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ログイン2007年2月6日
如何に合弁の相手が資本主義的な経営をしようと努力している中国企業であるとしても、もともとは社会主義的経営基盤にあった企業であり、それが合弁を目的として海外の制度に合わせようとして作る合弁会社は、形は資本主義的なものであっても、その実態は似て非なるものであると言ってよい。
現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってこられた日本人ベテラン管理者による貴重な現場報告とアドバイスをテーマ別にまとめたレポートを今回もご紹介しよう。
1.日中共同経営の基本スタンス
如何に合弁の相手が資本主義的な経営をしようと努力している中国企業であるとしても、もともとは社会主義的経営基盤にあった企業であり、それが合弁を目的として海外の制度に合わせようとして作る合弁会社は、形は資本主義的なものであっても、その実態は似て非なるものであると言ってよい。
「社会主義的市場経済」とか「資本主義的社会主義」といった言葉があるかぎり、現地合弁会社の中国人幹部社員の中から共産党員気質はなかなか抜けないであろう。
中国に生まれた合弁会社は中国の子会社であると同時に、日本の子会社でもある。その経営の実態が日中どちらの影響をより強く受けて経営されるのか、あるいはどちらの影響も受けないで経営されるのか、事前に日本の本社内でもシュミレーションを行い、その点について日中双方の代表でキチンと話合っておくべきである。もし、技術の移転を目的として、日本側が経営権を持つというのであれば、日本側の発言力は比較的強くなるであろう。しかしそれでも現実に、彼らは移転する技術の内容についてだけでなく、人事、財務、営業など、いわゆる会社経営の管理全般についても色々と意見も言い、主張もしてくるだろう。経営を細切れにして分担すること自体、現場では不可能なことである。同時に、実行に移す前から、どんなことが起きるか具体的な予想も容易に出来るものではない。
また、「会社出資の額が五分と五分であるから日本側に最低五分の権利は保障される」と思ったら大間違いである。むしろ、同等であればあるほど、この子会社を自分の思うようにしたいと思うのが人情である。そして「地の利」は彼等にある。「人の和」も一党執政体制の団結は強固である。これを味方にするのと敵に回すのとで経営スタンスは大きく違ってくる。 日本側のやり方を厳しく批判の眼で見てけん制もしてくる。外見は合弁であっても内実は競り合いである。 ここのところを日本側はじっくり見据えなければいけない。「相手の意見と立場を最大限に尊重する」お人好しでは済まされないのである。
こうした日中共同経営の実態は契約書や定款、就業規則などの中には書き込まれない大事なところである。 いや、書き込むことの出来ない事柄なのである。 ましてや市販の参考書にも書かれない。それはケースバイケースの問題だからである。日中双方のどちらが合弁企業をリードするかは物理的には双方の技術力の差、或いは経営ノウハウの差、と言えるが、さらにもうひとつ、心理的には人的資源の質の差であろうか。契約書の条文で如何に知恵を絞って強調しても実際にはどうにもならない現実がここにある。
2.日中共同経営の紛糾
まず、最初に紛糾の原因となり得る重要な事柄は、日本側あるいは双方から投資された資金の扱い方に始まる。中国側は日本が投資した虎の子のドル資金を日本側の思惑で勝手に使われては大変だと思い、日本は日本で中国側に勝手に流用されては困ると思って鵜の目、鷹の目で注目している。たしかに資金を大切に使うと言う点で、双方の意見はぴたりと一致する。しかし、その使い方について彼等には彼等のやり方と意見があるし、我々にも我々の思惑がある。つい、日本的な感覚で判断すると猛反発を受ける事になる。会計経理係に相手の息のかかった人物が入るとなおさら厄介である。日本側が投資して振り込んだ資本金なのに、思うように動かせないような事態が起こる。会計経理係は日本側が送り込むか、日本側が管理、少なくとも相互牽制とするべきである。
会計係の人事において、ついつい勝手が分からないからといって日本側から「誰か良い人がいたら紹介して下さい」と合弁の相手に経理係の紹介や派遣をお願いしようものなら、たちまちつけ込まれてどんな人物が派遣されるか、事は明白である。会計経理一人を雇用するにも自分の手で手続きをして、特別な息のかかっていない人物を自分で面接して採用する位の用心が必要である。 どんな些細な事でも自分で確かめ自分で納得した上で“ゴーサイン”を出さなければならない。
このくらい用心して採用した経理係でも、相手がその気になれば、あの手この手で懐柔することはお安い御用で、役者は我々より一枚も二枚も上である。じゅうぶん覚悟した上で相手に乗ぜられないようにする必要がある。
一般に中国の集団総公司(グループ企業本社)から子会社に正・副総経理(役員)が派遣される時には、任命された総経理が人事と経理部門を、まず自分の息のかかったスタッフで固めると言われている。場合によっては自分の肉親、親戚縁故者で固める事も多い。「中国人がもっとも信用しないのは中国人である」ということを中国人自身がよく言う。それほど他人が信用できない国なのであろうかと思うほど、要所高所の人選について、彼らは「ガード」が厳重である。
たとえば無錫で見た台湾系の合弁企業では、現地の自分の親戚と台湾から来ている総経理の身内で経営ポジションを完璧に固めていた。日本でも、中国の会計経理に通じた日本人の専門職が育って欲しいと思うし、この様な日本人材が中国に派遣されるべきではないだろうか?
