経由して外国企業に貨物を販売する場合、保税区税関は、すべての貨物が国境を離れた時点で、輸出通関証明(輸出税額還付専用)を発行する事ができる。この為、保税区税関は、貨物が国境を離れた後に、貨物が保税区に搬入された日時に基づいて輸出通関証明を発行する為、輸出企業の税額還付申告時点が、申告期限を超過してしまう状況が生じている。この為、輸出企業は最後の一回の輸出貨物登録時に税関が明記した輸出日時を基準として、税額還付を申告できるものとする。

 

この通知の趣旨は、「保税区経由の輸出の場合、輸出通関手続は貨物の保税区内搬入時に行われるが、増値税の輸出還付に必要な輸出貨物通関証明は、外国に輸出された時点で発行される為、貨物が区内に90日超保管されていると、(増値税の輸出還付請求期限が輸出申告より90日であるため)輸出還付が受けられないという問題が生じる。よって、今後は、輸出の認識時点を、輸出貨物通関証明の発行と同様、(保税区搬入時点でなく)外国への輸出時点とする事で、制度欠陥を改善し、輸出還付漏れを減少させよう」というものです。

 

 

この通知自体に意義が無いとは言いませんが、実際に、保税区経由の輸出で増値税還付が実施されていない理由は、もっと本質的な理由によるものであり、この通知では、制度欠陥を改善する事ができません。

その本質的な理由とは、「保税区企業の大部分は、貿易権を有していない」事によるものです。

 

「輸出財貨税額還付(免除)管理弁法:国税発[1994]031号」では、以下の通り、貿易権を有する企業のみが、増値税の輸出還付申請をできる事が規定されています。

● 輸出経営権を有する企業が、輸出・代理輸出した財貨に付いては、別段の定めが有る場合を

除き、その財貨の輸出通関手続・財務上の売上計上をした後、その関連証憑を毎月税務機関に報告し、増値税の還付・免除の承認を受ける事ができる。

 

つまり、(外商投資商業領域管理弁法に基づき国内販売権・貿易権を取得した保税区企業を除き)保税区企業は原則として貿易権を有していない為、増値税の輸出還付請求権が無い事となります。

一方、国内区外地域から保税区に貨物を搬入する場合には、国内取引に準じて増値税の受け払いを行う必要がありますが、この様にして仕入れ段階の増値税を仮払いした保税区企業は、貿易権を有していない為(外国企業も同様)、実際に貨物を輸出しても輸出還付請求を行う事ができず、結果として、支払った増値税が純粋なコストになってしまう訳です。

 

最近になり、税関総局は、保税区に制度欠陥が有り、増値税の輸出還付が正常に行われない事情があった事、それにより、保税区の誘致に難が生じた事を認める発言をしています。

但し、保税区の制度自体を改善するのではなく、以下の様な間接的な対応で、問題の解消が図られています。

     国内部材を使用して輸出加工を行う場合は、(保税区ではなく)輸出加工区に生産企業を設立する。

     加工貿易貨物の国内再輸入(国内販売)の中継地点としては、物流園区を活用する。

注:但し、物流園区所管税関は、必ずしもこのオペレーションを推奨していませんので、実際の取引を行う前に、所管税関の意見を聴取すべきです。

     保税区の貿易会社が、保税区経由の輸出に関与する場合は、国内流通権・貿易権を先ず取得し、増値税輸出還付請求権を確保する。

 

勿論、上記の対応は、既に保税区に生産型企業を設立してしまった場合等の解決策にはなりませんが、一応、新しい開発区(物流園区・輸出加工区)に保税区の機能の一部をシフトしたり、一定の手続を取った保税区企業に対して貿易権を付与したり、という対応を通して問題の解決を図っているというものです。

 

但し、この様な動きは保税区の役割・機能の相対的な低下を伴うものですので、今後、保税区の位置付けがどの様に変化するか、注意を要します。

また、20067月に、国家税務総局は、青島市国家税務局の質問に対して、「貿易権を付与された保税区企業は、増値税の輸出還付請求を行う事ができる」との回答を行っています(国税函[2006]666号)。

よって、今後、貿易権(外貿流通経営権)を取得した保税区企業に対して増値税の輸出還付を実施する動きが本格化するものと思われますが、何れにしても、保税区企業に対する増値税輸出還付の適用は、最近、一部の企業に対して開始されたばかりの状況ですので、今後の進捗に注意する必要があると言えるでしょう。

 

 

(2006年8月掲載・5,592字)

                             M&C Shanghai Ltd.    
                             M&C South China Ltd.   代表取締役社長
 水野真澄

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