3.対処法
まず中国進出しようと考え始めた段階から、孫子の兵法ではないが、「敵を知る」という心がけが大切である。現在、中国進出に際して中国の経済的、法律的立場からのノウハウ的な情報は巷に氾濫しているが、中国人が商人的国民性に加えて、これまで共産主義体制下の企業経営で培ってきた事業感覚や習慣と、我々日本人が日本にあって日常的に経験してきた事業感覚・習慣とでは大きな違いがある。経済だけでなく、歴史、文化、社会に関する基本知識を身に付けたうえで赴任し、現地でも深く掘り下げて「知る努力」が必要である。
特に、中国側が経営幹部を任命してグループ企業に派遣する場合、“新任幹部は赴任する企業の人事と経理を自分の腹心で固める”という中国の慣行は絶対に無視できない。 逆に言えば「人事権と会計経理を握ってしまえばどんな企業でも自分の意のままになる」という事であり、そこには「如何に自分の思い通りに工場や組織を動かすか」が第一義的に存在しており、日本人が重きを置くような品質の管理とか、製品を販売して営業利益を上げる事などは、二の次である。
いわば、彼らにとっては「戦国大名的な野心」を発揮することこそが経営の目的であり、原点なのである。ピラミッドの頂点にそれぞれの組織のトップが居て、それぞれのトップが自分の腹心を人事と経理に据えてがっちりと自分のテリトリーを守っている、という印象である。それほど、中国では会社組織が政治的に動くと見なければならない。
彼等のこうした考え方に対して、一般に日本の企業は中国進出を考えるとき「中国製は粗悪だ」という固定概念が頭から離れず、自然に「如何に良い品質を作るか」、「如何に中国市場でシェアを確保するか」 に最重点を置きがちで、フィジビリティ・スタディの結論を導くときにも、コストと品質、インフラ・ストラクチャー、マーケテイング結果などが主要な着目点になりがちである。しかし、中国での企業経営を考えるなら、これからはむしろ、合弁会社の経営戦略、経営の土台基礎の建設、共同経営を念頭に置いた派遣幹部の人選が成功の要諦であろう。
さらに、中国が昔から「商人の国」であり、日本が「職人の国」と言われて来た国民性の相違もたしかに存在する。そんな中国の会社組織が、日本との共同経営を契機とし、「社会主義的市場経済」に脱皮して合弁企業を作ろうというのであるから、当方も十分に用意してかからなければ、失敗は火を見るよりも明らかである。今、日本の企業家たちは中国、中国と目を向けているが、大企業なら総経理を派遣するのに優秀な人材には困らないだろうし、それを補佐するスタッフにも事欠かないであろう。けれども、中小企業が中国に進出しようとする場合、日本人スタッフをたった一人で乗り込ませる事は非常な冒険なのである。しかも、言葉ができない技術者、若手社員では悲惨な結果を招くかもしれない。複数の派遣は無理でも、現地出身の、片腕となる優秀なスタッフを早い時機から育てておく周到な準備が必要である。
よく、中小企業経営者の間から 「中国にこれから投資する○億円はドブに捨てる心算の金だから、損をしてしまっても構わない」と言った声を聞く事があるが、この様な考えで投資をするならば、きっと○億円では済まず、「泣き面に蜂」の憂き目に遭うことは必定である。経営者に心の余裕は必要だが、大切な資金は決して無駄にしないよう常に心がけなければならない。
日中共同経営は決して甘い幻想ではない。たしかに100%出資で日本側が経営権を掌握する企業経営のほうが現実の成功の確率は高い。しかし、本当に中国で事業を成功させたいと願うなら、合弁形態の日中共同経営事業において成功を収めることができなければ、その本当の意味も価値も無いのである。(2007年2月記・3,885字)
(つづく)
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